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竜の如き異様  作者: 葉月
1章 目覚める者たち
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第7話 ランクアッパー


「それで、伝えておきたいんだが、俺を追って『初心者の洞窟』に来た冒険者5人が跡形も残さず死んだ」


 俺は職員と一緒にワームを玄関のある入り口付近から、普段、持ち込まれた魔物を解体するのに使われる別室へと移動させていた。

 下級の魔物なら素材を残して消滅してしまうが、このワームに関してはそうではないらしく、素材含めて全身が残っていた。


「そうですか」


「……あんまりショックを受けてないみたいだが?」


「彼らがユウリさんを執拗につけて回っていたのは割と周知の事実でした。彼らがその過程で亡くなったとしても、私たちギルドができることはあまり多くありません。仮にユウリさんが彼らに手を下したのだとしたら当然罪に問われますが、そうではないのでしょう?」


「ああ。彼らは俺を追ってダンジョンに来て、しばらくその様子を見ていたら、ワームがいきなり現れて……彼らを助けることも、割って入ることも、なにもできずに俺だけ帰ってきた」


 彼らがダンジョンに入って来た時、側から様子を窺っていないで最初から突っ込んでいれば、彼らが死ぬことはなかった。そんな後悔が今さらのように胸に滲む。だが、たらればの話に意味はない。あの時よりも速い段階で飛び込んでいったとしても結末は変わらなかっただろう。だからといって後悔しないかと言えば話は別になるが。


「ユウリさんが責任を感じることじゃありません。冒険者は自己責任が原則ですから。それよりもワームのことを聞かせてもらえませんか? あのダンジョンに現れる魔物は、最も深層にいる『最奥個体』と呼ばれる魔物でもDランク止まりです。Cランクの魔物が現れるなんて聞いたことがありません」


「まだ詳しく確認してなかったから、おそらくそのワームは未発見の通路や隠し部屋から現れたんだろうとその時の俺は推測してたんだが、こいつを倒したあと、洞窟の深層部分の怪しい場所を徹底して探し回ったが、それらしい痕跡は見つからなかった」


 『最奥個体』、職員の口から伝えられた情報を元にその存在について要約すると、いわゆるボスキャラみたいなものだろう。


「そうですか。とりあえず後日、調査団を『初心者の洞窟』に派遣します。あとユウリさんのランクのことですが……」


「ランクがなんなんだ?」


「これもあとになりますが、ユウリさんのランク昇格を申請しておきますね。なにせそのランクと同じ魔物が倒せるようになったのですから、Dランクのままっていうのも変ですし….」






『……』


 俺は夢の中にいた。厳密に言えば、自分が夢を見ているという認識を持って、どこかよく分からない場所にいた。

 最後に記憶があるのは、HPが1桁だったから回復してもらうためにギルドによって、そこから我が家に帰り、セルフ反省会をしてから床についた。分かるのはそこまでのことだ。

 今も俺はふわふわとした無重力空間にいる。これが夢だとしてもあまりにも手持ち無沙汰なので、ついつい独り言が漏れてしまう。最近話した人って言えば、ギルドの職員か、八百屋の夫婦か、その客くらいなものだ。

 つまり世間話の相手がいない。


「ここ、どこだよ……」


『……』


「うおぁ!?」


 確かに誰かが俺の問いに答えた。問題点があるとしたら俺はその人物の言葉が全く分からないところだ。その人物は俺の目の前に突如として現れたが、そこにいることしか分からない。

 強いていうなら、その人物がそこにいるかいないかの差は、風が吹いてるかそうでないかくらいのもので、そこにあることが分かっても実態が全く掴めない。


「お前、誰だ?」


『……』


「なに言ってるか、サッパリ分からん……」


『……』


 何事か話しかけてきているのは確かだ。しかし、それはどのような方法で、どんな言語でかは分からない。ただ、なにか伝えようとしている、ような気がする。


『ア……ス…探……』


「な!」


 唐突に、その人物の声が一層鮮明に聞こえた。だが、それが限界だったらしく、夢の世界が解けていく。

 俺の意識はそこで再び沈んだ。


「ハッ!? メモ、メモ……」


 起床直後、夢で見聞きした内容を記憶に留めるべく、メモにその人物のこと、彼(あるいは彼女)が最後に話した言葉、それらを事細かに書き記す。

 俺史上、最も忙しい起床になったと割とどうでもいいことを頭の片隅に思い浮かべるが、今はそれよりもこのメモの内容をじっくり考えなければ。


「ア……ス…探……。この空白をここ最近知ったことで埋めるなら、アイアスか? 後半は探すとか、探して、かな。とりあえずギルドに行って伝言がどうなったか聞いておくか」






「あの、ア————」


「あ、ユウリさん! どうぞ、こちらに」


「ど、どうも……」


 ギルドに着いて、アイアスへの伝言について聞こうと俺は口を開くも、その瞬間を職員によぎられてしまった。手招きされている以上、伝言についてを聞こうとするよりもその姿を追うのが先決だろう。

 そしてやはり回りの冒険者の視線が冷たい。俺、あなたたちになにかしましたか?


「皆さん、ユウリさんがこんなにも早くCランクに昇格するなんて思っていなかったでしょうし、きっと驚きましたよね」


「そのせいで俺は方々から妬み嫉みを買っている気がするんですが……」


 職員は俺を先導して、受け付けの奥に入り、その近くにある階段から2階へ向かう。

 チラっと見てみると入ってきた部屋の奥では、事務として働いている他の職員が、慌ただしく書類と格闘している。俺はその姿を横目に、職員のあとに続いて階段を登る。


「大丈夫ですよ。あなたの人柄を知れば皆んな態度が変わるはずです」


「いや、俺、あなたとそこまで親しくなってませんが?」


「私、これでも人を見る目はあるんですよ? それによるとユウリさんは信頼できる人です。よくよく考えると、深夜で1つ屋根の下に2人きりって、襲われてもおかしくなさそうなシチュエーションでしたけど、そうはなりませんでしたし」


 職員は昨日のことをそう振り返ったが、いろいろと語弊のある表現だ。他人に聞かれていたらヤバかった。


「逆にそれで手を出したら、ただのクズでは?」


「そう心から思えるところがユウリさんのいいところですよ」


 そこそこの付き合い(?)の職員から見た俺の印象をそう評した。

 よく分からないが、信頼されているらしい。


「ここです」


「ここがなんです?」


 案内されたのはギルドの2階の一角、高級そうな扉の前だ。多分応接室。


「伝言は伝えてあります。アイアスさんはここで待っていますよ」


「あぁ、ありがとうございます」


「では私はこれで失礼しますね」


 そう言って職員は一礼すると踵を返して立ち去る。俺はそれを見送り、階段を降りて視界から消えるのを見届けると、応接室っぽい部屋のドアを開ける。


「ヘンな匂いがする」


「誰!?」


 外開きのドアを開けると目の前に年端もいかない少女がいた。絹糸のような質感の金髪ロングヘアに、金色の瞳という出立ちに、無宗教の俺も神々しさを感じてしまう。整っている容姿も今はまだ幼いという評価だが、あと数年経てば絶世の美女になることが容易に想像できる。


「こら、シルド。気になったからと言って初対面の人の匂いを嗅ぐのはやめなさいと、何度も言っていますよね?」


「アイアスはケチ。他の人の匂いを嗅ぐのは私の自由。あと世の中の男は美少女に匂いを嗅がれると喜ぶってギルドの受付嬢が言ってた」


 アイアスはシルドと呼ばれた少女を嗜めるが、反省する素振りはない。しかもさらに距離を詰めて匂いを嗅いでくる。ギルドの職員はこんな幼気な少女に一体なにを吹き込んでんだよ……。


 部屋の中は、ギルドの内装のグレードをさらに高級にしたような内装になっていた。現在は多少お金が貯まったにしても、ここの家具一つの賠償金でその全てが消し飛ぶくらいにはまだ格差がある。


「アイアス、久しぶり。ところでこっちの匂いフェチは誰だ?」


 彼女はフェチと呼ばれたことが気に入らなかったようで、少し距離をとってやや高圧的な態度を取り始める。


「匂いフェチじゃない。それに私の名前はシルド。アイアスとパーティを組んでる冒険者で凄腕の魔術師」


「自分で言うか、普通。……魔術師って、魔法使いじゃないんだな」


「魔術師が法律を使うなら、魔法使いは憲法を使う。両者の差は歴然、雲泥の差があって魔法使いになれるのはほんの一握り。私はそれを目指してる」


「な、なるほど?」


 多分、最も分かりやすい具体例を出しての説明だったのだろうが、魔術師自体知らなかった俺としてはどう反応すればいいのか分からない。


「それよりも入り口で立っていないで座ったらどうかな?」


「そうだな。ところで伝言は聞いたんだよな?」


 部屋に入り、ドアを閉める。俺の向かい側にアイアスとシルドが座る。シルドはやや退屈そうだが、一応真面目に話を聞く気はあるようだ。


「もちろん」


「ならその返事を聞かせてくれないか?」


「構わないよ。新人を育てるのは先達の義務だからね。それに君のように有望な新人はこっちも大歓迎だ」


「ありがとう。なら早速……」


「その前に、ユウリ、聞いたよ。昨日ワームを倒したんだってね。だがレベルが上がっても体力が回復するわけじゃない。傷も完全には癒えていないだろう? しばらくは冒険者を休んだ方がいい」


「だよな……。でもその間、なにしてればいいんだろうな……」


 確かに体力は完全には回復してないし、疲労もすごい。いくらレベルが倍近くに上がったとはいえ、この状態ではあっさり死ねる自信がある。

 けど休んでいる間にすることといったら八百屋でバイトか、我が家で釣りかの二択だ。どっちもするにしても、療養ならバイトの時間を短くした方がいいだろう。


「その期間、私が君に稽古をつけよう。我流だといつかその脆さに足を掬われる。まずはそこを治すべきだ」


「アイアスに賛成。その匂いの正体見極めてみせる」


 やはり匂いフェチじゃねぇか。


 その日の午後、俺の冒険者の階級はCランクに昇格し、裏面の功績欄には「『初心者の洞窟』にて突如出現したCランクのワームを討伐」という文言が記載された。






「一応は働けるとしても、傷はまだ完全には回復してません。なのでお店に迷惑をかけてしまいますから、……その、今までお世話になりました」


 俺がアイアスと稽古の約束をしたその日に、この街を発つことになった。アイアスの所有する家はここから結構距離があるらしく、今日出発すれば、傷が多少マシになる頃に着くくらいの距離らしい。

 正直、どれくらいで目的地に着くのかサッパリだ。


「寂しくなりますね。出会いも急でしたが、別れも吸収なんですね……」


「俺は冒険者として一人前になるため、知り合いに稽古をつけてもらうために、しばらくはこの街を留守にします」


 口ではこう言ってるが、本当はさっさと元の世界に帰りたい。けど帰ってきた時、空白の期間はどうしていたのかと聞かれるとマズい。今はまだいいが、特にその期間が長くなればなるほど。


「お兄ちゃん、もう来なくなっちゃうの? 私、寂しい……」


「大丈夫、たまに来るって。その内、逞しくなった俺を見せにくる予定だ」


「本当に!? 約束だよ!」


「ああ、約束だ」


 奥さんの娘と指切りをして、会ってから1週間ほどしか経っていないが、それなりに慣れ親しんだ八百屋を去る。

 相変わらずオッサンは無愛想だが、その表情は、「行ってこい」と言っている気がして、不器用ながらも送り出してくれてるのが分かった。


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