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竜の如き異様  作者: 葉月
1章 目覚める者たち
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第6話 極熱の闘争


 轟音が鳴り響く。ワームの巨木のような胴体から繰り出される尾の一撃は容易に洞窟の壁や岩を破壊していた。


「ぐッ! ち、近づけねぇ!」


 ワームは俺が格下だと分かってはいるだろうが、決して目を離さない。相手か自分が生き絶えるまで戦いを止めないのだろう。退路は塞がれ、逃げることはできない、戦うしかない。


「ガハッ!?」


 横薙ぎに繰り出された尾の一撃をその場でしゃがんで躱す。だが立ち上がった時、一度躱したはずの尾の腹の部分が再び現れ、俺の胴に深く突き刺さる。

 どうやら振り抜いた遠心力でそのまま一周させ、尾を再度横薙ぎに繰り出したようだ。


 その勢いで俺は近くの壁に激突する。衝撃そのものはあるが、壁や尾に叩きつけられた部分は《硬化》で生み出した鱗を、《?化》でその部分を覆うようにして纏っていたお陰でほとんど負傷はない。


「……っ」


 ワームはさっきからずっと尾でしか攻撃してこないが、それでも岩を容易に砕くその攻撃は俺の生命を脅かし続けており、脅威に他ならない。


 もし、近距離にしか攻撃が届かないのならば、一定の距離さえとればその猛攻を一旦止めることができるのでは?

 そう思い、バックステップで距離をとる。その間も尾の攻撃は続くが、回避に専念していたので、そこまでヒヤヒヤするような展開にはならなかった。

 ある程度離れると尾が届かなくなったのか、さっきまで続いていたワームの猛攻がピタリと止まる。

 安心して少し気が緩むが、次の瞬間の光景を見て未だかつて感じたことのない悪寒を覚え、相手との距離をとったことを即座に後悔した。


 ワームは口を大きく開けていた。その奥、喉の奥から赤い光が漏れる。それが放たれた瞬間、洞窟内の温度が一気に上昇した。


「なっ!?」


 ワームはまるで火炎放射器のように口から炎を吐いていた。一度は躱すも、こちらに照準を合わせているのか、躱したそばからまるで炎が生きているかのようにうねり、俺に迫る。


「このっ!」


 炎をやり過ごすため、この炎を利用するために、ワームの懐まで一気に接近する。

 ワームは急に近づいて来た俺をなおも捕捉し、炎を吐き続けたせいで、自分のそばにあった苔などの植物や、俺を追って来た冒険者の遺体といった可燃物にまで火をつけてしまう。

 そのせいで自分が吐いた炎に触れ、火傷してしまったようで、けたたましい悲鳴を上げる。


「このッ!」


 《硬化》と《?化》を施し、目一杯の力を込めた黒い右手をワームの顔面に叩き込む。その一撃は相手の鱗を砕き、肉を割り、血を吹き出させる。

 それを食らったワームは苦しげに首を捩らせ、よろめく。


「らあっ!」


 今がチャンスと追撃に移る俺に、そうはさせないとワームは尾の一撃を放つが、俺は裏拳でいとも容易く打ち払い、距離をさらに詰める。それは苦し紛れに放たれたもので、威力も精度も格段に落ちていた。


「あああぁぁぁぁぁッ!!」


 ワームの近くの岩に飛び乗り、渾身の力を込めた右手で連続で何度も、硬質的な音を響かせながらその頭部を殴り続ける。

 ワームはこちらを威嚇すると同時に、開いた口から炎を放つ。だが俺は左手にも《硬化》と《?化》を纏わせ、放たれた炎をその手で薙ぎ払う。

 最初に吐いた炎が火炎放射器なら、今はマッチの火レベル。それほどまでに低下してしまえばこちらのものだ。


 最初に殴った際に潰れてしまい片目だけになるも、赤く血走った目で俺に照準を合わせてなおも喉奥を赤く発光させる。しかも、その輝きはさっきの比ではなく、ワームの皮下が透けて見えるほどの熱量を持っていた。

 そんな必殺技(もの)があるなら最初から使うだろう。そうでない以上、それはおそらく自滅覚悟で使う自分の体内の耐熱性以上の威力と火力の技だ。


 両の拳を使って何度も殴る。それによって奏でられる硬質的な音とワームの体が砕ける音が洞窟内に何度も木霊する。

 しかしワームは、その鎌首をもたげたまま、一ミリもその姿勢から動かない。これが最後の攻撃になると考えての相打ち覚悟の攻撃のようだ。


 今にもそこから放たれようとしている炎は俺を焼き尽くすべくその輝きを増していく。それが放たれる寸前、そのマグマのように赤熱している喉に俺は左手を躊躇なく突っ込む。


「!?」


 俺にはワームが驚いたように見えた。普通は距離をとるだろう。この状況でさらに距離を詰める奴がいるとしたら、ただの死にたがりか、次の一撃でこの魔物を始末する算段がある奴か、……ただのバカか。


 ワームの裂けたような口から放たれた炎は、レーザーのように一つの赤い光に収束し、輝く。至近距離で見たせいかそれは太陽のような明るさに見えた。その炎は左手に阻まれ、俺の体に届きはしなかったが、《硬化》と《?化》を施した左手の鱗越しにも、沸騰した熱湯にでも浸かっているかのような熱さが伝わり、鱗がドロドロに溶けていくことが分かった。しかし、それが俺を焼く前に新たに鱗を生成し、防ぎ続ける。

 左手に炎が命中するも弾かれて、複数に分かたれた赤光は背後の壁や岩を飴のように溶かし、ドロドロの溶岩になった岩が流れ出す。

 このまま放っておけば、ワームは自分の放つ赤光に耐えられずに自滅するだろうが、その前に洞窟の壁が焼き切られて俺も生き埋めになる。それも込みでこの手段に出たのだとしたら、敵ながらあっぱれだと言いたいが、そんなこと考えてる余力はない。


「はあッ!」


 ワームの頭部に右手を思い切り叩きつけ、その喉奥から放出される炎をさらに左手で押さえ込む。急に閉じられた口の中で進むことも退くこともできず、行き場を失った炎はその勢いを増したままワームの口内で凝縮されていく。


 その熱はワームを内側から膨張させ、その体を膨大な熱を溜め込んだ炎の塊へと変貌させる。そこからほんの僅かな時間のあと、『初心者の洞窟』の深層を粉々に吹き飛ばし、天井に穴を開けた。その熱は留まるところを知らず、巨大な火柱となってその穴から赤光を立ち上がらせた。


 その数日後、初心者の洞窟へとギルドから調査団が派遣されるも、詳しいことはなにも分からず終いに終わるのだった。






 ユウリさんが初心者の洞窟へ向かってから丸1日が経った。彼は今頃ダンジョンで、魔物との戦いに明け暮れているだろう。


 彼は最近冒険者になったばかりの新人で、私が登録した冒険者だ。だが、Eランクで燻ってるゴロツキたちとは違って、たった1週間でランクを1つ上げた期待の新星なのだ。彼ならきっとアイアスさんのような冒険者になれるだろう。彼の時も同じだったからだ。


 そんなことを考えながら私は1人、残業に勤しんでいると急にギルドのドアを叩く音が聞こえた。この夜遅くにギルドに来る冒険者はいないし、職員も皆帰って眠っている頃だろう。

 最初は風か、なにかだろうと思っていたが、その音はさらに続いた。仕方ないので私は一度ペンを止めて、ギルドのドアを開けて応対することにした。


「あのー。今日はもう業務を終えています。私は偶然残業していたからいただけで普段は誰も————」


 そこにいたのは酷い火傷を負った青年だった。炭化しているのか、両腕は真っ黒で、装備も傷みが酷く、ボロボロになったそこからは痛々しい怪我が見え隠れしていた。

 冒険に行ったというより、火事にあったと言った方が正鵠を射ているように思えた。なぜなら、この近くでこれほどまで強い炎を扱う魔物はいないからだ。


「い、一体なにがあったのですか? 今すぐ治療を……って、ユウリさんですか!?」


 顔を上げた青年はつい先日ダンジョンへ向かったユウリ・ハザクラだった。あのダンジョンは片道でも丸1日はかかる。往復してきたなら2日だ。

 順当に考えれば、そこに向かっている最中になにかあり、命辛々逃げ出してやっとの思いでここまで来たということが予想される。

 全身火傷の重傷で、命の危機が差し迫っている彼の口から告げられたのは、


「……なにも、できなかった。俺は、ただ見てることだけしか……」


 なにかに対する後悔の言葉だった。






「本当に大丈夫ですか? その、腕とか体とか」


「ああ、問題ない。今は引っ込められないが、その内なんとかなるだろうし、傷も治った。ありがとう」


 一通り治療を済ませてから分かったことがあるとしたら、彼はそこまで重傷というわけではなかったことだ。黒く炭化していると思っていた両腕は、実は鱗のようなものに覆われていただけだと判明し、火傷の傷もそこまで深くなかった。

 鱗については、装備かなにかなのだろうと思うことにした。冒険者にその手の詮索をしないのが暗黙の了解だからだ。


「一体、どこでなにをしていたんですか? その火傷。ダンジョンは距離があるからないとして、道中でなにかありましたか?」


「『初心者の洞窟』に行ってた。そこでワームと遭遇して戦った」


「はい?」


 彼はいつもとは口調が違ったが、そこは疲れているせいで言葉に気を配る余力がないということで自分を納得させていたが、彼から告げられたそれを軽く上回る事実に私は思わず聞き返していた。


「だからワームだよ。とにかくデカかったし、炎をめっちゃ吐いてきたんだ」


「ワームと言えば小型でも最低でDランク、あの洞窟の廊下を動き回れるサイズで、ユウリさんの大きかったという言葉を信じるならCランクほどだと推測できますが、あのダンジョンにはそんな魔物はいません。証拠でもあるんですか?」


 少し嫌味な言い方になってしまったが、たまに、自分がいかにすごい冒険者なのかと、ちょっとしたことでも大袈裟に語る冒険者もいるので鵜呑みにすることはできない。


「ある。ちょっと待っててくれ。すぐ持ってくる」


「はい?」


 そんな失礼な物言いに彼は気を悪くすることなく、一旦、治療の際に使用した個室を出る。


「こっちに来てくれ。さっきも言ったように結構デカいから部屋に入らないんだ」


 その声の聞こえた方に行くと、彼はギルドの入り口近くにいた。


「な、なんなんですか、これ!?」


「さっきも言ったようにワームだ。これが初心者の洞窟にいた」


 そこにあったのは大人の身長の7、8倍にもなる長さのワームが寝かされていた。大部分は焼かれて元の色や質感が分からなくなっているが、間違いなくワームだった。






 彼女がギルドに残っていたのは幸運だと言えるだろう。実のところ、ギルドに着いた頃にはHPはもう1桁しか残っていなかった。俺は自分のHPを回復させる手段を持っていなかったので他人に迷惑をかけても頼るしかなかった。

 彼女がかけてくれた魔法による治療でHPはあらかた回復した。もっとも、それがワームと戦う前のHPだったらの話だが。


————————————————————————


 葉桜結理 人間 男性 18才


 LV.39


 HP 98/259

 MP 6/78


 筋力 80

 耐久 101

 魔力 123

 魔防 60

 俊敏 253


 スキル 献身:C++

     武技:D+

     察知:C

     吸収:B


 適性 火:B

    水:E+

    土:D


 特性 ・???の寵愛:EX

     硬化:C+

     ?化:C+

     邪眼:B


————————————————————————


 ワームと戦い、勝利した俺はだいぶ急な成長期を迎えていた。ダンジョンでは我が家にワープできないことに気づいた俺は、入り口までの道中を行きながら『適性』というものについての説明を見ていた。


 適性というのはその人に宿る魔術属性に対してどれだけ親和性が高いかを示した値だ。なお、適性がないとその属性の魔法は使えないが、属性魔術に該当しない補助や治療の魔法は使えるらしい。本来それは生まれ持った才能で、元々持っていた適性のランクを上げるのならともかく、後天的に適性そのものを手に入れることはできない。

 最初俺は、『適性』という欄が存在していなかった。だからスライムとの戦闘までそれがあること自体知らなかった。


 このワームとの戦いから、俺は魔物のその属性の攻撃を受けると適性を手に入れられる力を持っていることができると推測した。

 なにそれすごい! ズルいな! と自分でも思ったが、火属性のランクはBなのを見て俺は気づいてしまった。適性を手に入れる際、毎回死にかけていることに。

 土属性を手に入れる時は、ドロドロのゴーレムっぽい魔物に抱擁され、窒息しかけた。スライムに捕食されかけたり、ワームには燃やされかけた。


「(なんか、あんまり得してる気がしないな……)」


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