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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第54話 吸血鬼の復活


 しかも、そこからさらに急に力が抜けてその場に前のめりに倒れ込んでしまう。幸いにも倒れたのがゼロリアルの攻撃の直前だったため、偶然だが攻撃そのものを回避することはできた。しかし、それに伴う衝撃波までは躱せずにゼロリアルの背後に吹き飛んだしまう。


 しかし、なにが起こったのか、自分でも理解できない。なぜ、このタイミングで? これって主人公がなんの脈絡もなく覚醒して、格上の敵をこれまたなんの脈絡もなく倒すようなシチュエーションのはず……とそこまで考えて気づいた。ステータスは正しい経験値でのみ上がるのだ。確かにアイリアルたちを倒し、ゼロリアルに(俺視点だが)善戦していた。だが、そうあっさりと強くなれるはずもない。

 つまり、これは、なにかを代償にして一時的に自分を気づかぬうちに強化して戦っていた。今はその反動に耐えられなくなり、倒れてる。もしかしたら、そういうことなのかもしれない。


 この現象を説明できるようなものがステータスにあってほしい、しかし、あってほしくないと矛盾したことを思いつつもステータス画面を開き、スキルや特性の欄を確認する。

 すると、嫌な予感というものはよく当たるもので、スキルの欄に今までにないスキルが追加されていた。


『熱暴走:自身の体が耐えうる魔力などの力の限界を、本人の意思によって強制的に超えさせて、身体能力を普段なら発揮すらできないほどの高さまで一時的に上昇させる。さらに同じように一時的だが、成長も促す。使用中は体が徐々に温まっていく。

 しかし、熱暴走のスキルに耐えられないほど長時間使用すると、高熱で倒れたり、自分の意思に関わらず暴走したりする。対策としては冷却が効果的』


「ま、マジ……かよ……」


 つまり、ランナーズハイしてた時にこのスキルを獲得して、そのままうっかりそのスキルを使って、アイリアルと戦闘。しばらくあとにランナーズハイじゃなくなった時からタイムリミットが迫り始めて、そして今、その効果が切れたってことなのか……!?


「フン、その力はどうやらお前には過ぎたものらしいな。しかし、邪龍に縁を持つ者は強者だろうと弱者だろうと、この世にいてはならないッ!」


「ッ! 断罪青天(パニッシュメント)!」


大地の剛拳(グランドステラ)!」


 ゼロリアルは俺に鎧に覆われた人差し指を向け、その指先には黒い光が灯る。それを放たせまいと、燃香は目が眩むほどの白色の閃光の奔流を、ニオンは白く揺らめく銀色のオーラを纏った無数の小石をレイピアに纏わせ、巨大な岩の杭のようにすると猛烈な突きを繰り出す。

 断罪青天(パニッシュメント)はAランク光魔術。本来は広域殲滅用に使う魔術のはずだが、燃香はそれを個人に対して惜しげもなく使う。ニオンが使った大地の剛拳(グランドステラ)もまたAランクで土魔術で、こちらも本来は対集団用の魔術。

 逆に言えば、そうでもしないとゼロリアルの纏うオーラすら突破できないのだ。


暗転(ショット)


「ぐっ……」


「かふッ!」


 高火力魔術を叩き込んだのち、ニオンだけでなく、燃香も接近戦に参加しようとするが、ゼロリアルの放ったたった1発の闇属性魔術で、仰け反りながら吹っ飛んでいった。

 今のはEランク闇魔術の暗転(ショット)だ。しかし、見た限りではAランク相当の火力は出ていた。そんな攻撃をまともに受けて無事でいられるはずもなく、


「ニオン! 燃香!」


 ニオンも燃香も腹部に被弾してしまったらしく、鎧や服諸共に裂け、骨や筋肉が見えてしまうほどの深さの傷口から夥しい量の血が零れている。燃香は吸血鬼だからか、すぐさま治り始めているが、ニオンはそうもいかず、傷口に治癒魔術をかけようとするが、ゼロリアルはそんな暇を与えてはくれない。すぐに暗転(ショット)をマシンガンのように人差し指1つから撃ち、追撃を行う。集中力が痛みと疲労で保たなくなっているのか、残り魔力が少なくなっているのか、ニオンは治癒魔術を使うことを諦め、拠点から取り出したRPGでお馴染みの回復アイテムであるポーションを傷口にぶっかけ、同じタイミングで取り出した布で傷口を縛る。すぐに布が赤く滲んでしまうが、ないよりマシ、ということなのだろう。

 しかし、RPGとは異なり、この世界ではポーションは使ったらすぐにHPを回復するような便利な物ではなく、基本的に効果が出るまでに時間がかかる。グレードの高い物なら使った直後から効果が出始めるが、それでも回復量は少なく、やはり時間が経つのを待つしかない。

 今回使ったのはグレードの高いヤツだ。それでもニオンの負ったダメージを考えるとその回復量は心許ない。


 俺が思うように動かない体を叱咤しながら立ち上がろうとしていることなど眼中にないようで、背後にいるにも関わらず動けなくなった俺を放置し、邪魔してくるニオンと燃香を先に始末することにしたのか、2人に対して精密さや手数を優先した低ランク魔術の暗転(ショット)を乱れ打つ。

 それだけで一軍が壊滅するような攻撃だが、ニオンも燃香もまるで攻撃がどこに来るのか分かっているかのような身のこなしで躱す。躱し続ける。その間もゼロリアルの隙をついて2人は近距離に迫り一閃、遠距離から一撃、躱し続けながらも攻めの手を緩めない。


 防戦一方ではない。善戦でもない。彼らは紛れもなく戦闘を行なっていた。2人は全て躱し、ゼロリアルはオーラで全て受け、互いの戦況は無傷のまま拮抗していた。これなら俺が前線に復帰すれば勝てる。そう思い立ち上がるのだが、


「高野燃香。その力、想定よりも……」


 重々しくゼロリアルは口を開く。てっきり次に続く言葉はここまで戦えている燃香への賛辞だと思っていた。こちらからはその顔は見えない。しかし、


「弱くなっているな」


 そのマスクに覆われて口元しか見えない顔に失望の表情が浮かんでいることは見ずとも分かった。


 次の瞬間、辺りが闇で覆われた。






 どうにかして立ち上がり、復活しかけていた体と感覚がまたどこかへ吹き飛んだ。俺の方に来たのは、ゼロリアルの放った、とんでもない直径の紫がかった黒いビームの衝撃波だけだったが、今の俺には十分過ぎるダメージだ。

 闇一色だった視界が開けると、大きく抉れた最上階の床がまず目に飛び込んで来た。そしてその場にいないニオンと燃香に、その安否に絶望感を覚える。


「さて、やっと片づいたな。ようやくお前を————」


「勘がいいんだね」


「この程度で死なないことは分かっていたからな」


 俺の方に振り返り、手刀を繰り出そうとするゼロリアルに、上空にまで立ち昇った煙を引き裂いて現れた燃香は某ライダーを彷彿とさせる見事なキックを打ち込んでいた。

 その衝撃で周囲の床にクレーターを生みながらもゼロリアルは完璧に受け止めるが、燃香はそれに構わずその体勢からもう片足でさらに蹴りを繰り出し、怯んだゼロリアルに今度は立て続けに、両足で凄まじい蹴りを交互に打ち込む。数秒続いた燃香の猛ラッシュの最後の一撃でゼロリアルは左方向に大きく蹴飛ばされて吹き飛び、何度もバウンドして床を砕いていく。やがてその勢いが止まると、ゼロリアルは力尽きるようにしてうつ伏せに倒れた。


 床に降り立ち、俺を見下ろす燃香に俺は息を飲んだ。その髪は金色になり、瞳は赤く、瞳孔は縦長になっていたのだ。どうやら彼女は『鎮静化』の枷を振り払い本来の実力に戻ったようだ。ステータスの半減状態は解除され、その元々高かった数値は全て本来の数値である4桁に戻ってさらに強くなり、そして吸血鬼の能力を十全に使えるようになっていた。


「結理君、大丈夫? 待ってて治癒魔術をかけるから」


「……ありがとう、かなりよくなった。ニオンは無事か?」


 燃香の魔術はすぐに俺の体の負傷を隅々まで癒し、全く動けない状態からある程度は動けるくらいに復活させた。やはり燃香くらいの魔術師になるとそれに関しては隙がない。

 正直に言えば、まだ体はかなりだるい。やはり《熱暴走》の反動だろう。体は熱くないというのにだるさがあるのは、単純に限界を超える力を長時間発揮していたからだ。とてもではないが、今の俺の状態ではゼロリアル相手に防戦するのは無理。


「うん、無事。ほら」


「ユウリ! モエカ!」


「2人とも無事でよかった」


 燃香は未だに晴れない煙を突っ切ってニオンが降り立って来た。ニオンは俺と燃香を見つけると、感動の再会と言わんばかりに駆け寄って来た。


「ええ、ユウリも無事でなによりです。ゼロリアルはどうなりましたか?」


「もう動けないと思うよ。私、100年前の時よりも強くなってるし」


「100年前に燃香はゼロリアルと戦っているのですか?」


「うん、喧嘩売られたからシメに行ったの。今と違って1人で立ち向かったんだけど、その時はある人の力を借りて封印するので精一杯だったの。その場所があのステンドグラスなんだけどね」


「あのステンドグラスにゼロリアルが封印されてることを最初から知ってたってことか」


「でもあの時は今と違ってステンドグラスに異常はなかったからそこまで重要だと思ってなくて……」


「いや、別に責めてるわけじゃない。気にするな」


「そう? なら、よかった!」


 パーティメンバー全員の安否が確認でき、ほっとして雑談を始める。あらためてその伝説っぷりと本来の燃香の戦闘能力に驚嘆し、味方で、なによりいいヤツでよかったと心の底から思った。


「全く、本当に調子のいい————」


「ッ!! ユウリッ!!!」


 え? と間抜けな声を出す時間すらなかった。気づくとニオンは俺を突き飛ばし、燃香は左方向を見てその表情は驚愕に染まっていた。

 俺がさっきまでいた、そして今はニオンのいるその射線上の空間を塗り潰すようにして、黒いビームが全てを削りとっていった。しかもそれはゼロリアルが吹っ飛んでいった左側から放たれたもので、敵が疑う余地なく未だ健在であることを意味していた。


「に、ニオン? ニオン! し、しっかり、しっかりしろぉぉぉぉ!!」


「ゼロリアルぅぅぅぅ!!」


 燃香は怒りを露わにして仁王立ちするゼロリアルに突撃する。その手には赤黒い刀が握られており、鍔などがない刀身のみの日本刀のような物だった。

 以前評議会に行く前に装備を整えた時、燃香は武器屋で武器を見ただけで買わなかった。今持っている刀は見本として店内に飾られていた物と似ている。おそらく彼女は武器を選ぶためにしげしげと見ていたのではなく、自らの血で武器を作る際にどういう物がいいのか参考にするために観察していたのだろう。


 そのままゼロリアルと燃香は、さっきまでの戦いが出来の悪いお遊戯に見えてしまうほど激しい戦闘を始める。最初の激突だけで最上階の半分は崩壊し、燃香とゼロリアルは誰の邪魔も入らないようにと、空洞に飛び込んで行った。

 おそらくアイリアルが戦いに参戦することはない。というかついていけないし、彼らのせいでゼロリアルの攻撃の邪魔になるという理由だけで、奴の手によって初手で全部消されそうだ。


「くそ、血が……一体どうすれば……」


 その場でうつ伏せに倒れたニオンの体から右腕と下半身が、胸から下が消えていた。あのビームから俺を庇ったせいでニオンは致命傷を受けてしまった。

 その華奢な体からは倒れたコップから水が零れるように、見たことがないほどの量の血が流れ、みるみるうちに周囲の床を真っ赤に染めていく。横顔から覗くニオンの顔色は紙みたいに白くなっており、開かれたままの目に光はなかった。

 俺はおそるおそるその細い腕に触れて脈を見る。しかし、俺は本来あるはずの血潮の流れを見つけられなかった。何度、何度探しても、どれだけの時間をかけてもニオンの生命の証は見つけられなかった。


「う、嘘だ! どこかに、どこかにあるはずなんだ! どこかに、どこ、どこ、どこなんだよッ! どこに、ない? そんなバカな、あるはず、ない、ないない!? …………嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!」


 そんな風に現実から目を逸らしてもなにも変わらない。それは分かってる。しかし、受け入れられなかった。到底飲み込めるものじゃない。


 俺はこの日、今までの生涯で最も身近に死を感じることになるのだった。

 禍福は糾える縄の如し。意味は幸運と不運は連続してこない、だったか? なら今までが良かった、いや良すぎたのだろう。しかし、悪いことや不運というものは大抵連続して起こる。


 ドサリ! となにかが落ちて来た。ボロ雑巾のようになったなにか、だ。左腕がなく、両足は半ばから袈裟斬りにされて失っており、全身が酷い裂傷を負っている。そしてその体から流れた血がその場をさらに赤く染める。


「ゆ……り、くん……?」


「燃香!? い、一体なにが!?」


「どうやら、私はお前を過大評価していたようだ。いくら伝説の吸血鬼と呼ばれようと、もうお前はあの時の、燃え盛る血を持つ吸血鬼、高野燃香ではない。ただの人間だ。大方、血を飲むことを止めたのだろう。くだらん、実にくだらん」


 そのボロ雑巾は燃香だった。側から見ても瀕死の重傷を負っているのは見間違いようがない。

 そんな燃香の姿に失望したかのようにこちらを見下ろすのはゼロリアルだ。燃香との戦いでオーラは消えているが、それでも依然健在だ。

 俺たちとの、燃香との戦闘でも本気で戦ってはいないのだろう。底が見えない。この世にいてはならないこいつを俺は殺せない。無力だ。しかもこれでは2人の単なるお荷物じゃないか……。


「フン、2度も封印できると思うな。そしてさらばだ。人間ども」


 ゼロリアルの手のひらから闇が放たれた。今度は加減のない必殺の威力が込められた殺意に包まれて、俺たちは消えた。



前の話と今の話、サブタイが全くサブタイしてない。活躍ゼロとかタイトル詐欺じゃないですか、ヤダー。


次からしばしの間、鬱モード。

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