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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第50話 闇の復活と、


 大聖堂内部は、以前アイリアルを討伐しに行った祭壇の地下と同じように暗かった。しかし、共通点はそこだけではなく、


「……なんか既視感ある演出だな」


「招いてるみたいだよね」


 祭壇地下を彷彿とさせるように意図しているのか、まずは入り口付近に、そこから奥へ奥へと誘うように明かりが灯っていき、数秒も経てば周囲の様子が分かるくらいには明るくなっていった。

 出入り口付近を離れても、最奥にいる者は俺たちなど気にも留めていないのか、背後の巨大な大聖堂の扉は撤退防止のために閉じられることはなかった。


「その様ですね。しかし、以前来た時よりも広く思えます。本当に同じ場所なのでしょうか?」


「……確かに様変わりしてるよな」


 列に並んで大聖堂に入場し、入り口近くの女神っぽい像の前で高沢と合流したのを思い出す。今もその像は同じ場所にあり、それ自体に変化はない。

 しかし、回りはそうではなく、外観が巨大化するに合わせて内部も広くなっていた。観光客に開放されているこのフロアがこの様子だと、部屋の数が増えているのではなく、1つ1つの部屋が大きくなっているのだろう。

 フロアの変化のビフォーアフターを比べると、魔王城と化す前の大聖堂とは比較にならないほど巨大になっているのが分かる。


 今さらだが、この国の総本山なのに観光名所みたいに扱われてるし、気軽に入場できる場所があるんだな。日本の国会議事堂ってこんな気軽には入れないよな? そう考えるとすごく貴重な経験をしている気がする。


 俺たち3人は警戒しながらも、横並びでアイリアルの首魁がいるであろうフロアの奥へと歩いていった。






「ん? あれは……」


「どうしましたか?」


「いや、このステンドグラスって前からこうだったか?」


 明かりに促されるように奥へと歩いていく。辺りは薄暗く、同じような風景が続いているせいか、どれだけ進んだのか、どれくらいの時間が経過したのか分からなくなりかけていた。体力的はまだ問題ないが、精神的に疲弊するのも時間の問題だと思い始めた頃、見覚えのあるステンドグラスが視界に入った。

 怪しいところがないか大聖堂に下見に来て、祭壇の地下になにかあると気づいた時にもこの場所に来たはず。だが、不思議なことにあまり既視感を感じない。以前見たステンドグラスとは異なり、色のついていない透明な部分が増えているというか、あるべきものが欠けているというか……。


「いえ、輪郭は残ってるようですが、肝心の桃髪の聖人がいなくなっていますね」


「闇っぽいのもないよ」


「だよな……なんか、嫌な予感がな……」


「もしかして、アイリアルの首魁ってあのステンドグラスに封じられてたんじゃない?」


「あり得るな。なら桃髪の聖人の方————」


「ッ!」


 突如としてニオンがなにかに割り込むようにして俺の前に立ち、いつのまにか抜いたレイピアで飛来した複数のなにかを打ち払う。あまりにも速すぎて俺にはなにかがすごいスピードで飛んできたことくらいしか分からなかった。つまり、ニオンが動かなければ俺は間違いなく死んでいただろう。


「……いい眼をしている」


「あれはアイリアル、か?」


 暗闇の奥からステンドグラスをバックに3体のアイリアルが現れた。

 大まかな特徴は変わらない。しかし、コートの下が闇一色ではなく、軽装だがこれまた闇を凝縮したかのような黒い鎧を纏っていた。手にしている武器も安物の剣ではなく、刀身が禍々しい黒色の片手剣だ。それと同じ特徴のアイリアルがさらに2体いた。1体は剣ではなく黒い弓を持っており、俺はこいつに攻撃されたのだろう。もう1体は黒い槍を持っていた。


「いかにも。無数の闇、アイリアルをくぐり抜けて我らの城に辿り着いたその実力、我々が1対1で直に採点してやろう」


 真ん中に立つ黒い片手剣を持つアイリアルは、彼らを代表し、ここまで来たことを讃え、歓迎するかのようにして出迎える。


「……望むところです。後悔させてあげましょう」


「結理君、別に私1人で3体全てを倒してしまっても構わんのだろう?」


「いや、この段階でそんな決死の覚悟決めんでいいわ。奴らの言うように1対1な」


「ちぇーっ!」


 神聖国レインボーに来てから妙に好戦的なニオンがレイピアの鞘を床に放り投げ、構える。燃香もやる気らしく、表情も発言も強気になっている。

 一方の俺は両手足だけでなく、鎧のように服の上にも機動力を削がない程度に《硬化武鎧》を纏わせ、両腕にはブレードを生やし、戦闘態勢を整えていた。


『私が槍持ちを、ニオンが弓持ちを、結理君が剣持ちを担当っていうのがオススメなんだけど、それでいい?』


『構わないぞ』


『確かに、あの矢を感知するのは至難の業ですね。矢自体に高ランクの《隠匿》や同系統スキルが多数付与されていましたし』


『道理で気づかなかったわけだ……』


 というか、ニオン、お前、《察知》もないのにどうやってあの攻撃に気づいたんだ……?


『もし弓持ちが結理君に攻撃しようとしても私がなるべくフォローするから気兼ねなく戦ってね』


『なんか、俺、パーティ最弱感がすごくて情けないんだが……』


『これから強くなればいいんです! できる! 諦めないでください!』


 アイリアルたちと、どう戦うかを考えていたところにちょうどよく燃香から《心話》が入る。せっかくなのでそのオススメにタダ乗りすることにした。反対意見があるわけじゃないしな。

 最弱を自覚して若干落ち込む俺を励ますニオン。なんか熱血っぽくなっている。


「「「参る!」」」


 アイリアルたちがそれぞれの武器を構える。彼らの宣戦布告で1対1の戦いは意外にも正々堂々と始まった。






 首筋に黒い刃が迫る。やはり間近で見ると迫力が違う。1ミリ程度だが、アイリアルの持つ片手剣は黒紫色のオーラのようなもので覆われており、たとえ刀身に触れなくてもそれに触れたその瞬間真っ二つになることをこの短い戦闘でも理解できていた。


「ハッ!」


「ぐッ!」


 距離をとり、剣の間合いから脱する。次でその首を落とすとばかりにアイリアルの黒い刃が再び迫る。しかし、俺は回避に専念するしかない。避けることには成功するが、背後にあった女神っぽい像が容易く断ち切られ、やたらと綺麗な断面が覗く。

 剣持ちのアイリアルは以前戦った個体とは比べ物にならないほどの身体能力と技量を有していた。『影の部隊』の刺客、町の裏にある山の魔物、大量の嫉妬の配下、中立国ポップに帰って来てから戦った魔物、大聖堂外のアイリアルたちと、かなりの戦闘経験を積んで強くなっているはずなのだが、完全に復活したアイリアルとでは比較対象にすらならないのか、俺は回避に専念するしかない。


 迫る剣撃を背後に、左右に、上に、時にわざと近い距離に踏み込み、傷だらけになりながらも躱し続ける。しかし、ブレードの出番が訪れることはない。


「まずッ!」


 アイリアルの剣撃をうまく躱せていると思い始めた頃にやっと敵の狙いに気づいた。俺はいつのまにか切り倒した柱や残骸などが集まった場所に追い込まれていたのだ。とは言っても別に袋小路に陥っているような状態というわけではない。1回か2回なら躱せるだろう。しかし、その先はない。あの剣を受けることはできない。なぜなら、


「っ!」


 躱しきれずに右腕のブレードがあっさり半ばから断ち切られてしまう。そう、瞬間的に常に再生し続ける決して折れないはずのブレードが切られたのだ。


 それに気づいたのはアイリアルに先制攻撃を仕掛けた時だ。首を狙ってブレードを振るったのだが、黒い刃はそれを防ぐ軌道にただ掲げられただけだった。その時はそこからカウンターを仕掛けるのだと思っていた。しかし、ブレードは剣に触れた次の瞬間にはキン! という軽い音とともに鮮やかな断面を晒して真っ二つになっていた。

 正直、冷や汗が出たしめちゃくちゃ驚いた。絶対の自信と安心が込められていたブレードをこんなにもあっさり突破されて動揺しないわけがない。けれどなんとか堪えて、そこを狙って迫るアイリアルを体勢を立て直して蹴り飛ばす。黒い剣の斬撃こそギリギリで躱せたが、オーラは躱せなかったのか首筋を浅く切られてしまった。

 そのあと何度か似たようなことを試した。砕けた床の破片を投げたり、ティフォンの炎で攻撃したりしたが結果は同じ。どうやらあの黒い剣は、特殊な効果であるわけではなく、ただ単にとんでもなく切れ味が良く、発揮できる出力が俺を遥かに超えているだけのようだ。


 これで魔力を断つみたいな特殊な剣だったら、ブレード自体は無効化されないにしても再生能力は無効化されていたかもしれない。それに大体の竜の力は不利になるだろう。そんな状況であれば夜刀神を使う。あれは確かに魔力で分身を作っているが、実体化した時点でもう魔力ではなくなっているからだ。それはブレードも他の竜も同様。

 しかし、竜から繰り出される炎や魔術、毒などの攻撃は竜本体やブレードほど完全に物質化されていないのですぐに魔力に戻ってしまう。魔力を打ち消す能力に不利になるのはそのためだ。

 夜刀神を使ってもよかったのだが、今回は別の竜を使う。


「む!?」


 2度のアイリアルの攻撃には耐えたが、その時点で体勢を崩してしまい、そこを防御不可能の黒い剣が狙う。アイリアルは俺が次の瞬間に真っ二つになること確信したのか、目を細めるが、ある予想外の結果に目は見開かれた。

 黒い剣とブレードが火花を散らしながらも拮抗していたのだ。それに動揺したのかアイリアルの判断が一瞬遅れた。その隙を逃すことなく剣を弾き、切りかかるでもなくもう片腕をアイリアルに向ける。拮抗されたこと、即座に攻撃に移らないことに目を白黒させる相手を尻目に、そこから生えるブレードを高速で射出した。

 次の瞬間にはアイリアルの背後の壁をヒビ割れさせながらブレードが突き刺さり、少し遅れてアイリアルの首が床に落ちたのだった。


 アイリアルのその赤い目は最後に、デフォルメされたカタツムリがいつのまにか俺の背後に出現していたのを見た。


 ル・カルコルの能力の2つ目の能力、《舗装》は摩擦を操る。これでもってブレードの摩擦を限界にまで引き上げることで拮抗したのだ。ついでに射出したブレードの摩擦も引き上げて放った。

 これがなかったら辺りに長期戦覚悟でヒュドラの毒を撒きまくるしかなかった。






「はッ!」


 空中から放たれる無数の矢の間隙を縫って、弓持ちのアイリアルにニオンが迫る。矢は俺や燃香にも放たれていたのだが、ニオンはそれをレイピアに付与したAランク風魔術の風神剣(トルネードサーベル)で打ち払いながら空中戦を敢行している。

 そのアイリアルは、《超加速》に加え、途中から《超高速》の特性までを全開で使っているニオンのスピードと渡り合えるほど速さはなかったのか、《超高速》の発動開始から数秒で嵐のような斬撃で細切れにされた。


「……」


 剣持ちのアイリアルの攻撃の回避に専念していた俺は絶句した。


磔刑の炎(クロスファイア)!!」


 最初こそ、槍持ちのアイリアルのその槍捌きに苦戦を強いられているように見えていた燃香も、相手にそれ以上がないと分かった途端に、攻勢に出た。

 次の一瞬でアイリアルは消し炭になった。


「……」


 俺にはアイリアルの足元に亀裂が走るようにして現れた赤熱する十字から、レーザーのように噴き出した炎でアイリアルが消滅したようにしか見えなかったが、きっとすごい魔術なんだろう。多分そう。

 ブレードでアイリアルの首を落として一安心していた俺は目が点になった。


 あとで聞いたところ、あの魔術はSランクで、火と光の複合属性魔術『磔刑の炎(クロスファイア)』というらしい。さすがとしか言いようがない。






「改めてこのパーティで俺が最弱だと思い知った」


「そんな落ち込なくても……」


 アイリアル三銃士との戦闘ののち、俺は敵地のド真ん中で膝を抱えて意気消沈していた。あんな涼しげな顔で、しかも魔術一発で敵を消滅させる吸血鬼に、終始そのスピードと精密さで敵を翻弄し、余裕すら感じるその剣捌きで細切れにするセミ。落ち込むなという方が難しい。

 これが別の人ならそこまで気に病まない。しかし、パーティメンバーだと事情は変わってくる。なにせ、とんでもない足手纏いになってしまうからだ。

 そういえば『影の部隊』の刺客との戦いの時もそうだったな……。


「そうですよ! ユウリはまだレベルが低いだけで伸びしろはまだたくさんありますよ! だから諦めないでください!」


「ありがとう、ニオン。俺がダメな男ですまない……」


「いや、ニオンも私も元々Sランク冒険者くらい強いんだから差がついてるのは仕方ないよ。結理君が気に悩むことなんてないよ?」


「私たちがついてます。ユウリ、諦めないでください」


「……俺、もっと頑張るよ。そしていつか2人に並び立てるくらいになる……!」


 2人の(特に熱心なニオンの)介護で俺は復活した。

 本来はアイリアルの首魁と命懸けの戦いに赴いているはずなのだが、俺にとっては足手纏いになる方が死活問題なのだ。



スキル《俊足》 足腰が強化され、悪路でも走る速度が落ちにくくなる。走るスピードにプラス補正がかかる。

※俊敏が上がるわけではない。

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