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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第49話 三度、大聖堂へ


 教皇の敵対派閥に属する高位神官に、イビリスが『杖』を渡した翌日にはアイリアルが急激に活性化。神官たちが『杖』を使い、その妖しい輝きがアイリアルに力を与えたのだ。

 彼らはまだ知らない。自分たちの行動が国を、世界を、全く意図しないうちに滅ぼそうとしていることに。


 教皇はここ最近の日課と化したアイリアルの討伐をいつものように行っており、その日は郊外の森に現れたアイリアルと闇を、色彩騎士団と有志の者たちを背に戦闘をしていた。

 しかし、ある瞬間からアイリアルの動きが変わった。それまではただ突進するばかりだったが、こちらの攻撃を躱すようになり、攻撃もフェイントを織り交ぜ、遠距離、近距離の技を使い分けて、明確にその目に知性の輝きを宿すようになった。それも戦い始めてたった1、2分でだ。


 教皇は驚愕した。彼らが急に知性を得たからではない。そんなものは、この虹色に輝く剣の前にはなんの意味もなさないのだと考えていたからだ。しかし、今まで絶対的な力を、権威を誇っていたはずの虹色の斬撃を受けたアイリアルが、仰け反りながらも、耐えた。

 2度、3度同じことを繰り返せば、偶然でもなんでもないことに嫌でも気がついた。もう奴らにこの手は通じないのだと。

 しかし、彼らは虹色の斬撃に耐性を得たのではない。ただ純粋に強くなったのだ。だがそういった成長をする敵との戦いの経験のない、教皇と騎士や有志の者たちはそれを見抜けるはずもない。ゆえに攻撃が効かなくなったように見えているのだ。


 それまでの形勢を覆すように数体のアイリアルが浮遊しながら迫る。それまでなら斬撃1つで消し飛ばせる程度の相手だったが、既に状況が違う。

 それでも教皇は威厳とメンツを保つべく、横薙ぎに剣を振るって虹の斬撃を放つが、先頭に立つ1体のアイリアルの手に持つ黒い大剣で、その斬撃はいとも容易く叩き落とされてしまう。

 そのアイリアルの持つ剣は数秒前まではどこででも売っていそうな普通の数打ち品の剣だった。

 しかし、虹色の斬撃を叩き落とすべく大上段に掲げられたその瞬間、異変は起こった。周囲の『闇』を剣が吸い込むようにして吸収し、みるみるうちに刀身が伸び、禍々しい黒の大剣に変わったのだ。


 その大剣の禍々しい輝きに、虹色の剣の輝きが劣ったと思い知った教皇の取り巻きたちはすぐさま恐慌状態に陥り、散り散りに逃げ始めた。当然教皇も逃げた。だが、知性を得たアイリアルから無事に逃げられるはずもない。

 結局、安全圏と言われている大聖堂にまで重傷を負いながらも逃げられたのは教皇と騎士1人、有志2人だけだった。


 そこから教皇側とアイリアルの優位が逆転するのは早かった。各地では今まで以上に闇が跋扈し、アイリアルによって教会や騎士の拠点、冒険者ギルドが的確に破壊されていく。

 無力な人々は未来に絶望しながらも、隠れてこの危機が過ぎ去るのを待つしかなかった。






「イビリス!」


「ふあ……。ウン? なんだイ?」


「この状況はなんだ? どうなっている!?」


 教皇は扉を乱暴に開け、イビリスが泊まっている部屋に入る。イビリスはちょうどベッドで呑気にうたた寝しているところだった。自分がこんな目に遭っているというのに、外で起こっている状況をなにも理解していないであろうイビリスに、教皇は苛立ちを隠すことなく問い詰めた。


「ふあ〜。ドウセ、誰かがアイリアルを活性化サセたんでショ」


「そんなことは分かっている! 手段はなんだと聞いているんだ!」


「僕がやったんじゃナイんだから、ソンナの分かるわけナイじゃン。言えるコトがアルとすれバ、教皇サマに献上した『虹の涙剣』と同等の物でないと、コンナ異常な活性化は引き起こせないってコトだけだヨ? 大方、犯人は教皇サマの敵対派閥でショ。動機はバッチリだもんネー」


 教皇が知る由もないが、イビリスはこの状況を引き起こした側なのだ。この国で起こっている異変とその状況の進行度合いを、なにからなにまで把握しているのは当然と言えば当然。そんな彼からすれば教皇のその問いは愚問だった。しかし、教皇に自分の知っている情報の全てを話すような義理はイビリスにはない。


「……イビリス、力を貸せ」


「エ、ヤダ」


 教皇は貸し借りの問題で悩んだ末に、イビリスにこの事態を打開するために協力を依頼することにした。アイリアルの対策に『虹の涙剣』を与えてくれた時のように、うまくいけば新しい伝説に謳われるような武器が手に入るかもしれないという下卑た欲望とともに。

 しかし、教皇の頼みをイビリスは歯牙にもかけずそれをあっさり、しかも即答でお断りする。さらにすごく嫌そうな顔と声色でだ。


「な、なぜだ!?」


「だってサ、この国滅びソウなんだもン。ソンナ国の教皇となんて、僕がドレだけ義理堅くてもサスガに付き合えないヨー」


「クッ! まだだ! アイリアルを残らず殲滅すればいいだけのこと! 我が国が滅ぶことなどない! それとも国の将来よりも報酬が心配か? 問題はない。どんな望みでも言え。私が叶えてやろう。その代わりにアイリアルどもを蹴散らせ!」


「望み? ソンナのないヨ? 最初に言ったじゃン。教皇サマと仲良くしたい……ってネ! だから仲良くはするケド、全面的に手助けする、ナーンテ言った覚えはナイんだよネ〜」


「き、貴様ァ!」


 教皇は人目を憚らず激昂し、剣を素人丸出しの太刀筋で振り回しながら、未だにベッドで横になったままのイビリスに飛びかかる。しかし、イビリスは瞬間移動でもしたのか、と問いたくなるほどのスピードでそれを躱し、既に出入り口にまで移動していた。


「アレレ〜? 僕ナンカに構っててイイのかナ? そのうち、パワーアップしたアイリアルにコノ大聖堂も落とされちゃうヨ? ホラホラァ、情けなく、みっともなく、無様にケツまくって逃げなくていいノ?」


「ぎぎ……! 覚えていろ! いつかお前には地獄を見せてやるからな!」


 そう捨て台詞を残すと、教皇は『虹の涙剣』片手にイビリスの部屋を逃げるように出て行った。


「……地獄、ネ。ソノ言葉は、今のこの国みたいな状況のコトを言うんじゃないかナ? ククッ」


 その声を聞ける者はその部屋に本人しかいなかった。






 俺たちは拠点を使い、アイリアルの活性化の渦中にある神聖国レインボーに再び向かった。場所が分かっていて、かつ行ったことのある国にしか使用できないが、こういう、すぐに現地に赴かなければならないような非常時ではとても役に立つ。

 今の時間帯は昼頃のはずなのに国中に暗雲が垂れ込め、まるで夜のようだった。地上には無数の『闇』がおり、その空洞のような赤い目の輝きが、イルミネーションのように街どころか国中を彩っている。その上、


炎渦(フレイムホワール)! 炎渦(フレイムホワール)! 炎渦(フレイムホワール)! ダメ! 全然撃墜できない! 私も食べたらいいのにな!」


 現在俺たちは呼び出した竜の背に乗って大聖堂に向かっていた。大聖堂に直で行くこともできたが、周囲の様子をよく見てからの方が敵戦力を知る上でいいだろうと思い、1キロメートルほど離れた上空に転移したのだが、選択した距離を間違えた。

 なんと、転移直後からアイリアルたちの総攻撃を受けることになってしまったのだ。大聖堂の上空くらいにしておくべきだった。100体を軽く超える数のアイリアルがこちらをロックオンしている。


「《高速機動》じゃ飛べないのか? 確か、《飛行》の上位スキルだよな?」


「『鎮静化』の状態だといろいろ制限されてて吸血鬼っぽいことはほとんどできないの!」


 なるほど。

 しかし、全然当たらないと言いつつも、放った魔術は、躱されて通り過ぎたと思ったら急にUターンしてアイリアルに背後から命中し、撃墜している。『鎮静化』していてもコントロールは抜群のようだ。


「ニオンは《人間化》使ってる状態でも飛べるんだな」


「うーん、やっぱり近づいて戦った方がいいのかな……? でも近づく手段がないんだよね……」


 ニオンは今、竜の背にはいない。空を飛んでアイリアル相手に近接戦に持ち込んでいるのだ。単独では危ないだろう、とスピネルもついて行っているので実質的に二手に分かれているようなものだ。


「ッ! 来たぞ!」


「……火炎月(クレセントブレイズ)!」


 前方から、周りの個体とは雰囲気の違うアイリアル

が仲間を伴って突進して来た。その手には他のアイリアルとは異なり、黒い大剣が握られていて、その個体が他とは一線を画す戦闘能力があるということは明白だと感じ取れた。

 凄まじい速度で迫るアイリアルに対し、俺の声でその存在に気づいた燃香はそいつに手のひらを向けて接触の時を待つ。その時は3秒と経たずに訪れた。残り5メートルにまでアイリアルが距離を詰めた瞬間、燃香の手のひらから膨大な熱を内包した、陽炎のように揺れる波状の炎が放たれたのだ。

 火属性Aランク魔術のそれにアイリアルは大剣を振り下ろすが、大剣が触れた瞬間、引火したかのような大爆発を起こした。


「ぐッ!!」


「わひゃあ!?」


 乗っている竜自体が墜落しそうな衝撃を間近で受けたせいか、バランスを崩し、高度が落ちる。これ、アジ・ダハーカだったら墜落してたな。

 現在乗っているのはアジ・ダハーカではなくバハムート。見た目はなぜかステルス機のような形状をしており、飛行能力は随一。本人(竜)的に水中を泳ぐ方が得意らしいが。高速で飛んでいても振り落とされることなく乗れるのがこの竜のいいところだ。別に安定して飛べるだけではないが、今は使いどころではないし、そんな余裕もない。


『俺たちはもうそろそろ大聖堂に着く。ニオン。そこで合流しよう』


『分かりました……と言いたいところですが、私とスピネルは既に到着しています』


 本来、バハムートなら1キロなんてすぐに移動できる距離だが、アイリアルの軍勢の隙間や数の少ないところを変態的なテクニックの飛行で縫いながら移動しているので、思ったより時間がかかってしまっている。


『『マジで!?』』


『はい。ユウリたちが囮になってくれたお陰です』


『そ、そうか……』


 少し複雑な気分になるが、結果オーライになりそうだ。






「……ここ、本当に大聖堂か?」


「あってるはずなんだけどね……」


「私も到着した時は驚きました。スピネルいわくアイリアルの首魁によってこの形に改造されたとのことです」


 アイリアルの軍勢から逃げ切り、大聖堂に辿り着いたのはいいものの、そこにニオンがいなかったらこの建物が大聖堂だとは思わなかっただろう。

 なにせ、以前の大聖堂の面影は全く残っていなかったからだ。神聖さみたいなものは失われ、壁は曇りのない白から赤黒く変色していた。さらには建物自体が2倍くらいに巨大化し、あちこちから棘や茨のような物が生え、さながら、魔王城と化していた。


「で、そのスピネルはどこだ?」


「援軍を迎えに行くと言ってどこかへ行きました。なんでも、そうしなければここには来れないと言っていました」


「そうか。元から3人で、っていう話だしな。……行くか」


 俺の声に2人は頷いた。覚悟を決めた俺たちは、見た目が魔王城と化した大聖堂に足を踏み入れた。この先にアイリアルの首魁がいる、その事実に足が竦みそうになるが、意を決して一条の光も差さない大聖堂の闇の中に足を踏み入れた。



教皇はにげだした!


スキル《装甲》 肉体に鎧でも見に纏っているかのような鋼の堅牢さを加えるスキル。耐久、魔防にプラス補正。


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