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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第48話 GO TO 死地


 大通りのド真ん中に立つローブを纏った怪しいロボットであるスピネルは俺の問いに、待ってましたとばかりにこう言った。


「神聖国レインボーが大変なことになりました。助けてください」


「よし、評議会に行って高沢いないか聞きに行こうか」


「そうだね。来にただいまって言わなきゃだし」


 俺と燃香の判断は速く、すぐに視線を明後日の方向へ向けながらスピネルをスルーして大通りを歩き始める。しかし、ニオンはスピネルに気の毒そうな視線を向けたのち、俺たちの横を歩きながら問う。


「スピネルのことはいいのですか? かなり困っているようですが……」


「ハハハ(乾いた笑み)。スピネルは中立国ポップに住んでるんだぞ? なんで他国にまで気を配るんだよ?」


「そうですけど、なにか嫌な予感がするのですよ。この問題を放置しておくと、あとで破滅的な結果がもたらされるような、そんな予感が……」


 ニオンはまるで長年頭痛に苦しめられている頭痛患者のような仕草をしながら、良からぬ未来の光景の予感を俺と燃香に告げる。


「……」


「……」


「あの、2人とも?」


 ニオンの深刻そうな表情と声色に、さすがににべもなく遇らうのはどうだろう? という表情で俺と燃香はお互いの顔を見る。

 燃香は即断即決が基本だ。多分どうするかはもう決めている。しかし、俺はそうアッサリとは人生の岐路に用意されているような選択を決めることはできない。正直、神聖国レインボーで俺たちを待つ脅威は勇者と同じくらいかあるいはそれ以上に関わり合いになりたくない。そこに行くことで嫌な事態に遭う気がするからだ。必要だというなら諦めるが、なるべくは避けたい。

 そんな益体のない葛藤の末、実はなにも起こらないんじゃないかという希望的観測と関わり合いになりたくないという思考より、ニオンの嫌な予感の方を信じ、重点を置くことにした。

 なにもしないで後悔するより、なにかやって後悔する方が後腐れがなくていい。それに放置した結果、元の世界に帰れなくなっては困るしな。


「仕方ない、聞こう。ニオンもそう言ってることだしな」


「私のサバイバルセンサーは回避すべきって言ってるけど、私だけ生き残っても意味ないし……。まあ、仕方ないよね」


「ありがとうございます、そういうわけですから場所を移しましょう」


 俺たちが肯定的な返事をするのが分かっていたかのようにタイミングよく会話に割り込むスピネル。ちょっと言いたいことはあるが、今はぐっと堪えておく。


 スピネルは拠点のその便利さを実感したからか、そこに移動して話をすることを強く要望した。言われなくてもという感じだが、本当に頼む気あるのか、こいつ……?






「アイリアルが復活しました」


「愛理アル。なんだ、そのエセ中華キャラみたいな報告は? 俺は愛理なんて奴知らんぞ」


「結理君、現実を見よう。アイリアルが復活したってスピネルは言ったんだよ」


「くっ……! それで俺に、というか俺たちにどうしろというんだ……ッ!」


 拠点に来て開口一番、スピネルはそんなことを言った。だよね。予想はしてた。しかし、こんなすぐにとは……。

 どんなトリックを使ったのか、教皇がアイリアルをバッタバッタと倒して連戦連勝しているという話を馬車で帰国してる最中によく聞いていたのだが、復活したってことは最初は完全に抑えられてたということになる。

 つまり、ここ最近になって教皇側が急に劣勢になったのは、連戦連勝するための手段がとれなくなったから、あるいはそれ自体が意味をなさなくなったからだろう。

 もしかしたら、ただ単に連敗だったが、それを隠していて、ここ最近になって誤魔化せる段階や許容量を超えたから明るみに出ただけかもしれないが、そもそもこの世界の事情に明るくない俺では憶測を並べることしかできない。


「あなたたち3人で復活したアイリアルを討伐して欲しいのです」


「3人? 4人ではなく? スピネルはなにをするつまりなのですか?」


 しかも3人で、という無茶振りつきだ。この前は高沢もいたし、復活したてで弱かったのも手伝って割と簡単に倒せたが、今回はそうもいかないだろう。

 仮に教皇がなんらかの手段でアイリアル相手に無双していたというなら、今回復活したアイリアルにはそれを余裕で跳ね除ける力を持っていることになる。それをたった3人で倒すのは無理だろ……。


「私はとても頼れる援軍に心当たりがあるので、そこを当たろうかと……」


「その前になんで俺たちなんだ? 神聖国レインボーにだって他にもっと強いヤツいるだろ。それこそ勇者、とかな」


「壊滅しました」


「「「は!?」」」


 犯人を追い詰める名刑事が降りてきたかのように閃いた妙案、勇者に丸投げという名案が一瞬で無に帰した。そして俺たちの表情は無と化した。


「私が得た情報によれば、5人のうち3人が既に死亡しているとのことです」


「いや、そうだとしても、頼れる知り合いが少ないからって俺たちみたいな外野に頼むか? それに勇者が5人で戦って3人が戦死するような結果だったのなら余計に俺たちには荷が重いんじゃないか?」


「確かに死亡したとは言いましたが、戦死したとは言ってません」


「は? なんだその不穏な言い回しは……」


「3人は暗殺されたと言われています。何者が手を下させたのかは分かりませんが相当の手練れでしょう」


 勇者乙。……とは言えないな。彼らがどういう人かは分からないが同郷の人間だ。

 だが、テレビの向こう側の、それも見ず知らずの人が亡くなったことが報道され、それを毎日、しかもニュースの話題が変わる度に、自分のことの様に悲しみ怒ることなど俺にはできない。それに数字の上での犠牲者の話をされてもあまり現実味がない。


「なんでこのタイミングなの……」


 なんでもそうだが、得てしてこういうのは、なぜ今なんだ、というタイミングで起こるものだ。だが今回のこれに限って言えば何者かの意思が働いているように思える。


「アイリアルの仕業でしょうか?」


「いえ、人間の仕業です」


「人間。つまり、他国からの刺客ってこと?」


「いえ、自国の、しかも色彩騎士の手によってです」


「「「なにそれ……」」」


「かなりの権力者の息のかかっていたと思われる騎士によって暗殺は行われました。騎士はその場で自決。今の状況から察するに背後の黒幕は分からず仕舞いになりそうです。なにせ、アイリアルの対処でてんやわんやですから」


 アイリアルと戦っているはずなのに気がつけば今度はなぜか人間同士で権力闘争。本来ならそんなことをしている場合ではないはずなのに、敵対している者同士であっても互いが手を取り合ってことの対処にあたらなければならない状況なのに、醜い同士討ちを続けている。

 もしかしたら彼らはアイリアルがいなくなった『戦後』のことを見据えて、誰が権力を得るかどちらの派閥につくかを家で高いメシを食いながら熟考しているのかもしれない。

 彼らは、アイリアルという病魔との戦いが終結し、それ以後がアフターと呼ばれる日がくることを無条件で信じている。自分の国に明日が来ない可能性だって十分にあるというのに。


「最初の疑問に戻るが、なんで俺たちなんだ? 相応しい奴なら他にもっといるだろう。その頼れる援軍自体を本軍にすればいいんじゃないのか?」


「アイリアルによって神聖国レインボーを滅ぶまであと1日と数時間。それをタイムリミットとするなら援軍が到着するにはギリギリ間に合いません。もし、そのタイムリミットを過ぎればアイリアルは国1つを飲み干し、その生命リソースの全てを得る。そうなれば手がつけられなくなります。そして大陸全土を支配するのも時間の問題。この星に安住の地はありません。つまり……」


「つまり移動にかかる時間、戦力、信頼性、それらを総合して考えた時、俺たちが1番ってことになったってわけなのか?」


「はい。ですのでお願いします。もはや一刻の猶予もありません。今すぐにでも神聖国レインボーに私と向かってください!」


 スピネルは俺たちの前に立ち、頭を深く下げる。全ての終わりが始まるまであと2日もない。しかし、一国を滅亡に追いやるような奴を相手にするなんて、そんな大役が俺たちに務まるのか?

 いきなり現れた世界滅亡の危機に、同じところをぐるぐる迷走する俺の思考を過ぎるように、ニオンが口を開く。


「……ユウリ、現状の私たちの戦力での勝算はありません。ですので今は戦うべきではないと思います。私たちだけでも拠点に逃げて生き残り、次の機会を窺う。そこから他国、他大陸に救援を求めるという手があります。……ですから、その、……なるべく慎重に考えてくれると私は嬉しいです」


 思考が迷走する俺とは対極的に、ニオンはひたすら冷静に現在の状況を把握し、そこから導ける未来を見据えていた。その口から発せられた言葉は、多くを切り捨てても、最後にはこれが最善だったと胸を張って言えるようにと心を殺しながらも導いたニオンなりの結論だ。

 しかし、最後に零したその一言だけはニオンらしくないと思った。


「…………決めた」


「「「……」」」


 スピネルに助力を請われ、ニオンに忠告を受け、俺は小難しいことを、理屈で考えるのを辞めた。俺は生きたいように生きる。元の世界で新刊が待ってるからだ。

 3人は黙って俺の次の言葉を待つ。


「俺は神聖国レインボーに向かう」


「無茶です! 復活したアイリアルは私たちだけでどうにかなる相手ではないんですよ!? ユウリはさして特別な人間じゃないんですから、そういうことはしなくてもいいんですよ!」


 俺の意志を聞いたニオンは途端にいつもの冷静さを失い、詰め寄って俺の肩を掴み、必死に静止を促す。なぜここまでニオンが必死になるのか分からないが、本気で心配していることは伝わってきた。


 俺だって死地に赴くのは嫌だ。こういう人手が足りない状況でなければ、そういうのは本来はもっと強い人がやるべきなのだ。なにが悲しくて冒険者になって半年の新人が、世界を滅ぼすような巨悪に挑まなければならないのだ。

 本音を言うなら逃げたいし、全力で東大陸から避難したい。俺に守りたいものなんてこの世界にはない(実力的な問題もあって、ニオンと燃香はそこに含めたくても含められない)のだから、たとえ相手がどんな巨悪であっても、戦うという選択肢はあってないに等しい。

 実際、あのワームと戦っていなければ、俺は逃げると即決していただろう。だがあの戦いは戦いそのものを放棄したせいで、酷く後悔するという結末に結びついた。

 今は逃避でよくても、もしかしたらいつかその選択を後悔する日が、あの時、逃げなければと思ってしまう日が来るかもしれない。過去には戻れないし、耐えられるが痛いのも嫌だし、死んだらそれまでだ。けれど後悔を残して死にたくはない。

 結局のところ、俺が戦うのはそれだけだ。死ぬ時は憂いも未練も残さずに、がいい。そうできるくらいにはなりたい。


「勘違いするな、ニオン。俺は自分なら解決できるなんて微塵も思ってない。どう考えても無理だ。けど、必ずしも俺が戦わなきゃいけないってわけじゃない。要は、その頼もしい援軍が来るまでアイリアルを引きつけて防戦していればいいってことだろ、スピネル?」


「確かにそうですね。では、行きましょう。アイリアル巣食う魔境に」


「しかし、スピネル、ちょっとだけ待ってくれ。仮に防戦するにしても、どう足掻いても戦力が足りない。手分けして高沢とアイアスとシルド、ソウジに連絡を取ろう」


 さっきと変わらず、頼む気あるのかと問いたくなるくらいに行動を急がせるスピネル。

 確かに隣国、中立国ポップ、引いては世界が大ピンチだが、こいつの急ぐ理由が世界云々の関係ないところにあるような気がしてならない。


「……分かりました」


 この3人だけでアイリアルの軍勢に突っ込むのはマズいので、戦力的に頼れるであろう冒険者や勇者に連絡を取ることにした。ニオンは俯き、沈んだ表情ではあったが、俺の意志に応えてくれた。






 スピネルを拠点に置いて出発してから、およそ30分で俺たちは拠点に戻って来た。しかし……。


「アイアスとシルドの2人は依頼で出払っているようでした。一応、カントリ林近くのアイアスの屋敷にも行きましたが不在。他のSランク冒険者も連絡が取れませんでした。なんでも各地に『闇』が出現し、強力な魔物もそれに呼応するように暴れ出したとか……」


「私もニオンの言ったのと似た理由で来と連絡を取れなかった。他の勇者も不在らしいんだよね」


「ソウジの方もだ。依頼を受けてどこかの国に遠出しているらしい。さすがにこの時間じゃ探すのは無理だった」


 アイリアルの復活と活性化、その影響は本体がいるであろう国内に留まらず、大陸内全てに波及しているようだった。

 ニオンと燃香ならあたれる場所は全てあたると思っていたし、聞かずとも他の勇者やSランク冒険者のことを言ってくれた。結果は同じだったが、状況がかなりマズいことは分かった。


「すみません、他に頼れる知り合いの心当たりがありませんでした……」


「いや、気にするな。しかし、これは本格的にマズいな。他に頼れそうな知り合いなんていたか……?」


「いない、よね? もう私たちだけで行くしかないんじゃない?」


「……燃香はいいのか? 俺はアイリアルと戦いに行くが、無理についていかなくてもいいんだぞ?」


「そんな冷たいこと言わないでよ。死なば諸共って言うじゃん。まあ、そもそも死ぬ気なんてこれっぽっちもないけどね」


「私も同行します。ユウリにだけ無茶させるわけには行きませんし」


 俺のついて来なくてもいい、という突き放しているともとれる言葉に、燃香は拗ねたように口を尖らせる。ニオンもまた、ともに死地へ赴くことを決めたようだ。その引き締まった表情からは決意のほどが窺える。俺の覚悟も決意も霞んで見えるほどの凛々しさ、少し憧れる。

 いい仲間を持った。そう思わざるを得ない。そして、この頼もしい友を失うわけにはいかない。俺はこの世界を全力で生き抜くと決意した。



結理「俺は全力で息抜く!」


ニオン「さっさと行け」


スキル《怪力》 およそ人が持ち得ないほどの膂力を発揮する。筋力にプラス補正。ランクが高いほど、発動時の効力と持続力が上がる。


スキル《術技》 《武技》や《剣技》の魔術バージョンのスキル。魔術発動速度上昇及び威力強化がなされる。

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