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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第45話 あの街への帰還


「桃髪の聖人! ……って誰だっけ? 聞いたことあったような気がするんだが……」


「ユウリ……」


「忘れてるの? あれだよ。神聖国レインボーの大聖堂にその姿を模したステンドグラスがあったじゃん。それに結構有名だよ? 武勇に優れ、心清らかで数多くの争いを平定し、その時代を、世界を救ったと言われてる人で、世界3大有名人の1人!」


 あのステンドグラスの人のことだったか……。手にしている剣と杖で闇を祓うという構図が、アイリアルに関係あるんじゃないかと気になっていたが、世界を救ったとまで言われるならアイリアル関連とは限らなくなってくるな。あの闇が実体を持つものではなく、抽象的な悪を意味しているというのも普通にあり得る。


「3大有名人ってことはあと2人、同じくらいエピソードが濃くて有名な奴がいるのか?」


「もう1人は人じゃないけど邪龍」


「なるほど、確かに有名人だ。ならあと1人は?」


 『ハーッハッハッハ!』と燃え盛る国を背景とし、炎の音をBGMにして高笑いする邪龍ミルの姿がまたもリアルに想像できた。悪い意味で有名。

 初めて夢の中で会話した日とは別の日に、ミルからその武勇伝を聞いた(一方的に聞かされた)。ある時は人間の魔法使いと山脈を削り、大地を抉り、海を荒れさせながらドンパチやったことや、星座の形が気に食わなかったから力技でその並び順を変えて自分の星座を作ったり、自分の切り札の魔法の試し撃ちをして複数の国を焼き、陸を沈め、逆に新しい陸地を海から隆起させたりとやりたい放題だったらしい。(最後のが一番有名なエピソードで、直接狙われることになった原因らしい。……なにしてんの)

 どうやらグローリーなる人物は邪龍に関するアフターケアをしなかったようだ。


「それはもちろんこの私!」


「ニオン、実際のところは?」


「フレン・カタリシス。簡単に言うと正義の味方です。そしてその子孫、一族もまた代々正義の味方」


「だいぶ簡単に言ったな。しかし最後のなんかすごくないか? 正義の味方の一族って……」


 あまりにも燃香がドヤりながら自信満々に言うものだから、思わずニオンに真偽を問いかけてしまった。ニオンはニオンで、待ってましたと言わんばかりに俺の問いに答える。


「……私って何番目くらいに有名?」


「トップ10には確実に入りますよ。伝説の吸血鬼ですから」


「ヤッター!!」


「(それでいいのか……?)」


 世界3大有名人ではないことを指摘され、体育座りで地面に直に座り込む燃香。その妙に哀愁漂う姿の彼女から消え入りそうな声で問われ、ニオンはすかさず燃香のフォローに入る。

 トップ10確定の吉報を受け取った結果、燃香のテンションは驚異のV字回復を遂げ、その喜びを表すように庭を跳び回り始める。


 だが、テンションを元に戻して回復させたのもニオンではあるが、落ち込ませたのもニオンという、燃香がチョロいのかニオンが巧みなのかいまいちよく分からないことになっている。

 しかし、俺もその片棒を担いでしまった、というかそもそも俺がテンションダウンの元凶なので、モヤモヤしつつもなにも言えない。


「光属性の魔術が使えるようになったのは、その桃髪の聖人のレクチャーのお陰だったのか」


「スピネル、その聖人さんと最後に会ったのはいつ?」


「およそ100年前ですね。初めて会ったのもその年でした。今思い返してみても懐かしい。久しぶりに会いたいですね……」


「へ? 桃髪の聖人ってまだ生きてるのか?」


 スピネルはまるでその聖人が今も生きているような口ぶりで話すが、人間ってゴーストと違ってそんなに長生きできるような生物(ゴーストが生きているのかは怪しいが……)とは思えない。

 しかし、俺のそんな疑問に他の3人はさも当然とばかりに、


「もちろんですよ。知らないのですか?」


「え? 結理君、知らないの?」


「結構有名な話ですよ?」


「なにがだ?」


「桃髪の聖人は800年前からずっと生きてるんだよ? ここ最近はその活動を耳にしないけど……」


 数百年単位ってマジか、なら桃髪の聖人は人間じゃないってことか? けどステンドグラスで描かれてるあの聖人は特徴を見る限り人間っぽかったが……。


「この最近は、って既に亡くなってるってことにはならないのか?」


「いえ! ……生きているのは間違いありません。居場所は分かりませんが、その姿を隠しているのはなにか重大な理由があってのことだと私は考えています。もしかしたら世界に混沌をもたらすような存在、たとえば邪竜のような危険な者の居所を探しているのかもしれません」


 やたらと滑らかな動きでもって縁側に腰かけるスピネル。キメラマシンに憑依したので今は実体があるのだ。その姿で得られる周囲の感覚が物珍しいのか、柱や床に触れて木の質感を楽しんでいる。


「そ、そうかー。ミ……邪龍をねー。へー」


「そういえばあなたは竜を使役しているようですが、あれほど強力な竜を複数体となるとなにか裏がありそうですね。……例えば竜に縁のある何者かの加護を受けている、とか?」


「た、例えば?」


「竜の、強欲の魔王。もしかしてユウリさんは彼の魔王やその縁者と特別な関係にあったりするのでは?」


「いや、全然知らな————」


 スピネルの探るような問いに、誤魔化しながら答えようとした次の瞬間、急に周囲が暗転する。急に意識を失ったのかと思ったが、空に虹のような軌道を描く無数の黒い筋を見てここがどこなのか薄々気づく。


「ってアレ? なんか、見覚えがあるどころの騒ぎじゃない場所に急にワープしてしまったぞ……」


「ハハハハハ! おめでとう!」


「ミル。俺は今、寝てないぞ?」


「結理の格がさらに高まったことで結理が寝ていても起きていてもミルとここでなら会話できるようになったぞ!」


 ということは、新しい竜の力が追加されたということか。なにが増えたのだろう? それも気になるところだが、俺の格が最大にまで高まったなら一体なにが起こるのだろうか? 悪いことではないと思いたいのだが……。


「そ、それはなにより……って、急過ぎるわ! 急過ぎるけど、このタイミングで出てくるのはなにか理由があるんだろ? じゃなきゃしばらく口聞かないからな」


「ガーン! そんな惨いことを……だが問題ない。今日はちゃんと用事があって呼び出したのだからな!」


「やっぱり強欲の魔王絡みか?」


 さっきまでスピネルとの会話をしていたのだ。そこに割り込むようにして出て来たのだから、それ絡みでないとは考えにくい。


「その通りよ。ヤツはとんでもなくイヤーなヤツでな! ことあるごとにミルに突っかかってきたのだ。一度全面戦争になったこともあったのだが、あの程度の小僧、一瞬で星屑にしてやったわ。それから歴代強欲の魔王とその眷属とは折り合いが悪いのだ」


「……すまん、なんの話だ?」


「そこら辺の有象無象の竜ならともかく、魔王に近しい者、血族には極力関わらん方がいい。なにせ結理にはミルの寵愛がある。気づかれたら厄介よ。……ボソッ(まあ、バレたらまた星屑にすればいいだけの話ではあるがな)」


「(後半物騒過ぎるだろ……)それは分かったが、なんで今その話が出てくるんだ? 拠点に戻った時とか落ち着いた時でもいいじゃないか?」


 てっきり今ミルが言ったことが用事の全てだと思っていたのだが、雰囲気からしてまだ続きそうだ。


「それはそうなのだが、ここからが本題でな」


「本題……」


「実はミル、厳密に言えば竜ではないのだ」


「は?」


 自分で邪龍って言っといて、竜じゃないってなにを言っているのだと思ったが、『滅ぼしの邪竜』という異名を名乗ったことはあったが、直接自分のことを竜とは言っていなかったような……。


「この前語ったであろう? 後悔やら嘆きやらが集まってミルが生まれたと。数多の者の魂の叫びが凝縮された存在、つまり悪霊よ。外見上はそれこそ龍だが、ミルの本質は霊体なのだ。まあ、ミルは完全な無から生まれたわけであるから、魂はないがな。しかもその本質以外は、本物の竜を持ってしても判別不能なのだ。偽物なのに竜と全く同じ、ゆえに本物の竜たちとは折り合いが悪い。しかし、悪霊とは言ってもゴーストやコープスと仲良くできるわけでもないのだ。ゴーストという割にはその性質が出自だけでそれ以外が全くなく、奴らなら使いこなして当然の呪術の類いはミルは使えない。最も大きい理由は彼らの魔王の恩恵を受けられないことにある。つまりミルはゴースト扱いされていないのだ。コープスやゴーストといった嫉妬の眷属ならば仮に、その魔王よりも強かったとしても恩恵自体は受けられる。しかし、ミルにそれはない。ミルは竜にも霊にもなりきれないなんとも中途半端な存在なのだ」


「それは……なんか辛いな」


「フッ、結理は優しいな。しかし、ミルはぼっちではない」


「……ん?」


「当然だが、ミルは結理と知り合う前から友達はいたのだ!」


「そ、そうなのか」


 急に話が明後日の方向へ向かったと思ったら、友達の有無というよく分からない話に着地した。いや、誰もミルのことぼっちだなんて思ってないぞ。


「ヤツとは気が合ってな。義兄弟の契りを交わすほどの仲なのだ」


「誰だ、それ?」


「蛇の、怠惰の魔王よ。ヤツはとんでもなく懐の深く粋な魔王でな、それに————」


「そいつって今も健在なのか? ミルはここ最近まで別の世界に夜逃げしてたんだから分からないんじゃないか?」


「……うむ。間違いなく健在だ。帰って来た祝いで久しぶりに会いに行こうと思っているのだが……」


 話が信じられないほど長くなる予感がしたので、ミルには悪いが過ぎらせてもらうことにした。ミルの顔が一瞬引き攣ったように見えたが、両者とも何事もなかったかのように話は続く。


「行ってら」


「冷たいッッッ!! まるで液体窒素の如き冷たさ! しかしッ! ミルは普通に動くとあり得ないくらい目立つ身。必然的に結理に動いてもらうしかないのだ! というわけで頼む! この通りだ!」


「どわぁぁ!?」


 本人的には頭を地面に擦りつけて土下座しているつもりなのだろう。しかし、俺からすれば巨大な龍の頭が至近距離に叩きつけられたようにしか見えない。地面を容易く砕き、空間が軋み、間近で爆弾が破裂したかのような容赦ない衝撃がもたらされるのだ。

 当然のことながら、俺は最低でも数メートルは吹っ飛んだ。ミルの土下座のあまりの速さと威力で、五感が麻痺しているせいか、今なにが起こっているのか分からない。


「(……別の世界に夜逃げしてた時に液体窒素とか覚える暇があったら、自分の体のデカさを学習してほしかったぞ……)」


「ゆ、結理よ、大丈夫か? ミルが悪かった。と、とりあえず治しておくか、ミル流治療魔術(ホーリーチャージ)


「む? すごい、回復するどころか体を新品に取り替えたくらいには元気になったぞ!?」


「やり過ぎたか……。ミルは名前を得たことで他人にも回復や補助の魔術が使えるようになったのだが、加減しなければならんな……」


「す、すごい! ミルがてかげんをおぼえた! これが名前を得て成長したからなのか!?」


「ハハハハハハハ!! あまり褒めるな。照れるではないか」


 頭から生えている2本の角から発せられる電撃がより一層激しさを増す。どうやら分かりやすく照れているようだが、俺自身はそこまで褒めてない。感心しているのは間違いないが。


「で、さっきの問いに戻るわけだが、なんで今、このタイミングで俺を呼んだんだ? 強欲の魔王云々の忠告なのは分かったが、俺、別にスピネルとの話の展開的にマズいことは言ってないよな?」


「……くれぐれも桃髪のヤツには気づかれるなよ」


「俺がミルに寵愛をもらってること、ミルがこの世界に帰って来てることだよな?」


「分かってくれたなら問題ない。しかし、あと1つ。あのスピリットゴーストに名前を与えるのならミルは反対だ。桃髪のヤツに縁のある者と関わりを持つのは結理にとっても危険だ。なにせミルとヤツは敵対関係にあるのだからな」


「え? 結構前に与えちゃったが?」


「えぇーっ」


 そう、俺は祭壇でスピリットゴーストのことを、スピネルと呼ぶと言った時にウッカリ名前をつけてしまったらしいのだ。それを拠点での雑談の最中に知った。スピネルは気にしていなかったが、俺は大いに気にしている。

 というのも、名づける意思とそれを受け入れる意思があれば、名づけというのは割とあっさりできてしまうものなのだ。というのをニオンから既に聞いていたのにこの始末だ。注意力不足は否めないな。


 うん、確かにスピリットゴーストに名づける意思はあったな。次からは気をつけます。






「竜の、強欲の魔王。もしかしてユウリさんは彼の魔王やその縁者と特別な関係にあったりするのでは?」


「それはないぞ。今までこの方、竜の知り合いがいたことはないんだ。この特性も純粋に俺の力だ」


 ミルの作り出した世界から帰って来ると、スピネルがさっきと全く同じ問いをしたので少し驚いた。ミル、時間でも戻したのだろうか?

 なににせよ、誤魔化すチャンスの再来だ。ミルの忠告を忘れてはいない。スピネルは信頼できる存在だが、桃髪の聖人がどんな人物か分からない以上、下手をうつわけにはいかない。

 竜の知り合いはいないというのは嘘ではない。ミル、自分で竜じゃないって言ってたし。ミルも100パーセント信頼できる存在ではないが、今はその辺の話題は保留だ。


「……ところでこれからどうするのですか? あの冒険者の説得云々は脇に置いておくとしても、いろいろと問題があるように思えますが……」


「あの祭壇を今まで以上に厳重に警備できるように、この機体を使ってあの辺りを改造したのち、旅にでも出ようと思っています。そうすれば説得が失敗しても問題ありませんし」


「それもそうだな」


 そんなわけでスピネルは、祭壇のある山に警備強化のために残り、俺たちは町に起こった異変を解決し、翌日の朝には馬車に乗って、やっと思いであの街に帰ったのだった。



ガタイのいい中年冒険者、最後までアテにされずにスルーされる。


スキル《戦線離脱》 戦場、戦闘が行われている空間からの撤退の首尾の良さにプラスの補正がかかり、体力や状態異常からの回復にも補正がつく。

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