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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第43話 合流の経緯


「結理君、なにか来る」


 結界を越えて森に入り、散発的に現れる魔物を軽く遇らいながら燃香とともに祭壇を目指す。今もそこではニオンが冒険者4人の監視をしている。

 彼らの実力は結界を越えられたのだから推して知るべしだ。ニオンとて不利になる可能性があるし、監視していることがバレたら、情報の伝達不足も相まって敵だと勘違いされて泥沼化する恐れもある。

 速くその場まで行かなくては、せっかく得た信頼できる仲間を失ってしまうかもしれないという不安が俺を焦らせ、祭壇までのペース配分を考えられなくなる。そしてその速度をどんどん上げていくのだが、燃香はそんな俺になにか言うわけでもなく、速度を合わせてくれている。


 そんな中、燃香が手で制して急に立ち止まる。彼女のその目は鋭く前方の暗闇を見つめていた。確かに俺も気配を感じるが、目では捉えられなかった。もしかしたら透明なのかもしれない。


「なにかってなんだ? 幽霊か?」


「うん、正解」


「マジか」


 当たりだった。

 現れたのは、淡い赤色の靄を纏い、シーツを被ったような風体の何者か。顔は不気味。腕は骨になっており、足はなく、その体は宙に浮いていた。これは間違いなくゴーストだ。なにせ体全体が若干透けているからな。


「あいつ、もしかしなくてもスピリットゴーストだよな?」


「はい」


「うおっ!?」


「うえっ!?」


 酒場にいたアルバイト少年の言っていた外見の特徴と一致する。その確認のために燃香に問いかけたはずだが、思わぬところからその答えを得る。目の前にいるゴーストからだ。そいつがいきなり喋ったことに意表を突かれ、俺も燃香も素っ頓狂な声を出してしまう。


「そんなに驚かれると少しショックを受けますね。私のような存在は、確かに皆さんには脅威に映るのは仕方ないことですが……」


「めっちゃ流暢に喋る!」


「でもゴーストだよ? 話しかけるのも呪いをかけるための手順だったりして……(わなわな)」


「そんな物騒なことはしませんよ! 私はこの先の祭壇を守る契約の下にあの町に結界を張り、嫉妬の眷族を探していたのです」


「嫉妬、って魔王か?」


 またか。スライムの大量発生に続いて、嫉妬の眷族の登場。魔王は自分の領地の外になにを求めているのだろう? 最近はその活動が活発になっていると言うし……。


「はい。ここで話していても手遅れになってしまいます。話は移動しながらでも構いませんか?」


「別に構わないぞ」


「ちょっと、結理君! こんな怪しいゴーストの言うこと聞くの?」


 思わず歩き出そうとする俺を、警戒心剥き出しの燃香が腕を掴んで引き止める。確かにその言い分は分かる……というか正しいが……。


「怪しくはないだろ。俺には分かる。こいつがいいゴーストだって」


「そんな初対面のゴーストの言うことをすんなり信じちゃうなんて……」


「いや、燃香の初対面の時だって今と似たような状況だろ? 俺の勘はニオンの時も燃香の時もいい奴だって告げてたから今回も問題なしだ」


「うう、否定しづらい……」


 自分が吸血鬼だというだけで、今まで散々な目に遭って来たせいか、『いい奴』と内面を評価されたことが素直に嬉しいのかちょっと照れていたり、ゴーストのことをそんな簡単に信頼していいのかと眉間に皺を寄せたりと複雑そうな表情だ。


 現代日本でサブカルチャーに触れて生きている人からすれば、吸血鬼ってだけですぐに嫌悪の対象にしたりはしない。けど、もし俺が燃香と同じ立場だったとしたら、価値観の相違であったとしても嬉しいのは間違いない。

 もっとも、俺の住む現代日本にも吸血鬼はマジでいて、今も人々の生き血を吸ってるようだが。


「そんなわけで出発だ、ところでスピリットゴーストに名前ってあるのか?」


「ありません。私は一応魔物ですよ? 名持ちの魔物なんてそうそういません」


「だよな。ならなんて呼べばいい?」


 そういえば、ニオンも似たようなことを言ってたな。それに俺と会う前から人間の言語を理解していたような節があるし、他の国や人の言語をすぐに習得するとか、俺よりも理知的だ。


「お好きにどうぞ」


「じゃあスピネルで」


「なんでマグネシウムとアルミニウムの酸化物の名前をつけるの?」


「めっちゃ物知りだな!」


「あのー、速くしないと手遅れになってしまうのですが……」


「「あ」」






 そんなわけでル・カルコルをBランク魔術の雷撃(エレキブラスト)に向かってブン投げた現在に至る。祭壇の裏の木々から現れ、その破壊を邪魔された冒険者たちは不愉快そうだが、その中の魔術師の男は薄気味悪いほどに無表情だ。


「あ? なにしてんだよ。テメェらは町でお留守番してろって言ったよな、なんでここにいるんだよ? しかもなんで邪魔する? この祭壇を壊せば万事解決だろ?」


 合流したニオンには、スピリットゴーストから俺たちへのさっきまでの話の補足も兼ねて再度説明してもらった。

 スピリットゴーストの彼(?)いわく、自分は昔、当時の嫉妬の魔王の配下でこの地に密偵として送り込まれたのだが、そこで出会ったある人物に敗れ、諭された結果、スピリットゴーストはそのある人物の人柄に惚れ込んだ。

 そしてこの地にそのある人物が設置した魔除けの祭壇を未来永劫守り続けるというブラックな契約をし、それからこの祭壇の守護を任されているらしい。


 そんな中、祭壇を破壊して東大陸侵略を効率よく進めるため、嫉妬の配下が送り込まれたことを知ったスピリットゴーストは祭壇近辺の防備を固め、嫉妬の配下を夜な夜な探しまわっていたとのこと。

 確かにスピリットゴーストが町を荒らしてるって話は聞いてなかったな。巡回してただけか。紛らわしい。


「スピリットゴースト、……なんか言い難いな。とりあえず便宜上、さっき考えた名前のスピネルって呼ぶぞ。スピネル、あの魔術師が嫉妬の眷族なんだな?」


「はい、呪術を使っていたことから魔術師ではなく、呪術使いということになります。そして彼は人間ではなくコープスでしょう」


「……ッ!(無視しやがって……!)」


 結界を張ったのは相手が呪術使いだったから。嫉妬の配下は呪術を使う。ならば当然、それに対しての抵抗力もある。

 だからこその結界だ。それにより、魂に干渉するタイプの呪術に耐えられない人は眠ったままになる。それにより起きている者を被疑者として絞り込み、次に結界の外に出て祭壇を破壊するか、自分と相対せざるを得ない状況にすることで配下が何者なのかを炙り出そうとしていた。と、ここに来る前にスピネルから聞かされた。なんか手段が悪辣じゃないか? と聞くと『元は死霊ですから』と軽く流された。


「今の嫉妬の魔王もコープスってことなのかな?」


「恐らくは。先程、彼が放ったのは魔術でした。両方を使える術者はほとんどいません。……あくまで普通は、ですが。しかし、彼は現実にそれを可能としている。嫉妬の魔王が自分と同じ種族の配下のみの能力を向上させる力を持っているからです。ですが今の私はその恩恵を受けていません。そのことから推測するに、コープスである彼が今代の王の力の恩恵を受けているからこそできる芸当なのでしょう」


 燃香の問いにスピネルが彼女の方を向き、自らの推測を口にする。それにしても敵の眼前で呑気に会話してて大丈夫なのか? コープス魔術師、既に詠唱に入ってるが。


「片方しか強化されないのか? なんか揉めそうだな」


「はい、片方しか強化されません。そのせいか、嫉妬の眷族である彼らは、コープスとゴーストの2つの派閥を作っており、次代の魔王がどちらの種族から選出されるかを争っています。もし自分たちの種族から魔王が現れなければ、次に選出されるその時まで冷遇されますから、彼らにとって魔王が自分たちの種族から現れるか否かは死活問題なのですよ」


「けど、毎回どちらかからしか選ばれないんだったら魔王領内の片方を絶滅させたら独占できるんじゃないのか?」


「確かにその通りです。それができたら彼らは派閥なんて作りませんね。ですが、現実に彼らは派閥を作っています。いえ、作らざるをえないと言った方が正しいですね」


「というと?」


「仮に魔王領に住む片方の種族を絶滅させても、これまで通りに2つの種族のどちらかから選出されます。ですから嫉妬の魔王領以外の場所で魔王が誕生する可能性が高くなり、魔王領に辿り着いて自分たちを導いてくれる王にならない事態になり得るからです」


「同じ魔王領に住む魔物同士で潰し合う意味はないってことか。けど派閥争いはする。……みっともないな」


 スピネルへ投げかけた問いは、どれも俺の期待通りに答えとして返ってくる。思わず周囲への警戒が薄れるくらいにその話に聞き入って緊張が緩んで思わず零れた、そんな俺の独り言に過剰反応する者が1人。


「ッ! 我らが王を愚弄するか、人間!」


「自分が人間でないことを自白しましたね。なぜこんなことをしたのか、察しはつきますが一応聞いて置きましょう」


「チッ! まあ、いい……我らが王はより広い版図をお望みだ。その目的においてこの祭壇は邪魔になる。それに貴様らもだ。そこのスピリットゴースト、お前は嫉妬の眷族であるにも関わらず王への忠誠を捨てた裏切り者だ。生かしてはおけん」


 コープス魔術師はこっそりと詠唱して準備を進めて、もうそろそろ完成する頃に出た俺の発言が彼の触れてはいけないところを激しく刺激したらしく、完成間近だった詠唱をわざわざ途中で投げ出して、我を忘れて叫ぶ。

 直後、スピネルに問われると不自然なくらいすぐに平静になり、手にしている杖をスピネルに向ける。宣戦布告、ということかもしれない。


「補足すると嫉妬の魔王の目的は生きとし生けるもの全てを殺すことです。そしてコープスとゴーストで世界を覆うこと」


「さりげなく世界滅亡の危機じゃねーか! けど、そんなこと企んでるのが知られてるんなら、他の魔王だって黙ってないよな? 目の敵にされると思うんだが?」


「どの魔王も互いが互いを敵視しているので、誰か1人だけが目の敵にされることはないですね。補足すると、どの魔王も掲げる目的の内容に関わらず他の魔王と敵対し、その目的は大昔から他と共存できないものばかりなのです。しかし、いかんせん戦力は拮抗しているので魔王による戦乱は途切れたことがありません。嫉妬の魔王はそのパワーバランスを壊し、他の魔王を倒すための策として版図を広げて軍事力を上げようとしているのでしょう」


 コープス魔術師はスピネルと俺たちにスルーされているにも関わらず、無表情から全く変わらない。他の3人はイライラし始めているようだが。


「(他の魔王に対抗するための版図拡大。仮に中立国ポップの人口の全てをコープスやゴーストにしたとしても、それだけで魔王間のパワーバランスを崩すことは不可能に近い。版図拡大を口実としてこの国を攻めるのは、やはり深化心臓(クリムゾンハート)の存在が原因でしょうね。見たところ配下にはその存在すら伝えていないようですし、奪取計画は秘密裏に進めていると考えるべき。……あの方にここを任され、片手間でもいいからと深化心臓(クリムゾンハート)について調べるよう言われましたが、その存在を確認することはできなかった。情報の統制具合からして強大な力を持つ何者かがその存在を隠しているのでしょうね。であればいきなり嫉妬の魔王に奪われることはないのでしょうが悪用されないとも限りませんし、早めになにか手を打っておかなければいけませんね……)」


「じゃあ、俺たちだけの命がかかってる、ってわけじゃないのか」


「この大陸の人々全て、と言っても過言ではないでしょう。しかし、安心を。あのコープスは私が倒します」


「「「はい?」」」


 俺たち3人は、スピネルがなにを意図して言ったのか一瞬では分からず、キョトンとしながら聞き返していた。



……ガタイのいい中年冒険者、結理にガン無視されてないか?


スキル《鋼の心身》 《鋼の肉体》と《鋼の精神》の複合にして上位スキル。前者は耐久を強化し、身体へのデバフや状態異常に耐性を得る。後者は前者の精神バージョン。

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