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竜の如き異様  作者: 葉月
序章 異世界
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第4話 初依頼クライシス


「うおあぁぁぁぁ!!」


 俺は現在、スライムの大群に追われていた。どれも水色半透明で弱そうな奴らだが、1匹ならともかく30匹、40匹になると恐怖しか感じない。

 こんなの薬草採取どころではない。逃げなきゃ死ぬ。


 だが奴らは俺の全力疾走よりも速いらしく、奴らとの距離は既に1メートルしかない。あと数秒のうちに追いつかれるだろう。


「(あ、また走馬灯が)」


 その瞬間、一匹のスライムが腕に纏わりつく。否、食いつく。絵面的にはデカい水滴が腕にくっついてるようにしか見えないが、実際は捕食の段階にきている。

 だが、それでも疾走する。でないと背後から来る団体のお客様にもみくちゃに(捕食)されてしまうからだ。

 それも問題だ。しかし腕にくっついているスライムも問題で、いくら強く引っ張っても離れない。このままでは遅かれ早かれ食い尽くされるのは間違いない。


「う、腕がっ、俺の右腕がぁぁぁ……あ? 痛くない」


 その腕を見てみると真っ黒に染まっている。てっきり、水色のスライムの中で出血したから真っ黒に見えるなのかと思ったが、どうやら違うようだ。触れられているのは分かるし感覚もあるが、痛覚だけは全くない。


「っ! これは!?」


 スライムが纏わりついている部分だけ、あの鱗のようなもので覆われていた。それが腕が黒くなっている原因で、これのお陰で俺は助かっているのか。


「あ」


 いつのまにか生えていた黒い鱗に気を取られていたせいで、派手に前のめりに転んでしまい、その瞬間、咄嗟に前に出した右手が地面を叩きつける。あからさまなレベルで着地に失敗しているが、なぜか叩きつけた地面が小さくだがズドン! という音とともにいきなりへこみ、その衝撃によりスライムが木っ端微塵になった。


「た、倒せた! ってそんな呑気してる場合じゃねぇな!」


 返り血っぽい水色の体液がところどころについてしまうが、そんなことは気にしてられない。突如として起こった陥没と揺れに、他のスライムは一時的に動きを止めているが、俺はそれを尻目に立ち上がり、走り出す。


「だーっ!! なぜまだ追ってくるーッ!!」


 これで危機感を煽られ、逃げ出すかと思ったが、怯むことなく襲いかかってくる。

 そんな愉快な逃避行は、追ってくる全てのスライムを最初に倒したのと同じ方法で一体ずつ丁寧に倒し尽くすまで続いた。






「ぜーっ、ぜーっ、し、死ぬかと思った……」


 一回我が家に戻り、空き瓶やタッパーを持ってその場に行き、それらを使ってスライムの残骸を詰める。なにかに使えるかもしれないものをみすみす捨てるようなことはしない。

 にしてもヤバかった。薬草自体は集め終わっているが、まさか初依頼がこんな危険なものに終わるとは思いもしなかった。危うく恐怖がぶり返すところだった。もう死んでも薬草採取にはいかない。


 その後、人気のない時間帯を窺い、薬草の納品とスライムの残骸を持っていった。その結果、依頼は達成。残骸の方も結構な値段で売れた。なお、比較対象は薬草採取の報酬だ。

 今は我が家で遅めの夕食を食べているところだ。


「とりあえずステータスでも見るか」


————————————————————————


 葉桜結理 人間 男性 18才


 LV.10


 HP 64/67

 MP 2/21


 筋力 20

 耐久 26

 魔力 31

 魔防 10

 俊敏 60


 スキル 献身:C

     武技:E


 適性 水:E


 特性 ・???の寵愛:EX

     硬化:D

     ?化:D+


————————————————————————


「なんかまーたわけの分からんものが追加されてるな……。ハテナ化ってなんだよ。あ! そうだ!」


 この前、《献身》ってなんだろう? って考えていたらその内容に注釈が追加されたのだ。今度もハテナ化ってなんだろうと思えば表示されるはずなのだ。


「って思ったんだがなぁ……」


『?化:あなたを寵愛する???が授けた力の証し。


 Dランクほどであれば腕一本にその力を付与できる。


 効果は???の力の一端を借り受けてその能力を使うことができる』


 いくらなんでもハテナ多すぎだろ。






「はい! これで依頼達成です。いやー、ユウリさんは勤勉で助かりますね! あ、この依頼なんてどうです? 今のユウリさんなら間違いなく達成できますよ!」


「じゃあ、それを受けます。そういえばアイアスさんどこか知ってます?」


 今日も今日とて変わらずに依頼を完了する。ここ数日で慣れたし、八百屋の夫婦の指導のもとで勉強して異世界言語の読み書きも多少はできるようになってきた。

 あのあと初依頼で生命の危機を感じたことをアイアスに告げると、申し訳なさそうにしていた。

 丁度その頃にその場所でスライムが大量発生していたのをお互い知らなかったのだ。俺は仕方ないにしても、歴戦の冒険者って感じのするアイアスも知らなかったのは嘘くさい気がしたが、彼はその一件のことについては平謝りだったので悪意はなく、本当にただの偶然だったのだろう。

 ちなみにそのあと、お詫びとして一緒に街を散策し、美味しい料理を出す店をいくつか教えてもらったり、そのうちの一件でご飯を奢ってもらった。(デート……?)その日、意気投合してからというものアイアスとはタメで話している。


「彼らは今、シュマル遺跡に出現したキマイラを討伐しに行ってますよ」


「またなんかすごそうなことをしてるんですね……」


「そうですよねー」


 正直言ってキマイラがどれくらい強いのかサッパリだが、多分強いんだろう。受け付けの職員もそう言ってるし。


「ん? 彼らって言いました? もしかしてアイアスさんって何人もいるんですか?」


「まさか! 彼はパーティを組んでいますから複数形なだけです」


 さすがに単身で危険な依頼を受けるような無計画さはないようだ。彼の名誉のためにスライム大量発生云々のことを考えるのは止めよう。


「へー。じゃあ伝言を頼めますか?」


「いいですよ。なんと伝えれば?」


「それはですね……」






 職員から斡旋された依頼をこなして我が家に戻った俺は渓流で釣りをしていた。理由は簡単。暇だから。


「……いつになったら戻れるんだろうなぁ」


 そもそも冒険っぽいことはあまりしていない。スライムに追いかけまわされたりするのが仮に冒険だとしても、それは元の世界に戻る手がかりとか手段を見つけられるような類いの冒険ではない。


 釣りと依頼以外では、あの奥さんとオッサンの店でバイトして冒険者と掛け持ちしつつ、異世界言語の勉強をしている。


 今日で異世界(こっち)に来て一週間経つ。

 最近はあー、もう最終回終わってるだろうなー。とか、新番組なんなんだろうなー。とか、早くしないと出席日数ヤバいんだろうなー。とか、そんな風に無心とは程遠い雑念だらけな心で釣りをするのが日課になっている。


「うーん、今日も入れ食いだな。晩御飯はこれに決定だ」


 しかし、釣れる。これは多分俺に釣りの才能があったとか、そういう話ではない。

 俺はこれに似た現象をこの一週間で何度も体験している。イナゴを乱獲して佃煮にして食べてもいつのまにか復活して乱獲し放題だったり、転移以前に俺の知らない内に山に植えられていた果樹の果実を取っても、次の日にはまた実が生っている等々。

 おそらく、俺ごと異世界に転移したことでこの山はなにかしらの変化を遂げているのだろう。だとしたら俺よりも初期ステータスは高いな。理不尽。






「うーん、魚ウマい。けどこの山で渓流フィッシングとかできたっけか? まあ、ウマいからいいか」


 夜、庭で焚き火をしながら夕食である焼き魚を頬張る。残っている米には手をつけていない。そもそも白米の状態ではないので食べれないが。

 皮肉なことになんか前よりも栄養バランス良くなっている気がする。


「そろそろ帰るための手がかり探しでも始めないと出席日数がな……。仮にもう帰れないのならその辺あまり意味ないが、新刊がな……。キツいな……」


 そんなこと異世界においてはなんの益体のないことを考えながらも、現在の俺の精神的支柱であるそれらをそう簡単に捨てることなんて出来そうもない。

 それにしても最終回だけ見れないとか、原作とは違う残念なオリジナル展開になってたり、本編のダイジェスト版みたいになってるアニメを見るのと同じくらいキツいな。苦行だ。


「もう寝るか。明日もバイトで早いし」


 どうやったら帰れるのか、どうすればその手段が得られるのか、その辺の小難しいことは明日の俺がやっえくれるだろう。


 ……って俺は異世界の八百屋でバイトしに来たわけじゃねーのだが。


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