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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第34話 獣の王


「こら!」


「なんだよ、今の今まで気持ちよく寝てたっていうのに……」


 放課後、その日の最後の授業を居眠りで盛大に浪費した俺は、友人による頭への容赦ないチョップで目を覚ました。


「このサボり魔が。ってか、お前、約束忘れたのか!? 今日カラオケ行く予定だろ?」


「悪い。すっかり忘れてた」


「ったく。しっかりしろよな。この様子じゃ彼女はまだ先だな」


 やれやれ、と友人は大袈裟に肩を竦めて首を横に振る。周囲を見回すと既に大多数の人は帰り始めていた。そういえばそんな約束もしたな。すっかり忘れていたが。


「なぜそうなる。お前だってまだだろ。なんでそんなことが言えるんだよ」


「ふ、ふふふふふ!」


「なんだ? その気味の悪い笑みは? ま、まさか!」


「そうさ! 俺は念願のリア充街道を突っ走っているッ!」


「な、なにィィィィィ!!」


「ふッ。俺は新しい青春の1ページを捲って、俺は人生は第2章へ突入した。お前は第1章、いや、序章で燻っているがいい! ふ、フハハハハ!!」


「くッ! 羨ましいッ!」


「ハーッハッハッハ! 世界が眩しい! 全てが輝いて見える。……とうとう俺もリア充か」


 その様子を見たクラスの女子生徒が一言。


「……なにやってんの。あの2人?」






「また明日なー」


「おう」


 放課後、約束通り数人の友人とカラオケに行った。俺にリア充宣言をした友人は終始、恋人とのデュエットを当て付けかな? というレベルで歌っていたので危うく持っていたマイクを握り潰すところだった。


「……なんだ、アレ?」


 その帰り際、彼女ができた友人にジェラシーを感じ、どうすれば彼女ができるのかを割と真剣に考えながら家に向かって歩いていた時のことだ。

 それまでは俯き、視線を足元に向けてぼんやりとそのことについて考えながら歩いていたが、視界に正体不明の物体が映ったことでその思考が中断される。

 最初、道の真ん中に落ちているレジ袋が風に吹かれて時折宙に浮いたり、辺りをウロウロしたりしているだけなのだと思ったが、近づいてよく見て初めてそうでないことに気づいた。


 真っ白な小動物が道のド真ん中で蹲っていたのだ。それは見れば見るほど奇妙な生物で、マスコットのぬいぐるみのような質感をもっていたがそれは紛れもなく生きてそこに存在していた。

 毛並みはふわふわで恐竜のような背びれと尻尾、悪魔みたいな翼を生やし、四足歩行でよちよちと歩いていた。顔の下部は逆さにした雫のように尖っており、上部は寝癖がついたままその状態に定着したかのような髪型(?)をしており、目は円らで、額にはオレンジ色で菱形の宝石が埋め込まれているようだった。

 見るとその小動物は翼に怪我をしていて、何度も羽ばたこうとしては、地面に不時着の失敗を繰り返して手足を傷だらけにしていた。


「大丈夫か?」


 抱え上げてみるとわたあめのように軽く、見た目ほどの重量がないことに気づいた。その白い小動物は俺に抱え上げられると警戒しているのか、不安そうな眼差しを向けてくる。


「いや、お前をどうこうしようなんて考えてないからな」


 そう言うと、なぜか安心したのか体を丸めて腕の中でくつろぎだす。


「……まあ、家に住んでるの俺だけだし、飼っても問題ないよな。傷が治るまで看病するだけなら、本来の飼い主がいても元気な姿で帰ってくれば安心できるだろうし、しばらくは俺が飼うことにして、その間にこいつの飼い主がいないか探すことにするか」


 回りに誰もいないのに言い訳をする光景は、我ながらなにをしているんだとしばらく頭を抱えていたくなるが、ここから自宅はそれなりに距離がある。この時期、ここで立ち止まって悠長にしていてはすぐに日が暮れてしまう。

 俺は、これから万引きをする不良学生のように辺りをチラチラと窺いながら、白い小動物を抱えてその場をあとにした。






「これでよし」


 家に向かうにつれて傾斜がきつくなっていく坂を登り、やっとの思いで私有地の山の入り口に辿り着く。しかし、自宅の敷地に入っても、そこがゴールではない。さらにここからプチ登山が始まるのだ。もっとも、俺は毎日下山と登山を繰り返しているので今さら疲れたりはしないが。

 だが今日に限っては違った。友人とカラオケなどの用事で外出をすることは多々ある。だが、帰り道の真ん中に白い謎の小動物がいることなんて今の今まで1度としてなかった。その小動物は軽かったので抱えて登山しても疲れなかったが、家に帰ってからの汚れた白い小動物の体を洗ったり、傷の手当てやらで精神的にも肉体的にも経験したことがないほどに疲れてしまった俺に自分の夕食や宿題やらをする余力はなかった。その日はそのままベッドに倒れ込むようにして眠った。


 そこからだ。この奇妙な生物との共同生活が始まったのは。

 翌日の朝は前日以上に大変だった。それもそのはず、俺はこの生物がなにを食べるのか知らない。というか、これがなんていう生物なのかも知らない。

 なので与える食べ物に困っていた。動物によっては与えてはいけない食べ物もある。とりあえずスマホを使ってネットで与えても問題ないような食べ物を検索しようとしたが、そこであの白い謎生物が見当たらないことに気づいた。

 家中を探し回って見つけたそいつは、キッチンにある冷蔵庫に入れておいたタッパーをいつのまにか取り出しており、テーブルに鎮座して詰めてあるご飯の余りを前足を器用に使って食べていた。


「……お前、白米が主食なのか?」


 俺の家の台所と居間は繋がっていて、リビングキッチンになっているので両者の距離はないに等しい。なので、全開になっている冷蔵庫、その下に積み上げて置かれたいくつかの箱を見れば、普通に冷蔵庫を開けられない小さい何者かが冷蔵庫の中からなにかを取り出したことはすぐ分かった。そこからすぐ隣の居間に視線が移るのは必然だろう。

 全開になり、辺りに冷気を垂れ流している冷蔵庫を閉じると、居間に向かい、テーブルの近くに座ってそう問いかけると白い小動物はこちらを見上げて頷く。ご機嫌なのか、尻尾は左右に揺れていた。


「……言葉が分かる、のか? いや、まさかな」


 さすがに冷えているものを食べさせるのはよくないので、電子レンジで温めたご飯に途中で取り替えた。






「葉桜、なんか、最近付き合い悪いよな?」


「家で待ってるヤツがいるからな。そんなに長い間出払ってるわけにもいかないんだ」


「それってペットだろ? まるで同棲してるみたいな言い方ヤメろ」


「そういうお前は既にリア充だろ。わざわざ訂正する必要なんてなくないか?」


「…………………………」


 その発言を聞いた友人はまるで時間が止まったかのように、一瞬回りの全てが止まったかのように思えるほど見事にフリーズする。それを見た俺は全てを察した。


「ま、まさか」


「ああ、そうさ! フラれたんだよ! フッ、俺の青春は終わったんだ。長いようで短かったあの日々はもう2度とこないんだ……」


「……まあ、1ヶ月は短いよな」


 ここ最近フラれたというなら、それくらいの期間だろう。それにしても1ヶ月前のあの日とのテンションの落差がヤバい。誰もがこうなるとは限らないが、俺はここまでにはならないと信じたい。


「もう帰って寝る」


「しっかりしろ。それにあと半年とちょっともすれば受験だろ? 落ち込んでる暇はない」


「追い打ちかけるなよ……」


「ふむ、キャンパスライフを満喫していれば自然に彼女ができると思わないか?」


「はうッ! 急にやる気が湧いてきた! 待ってろ、俺の青春ーーッ!」


 それを聞くや否や荷物を纏めてダッシュで教室を去る友人。それを見送った俺は一言。


「チョロいな」






 白い謎生物と同居を始めてからかれこれ1ヶ月が経っていた。翼や手足の傷は治ってはいたが、そのまま家で面倒を見ていた。

 当初の予定通りに家で世話をしている間に本来の飼い主探しを進めてはいたが、なんの手がかりも得られなかった。今も定期的に交番でそういった情報がないか聞いてはいるが、依然として手がかりなしだ。


 そんな日々が続いたある日、月が綺麗な晩のことだ。割と気合いを入れて作った月見団子を縁側で白い小動物と食べていた。いつものこの時間帯なら、そいつは俺の膝の上で丸くなって眠りだすところだが、今日は、満月のせいか余計に大きく見える月を、凪いだ湖面のように静かな青い目で見上げたままでいた。


 直感的に分かった。こいつが俺の知らないどこかへ、元の居場所へ帰ろうとしていることに。声をかけることはしなかった。俺は送り出しづらくなり、白い小動物はここを去りづらくなると思ったからだ。

 俺は立ち上がり、自分の寝室へ向かった。ほんの一瞬だけ振り返るとその白い小動物がこちらを見ている姿が目に映る。そいつは正面の俺に向かって一礼をすると、欠けているところのない完璧な月に向かって飛び去っていった。






「ユウリ、起きてください。そろそろ国境です」


「ん……。もうそんなところまで来てたのか……」


 ニオンに肩を揺すられてあの日の物悲しい光景から現実に引き戻される。

 今さっきまで見ていたあの夢、あれはこっちの世界に来る少し前の出来事だった。あの謎生物、よくよく考えなくてもまともな生き物じゃないよな。人間並みか、あるいはそれ以上の知性があるように感じた。さすがに喋りはしなかったが、日本語を俺以上に理解しているのは間違いなかった。国家中継を見ながらそこに映っている野党と一緒にヤジ飛ばしてたし。


「なにもないからっていってあんまり警戒しないのもどうかと思う。近頃は『大罪の獣』やその眷属の活動が活発になってるし、この辺りだとスライムが大量発生してるから気をつけた方がいいよ」


 燃香は仰向けになっている俺の頬をつんつんしながら忠告をする。一方の俺はなぜかニオンに膝枕されていた。ちょっと気恥ずかしいのですぐに起き上がって、今さっき燃香が言った単語に意識を集中させる。

 この馬車で中立国ポップへの帰路を行く旅路の中、燃香は乗り物酔いを克服すべくさまざまな手段を取っていた。その涙ぐましい努力の甲斐あってか、顔に出るほどに酔うようなことはなくなった。しかし、酔うこと自体を克服することはまだできないらしく、時折無理をしないために拠点で休憩している。


「その大罪の獣とスライムみたいな雑魚になんの関係があるんだ?」


「スライムって言えば大罪の獣の眷属だよ? そう簡単に倒せる相手じゃないけど……」


 へ? そうなの? でもスライムと言えばRPGではお馴染みの雑魚キャラではなかったか?


 しかも大罪、つまりは7つの大罪と来たか。こちらもお馴染み、ソシャゲやラノベで引っ張り凧のアイツだな。最近は七つの美徳とか、現代版7つの大罪とかがあるらしい。(内容は知らん。確か、環境汚染とか入ってた気がする)

 だが神仏習合とか片腹イターい俺からすると作品作りのネタでしかないが、なんかすごそうという雰囲気だけは伝わってくる。なのでなんかすごいんだろう。


「大罪の獣ってなんだよ。めちゃくちゃ強そうだな」


「大罪の獣っていうのは全部で7体いる強大な魔物の王のことで、スライムはその内の1体の下位種族。王の眷属である彼らは普通の魔物よりもステータスも能力も強い。そんなのを雑魚呼ばわりって結理君はさすがだね」


 あと一応聞いておく。ってかやっぱ7体いるのか。

 燃香は、うんうんと感心した様子だが、俺としては未知のワードにウキウキすると同時に、大罪の獣の眷属とか、あの時の俺はそんな危ない橋を渡っていたのかと、今さらのようだが冷や汗が止まらない。


「魔物の王って、魔王か?」


「そうだね。それは知ってるのになんで大罪の獣は知らないんだろうね?」


「ハハハ(乾いた笑み)」



ここ最近はスランプで思うように話が進められませんでした。明日からは毎日投稿できるよう精進します。これからもよろしくお願いします。

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