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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第31話 招かれた客


 大聖堂に入るに当たって、俺たちは手荷物検査を受けていた。基本的にこういう施設に武器や鎧などの武装を身につけて入ることはできない。この前はそれらを事前に拠点に置いてきたのでほぼ素通りできたのだが、今日はどうも様子が違うらしい。

 なんでも神聖国レインボー直属の『色彩騎士団』と呼ばれる騎士の数人が行方不明になっているので、厳重警戒状態にあるらしい。なんとなく心当たりがある気がするが、並んでいる間に人々が話していたことを纏めると、それは俺が知っていることとは違う様相を呈していた。


 警邏中の騎士団が『闇』に出会して激戦の末、撃退したものの、疲労したところを他国のスパイによって暗殺され、新たに現れた『闇』から彼らが逃げるための時間稼ぎとしてその死体を打ち捨てたのを闇が跡形をなく捕食した。というものだった。

 しかも、聞き耳を立てていたところ、これが定説と化していることを知って驚いた。それを信じているこの国の人にも、闇が存在していることを当たり前に受け入れていることも。誰かがその光景を最初から最後まで見たわけでもないのに。


「そうでも言わないと、教皇や騎士団はメンツを保てないし、国民は安心して夜眠れないでしょ? まあ、間違っても本当のことは言えないよね。悪戯に不安を煽るだけだし、なんの解決にもならない。第一、自分たちの国の偉い人が堂々と嘘吐いてるなんて発想は普通でないよ」


 その話題を話していたところ、燃香は特に表情を変えることなく言い切った。彼女からするとそういうのを目撃するのは日常茶飯事だから今更それに対して感慨が湧かないのだろう。


「それもそうか。確かに国民にその手のことを言ったって解決しないもんな。プロの軍人が負けるような相手に一般人が対抗できるわけないし」


「私たちは問題ないですが、ライは装備をどうするつもりなのでしょうね」


「「……あ」」


「あ、ってもしかして考えてませんでしたか?」


 その問いを聞いた瞬間、俺と燃香はフリーズする。それを見たニオンは眉間を抑えて俯く。そういえばそのことを打ち合わせる間もなく高沢は店を出てしまったのだ。考えてなかったでは済まされないが、既にこうなってしまった以上は高沢に期待するしかない。

 俺たちはしばし俯いて沈黙する。


「……ダメそうだな」


「ライのことです。なんとかするでしょう」


「そ、そうそう。来なら問題ないはず! ……だよね?」


「俺に聞くな。だが、もしかしたらマジでノープランの可能性もある」


「そろそろ私たちの順番ですけど、どうします? ここは一度列を出て、ライを見つけて打ち合わせをしてから再度入りますか?」


 しばしの沈黙から復活したのち、それまでの流れと今までの高沢への期待度を180度転換する俺。純粋に高沢が心配な燃香。「彼女なら大丈夫でしょう」と高沢への謎の信頼を発揮するニオン。完全に三者三様だった。

 そんな不安の中、俺たちの手荷物検査の順番が近づいてくる。


「いや、ここは高沢の勇者っぽいところを見させてもらおう。マジで無策だったら置いていけばいい」


「それもそうだね。この1ヶ月ただただ尾行されてただけじゃないってのを来に見せてあげようよ!」


「別に高沢が尾行してたわけじゃないんだがな……」


 その後、手荷物検査は無事通過できたし、高沢は入り口近くの女神っぽい像の前で仁王立ちしていたので、大聖堂に入った直後に合流できた。鎧や剣は持っておらず、シンプルながらも気品のある、イイところの出みたいな騎士の制服を着ていた。

 それは中立国ポップで結構よく見かける騎士が来ているものだが、高沢はオーダーメイドなのか、それを自分で改造したのか、品位を損なわないレベルでの装飾がなされていた。上は装飾による多少の変化はあれどそこまで様変わりしていなかったが、下はパンツスーツになっているはずだが、なぜかギリギリまで短くされていた。


「本当に、ってわけじゃないよな? 今からアイリアルと対面なんだぞ」


「もちろん。装備は勇者の力の1つのアイテムボックスに入れてあるから問題ないよ。それより君たちは?」


 俺の「武器どうするつもりなんだ?」という視線に高沢は気づいたらしく、肩を竦めて反論した。


「私たちも問題ないよ。来のアイテムボックス? ってなんか便利そう」


「勇者だからね。でもそれなら葉桜君も同じじゃないかな?」


「俺が勇者なのは確定なのかよ。……一応聞くが、それって高沢の場合はどうやるんだ?」


 ステータスを見てみるが、勇者やアイテムボックスといった単語は見当たらなかったし、それについて調べてみたが反応はなかった。


「ん? 私とはやり方が違うのかな? まあ、ステータス画面を思い浮かべて、そこでアイテムボックスの開示を指示すると出てくるよ」


「……」


「どう?」


「……いや、なんでもない。ところでアイリアルはどうする? こんな公衆の面前で祭壇を破壊して地下に行くわけにはいかないんだろ?」


「(ユウリってたまに死ぬほど迂闊ですね……)」


 結論から言えば出なかった。やはり俺は勇者ではないのだろう。転移してくる者が全員勇者になるというなら俺なんなんだ? という話になるが今は置いておこう。それよりもアイリアルだ。


「それに関して抜かりはないよ。私が苦労して手に入れた《転移》のスキルを使えば、視界内の場所にならどこでも移動できる。地下は視界内には入らないから普通は無理だけど、いくつかのスキルを活用すれば地下に直後転移でき————」


「あ、それなら俺もできるな」


「それもそうですね。悩む必要皆無でした」


「それなら人目につかないようにするだけでいいもんね。というかさ、この大聖堂の外からでも良かったんじゃない?」


「うわー。その手があったか…………「「「あ」」」


 高沢が自分のスキルでなら簡単だと得意げに言うものだから、唐突に拠点の能力のことを思い出した。思い出すの段階で留めていればよかったのだが、それをうっかり惜しいことをしたというようなニュアンスで話してしまった。しかもニオンと燃香も似たトーンで同調してしまったため、高沢の表情がみるみる内に曇っていくのを見て、マズいことをしたと今さらのように3人揃って気づいた。

 しかも、それをほぼほぼ言い終わったあとで気づくという悪手ぶりだ。高沢はそれを聞くと分かりやすく落ち込み、その場に体育座りで腐ってしまう。


「嘘でしょ……。私があんなに苦労して手に入れたスキルの、しかも上位互換を持ってる人にこうもあっさり出会ってしまうなんて……」


「……で、でも俺の転移と高沢のスキルだと話を聞く限り、今回のケースは高沢の方が適役そうだし、その《転移》の力で地下に案内してくれないか?」


「……本当に私の方が便利?」


「もちろん。高沢の方が苦労を伴ってる分、優秀に決まってるだろ」


「そういえばユウリの転移にはデメリットが多々ありましたね。すっかり忘れてました」


「そうそう。行ったことない場所には行けなかったよね」


 体育座りの状態から、高沢がややジト目で問う。俺はその視点の高さに合わせて屈み、その問いにここで「やっぱり葉桜君の力を使えばいいじゃん」とならないよう今彼女が待っているであろう返事に応え、そこにニオンと燃香がすかさず援護射撃をする。


「…………。な、なら、仕方ないな! 私が大聖堂の地下に導いてあげよう。さあ、ついてきて!」


「お、おー。『チョロいな』」


「うん、行こー!『確かにチョロね。でも結理君、人のこと言えないと思うけどなー……』」


『ふ、2人とも……』


 少しの沈黙と緊張感のあるその間のあと、さっきまでの自身から発せられていた陰鬱とした空気を払拭した彼女は復活し、立ち上がる。俺たちのフォローの甲斐あってか、(落ち込ませたのも俺たちだが)高沢はいつもの調子を取り戻し、2割増しで元気になる。その姿を見た俺と燃香の失礼な《心話》のやり取りにニオンは驚き、呆れていた。






 転移した先の大聖堂の祭壇の地下は、眼前になにかあっても気づけないほど暗かった。だが、その空間はただ暗いだけで、これといって異臭がするわけでもじめじめしているわけでもなく、ここにいるであろうなにかの気配もない。


「あ、明るくなった」


 それまでは一寸先も見えない真っ暗闇だった地下の空間に突如として明かりが灯る。俺のいる祭壇地下にある廊下の真ん中から見ると、両側の壁に一定間隔で取り付けられている松明が順々に奥へ向かうように、駆け抜けるような速さで明かりが灯っていく。

 このタイミングで、しかもなにもせずに点くなんて、まるで奥へと招いているようだ。


「別に私は暗闇でも見えたけどね!」


「私もです。周囲の警戒を怠らなければ問題ないですから」


「えっ、本当? さっきまでの真っ暗闇でも歩き回れるってことかな?」


 燃香はドヤ顔で、ニオンは至って沈着に答える。両者とも本気で言っているのは分かるのだが、高沢は信じられないようだ。そりゃそうだ。2人とも夜目がきくようなスキルや特性を持ってないし、普通の女の子にしか見えない。燃香は吸血鬼だからいいとしても、ニオンがなぜ見えたのかの理由は分かっても理屈はサッパリだ。


「そうだよ?」


「そうですよ?」


「「マジか……」」


 ほぼ同時に、しかも当然だと言わんばかりに答えた2人に対して、高沢も俺と同様に暗闇ではなにも見えないのか、ただただ感心するしかない。


「……なあ、1つ聞いていいか?」


「なにを?」


「ここ日の光届かないよな? ってことは、日中でも深夜でも大して変わらない気がするんだが?」


「「「……」」」


 俺はふとその重要な事実に気づいた。というか、気づくのが遅かった。それを聞いた3人は全てを察したのか、その場で完全に停止する。


「つまり日の光がないこの場所では、アイリアルからいつ奇襲を受けてもおかしくないってことにならないか? それに相手に有利な場所で戦うってことにもなるよな?」


「「「……」」」


「おーい? お三方? 聞いてますか?」


 停止、続行中。


「……し、仕方ない。態勢を立て直すために一旦地上に戻ろう。私の《転移》はダンジョン内では使えないから、葉桜君の転移を使って外に出よう」


 最も速くフリーズから復活したのは高沢だ。しかし、目は虚ろでしかもグルグルに回しているという正気度合いの低さ。かなり動揺しているのは間違いない。さらには棒読み。


「ここ、ダンジョンって扱いなのか? なら俺も無理なんだが」


「へ?」


「俺の転移もダンジョン内じゃ使えないんだ。そうでないなら、火山の溶岩の中で燃えながらでも転移できるが、ダンジョン内は本当に無理だ。それに、もし俺が相手側だったら、自分の縄張りに入って来た敵をそう易々とここから帰しはしないぞ?」


 じゃなきゃ、松明に明かりを灯してご丁寧に自分の元まで案内なんてしないだろ。


「そ、そんな……」


 そんな、絶望! みたいな目しながら、膝から崩れられても困る。


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