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竜の如き異様  作者: 葉月
2章 友との旅路と巡り合う過去
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第28話 勇者、登場


 議長からの依頼で神聖国レインボーの調査へ向かうことになった俺たちは、一度拠点に戻って準備を整えていた。依頼の内容は、その日の内にこの国を発って神聖国レインボーに向かうことになっていた。なのでそれに沿って馬車に乗って、ある程度時間が経った頃にそこから拠点に転移してあとから準備をすることになった。


「ねえ?」


「なんだ?」


「なんで拠点から直接転移しないで馬車で移動するの?」


 燃香は日光を浴びながら体を伸ばしてリラックスしている。日の光を浴びて安らぐ吸血鬼とは一体。

 準備こそとっくに済んではいるのだが、諸事情あって馬車には戻りにくい。

 馬車はプライバシー保護のためか、御者からはこちらがなにをしているのか分からないようになってはいたが、実は丸聞こえという可能性もあったので内緒話は拠点で行っているのだ。馬車の中にいない時点で問題ありなような気もするが。


「そりゃ、馬車が議長の手でとっくに手配されてたからだ。断るにも理由がいるが、転移で移動できるから結構です。なんて言ったらどうなるか分からん。それに拠点を使っての移動は、場所が分かっていたとしても一度行ったことのある国じゃないと使えない」


「そっかぁ、議長が手配したなら断るのも藪蛇になるし、それに国境付近まで転移ってのもダメそうだよね。……ねえ、結理君」


「うん? なんだ? トイレか?」


「違うの。その、えっと……」


 燃香は頬を赤く染めてもじもじして、辺りをちらちらと窺いながら縁側に腰かける俺に近づいて来る。


「喉が渇いたってことだよな」


「そ、そうだけど、なんか違う。結理君って羞恥心どうなってるの!?」


 上着を脱いで、服のボタンを外して首元を露わにする。それを見た燃香の顔がぱっと明るくなるが、はっとして遠慮がちにこちらを見ながら俯いている。


「恥ずかしいに決まってる。燃香だけじゃなくてニオンも見てるんだぞ」


「どうぞ、結理の血しか『鎮静化』の効果がないんですよね?」


 ニオンは拠点の本棚から持って来た本を読みながら、「気にせずどうぞ」と言うように手のひらを向けて、彼女が俺の血を吸うのを誘惑する。


 ニオンは寿命云々の問題を解決するために俺の血を吸ったことで、なぜか日本語の読み書きができるようになっていた。そのせいか、最近はそれを利用して暇さえあれば縁側で読書をしている。


「ううううう……!」


 唸って頭を抱えるも迫る渇きには抗えないのか、葛藤しながらも彼女は俺の膝に跨り、その首筋に牙を突き立て、血を吸い上げる。


「ご、ごちそうさまでしゅた!」


 喉を潤して血を吸いたいという本能が抑えられ、理性が上回ったことで羞恥心に耐えきれなくなったと言わんばかりにニオンの元へ走り、その膝に顔を突っ伏して膝枕を開始する。

 戻りにくい諸事情とは内緒話と燃香の吸血のことで、御三家の血で彼女の吸血の欲求はある程度は抑えられているようだ。《血の婚姻》は死が2人を別つまで永続だが、それによる俺の血の場合の『鎮静化』の効力は4日しか続かないのでその期間しか維持できない。

 今は大体4日に1回、しかも少量の吸血で済んでいるし、《血の献身》のお陰で回復力が上がっているので以前のように貧血にはならないが、鎮静化していない燃香は毎日3食分の血が必要になる。そりゃ、吸われた側は貧血にもなるし、吸血鬼として悪名高くもなるのも当然か。


「……この1ヶ月、本当に大変でしたね」


「ああ。早い段階でニオン式察知術を習ってはいたが、さすがに付け焼き刃じゃ向こうの方が上手だったみたいだ。俺は気づけなかったが、ここ最近までずっとストーキングされてたんだよな?」


「そうだね。見た感じだけど、多分彼らはこの国の裏側の騎士、『影の部隊』だと思う。私も随分狙われたから分かるけど、構成員全員が相当な手練れで狡賢いから相手にするのは面倒くさいんだよね……」


 ニオンは自分の膝に顔を埋めている燃香の頭を撫でながら、ぽつりと呟いた。

 確かに大変だった。『魔女の工房』から帰って来て数日経った頃から彼らは俺たちをストーキングもとい尾行していたらしく、24時間つけて来られるのは気づけなくてもさすがに気分が悪かった。

 しかし、彼らを撒いたり、気づいてるような素振りを見せるのは、のちのち面倒なことになると言ったニオンの、気づかないフリをしようという提案により、干渉せずに放置する方針になった。

 全員に尾行がついていることに早い段階で気づいたのはニオンだ。そしてこの件で学べたことは、のちのちのことも考えてもっと察知能力を磨いておくべきだということだ。

 俺の、パーティに対してのストーキングの話に精神的ダメージから復活した燃香が相槌を打つ。


「『影の部隊』か……。そういえば前から気になってたが、燃香って名前は純日本人なのに金髪で目が赤いんだな」


「私は別に日本人ってわけじゃないんだけど? 外国から来た吸血鬼同士が日本で結婚して産まれたのが私なの」


「ならなんで日本人の名前なんだ? カモフラージュか?」


「それもあるかもだけど、私の名字の方にはちゃんとした由来があるの。私の先祖は日常的に高野豆腐を食べて吸血の欲求を抑えていたって話を親からよく聞かされた。私の一族は皆、高野豆腐を食べるとある程度欲求を抑えられるの」


 燃香はニオンの膝枕に顔を埋めながら器用に答える。

 高野豆腐が高野になったのか。最近は、というかこの世界に来てから高野豆腐を食べてなかった。だから欲求を抑えられないのかもしれない。


「確かに名字にはなにかしらの教訓を伝えるために意味を込めてつけられたりするらしいが、豆腐か……」


「でもそれがなかったら、私が産まれてなかったかもしれないって考えたらそれはとても大事なことだと思わない!?」


 彼女はそれを聞くと、その凄まじい速度でニオンの膝枕から離脱し、俺の真横に座ってそこから俺の肩を両手で掴んで同意を求めてくる。俺はその熱に負けたというよりも、口が勝手に別の言葉を衝いて出た。


「俺もそう思うぞ。高野豆腐は偉大だな!」


「ユウリ……」


 そんな悲しげな視線を送らないでくれ。これは俺の意思でも落ち度でもなく、『眷属化』のせいなんだからな? 分かってるよな?






 中立国ポップと神聖国レインボーの関係は良好らしく、両国の往来は割と自由だ。国境にある、元の世界で例えるなら税関のような場所で審査を受けて問題がなければ通過できるらしい。らしい、とは俺たちの場合はなぜか審査なしで入れたからだ。俺たちだけ国境のセキュリティがザル過ぎるのは議長絡みだったからの可能性が高い。

 しかし、友好国にスパイ活動みたいなことを仕掛けるのはなぜなのだろう、と洩らすと、


「結理君は思考がちょっと平和過ぎかな。両国が本当に仲がいいのか、あるいは表面上だけなのか、そういうことに関わらず、相手のことを知るのは戦略上重要だよ? 国益ってものがある以上、永遠に仲良しってことはありえない。スパイがいれば、近いうちに敵になるかもしれない国が、友好国だと思っていた国が敵国と繋がっているか分かる。自分の国を、その利益を守るのは当然のことだよ」


「モエカの言う通りです。おそらくですが、議長は私たちがどこかの国のスパイだと考えているのではないでしょうか? 私たち全員、この国での過去はないに等しいですし、現れ方からしてスパイと疑われても仕方ありません。つまり、今回の依頼の本質は神聖国レインボーに対してのスパイ活動だけでなく、私たちが何者であるかを見極めるためのものでもある、と考えるのが自然でしょうね」


 とか言われてしまった。世知辛い世の中だな。


 中立国ポップと神聖国レインボーは隣国だが、評議会のある街からはそれなりに距離があるので、ここまで来るのにはそれなりに時間がかかった。

 その国境沿いには、ほぼ透明だが確かに大規模な結界が張られていた。燃香いわく魔物の侵入を防ぐためのもの。低級の魔物では入ることはおろか、近づくこともできない。彼女は素の状態でも入れるらしいが、少し体調が悪くなるとも言っていた。

 しかし、俺はともかくとしてニオンも燃香も()()()()()()具合が悪くなることはなかった。そう、それ以外で具合が悪くなった者が約1名いる。燃香だ。彼女は馬車というより乗り物全般が苦手らしく、会話の最中も終始青い顔をしていた。

 ……しかし、すごく気分が悪そうだな。これは往路なわけだが、当然復路もある。無事に中立国ポップに帰れるだろうか?


 国境からだいぶ進んだ先、そこにある首都はいろいろな白はあれど、基本的に白を基調とした国だった。建物や石畳、街を歩く魔術師や神官(らしき人)も白い服装だ。さすがに市民は白くない。あと冒険者もだ。


「ここが神聖国レインボーか。変な名前だよな」


「私たちのいた国だって似たりよったりなものですよね」


 それな。


「ここがわけの分からない武器で襲いかかってくるような神官のいる国なのね……」


「わけの分からない武器?」


「十字架とか聖水とか光魔術とかで攻撃してたの」


「効かないのか?」


 燃香は国境を越え、首都に入って馬車を降りて辺りを見回すと溜め息をついてそう呟いた。吸血鬼といえばそういうのに弱いのではないのか?

 彼女は酔いを覚ますためか1つ深呼吸をすると、顔色がだいぶ良くなった。乗り物は苦手だが酔いから復活するのは速いらしい。酔いから完全に復活したらしい燃香は俺の言葉に真剣な表情で答えた。


「こっちの吸血鬼(かれら)には効くけど、あっちの吸血鬼(かれら)には効かないの。よく効くのは結理君も知ってる太陽(アレ)だけ」


『杭はどうなんだ? 刺さってたよな?』


 燃香はさっきから話すことに気を配っているのか、神官や魔術師が襲いかかるとは言ったが、自分にとは一言も言っていない。吸血鬼や太陽のことも指示語だ。彼女はこれでも伝説の吸血鬼でサバイバルを極める存在。会話の内容に気を配るくらいことくらいはできるのだろう。

 しかし、次に聞くことは内容が内容なので《心話》に切り替えての会話になる。


『あんなのその場に固定するレベルの効力しかないよ? 逆になんの意味があるの?』


『心臓に刺すと吸血鬼は復活できなくなるって映画でやってた』


『この世界の吸血鬼はモエカとユウリの出身の世界の吸血鬼よりも、随分脆い存在ということでしょうかね』


 つまり、俺の世界にいる吸血鬼というのは日の光以外の弱点はないってことか。この調子だとニンニクも効かないだろうな。普通に教会とか出入りしてそうだ。


「ニンニク? 結構美味しいよね」


「無敵か」


 というか、なぜ俺の思考を読める?






「やあ、こんにちは。先に来て待ってたよ」


「誰?」


 街の中を談笑しながら進んでいたら、いつのまにか目の前に見知らぬ少女がいた。

 腰まで届くほど黒い長髪に、造形美を感じるほどに整ってはいるが冷たさを感じさせない親しみやすそうな容姿、身長は平均より少し高く、その所作や身体からは日常的に鍛えていることが窺えた。

 彼女は冒険者らしく装備を身につけていた。それはざっと見ると甲冑だが、胸、肩、腕、腰、足など要所要所を防御するようなもので、ゴテゴテとした印象はなかった。腰に挿した得物は剣、やや装飾過多だがその剣が飾りでないことは明らかだった。


「初めましてかな? 葉桜結理君。葉桜はいいとして、髪を結うの結に倫理の理で結理であってる?」


 ニオンは俺が立ち止まったことで本を取り出して読書を再開。燃香は最初こそ警戒しながら歩いていたが、途中から眠たそうにして俺に寄りかかりながら歩いていた。吸血鬼は夜型だもんな、仕方ないな。なお、そのままだとはぐれるのは間違いないので俺と燃香は手を繋いでいる。


「(……しかし、手を繋いでいるのに2人揃って全く意識しないんですね……)」


「あってるが、なんでそれを知ってる?」


「ギルドで冒険者に登録する時、魔術機械で名前と年齢を確認したよね? アレに君の名前のデータが残っててね。しかもそこに漢字で表記された情報があったからもしや、とは思ったけど君って転移してきたよね?」


「仮にそうだとしても、顔も名前も知らない奴に答える義理はないな」


「うん、確かにそうだね。なら自己紹介かな? 私は高沢(らい)。この国に君と同じ頃に日本から転移してきた高校生だよ」


「そうか。知っての通り、俺は葉桜結理だ。よろしく。だが、なんで俺が転移してきたなんて思うんだ?」


 俺がつっけんどんな口調で応対するも、彼女、高沢来は、にこやかに返してくる。しかし同年代か。その年齢でこの完璧超人みたいな対応は中々できるものじゃないな。


「知ってるからだよ。竜の力をその身に宿した、最近冒険者になったばかりのどこから来たかも分からない少年がいるって。君が転移で得た能力は、私の知る限りの情報を纏めて推測すると《召喚》かな?」


 ゼンゼンチガウ。

 彼女は得意げに話しているが二重の意味で不正解だ。俺はなにももらってないし、そんなシーン1つもなかったぞ。寵愛はその特典みたいな扱いだとは思えないし。まあ、推測が難しいのは情報が少な過ぎるせいでもあるか。


「どうだろうな? 自分の手札は隠すものだからなんとも言えない」


「それにしても、こんなに可愛い女の子2人を侍らせてるなんてモテモテだね?」


「…………そ、そう、か……?」


 高沢のにこやかさは変わらずに、矛先は別の話題に移っていく。だがその話題は反応に困るタイプのものだ。1人は性別不明のセミで、1人は俺の血が食事の吸血鬼。確かに2人は可愛い。しかし、この構図は素直に喜べない。


「ん? なに? さっきと全然違うその微妙な反応は? もしかしてさっき知り合っただけの通りすがりの人?」


「いや、間違いなくパーティメンバーだ」


 ニオンは読書、燃香は熟睡。必然的にこの場でそれに答えられるのは俺だけになる。って、こいつら自由過ぎ。


「じゃあさっきの微妙な反応はなに?」


「これといって深い意味はない。だが、さっきの侍らせる発言について逆に聞こう。女性1人に対して男性2人がいるパーティの女性は、男性2人を侍らせてることになるのか?」


「それは……ならない、と思う」


 現代の男女平等が聞いて呆れるような解答だが、俺はこれを待っていた。しかしそれに言及するために待ってたわけではなく、とりあえずその話題から振り切るための発言だ。


「そうだろ。じゃあな」


「ちょ、ちょっと待ちなよ!」


「なんだよ?」


 俺は燃香の手を引いて、ニオンは本をしまってそのあとに続いてその場を去ろうとするが、俺の空いている腕を高沢が掴む。


「私、あなたたちの監視……じゃなくて護衛でこの国に来てる。だから私の同行は依頼の一部だから拒否権はない。分かった?」


「お目付け役か。勇者って大変だな」


「君も勇者じゃないの?」


 ということは彼女は俺とは違って正真正銘の勇者か。できれば関わりたくないと思ってはいたが、まさか割とすぐに関わることになるなんてな。一応《邪眼》でステータスを見てみると俺以上、半減時の燃香以下の数値だった。

 彼女は気になる特性を持っていて、《剣神》というものを持っていた。これが転移の特典なのだろうか?


「そもそも俺が転移してきた、なんて一言も言ってないぞ」


「……あ、本当だ!」


「こいつ、大丈夫か」


 無視してもついてくるだろうな。と半ば諦めていた俺は、彼女の同行を認めたのだった。神聖国レインボーにとっての他国の勇者がいるのは、その調査の邪魔になりそうだが、そうなったら追い払えばいいだけか。

 そんなわけでこの国の不穏な箇所のあら探しが始まったのだった。



☆評価やブックマーク登録をしてくれると、とても嬉しいです!

誤字脱字や「ここちょっとおかしくないか?」と思う矛盾点を見つけたら指摘してくれるともっともっと嬉しいです!


(なお、評価や登録が増えるほど作者の封印が解かれてテンションフォルテッシモ!!)

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