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竜の如き異様  作者: 葉月
1章 目覚める者たち
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第21話 ゴーレムとの激闘 その2


 その場にはあっさり事切れたパスュの死体と、片腕の先端を赤く染めたキメラゴーレムがいた。ゴーレムは目前の敵を排除したと判断したのか、今度は俺たちの方へカメラアイのようなその単眼をこちらへ向け、照準を合わせてきた。

 ゴーレムは俺たちを排除すべく1歩前進し、その足元に倒れていたパスュを踏み砕いて接近してくる。カットゴーレムの整えられた脚部に踏まれたパスュは夥しい血を噴き出しながら瞬く間にその原形を失っていき、内臓の欠片が飛び散ってきた。


 お、おう……グロい……。


 こういうのに免疫がないので朝ごはんをリバースしかけたが、今の俺はそれ以上に気にかかることがあり、そっちに意識を逸らすことで吐かずに済んだ。


 パスュよ、凶暴で制御が効かないっていったって、そんな末路あっていいのか? 不憫過ぎるぞ。

 それに気になったのは、パスュがこのゴーレムを凶暴と言ってたが、この様子だともしかして目に映る者全てが攻撃対象になってるんじゃないか? だとしたら自業自得というか、情けなさすぎるぞ。


「ニオン、あのゴーレム、最初から全力でいかないと勝てない奴だよな?」


「ですね。私たちはまだうまく連携を取れてません。それは戦いの内に慣れるとして、最初はお互いがどう戦うのかを理解することから始めましょう」


「分かった。巻き込まれないようにしろよ」


「ユウリこそ」


 俺はティフォンに命令を下し、火球を放たせる。しかし、それらはマグマの腕で吸収されてしまい、無効化される。

 今度は接近し、再びティフォンで、マグマの腕で防御できないようにその腕の逆側から火球を撃つ。だが、キメラゴーレムは腰に相当する部分が急回転し、1歩も動かずにマグマの腕で防がれてしまう。


 ニオンの方もあまり戦況は芳しくない。

 キメラゴーレムに急接近し飛び上がり、その頭部をレイピアで袈裟斬りにするが、それは斬られたそばから一瞬で再生し、元に戻ってしまう。

 2、3度同じように別の箇所へも斬り込むが、その攻撃をゴーレムが警戒するようになったのか、メタルゴーレムの胴体からバリアが出てニオンの斬撃を防ぐ。

 さらにはその隙間を縫ってレイピアで攻撃しようにも、頭部から放たれるビームによって接近できないのだ。


 今度は背後に回り込み、ティフォンで火球を数発打つが、またしても急回転して現れたマグマの腕で防がれてしまう。その隙をついてニオンは、氷の腕を斬り落とすべくレイピアを振るうが、またしても回転し、ニオンの正面にきた胴体から出現したバリアに防御されてしまう。

 背を向けたキメラゴーレムに対して続け様に《硬化鎧》を纏わせた拳でマグマの腕に攻撃する。しかし、バリアが展開され、拳は防がれて勢いを失う。


「なんでこいつ、こんな風に頑なに部分部分で防御するんだ? バリアがここまで堅牢ならそれを全体に展開して防げばよくないか?」


『! ……ユウリ、土属性の竜の力で、胴体を狙って攻撃してみてください』


『そうは言われても、火以外の適性はランクが低いせいでそこまでの威力は出ないぞ!』


 俺の発言に、はっとした声で反応するニオン。そこから努めて冷静に、俺に作戦を提案する。一応注意するが、既にニオンにはなにかしらの勝算があるのだろう。


『いいから試してみてください。それでこのゴーレムの対策ができるはずです』


「『分かった』……ヒュドラ!」


 キメラゴーレムの氷の腕から放たれる氷柱を躱しながら、ティフォンとは違う竜を呼び出す。それは俺の足元から光の粒子が集まり、実体化する。

 その体色は毒々しい紫色で、背中から頭頂部にかけて一際黒く硬そうな鱗に覆われ、爛々と輝く双眸に、口からはいかにも毒です。という感じの紫色の煙を吐き、獰猛そうな竜だが、ちゃんと制御下にある。パスュとは違うのだ。


「溶かせ!」


 ぐぎゃぁぁぁぁぁ! と耳をつんざくような叫びとともにヒュドラは口から刺激臭のする紫色の猛毒の息をキメラゴーレムに向けて吹きかける。

 それに対し、キメラゴーレムはこちらを向いて胴体からバリアを再度展開するが、猛毒の息でそれはドロドロに溶けてしまい、それに触れた胴体も一部が腐食している。


「と、溶けた! あんなに頑丈そうだったのに!」


「どうやら、耐えられる攻撃の種類にも限度があったようですね」


「つまり、こいつの体の各部分は同じ属性の攻撃に対しては強いが、別の属性には弱いってことか? そんなに火力のないヒュドラの毒でボロボロになるくらいに」


「そうみたいですね。打撃や土属性は胴体で受け、火はマグマの腕で防ぎ、水や氷は別の腕で、きっと他の属性も別々の体の部分で受けることで無効化するゴーレムなのでしょう。しかしそれが仇になりましたね。ユウリのヒュドラは土属性ですが、毒は土属性ではありませんし、たとえDランクでも金属を容易く腐食させる力があったようですから」


「属性を判別しての防御は、大まかな分類でしか行われてないってことか……」


 ヒュドラは土属性に分類されている。キメラゴーレムはそれを感知しての防御行動だったが、メタルゴーレムの胴体ではその猛毒の腐食性には耐えられなかったようだ。

 その属性に分類されているから、本来は最適な防御方法だったはずが、相手が悪かった。これが一般的な土属性の攻撃だったならなんなく防いでいただろう。


「ユウリ、なんかこのゴーレム、ヒビが入ってませんか?」


「確かにそうだな。しかも攻撃が当たっていない場所ま————」


 キメラゴーレムの胴体の金属面が、熱した金属のような音を出しながら溶けていく中、それを眺めていると、急にキメラゴーレムはピクリとも動かなくなり、そこら中にヒビが入り始める。そのヒビが全身を覆ったその瞬間、爆ぜた。

 当然、それは近くにいた俺たちを巻き込んでのものだったが、ニオンがすんでのところで気づいて俺を抱えて後方に跳び、高速で離脱したお陰で助かった。

 その最中、大小さまざまなゴーレムの破片が飛んできたがニオンはそれらを全てレイピアでいなし、弾ききっており、その技巧が凄まじいことを改めて認識した。


「ニオン。ありがとう、助かった」


「無事でなによりです。けれど……」


 爆発でキメラゴーレムがいた場所にはもうその姿はなく、代わりに残骸がそこら中に散乱していた。煙で視界は悪いが、その姿がないことに俺は安堵していたが、ニオンの表情は険しい。

 その表情に気づいた俺は《察知》でもって部屋の中を調べる。すると、もうこの部屋にはあるはずのない反応を探知した。キメラゴーレムはまだ活動していたのだ。あれだけ派手に吹き飛んだというのに。


「マジか……」


 舞い上がる砂や埃の中から人型のなにかが接近してくる。さっき爆ぜたのは破損したからでも、自爆したからでもなかった。


「マジです。あれはセミ風に言うなら羽化ですね」


「ヤバいな。人間風に言うなら一皮剥けたな」


 冗談はさておき、粉塵の中から金属音を響かせながら堂々たる歩みで現れたのは、一言で言えばロボットだった。

 爆発前の見た目は、ゴテゴテと好きな色や形の積み木だけを使って作ったオブジェで全長は数メートルはあったが、今は俺より少し高いくらいの180センチにまでコンパクトになっていた。

 全身は銀色の金属で構成されていて、胴体や関節などには装甲があり、角ばった頭部は爆発前のカメラアイの意匠を残しているが、顔の表面から()り出した眼球のようなそれは顔全体の大きさの大半を占めるようになり、その動きは以前より繊細になっていた。

 その体躯は華奢で、ともすると銀色の薄皮一枚隔てたその中には人間が入っているのではと思うほどだ。全身は鋭角的で、指先、足先、手首から肘、脛、肩は刃物のような切れ味を持っているかのような鋭さがあった。


 こちらに近づいて来る際の動きは、まるで人間のように自然過ぎて却って気味が悪かった。これで表面を似せれば人間にしか見えないだろうと思うほどだ。


「!!」


「ユウリ!」


 そのロボットは煙の中から姿を現したあと、少しの間、手を握ったり、開いたり、といった動作確認をしていたが、それを終えた瞬間に消えていた。瞬きなんてしていなかったが、そいつが視界から消えた瞬間を俺は見逃していた。

 次の瞬間には、こちらもいつの間に現れたのか、俺の目の前にニオンが現れていた。その手に持つレイピアとロボットの腕が拮抗していた。

 しかし、その腕はただ頑丈なだけではなかった。ロボットの手首から肘の部分の鋭い刃のような部分は本物の刀のようになっていた。どうやらさっきまでのは全体ではなかったようで、今は格納されていた刃の全体が見えており、それは指先にも及んでいた。


 両腕に抜き身の日本刀の()がついているようだった。握った拳の一撃は刺突になり、腕を振るえば斬撃になる。さっきまでとは全く別物になっていた。


「かはッ!」


「ッ! ティフォン!」


 ロボットに力負けしたニオンは、腕を振るった衝撃で後方の壁際にまで吹き飛ぶ。

 その声に応じてティフォンは、ニオンへの追撃を行おうとするロボットに十数発の火球を放つ。それは眼前で悠然と立つロボットを焼き尽くすはずだったが、それらを全て斬り刻まれてしまう。


「なっ!?」


 さらにロボットは一瞬で俺の眼前に移動していた。そこから放たれる感知不能の速度の斬撃をもろに食らってしまい、ニオンと同様に吹っ飛び、壁に叩きつけられ、意識を失いかける。


「ユウリ、無事ですか?」


「ああ、念のため、胸当てみたいに《硬化鎧》を纏わせておいて正解だった。もしこれがなかったら真っ二つだったな。……だが」


「これは強敵ですね」


 今もあのロボットはこちらにゆっくりと1歩1歩近づいて来る。あの余裕、間違いなく強者が持つものだろう。正しく格上。

 ロボットがそんなこと考えているのか、と聞かれると悩むが。


「ああ、俺じゃあのロボットのスピードにはついていけない」


「私では力負けしてしまいます。それに防御力も心許ない」


「なら簡単だな。互いが互いを補う。これしかない」


「ええ、それしかありませんね!」


 2人並んでロボットに向かって駆け出す。ティフォンが火球を連続で放ち、ヒュドラは猛毒を液状にして吐き出す。

 ロボットは斬撃で火球を打ち払い、猛毒は身を屈めて躱し、向かうも接近して来る。

 ニオンがその斬撃を受け、俺がその機械の顔面を砕くべく拳を放つ。だが相手もそう簡単に倒させてはくれない。俺の拳はロボットのもう片腕の斬撃であっさり逸らされてしまう。


「ユウリッ!」


 俺に隙ができた瞬間、ロボットは空いた片腕で肘を振り下ろすようにして刺突を放つ。しかもその間、片手間でニオンの剣捌きをいなしていた。ニオンは助けに入れない。仲間が殺されてしまう、それを見ているしかない、その悲痛な叫びが俺の耳に聞こえていた。


「ぐあッ! ……そっちが簡単に倒されないようにこっちもそう簡単にはやられねぇよ! ティフォン! ヒュドラ!」


 しかし、俺の命を刈るべく放たれた斬撃は、直前で自分の体を庇うために覆った両腕に突き刺さって防がれた。その刃は《硬化鎧》を穿ち、肉を断って、刺し貫いていたが、急所には当たっていなかった。

 激痛が両腕を貫くが、そんなことに拘泥してはいられない。

 さらに腕の内部に《硬化鎧》を付与し、より傷を悪化させ出血させながらも両腕に突き刺さった刃の近辺の全てをそれで覆った。

 いつもは体の動きを阻害しないように丁寧に一定の規則性を持って付与するが、今はその刃が抜けないように複雑に、乱雑に、釣り針のような返しをつけたり、有刺鉄線のように絡ませ、俺の腕に刺さった状態で押しても引いても動かないように固定する。


 ティフォンとヒュドラに命じ、炎と猛毒で追撃を行おうとするが、そう簡単にやられないのはロボットも同じだ。相手はそれが届くよりも速く、脛から爪先までを一直線にし、1つの刃と化した足で刺突ではなく、今度は斬撃を放ってくる。


「つ・か・ま・え・たァ!」


 斬撃は間違いなく俺の胴を容易く両断できるものだった。それが《硬化鎧》と肉を裂き、内臓をズタズタにするまでは順調だった。しかし、その刃が俺の体を真っ二つにするには至らない。

 俺の腹の中には、相手が斬撃を放つ前には既に《硬化鎧》を使って、1度刺さったら俺が絶命するまで押しても引いても、抜けないように茨のような構造にしていた。

 そのお陰で刃が腹深くに刺さりながらも、俺は両断されていない。しかも相手は両手と片足の自由を奪われた状態。その一瞬の攻防、そこに遅れてティフォンとヒュドラの猛攻が直撃する。






「……原形、留めてないな」


「熱で溶けて、腐食でボロボロですから」


 ロボットとの死闘から数分後、残骸と化したそれを俺たちは見下ろしていた。粗大ゴミとなったロボットは完全に沈黙していた。


 俺がロボットとの戦いで負った傷は重傷で、もしニオンが回復魔術を使えなければ死んでた可能性が高い。俺には回復手段がないため、1人だったとしたら衛生上よくないのだが、傷口を焼いて塞がなければならなくなっていたかもしれない。


 俺たちはとりあえず、体育館みたいな広さの研究室の奥に隠されていた通路から、繋がっている小部屋に来ていた。その部屋は明かりがなかったので、ティフォンに明るくしてもらっている。

 内部には棺桶が1つだけ置かれていた。それ以外にはなにもなく、壁や床は洞窟と同じだ。


「とりあえず、あれは拠点に送っておこう。戦って勝ったことを証明するためにな」


「ですね。けど今、最も問題なのは」


「ああ、こいつだな」


 その部屋の奥、棺桶に入れられて安置されていたのは1人の女性だ。その肌からは生気が全く感じられず、胸に杭が刺さっており、体には茨のような鎖が巻きつけられているし、さっき開けた棺桶の蓋には十字架が取りつけられていた。


 彼女が、パスュが復活させようとしていた吸血鬼なのだろう。


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