第17話 集結する者たち
「どちら様?」
少なくとも俺は、こんな彼あるいは彼女と知り合いではないぞ。というかどこから湧いて出た。俺の膝にはセミがいたはずで、こんな美少年あるいは美少女がちょこんと座っていたわけではないのだが。
しかも全裸。
「私はあなたとたった今、契約したセミです。ステータスを見れば一目瞭然のはずですよ? それに見た目も大して変わっていません」
「ステータスねぇ……」
確かにあれだけ眩しく光っていたのだ。あのセミがこの彼あるいは彼女に変身したと考えるのが妥当か。ってか見た目はだいぶ変わってるだろ。
とりあえず言われた通りステータスを表示したところ、自分の以外の誰かのも表示されていた。こんなこと今までなかったが一応確認してみるとこうなっていた。
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[ ] 黒色神速魔 ? 70才
LV.80
HP 825/825
MP 156/156
筋力 459
耐久 356
魔力 210
魔防 372
俊敏 2031
スキル 隠匿:A
複眼:A+
心の眼:B
飛行:A++
分身:C
吸血:D
適性 土:A+
風:B
特性 ・超加速:B
・超高速:A
・血書契約:A
人間化:S+
心話:EX
???の血脈:EX
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「……セミなんて文言どこにもないぞ。ってかオピニオンリーダーってなんだよ」
レベルやステータスが高いのは分かっていたが、これほどとは。特に俊敏。俺ではこいつと競争しても、仮に一生かかっても追いつけない。ってか、悪の秘密結社の怪人みたいな名前だな。
「私は大きさはともかく見た目は普通のセミですが、魔昆虫と呼ばれる魔物の、その中のセミ種なのです。その上位種が黒色神速魔という名前になります」
「そうか。とりあえず服着てくれ」
「魔物が服なんて持ってるわけないじゃないですか」
全裸で膝の上に体育座りをされてると、こっちとしてはいろいろと困る。こうも寄りかかられて密着されていては、彼あるいは彼女の温かさというか体温が直に伝わってくるし、至近距離の上目使いで見られていると目のやり場に困る。
なのでそう告げるも、彼あるいは彼女の返事に納得せざるをえない。そりゃ昆虫が服とか持ってるわけないか。
「だよな。今から用意する。風邪引かれても困るからとりあえずはこれで我慢してくれ」
とりあえずその状態で上着を脱ぎ、手渡す。彼あるいは彼女は体育座りを止めて、受け取った上着を素直に着る。
だが、その状態でも密着していることに変わりはないので、なおもそのまま膝の上でくつろごうとする彼あるいは彼女の腰を掴んで持ち上げ、隣の縁側の床に移動させる。そこまで力を込めなくても持ち上げられたところから、体重は軽いのだろう。ちなみに身長は140センチほどだ。
「……私は別に構いませんけど、誰にでも欲情するのはいただけないと思いますよ?」
「誤解だ。いくら俺が若いからっていって、性別不明のセミに手を出そうとはしないぞ」
「それはなにより。今のやり取りで気づきましたけど、あなたの名前は?」
「葉桜結理。いや、こっち風に言うならユウリ・ハザクラか。で? お前の名前は?」
そういえば名乗ってないし、聞いてもないな。
縁側から屋内に向かい、タンスからブナンな衣服をいくつか取り出しながら問いかける。
「ステータスを見て分かるように、私には名前がありません」
「あれだけ強くてしかも上位種なのにか? ……とりあえずこの中から好きなのを選んで着てくれ」
思わず振り返って聞いていた。縁側から屋内に着いてきた彼あるいは彼女が服を選びやすいように、その前に広げる。
「ありがとうございます。まあ、上位種になった程度ではAランクが関の山でしょう。それに私たち魔昆虫は環境の変化にとても弱く、住む場所を選びます。カントリ林の外に出ないのではなく出れないのですよ。あの場所から出て行く者がいるとしたら知性を有していることが大前提になりますが、その中でも向こう見ずな若者か、私のように寿命が残り僅かになり、外が見たくなった者くらいでしょうね。そもそも名前持ちの魔物は絶対数で見てもほとんどいません」
服を選びながらの説明だったが、話の後半、カントリ林から出て行くの辺りで、彼あるいは彼女の声や表情が少し暗くなったのに気づいた。もしかしたらそこにいた林から友人が出て行ったことがあるのかもしれない。
「名前持ちだとやっぱり強くなるのか?」
「魔物は名前を得ることで、他の魔物とは違う特別な存在だという認知を得ます。自分が自分である、その認知が彼らの成長や進化を促すので、名前持ちの魔物は強力になるのです」
「なるほど。名前があるから特別強いんじゃなくて、名前を得た自分が特別だから強いってことか」
「そういうことです。知性を持たない魔物に名前を与えると、それを理解し、知性を得たりするのもそういったことが理由だとされてますね」
「……ということはお前も名前があれば強くなるってことだよな」
彼あるいは彼女の話を聞いて1つの案を思いついた。名前を得ると即、とまではいかなくとも、成長も進化もしやすくなるし、デメリットもなさそうなのだ。これはもう実践するしかない。
「? そうですが、それがなにか?」
彼あるいは彼女は、その中から緑のチェックのシャツとジーンズを選びとり、上着を脱いでその場で、しかも俺の目の前で着替え始めたので慌てて目を逸らす。
「俺がお前の名前をつけてもいいか? パーティ組んで冒険者するなら、名前がないとなにかと不便だろうし、なにより呼びにくい」
「構いませんよ。むしろ願ったり叶ったりです。…………」
名づけの話をすると少し驚いた表情をしていたが、すぐさまこちらを凝視し始める。
「そ、そうだな……」
ヤベェ。全然考えてなかった。
しかも着替え終わった彼あるいは彼女は期待に満ちた表情でこちらを見ている。それは目に星が浮かんでいるように見えるほどだし、彼あるいは彼女が「楽しみ」という感情が周囲に漏れ出て輝き、それが光源になっているようにすら見える。
「…………ニオン、でどうだ?」
「いいですね! 少し安直なのが気になりますが、私たち以外に知る者もいませんし、なによりこれから仲間になるあなたから頂くのです。特別でないはずがありません!」
「ありがとな。そこまで言ってくれると俺も嬉しい」
忖度なしの100点満点の笑顔で答えるニオン。しかもめちゃくちゃ好印象だ。そこまで言ってくれると俺も涙が出てしまう。
正直、ここで微妙な反応をされたら立ち直れないところだった。
ニオンと名づけた直後、それと呼応するようにニオンのステータスが更新され、今まで空欄になっていた場所にニオンと名前が表示される。特性の欄では《人間化》のランクがS+からS++になった。
一方の俺のステータスはというと、
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葉桜結理 人間 男性 18才
LV.43
HP 301/301
MP 98/98
筋力 122
耐久 173
魔力 196
魔防 92
俊敏 315
スキル 献身:B
武技:C+
察知:B
吸収:B
適性 火:B
水:C
土:D
特性 ・???の寵愛:EX
硬化鎧:E
竜変化:E
邪眼:B+
・血書契約:A
心話:EX
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ニオンのステータスを見たせいか、自分のステータスの数値が高いのか低いのか分からなくなってしまった。あの4桁の数値を見てマヒしているのだろう。
《硬化鎧》と《竜変化》のランクはEに逆戻りしているが、性能そのものは強化されている。
《?化》が変化、というか進化した《竜変化》。その特性の内容はというと、
『竜変化:竜の力を帯びたその身を本来の姿に回帰させる。
?化から進化。初期ランクはEに固定。
Eランクの場合は適性とそのランクに応じた竜への変化、竜の実体化が可能。
自分の体の全体か、一部、あるいは魔力を使い、変化させて竜の力を発揮する』
なんか凄そうなことができそうな仕上がりだ。今度試してみよう。
ニオンと契約したことで手に入れた《血書契約》はあの契約書のことが延々と表示されていた。しかもご丁寧に文書の状態でだ。《心話》は俗に言うテレパシーで、EXもあればリアルタイム以上の速度で、どれだけ離れていてもやり取り可能。
ニオンの持つ《人間化》はその名の通り人間に擬態する能力だ。S++もあれば元がセミであることを分かる者はほぼいない。同時に追加されたらしい《???の血脈》が問題で、《?化》が《竜変化》になって折角ハテナが減ったのにまたハテナハテナハテナが増えてしまった。内容はハテナが多すぎて難解。
要約すると、俺の血を取り込み、適応したことで回復力、再生力が上昇したらしい。この特性は《献身》の補助を受けるらしく、俺に近いほどその速度は上がる。この特性の最大の疑問は、俺がその特性を持っていないところだ。
しかし、今の俺にはそれ以上に気になっていることがある。それは、
「……ところでなんでいきなり人間の姿になったんだ?」
ニオンがいきなり人間の姿になったことだ。確かに家の中だと人間の姿の方がセミの姿のままでいるよりは動きやすいが……いや、セミは屋外で生活してるよな。
「これからあなたと、いえ、呼び方はユウリでいいですか?」
「構わないが、姿を変えた理由ってあったりするのか?」
「もちろん。ユウリは人間で、私自身の意思であなたの仲間になると言った以上、人間社会に溶け込むために人の姿をとるのは必要性不可欠なこと。喋る魔物を捕獲したと言うより現実味がありますしね。まあ、《血書契約》で得たスキルの試運転という意味合いもありますが」
なるほど、そういうことか。急に人間の姿になるから少し驚いてしまったぞ。
「彼女も冒険者に登録したいということですか?」
「はい。あと彼女とパーティを組もうと思っています」
翌日の朝イチでギルドへ赴く。空は青くなり始めたばかりで、吹きつける風も少し冷たい。今はまだ薄暗いが、あと1、2時間もすれば朝日はさらに眩しくなるだろう。
こんな時間に来た理由は、ニオンの冒険者登録と俺たちでパーティを組むためだけではない。野次馬に絡まれるのを防ぐためでもある。ニオンにその理由を告げると、「どうせバレるのに、なんでそんな面倒なことをするのですか?」とマジなテンションで言われてしまった。世知辛い。
パーティというのは一時的ならともかく、正式に組むには申請が必要なようだった。これといった条件はないらしいが、加入には場合はそのパーティ全員の了承が、脱退する場合は脱退する当事者含んでの過半数の賛成か、ギルドの了承が必要らしい。それらの点を含味しても、俺たちは問題ない。
「それでパーティ名はどうしますか?」
「「……はい?」」
手続きが終わり、あとはどんな依頼を受けるか決めようと思っていた矢先、あまりにも唐突な問いに、俺は一瞬思考が止まっていた。えっ? なにそれ。聞いたことないんですが?
さすがのニオンもちょっと驚いている。
「ですからパーティ名です。どうしますか?」
「……それ、必要ですか?」
「識別のためにも必須です」
なくてもいいなら、と思ったがそうもいかないらしい。
「ち、ちなみにアイアスさんとシルドさんのパーティはどんな名前ですか?」
「『盾』です」
「そのままだな……」
「そうですね……」
俺とニオンはあまり参考にならない例を聞いて項垂れる。シルドの名前に「ー」を加えて複数形にしただけだな。多分、アイアスがシルドの案に唯々諾々と従った結果、そんな感じになったのだろう。
『ユウリ、『混成魔物小隊』とかどうですか?』
早速ニオンと《心話》を使って、戦闘の際の試運転も兼ねた心話内会議を始める。
ちなみに受け付けの職員から見ると、俺たちが急に無言になり、各々でパーティ名を考えているようにしか見えないはずだ。
『俺たちの素性をバラす気か、却下だ。そうだな、あまり派手でなくて、ニオンの正体や俺の特異性に目がいかないようなやつにしよう。例えば、『ウルトラスーパーデラックス』とかどうだ』
『もっと地味なのにしましょう。しかも言ったそばから派手ですし』
ニオンの鋭いツッコミにより、俺の第1希望があえなく却下される。ならば仕方ない。スペアプランかつ本命のアイデアを出すしかないようだな。
『くッ! 最高のアイデアだと思ったんだが……。なら、『集結する者たち』でどうだ?』
『ちなみになぜですか?』
『俺とニオンの名前を合わせたんだ。ユウリとニオンでユニオンだ』
これがもしボツになったら『混成魔物小隊』説が濃厚になる。それは避けたいのでそれ以外の代替案をニオンに考えてもらうとしよう。
『完成度高めな名前ですね。それにしましょう!』
「パーティ名は『集結する者たち』ってことになりました」
ニオンの機嫌良さげなお墨付きももらったことだし、パーティ名はそれで決定ということになったので受け付け職員に伝える。
しかし職員からすれば、俺たち2人がほんの少し黙ったと思えば、お互い以心伝心でもしたかのように、すぐにパーティ名を決めたのだ。不審がられたかもしれない。
「ニオンさんもそれで構いませんか?」
「問題ありません」
「ではパーティ名は『集結する者たち』と記載しておきますね」
この日、『集結する者たち』が始動した。このパーティは後の世に伝説の冒険者たちと呼ばれる…………日が来るかもしれない。




