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竜の如き異様  作者: 葉月
1章 目覚める者たち
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第16話 追跡者との再会


 八百屋で奥さんとその家族に久しぶりに会いに行き、約束した通り元気な姿を見せた。ついでにそこで野菜や果物を買って我が家に転移直送。その後、こちらも久しぶりにギルドへ訪れた。

 どちらも行こうと思えば毎日でも行けたのだが、距離の離れた郊外にいると言ってしまった以上、定期的に会いに行くのも不審がられるので止めておいた。なので本当に久しぶりだ。


「ユウリさん。お久しぶりですね」


「なんか、回りの人の視線が前よりも集まってないですか?」


 受け付けの職員に、掲示板に張り出されていた依頼の紙の内の1つを手渡しながら雑談を始める。

 回りからの視線は、前とは若干種類が違う気がするのだが、居心地が悪いことに変わりはない。目を合わせようとすると、慌てて逸らされてしまうのでガラの悪い人になった気分だ。もっとも、以前は今みたいに目を合わせようとすると、逆にガン飛ばしてきたわけだから多少改善されてはいるのだろうが、理由が分からないので反応に困る。


「ああ、それですか。ソウジさんのこと、知ってますよね?」


「ああ、もうそろそろAランクになりそうって言われてますね」


 確か、Aランクになれる冒険者は少ないと聞いたことがある。そういう意味ではソウジたちはかなり優秀な冒険者なのだろう。


「そのソウジさんから伝言が来てましてね、その内容を皆さん知ってるんですよ」


「なんで!?」


「それはこちらの不手際で聞かれてしまいまして……。まあ、聞けば分かります」


「そ、そうですか……」


 相手はソウジ。なにを言ってたのか想像もつかない。いや、若干つく。予想外なことを言うだろうという想像だが。

 そんなわけで、奥の部屋、職員たちが激務に追われているのが見える部屋、その一角のモニターらしき物がかけられている壁のある場所へ移動する。案内した職員がそのモニターに紐のようなもので繋げられてテーブルの上に置かれている水晶に魔力を込めると、モニターが光り始める。

 それが鮮明に映像を映し出すと、そこにソウジの姿が映る。


『ユウリ! 元気にしているかなっ? 君のお陰で俺たちは重要なことに気づくことができ、俺たちのAランクへの道が開かれた! 重ねて感謝する! ともに強敵と戦い、倒したことを誇りに思うぞ! では、また会おう!』


 伝言というかビデオ映像だな。しかし、なぜソウジのパーティメンバーは背景で筋トレをしているのかサッパリ分からない。しかもその動きが以前とは比較にならないほど機敏だ。やはり全員前衛のパーティだったか……。


「……この映像で回りの人の視線がおかしいのか分かるんですか?」


 一体なにが分かるのかサッパリな映像だったが、それに対して職員は申し訳なさそうに答えた。


「ユウリさんはSランク冒険者から指導を受け、しかもそのノウハウを活かして、Bランクの壁を越える冒険者を生み出したとの評判になっているんです。実情はだいぶ違うと思いますが、以前みたいに変に絡もうとする冒険者はいなくなるはずですよ」


 一目置かれた、ということか? しかし、よくよく考えると余計絡まれそうになってないか、それ。しかも勘違いだし。どうするんだよ、このままだとパーティを組むのは夢のまた夢だぞ。仮に組んだとしても真実に気づいた連中が幻滅して離れていくのがオチだ。

 ヤバい、元の世界に帰れる未来が段々と遠ざかっていく……。


「それ、大丈夫なんですかね……」






 依頼を達成し、その報告を終えて我が家に戻る。ここに来るのも久しぶりだな。時刻は夜、夕食は向かうで済ませてきたのでやることがない。テレビはつかないし、スマホの電源は既に切れている。そもそも圏外なのでどちらにしても使えない。

 することと言えば1人で鍛錬か、漫画や小説でも読むか、夜空を眺めるか……。

 熟考した結果、縁側に横になりながら夜空を眺めることにした。


「前よりも夜空が綺麗だな……。この空は今も向こうの世界と同じものなんだろう。そう考えると案外寂しくないな。今頃クラスの奴ら、なにしてん……ハッ! 葬式か! これだけ時間が経ってれば、捜索も打ち切られてる。なら次はそれしかないな。うわーっ、俺とうとう死人扱いかー。本格的に居場所がないな……」


 星空は相変わらず綺麗で、変わらないものの大切さを教えてくれる。厳密には全く変化しないわけではないが、俺の寿命の長さと比較したらそれはもう永遠と言っても差し支えはない。


「そういえばSランク冒険者の集まりってなにするんだろうな……」


 Sランクの冒険者が召集されたのだ。この国では今、とんでもないことが起ころうとしているのかもしれない。それこそ、俺の想像のつかないなにかが。


 Sランクとはつまるところ、半ば人間辞めてるような余程の変人集団に違いない。

 けど、そのランクにまでなるとパーティとか組む、いや組めるのか? 同じくらいの実力がないと却って足手纏いになる……とは考えたが、いくら強くても単騎というのは無理があるか。冒険者はパーティを組むものだと、アイアスの屋敷に比較的近いギルドの職員は言っていた。Sランクだからといってそれが例外になるはずもない。やはりSランク冒険者でもパーティは組むものなのだろう。

 しかし、Sランク冒険者が2人もいるアイアスとシルドのパーティは他にないレアケースに違いない。


「お久しぶりですね」


「誰!?」


 そんな俺だけの静寂の世界にもう1人分の声が現れる。慌てて上半身を起こして辺りを見渡すも、その声の出所は視界内のどこにもなかった。その上、《察知》にも引っかからない。


「私です。カントリ林で会いましたよね?」


「い、一体どこから声が……」


 相変わらずその声の出所は不明。《察知》にさらに《邪眼》を加えて辺りを警戒するも、風に揺れる草の音、池に水滴が落ちる音、自分の呼吸、早まる鼓動、それくらいの音しか感知できない。


 自然と《硬化鎧》を使用し、戦う準備を整える気にはならなかった。

 相手を発見どころかその気配にすら気づけなかったことで、あまりにも実力差があり、かつ、その差が圧倒的であることがこの短時間で分かってしまったからだ。そしてこの声の主と相対することを半ば諦めていた。もし、この人物が襲いかかってきても、戦うという選択肢は取らないだろう。

 しかしそんな悲壮な覚悟は長続きしなかった。


「あ、ここです」


「セミ!? な、なんでここに!?」


「あなたについて来ました」


 そこにいたのはセミだった。しかも超デカい。翅の部分を含まなくても全長1メートルはある。確かこいつは、カントリ林で遭遇した一番ヤバそうな奴だ。

 しかも目の前にいるというのに気配が全くしない。実は幻影とか、残像だと言われた方がしっくりくるほどの存在が、およそ1メートルの距離を取り、眼前でホバリングしていた。

 見た目のサイズを除けば、普通のミンミンゼミのような外見をしていて、背中にはその特徴的な緑と水色の斑紋があった。どこから出しているのか分からない声は中性的な印象だ。


「お、俺になんの用だ? まさか、仲間の仇でも討ちに来たのか?」


「まさか、彼らは競争相手であって、仲間ではありません。それにあのゴールデンバタフライのせいで、私はしばらく意識がありませんでしたから、倒してくれてありがとうとすら思っているのですよ」


「なら、なにしに来たんだ?」


 そのセミから返ってきた返事は俺の予想しない意外なもので、思わず聞き返していた。

 確かにあの時は目が真っ赤だったが、今は黒い。


「そうですね。結論から言わせていただくのなら」


「……」


「私をあなたの仲間にしてほしいのです」


「は?」


 こいつが一体なにを言いだすのか、仮にその内容が事前に分かっていたとしても同じ反応をしただろう。それくらい意味不明だった。

 確かに今ちょうど、パーティメンバーが欲しいとは思っていたし、願ったり叶ったりだ。選り好みしているような状況ではないのだが、いくらなんでも魔物はちょっと……。


「ちょっとなに言ってるのか分からん」


「実は私、もうそろそろ寿命が尽きてしまうのです。ですので仲間にしてほしいのです」


 確かにこいつとカントリ林で遭遇してから結構な時間が経つ。成虫となったセミの寿命はおよそ1週間。あの日から既に1ヶ月かそこらは経過している。巨大で強力な魔物と言えど寿命には敵わないものらしく、このセミも、もうそろそろお迎えが来る頃らしい。


「説明されてもなにを言ってるのか分からん。俺の仲間になったらなんで寿命の問題が解決するのかはとりあえず置いておく。だが、なんで俺なんだ? 強い奴や相応しい奴ならいくらでもいるだろ?」


「なら逆に聞きますが、ある日突然、初対面の魔物が『仲間にしてください』って言って来たら、当然警戒し断りますよね? その上、討伐待ったなしです」


「た、確かにその通りだ」


 カオス過ぎる。

 相手が竜とか悪魔とか知性がありそうな魔物ならともかく知性なさげ、かつ見た目のインパクト強めな昆虫が出てきては、確かに討伐ってことになるな。


「その点、あなたは初対面ではありませんし、あなたは相手が魔物だからと言って無闇に討伐しにこないと思いましたので」


「前者はともかくとして、後者はなんでだ?」


「あなたの肉体からは、人間以外の匂いがします。それに戦い方も見させてもらいました。あの鱗、多分竜種のものですね。人間と竜のハーフなのか、なにかしらの加護や寵愛を受けているものなのかは分かりませんが、その関係者と見ました。なのであなたなら魔物を過剰に恐れたりせず、私を攻撃しないだろうとの判断の下、こうして訪れたのです」


 シルドが数日かかっても辿り着けなかった寵愛の話題を出してくるなんて、こいつできるな。

 しかもこのセミの俺に対しての好感度高くね? それはさておいて、こいつの理知的なところ、ポイント高い。


「……寿命の克服ってのは具体的にどんな手段なんだ? 魔力が云々とかか?」


「あなたの想像するものとは少し違うでしょうね。まず、私はあなたの血を少しもらって寿命が尽きないように工夫します。そのあとはあなたのパーティメンバーとして尽力しようと思ってます」


「けど、血を吸ったあと『クハハ! お前はもう用済みだ! 死ねい!』って始末しにかかったりはしないよな?」


「それはありえません。私が提案しているのは、お互いを害せなくなる、ある種の契約ですので破れないようになってます。ステータスにその合意内容も表示されるはずですので、抜かりはありません」


 契約、か。こいつ、中々しっかりしてるな。これから仲間になると考えれば益々ポイント高い。


「なら構わないが、……どう、やるんだ? まさかその聖剣も真っ青な凶器で、俺から蚊みたいに血を吸うつもりか?」


「蚊と同じ扱いですか。まあ、方法自体同じなのですが……」


 相変わらずその場から1ミリもズレないホバリングで滞空するセミ。蚊と言われたせいか、心なしか少しショックを受けているように見える。


「まあ、俺も1人で冒険するのは不安だと思ってたし、パーティメンバーが増えるのはタイミング的にちょうどいい。刺すのは……仕方ないな。あまり痛くするなよ」


「善処します」


 チクリ。


 セミがホバリングを止めて俺の膝に止まり、針の先端、それを俺の腕に刺す。蚊ではなく、注射器で刺されたみたいな感覚があった。つまり血を抜かれる感覚もあった。


 その瞬間、ステータスに契約内容が表示される。だがそれはよく見る、想像つくような見た目の、つまりビジネスで使われる割と本格的な契約書みたいな外見をしていた。

 セミいわく、俺の「契約」という単語の脳内イメージが作り出したものらしい。人によっては羊皮紙だったり、石板だったりするらしいが、俺はプリント用紙。そこに条文や免責事項が記載されていて、余計緊張する仕上がりだ。しかも甲とか乙、本規約といった単語がちらほら。さらに余計緊張する。

 その全てを隅々までじっくり時間をかけて確認したが、悪どいところはなに1つなかった。それどころか、とても良心的な内容で驚いた。問題ないので同意ボタンを脳内で押す。(ステータスは脳内に表示されてるので)


「終わりました」


「速いな」


「これで契約成立です。……」


 そう言うと、急にセミが動きを止める。苦しみに耐えているのか、鉤爪のような足は俺の服に食い込んでおり、翅も痙攣している。


「どうした?」


「う……」


「う? って眩しッ!?」


 さらに突如としてセミが発光し始める。それは太陽を直接見ているかのような眩しさで、視野が真っ白に塗り潰されるが、僅かに虹色の輝きも見えた。


「……って誰?」


「誰と言われても。さっきまであなたの膝の上にいたセミと同一個体ですよ」


 発光が収まるとそこにいたのはセミではなく、青緑色の髪をした人間の少年、いや少女か?



おめでとう! セミは少年(少女?)に進化した!

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