第13話 ゴーレムとの激闘
俺たち3人は、ソウジを先頭にゴーレムに向かって駆け出した。しかし、それをゴーレムが黙って待っているはずもなく、その粗削りな腕を振るってきた。
「ぬうっ!?」
「む、速いな!」
確かにソウジの言う通りだ。普通のゴーレムを見たことがない俺には判別できないが、多少見た目が整えられているとはいえ、その鈍重そうな見た目からは想像もできないほどのスピードで接近し、叩きつけてきた。ここに向かった冒険者たちが帰って来なかったのも頷ける。
「はッ!」
他の2人は剣や盾で防いだのに対し、俺はその攻撃を容易く躱し、カウンターに《硬化》と《?化》を施した右手で殴りつける。それを食らったゴーレムは怯み、腹部を陥没させていた。
「す、すげぇ!」
「やるな! ユウリ!」
「けどあまり効いてない。やっぱこの高耐久のせいで生半可な威力の攻撃じゃほとんど通らないみたいだ……」
「む! 確かにそのようだな! しかも!」
「う、うそだろ……!? あんなにへこんでたのに!」
ゴーレムの陥没した腹部は段々と再生している。この様子だとあと1分も経たずに元通りになるだろう。
「合図だ。離れるぞ!」
「はい!」
「「風刀!」」
後方からの男たちの野太い声が遺跡に響く。
ソウジのパーティは2人が前衛、2人が魔術師、残りの1人は補助と、それぞれ担当が分けられていてバランスのいい構成になっていた。
しかし、全員マッスル。初見だと全員前衛に見えるのも致し方ない。
後方から放たれた風の刀は名前の通り、まさしく風のような速さでそのままゴーレムに命中し、3つに切り裂いた。
「「なっ!?」」
俺の前にいた前衛の2人は思わずそう呟いていた。驚いたのは俺も同じだ。
切り裂かれてバラバラになり、地面に倒れるはずのゴーレムが腕を振るって2人を吹き飛ばしたからだ。あまりのことに俺は黙って見ていることしかできなかったが、なにが起こったのかをこの目で目撃した。
切り裂かれた直後、露出した体の内部から紐のようなものが出てきて、離れていく体を一瞬で繋ぎ止めて元通りになった。しかも、そこからすかさず接近し、2人にカウンターを繰り出したのだ。
「こいつ……!」
《邪眼》でステータスを見ると、レベルは40。筋力と耐久はおよそ200と高く、その2つが高ステータスなのは聞かされていたが、俊敏はその2つと同じくらい高いのには驚いた。
俊敏は俺が上回っているが、戦って勝てるかというと怪しい。
「ぐっ……、ユウリ! こいつはカットゴーレムだ! 通常は低い俊敏が逆に高く、本来はこいつ用にしっかりと対策を取ったCランクパーティが2つ必要なほどの相手だ! 気をつけろ!」
ダメージを受け、後方に吹っ飛んで転倒しながらもソウジは俺に的確な情報を与え、注意を促す。彼らの装備は結構重装で防御力が高い物のようだったから助かったのだろう。
ますます納得だな。1つ上のBランクパーティでもないと、正面から戦って勝つのは難しいってことかよ。
「分かった。こいつの攻撃は俺が引きつけます。その間にソウジさんたちでこいつを攻撃してください。合図はいりません。俺が勝手に躱します!」
「……! 分かった! だが無理は禁物だぞ!」
「……というわけだ。本気でお前を足止めさせてもらうぞ」
《硬化》と《?化》を四肢の関節にまで纏わせて、臨戦態勢をとる。
ゴーレムはその重そうな見かけからは想像もできないような速度の拳を放つ。当たれば即爆ぜるような威力の拳に、こちらも正面から拳で応じる。ズドン! と2色の拳が激突する。ヒビが入ったのは相手の方だ。耐久は高くても柔軟性はなかったらしい。
ゴーレムが攻撃の反動で仰け反った瞬間にソウジたちが剣で、後方の仲間が魔術で追撃を行う。しかしその体の再生力は凄まじく、決定打を与えることは叶わなかった。
「はッ!」
味方の魔術攻撃を躱しつつ、ゴーレムの顔と思しき部分に膝蹴りを打ち込む。当然、膝にも《硬化》と《?化》を付与しての蹴りだ。
それを食らった箇所は当然のことのように砕け、陥没する。しかし、ゴーレムはバランスを崩すどころかゼロ距離の俺に向かって拳を振るってきた。俺はその直前で身を捻り、躱すことはできた。
さすがに顔(?)に蹴りを直撃させれば硬直したり怯むかと思ったたが、思わぬ反撃にこっちが怯んでしまう。
「なんだ! こいつは!?」
俺もソウジと同意見だ。素早いだけではないにしても、これは反則だろう。
試しにステータスを見てみると、HPがほとんど減っていない。こいつのHPは、それ自体は俺より低いし、こいつは取り立ててなにか特別な力を持っているわけではないのに、この回復力。絶対秘密がある。
「……ゴーレムってのはあんな風にバラバラになっても復活するものなのなんですか?」
「そういう種類もいなくはない! だがしかし、カットゴーレムがこれほどの再生能力を持っているとは思えない!」
ゴーレムの攻撃を躱し、後退した際に横に並んだソウジに問いかける。つまり相手は特別なスキルや特性を持っているわけでも、ゴーレムの種類自体が特殊というわけでもなく、その個体独自のの特異性がこの力をもたらしている可能性が高い。
ならば、きっと内部構造になにかある。これならBランクにパワーアップした《邪眼》が役に立ちそうだ。
「そうですか。……さっきと言ってることが真逆になりますが、30秒ほど時間を稼いでくれませんか?」
「なにか手がある。そう思っていいのかっ?」
「もちろん、必ずこいつの弱点を暴きます」
「うむ! ならば我々でその時間、なんとかしようではないか!」
「「「「うおーっ!!」」」」
「た、頼もしいですね……」
ソウジのその一声で彼のパーティメンバーたちは奮い立ち、ソウジともう1人の計2人の前衛は、ゴーレムに向かって駆け出した。
それを見送り、俺は《邪眼》を使い、カットゴーレムに照準を合わせる。Bランクにまでなったお陰で、千里眼といった、人や物のステータスの閲覧という本来の能力とは別の使い方ができるようになっていた。
Bランクで使えるようになったのは透視。
読んで字の如く、物体を透過して通常の視覚では捉えられない物の内部構造を見たり、壁などに遮られて見えない、向こう側にある物体を見ることのできる能力だ。
こうやって透視について思い浮かべると、いいこと尽くめの能力に思えてしまうが、現時点では、発動に30秒とそれなりに時間がかかってしまうのがデメリットだ。しかもその間、動いたり、対象から目を離したりすると解除されて、最初からやり直しになってしまう欠点もある。瞬きもアウトというドライアイ必至な仕様になっていた。
「分かりました! そいつの胸の中央部、そこが弱点です!」
「よし! 今だ!」
「「風刀!!」」
ゴーレムの猛攻という30秒の時間稼ぎに耐えたソウジたちに、《邪眼》で得た相手の弱点らしき箇所を伝える。
透視で見た視界には、ゴーレムの胸部中央に球状の核のような物体があった。それを中心に、そこから無数の糸が網目状に伸び、それを伝って全身に魔力を循環させる心臓のような役割を核は果たしていた。
俺から受け取った情報をソウジは、後方の魔術師に的確に伝え、俺たちはゴーレムから距離を取る。
その瞬間、男たちの野太い声が再び遺跡に響く。
「やったか!」
「だーっ! なぜそういうことを言うーッ!」
「? ダメなのかっ?」
「ダメだわ! それは倒せてないフラグだわ!」
「み、見ろソウジ! あいつまだ立っていやがるぞ!」
「なにっ!?」
ほら、言わんこっちゃない。というか素で喋ってしまったな。
確かにカットゴーレムの胸部は、風魔術を食らってボロボロになり、核と思われる部分が剥き出しになっているが、一向に倒れる気配がない。
それもそのはず、肝心の核に傷はほとんどついていない。おそらく攻撃を受けている間も回復させていたのだろう。それに、そこが弱点なのかその核の回りの装甲は厚めになっているようだ。
「しかも近づいて来やがったぞ!」
「な」
その核らしき球体が赤く発光する。その瞬間、ゴーレムは踏み切り、既に俺たちの眼前にまでその拳が迫っていた。
「ぐっ……!」
「ユウリ! 大丈夫なのか!?」
この場にいる者で、ゴーレムのその攻撃に反応できたのは俺だけ。しかもその拳はさっき受けたのとは比較にならないほどの威力があり、今は拳で拮抗しているが、その間も段々と押されている。耐えていられるのは時間の問題だ。
「そんなことより2人は離れてくれ! こいつのスピードについていけないなら後退するんだ! 庇ったままだと戦えない……っ!」
「ユウリ、私とて冒険者の端くれ。敵前逃亡なんてできやしない。私よりも若い者が戦っているならなおさらだ」
「だが、……っ!」
ソウジの方へ振り返って反論しようとするが、余所見したせいか、ゴーレムに押されてしまい、その機会を逸する。
よくよく考えてみれば、俺はソウジたちにかなり失礼なことを言っていた。
俺に覚悟ってものが足りてなかったせいで、と考えるのは傲慢かもしれないが、あの洞窟で5人が目の前で死んだのは確かだ。もうそんなことは繰り返したくない、そう思っての発言なのだが、失礼なことに変わりはないので、あとで謝っておいた方がいいだろう。
「心配するな。私たちは君やゴーレムの速度にはついていけない。だがそれでもできることはある。君は君の、私は私の戦いをすればいいだけのことだ」
「そう、だな……。さすが、頼り甲斐のある先輩だっ!」
鱗で覆った右手にさらに魔力を込め、瞬間的に威力を上げた拳でゴーレムの拳を押し返し、突き放す。その一撃でゴーレムは、遺跡の石畳を削りながら数メートルは後退する。
「そっちこそ、頼もしい後輩だ!」
「俺がこいつの攻撃を受ける。ソウジさんたちは攻撃に専念してくれ!」
「任せろ!」
その声を聞き、俺はゴーレムとの距離を瞬時に詰め、飛び上がって核に向かって蹴りを放つ。
「っ! やっぱりそこが弱点か!」
ゴーレムはその両腕で、核への俺の攻撃を庇う。そこから2、3度核へ追撃を行うが、いずれもその両腕で受け流され、防がれてしまう。
背後から飛来する、ゴーレムに狙いを定めた風魔術を躱し、俺と前衛の2人は魔術への対処で隙が生じたゴーレムの核へ再度追撃を行う。
さすがに同時となると、完全には防ぎ切れなかったようで、俺たちの追撃の最中に飛来した、これまた追撃の風魔術の内の1つが、ゴーレムの核を真っ二つにする。
そしてその防御の体勢のまま、カットゴーレムは完全に沈黙した。
俺たちはカットゴーレムを撃破したあと、全員の負傷を補助担当のマッスルに治してもらい、少し落ち着いたところで俺は戦闘の最中に言ったこと、途中から失礼な喋り方をしてしまったことをソウジたちに謝った。
結論から言えば、彼らはそこまで気にしていなかった。むしろ俺がそう言ってくれてよかったとも。なぜかを聞くと、これからはパワーだけでなく、スピードも重視する冒険者を目指すそのきっかけを与えてくれたから、とのこと。
屈強な漢たちの器のデカさをまざまざと見せつけられ、頭の下がる思いだ。
「ふむ! やはり妙だ!」
「なにがだ……じゃなくて、なにがですか?」
その後、俺たちは周囲を警戒しつつ、ゴーレムの残骸を調べていた。そんな中、核を調べる段階に来た時、ソウジはハキハキとしながらそんなことを呟いた。
「このゴーレム! 種類は間違いなくカットゴーレムだが、こんな核がある例は聞いたことがない!」
彼は核を指差し、そう言った。
「新種って……新種という可能性は?」
「それも考えたが、この核! どうやら何者かが意図的に取りつけた物だろう!」
「意図的に!? それってどういう意味……ですか?」
「文字通りだ! 最近、この国ではこう言った事件が度々起こっている! 他にも、そこに棲息していないはずの魔物が現れたり! 出現率の低い魔物が大量に現れたりしている!」
戦闘の後半、鳴りを潜めていたハキハキ具合が復活し、しかもより一層ハキハキしている。この調子だとその内、疑問文を話していても「!」がつくようになってしまうだろう。
しかし、ソウジの言ったことの中には聞き逃せないことがいくつもあった。今回の件に、『初心者の洞窟』にワームが現れたことも関係しているに違いない。段々と話がきな臭い方向に進んできたと俺は思った。
「というか、そんなに無理するくらいならタメでも一向に構わないぞ!」
「なんかいろいろとすみません……」




