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竜の如き異様  作者: 葉月
1章 目覚める者たち
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第12話 熱い先達


 俺は今、アイアス自宅近くのギルドに来ていた。近くと言っても速い馬車を使っての移動が前提となるが、一応そこが最も近いギルドだ。

 今日は久しぶりに冒険者することになった。昨日まで、シルドが鱗を調べるのに夢中でしばらく訓練は休みだった。理由は当然、アイアスはシルドに甘いから。そんなシルドは、俺の鱗がなんなのかを連日徹夜で調べていた疲労のせいで、今日は寝込んでおり、アイアスが看病している。

 そんなわけで手持ち無沙汰な俺はアイアスの勧めでこのギルドに来たのだ。


「これは遠い。これは今の俺には難しい。これは楽過ぎる。……消去法でこれ、だな」


 アイアスの地獄の扱きのお陰で中立国ポップの地理も大体は覚えられて、あと少しで完璧になるところまできた。

 彼は冒険者として必須知識である魔物や素材、薬草などの種類や似ているものの見分け方、ダンジョンのこと、他にもこの国の地理や歴史、周辺国との関係なども教えられた。

 地理や歴史を異世界に来てまで勉強しないといけないなんて、それだけでテンション盛り下がったが、いざ勉強が始まると、よくできた歴史モノを読んでいるみたいで結構楽しめた。


 あと、この国では黒髪黒目が珍しいことも聞かされた。道理で街中にいると視線が集まりやすいわけだ。

 それ以外にも注目を受けていた理由があるとしたら、確かに今までの服装は今の冒険者然としているものではなく、現代のものだった。自分たちとは違う服で、しかも見知らぬ服だったら見慣れないから注目が集まるのは当然だからな。


 その点、アイアスはいろいろな国や地域を回っていたから気にしなかったらしい。


 今は、丈夫で軽く、薄茶色でパッとしない軽装だ。胸当てや籠手といった防具、剣などの武具もない、かなり身軽な服装だ。お金がないからではない。

 その時は、ある程度は貯まっているのでもっと上等な装備にすることも考えたのだが、売られている鎧の耐久性を俺の鱗と比べてみた結果、「なくてもよくない?」ということになったのでこの軽装になった。


「すみません、この依頼を受けたいのですが……」


「はい、コーア遺跡に現れたゴーレムの討伐ですね。こちらは難易度的に、パーティを組んでの探索の方がよろしいかと思われますが……」


 コーアって、本当にそんな風に間延びした名前なのか? 通称じゃなくて? という言葉を飲み込んで、なぜなのか問いかける。


「なにかあるんですか?」


「それが、この依頼を受けた冒険者の方々が1人も戻らないのです。その影響もありまして難易度をDからCに変更し、複数人で依頼の受けていただこうと思っております。……でないと、帰って来れませんから」


 うん、Cランクだって分かってたから受けたんだが。他のはEランクだったり、Bランクだったり、日帰りでちょうどいい難易度の依頼でないものばかりだった。

 しかし、そこまでヤバそうな背景のある依頼だったなんて……。


「今までは単独だった、ということですか?」


「いえ、今までの冒険者もパーティを組んで挑みました。……そもそも冒険者は基本的にパーティを組むものですよ?」


「知りませんでした。やっぱり組んだ方がいいものですか?」


 しかも自分で聞いといてアレだが、深く考えなくても愚問だと分かる類のことだった。そもそも元の世界でもそういったあまり人の手の入っていない場所に1人で行くのは危険極まることだ。例を挙げるなら登山だろう。

 それにアイアスもシルドと一緒のパーティだった。Sランクの冒険者の2人でさえもパーティを組んでいる。やはり基本的にパーティを組むものだろう。


「当然ですよ!」


「うっ、この街には1人で来たばかりなので、パーティメンバーとかいないのですが……」


 受け付けの職員の気迫に押されて自信なさげになってしまう。心配してくれているのだろうが、圧がすごい。


「確かに、冒険者証には単独でワームを討伐した旨が記載されていますが、今回の依頼は1人ではいくらなんでも無謀過ぎます」


「なら俺たちが同行するかっ?」


「……どちら様?」


「俺の名はソウジ! このパーティのリーダーをやっているBランク冒険者だ。話は聞かせてもらった。俺たちがこいつの臨時パーティメンバーとして、その依頼に同行する!」


 そう言って現れたのは髭面の大男。その渋く大人の包容力がある顔に似合わない豪快な笑みが、その人物の迫力を際立たせていた。


「こいつじゃなくて結理です。でもなぜそんなことを?」


「はっはっは! それは悪かったな少年! だがユウリ、後輩を助け導くのが先輩の仕事。すなわち! 俺がお前を助けようとするのは当然なのだ!」


「それはありがたいですけど、なんでですか? この依頼を手伝ってくれてもあなたたちの得にはならないと思うんですが?」


「後輩を助け導くのが先輩の仕事。すなわち! 俺がお前を助けようとするのは当然なのだ!」


 たった今、全く同じ文言をソウジが繰り返したのは俺の気のせいか?


「あ、あのー?」


「後輩を助け導くのが先輩の仕事。すなわち! 俺がお前を助けようとするのは当然なのだ!」


「……て、手伝ってもらってもいいんですか?」


「もちろんだ! 若き若人よ!」


 それ、頭痛が痛い、みたいになってませんか?


「……というわけなのですが、受けてもいいでしょうか?」


「はい、ソウジさんのパーティはBランク。彼らなら問題ないでしょう」


 職員は彼らとともに依頼を受けることを了承してくれた。






 俺たちはソウジたちが手配していた馬車に乗り、そのコーア遺跡に向かっていた。馬車は速く、アイアスたちと乗って来たものと大差ないもので、そこまで時間がかからずに目的地に辿り着けると思っていたのだが、そこからが大変だった。


「ユウリ少年はどこ出身なのかなっ? この街には来たばかりだと言って言たが、遠くから来たということかっ?」


 疑問文で聞いてるはずなのに、末尾に「!」がついていると錯覚するほど、ソウジはハキハキ喋る。受け付けでの会話よりもハキハキ具合が増していた。


「ソウジの兄貴、その髭面でそんなハキハキ喋ったら初見の人は誰でも驚きますって。もうちょっと穏やかにしないと」


 パーティメンバーの1人がソウジに注意する。その慣れたやり取りから、いつもこんな感じなのだろうと思った。


「そうか? なら仕方ないな! ところで出身は?」


「ここよりずっと東、極東にある島国です」


 という定番の受け答えをする。

 まあ、極東の島国というのはある種のテンプレというヤツだ。単に答えに窮したとも言える。別の世界から来ましたなんて言えるはずもない。

 最初から元の世界に帰る予定での冒険者。変な噂が立っても、自分の故郷に高跳びできるから問題ない。という意図もあっての返答なのだが、


「ふむ! 日本か! 確かにあの国は極東にあったな! 船で行こうにも『タイフウ』という魔物のせいでほとんどが海に沈むと聞いたことがあるな!」


 ハキハキとソウジは答える。って、


 エ、アレ? 今、ものすごく聞き馴染みのある単語が聞こえたような、しかも文章にすると漢字っぽかったような……?


「……日本ですか?」


「そうだが、なにかおかしかったかっ?」


「いや、別に……」


 しかもまさかそのままの形で出てくるとは……。こういうのって大体、別の名前じゃないですか?


 ……よし、そのうち行こう。もちろん、元の世界に帰るのは確定だ。しかし、この世界の日本、確認しておかないわけにはいかない。なんたって異世界にも同じ国、しかも故郷と呼べるような場所があるのだ。いかない手はない。


「あ、兄貴、そろそろ到着です。もうすぐコーア遺跡ですよ」


「そうか! では支度に取りかかろう!」


「「「「うおーっ!!」」」」


「え、なんだ? このテンション」


 無駄にテンションの高いソウジ御一行と俺は、何人もの冒険者が帰って来なかったコーア遺跡に到着した。






「ふむ! これは冒険者の遺品か! 見つけたらなるべく回収しておこう!」


 そうパーティメンバーや俺に指示するソウジだが、その高いテンションを変えずに真面目な話題に突入するのはどうかと思う。


「ところでゴーレムってどんな魔物なんですか?」


「知らないでこの依頼を受けたのかっ?」


「いや、知識としては知ってるんですけど、実物を見たことはないんですよ。そのせいで足を掬われるのを避けたいのでよかったら教えてくれませんか?」


 俺とソウジたちは一塊になって警戒しつつ、先に来た冒険者の遺品を集めていた。もちろん生還して遺族の元へ届けるためだ。


「うむ! よい心がけだ! ゴーレムというのは土や岩、レンガで体を構成する無機物の魔物。一般的に筋力、耐久が高く、俊敏が低い! 魔術属性への耐性では「風」に不利で、「雷」には有利。つまり、前衛は敵の攻撃を躱して注意を引きつけ、後方の魔術師が風属性の魔術で戦うのがセオリーだ!」


「やっぱり相性とかあるんですね。一応聞きますけど、それをここに来たパーティが知らない可能性は?」


「それはないな。ここに向かった冒険者は、俺や俺の友人の知り合いで、彼らがゴーレムの情報を知らずに全くの無策で挑んだとは思えない」


 ……あれ、テンションが高くない。それどころか、むしろ沈痛な面持ちで話すソウジ。今の彼からは、友人を失った悲しみと、ゴーレムへの憤りが感じられた。


「ならなんで彼らは帰って来なかったんでしょうね……」


「それは確かに気になるところだ! しかし! 彼らの仇は、ゴーレムは、我々の手で討つ! そうだろう、皆んな!」


「「「「うおーっ!!」」」」


「こ、こんなところでそんな風に騒いだら……」


 このソウジの5人パーティは、いつでもこんなテンションなのか? しかし、いつもこんなだと……。


「どうした! 元気が————」


「しっ! 来る。ゴーレムを見つけました。前方から近づいてくる」


「なにっ」

 

 声を潜めて驚くソウジ。魔物がいるような場所なら、それくらいの音量にした方がいいとあとで伝えておこう。

 彼は仲間にゴーレムが現れたと素早く合図する。どうやら俺には分からない身振り手振りで意図したことが正確に伝わるところから、彼らは修羅場を潜り抜けてきた本物の冒険者のようだ。


「あれが、ゴーレム……」


「見たことない個体だ。普通は周囲の土や岩と似た色のはず。それに整い過ぎている。もしや亜種か?」


 俺たちの前に現れたゴーレムは、俺がイメージしていたものとは姿がだいぶ異なっていて、ごつごつした岩をくっつけてそのまま人型にしたような無骨なシルエットではなかった。

 2メートルを越すほどの巨体であることには変わらないが色は黒く、削られて整えられた、どちらかというとロボットのような見た目をしていた。それでも少し粗削りだが。


「よし、さっき話した作戦通り、私と仲間の1人が引きつける。ところでユウリ、君は前衛か? 後衛か?」


「前衛です。そもそも中途半端な実力の後衛1人で冒険者できるわけないと思うんですが……」


「うむ、その通りだな! では我々3人であのゴーレムを抑えよう」


「分かりました!」


 俺とソウジ、もう1人のパーティメンバーが岩陰から駆け出し、残り3人は身を隠しながら距離をとる。


「「「「うおーっ!!」」」」


 それ、どうにか、ならないか?


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