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竜の如き異様  作者: 葉月
1章 目覚める者たち
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第11話 透明な追跡者


「ぜーっ、ぜーっ。た、倒して来たぞ……」


「うん、ユウリならできると思っていたよ」


「よくやった。褒める」


「ってか、なんなんだよ、この蝶。あんな軍団結成しやがって。死ぬかと思ったわ!」


 討伐したゴールデンバタフライの羽を片手で掴み、やっとの思いで彼らの元に到着し、それを見せながら不満を垂れる。

 事前に約束した合流場所に戻ると2人は既に依頼を達成したらしく、丸太に腰掛けて談笑していた。結局、こいつらの依頼はなんだったんだろうな。


「でも生還した。重畳。私もアイアスも師匠に似たようなことさせられてた」


「おい。まさか、その腹いせに俺をこの危険極まる極楽蝶の討伐に向かわせたとか、そんなことはないよな?」


 討伐したゴールデンバタフライの羽をアイアスの眼前に翳して威圧しながら問いかける。だがアイアスの爽やかさはそんなことでは曇らない。


「まさか、師匠はその試練を私もシルドもそれが達成できると分かっていたから、この林に送り出したんだ。かく言う私も同じだよ。ユウリ、君なら生還すると信じていた」


「……ならいいが、本当に死ぬかと、思ったんだぞ!」


「(ユウリ、チョロい)」


 心からそう思っての発言なのだろうが、本当に身の危険を感じた。

 シルドから妙な視線を感じつつも、とりあえず近くの丸太に腰掛けて小休止することにした。


 特にあのセミはヤバかった。あれがもし突撃してきていたら間違いなく死んでた。

 それと同時に妙な魔物でもあった。そのセミ自体、最初は他の昆虫と同様に威嚇してきていたが、あの蝶が離れた途端にそれらとは違って、凝視するだけになったな。他の昆虫は有無を言わさず特攻かましてきたのに。


 しかも蝶を倒したあのあとも大変だった。結局全ての(あのセミ除く)昆虫を相手にすることになった。だが、倒す前よりも動きが鈍かったり、ステータスが弱体化したりしていた。魔物が魔物をモンスターテイマーをするなんて考えもしなかったが、次々補充される犠牲を恐れない軍団には苦戦を強いられた。

 一方のセミはというといつの間にか消えていて、探せなかった。


 しかし苦戦したとはいえ、あの場にいた昆虫の魔物は全てワームよりも弱かった。あいつと比べるのはどうかと思うが、もしかしたらあのワーム一体で軍団を全滅させられるかもしれないと思うほどだ。

 印象に残ったのはセミの戦闘力がヤバめで、戦わなくてよかったことと、ムカデが超耐久だったことだ。

 あの強そうなカマキリでもD以上Cランク未満だった。それでも強力なのは間違いないが、そいつがワームと戦えば一瞬で焼却なのは間違いない。


「大袈裟。そんな強敵、カントリ林にはいない」


「いや、中には本当にヤバいセミがいたから。アレと戦ってたら死んでたから」


「「セミ?」」


「セミ」


 2人揃ってキョトンとする。そんな目で俺を見ないでくれ。本当に嫌な予感しかしない。それを知らずに俺をあんな場所に特攻させてたなんて考えたくもない。


「ユウリ、それは確かか?」


「確かだ。レベルは80を越えてたし、ステータスもヤバかった」


「「……」」


 なぜそこで黙り込む。もしかしてもしかするのか?


「おーい、アイアスさん? シルドさん?」


「私はあの林にそこまで強力な魔物がいるとは知らなかった。《邪眼》でステータスを見たなら個体名や種族名はどうだった?」


 彼らには《邪眼》のことを《献身》に纏わるすったもんだがあった際、それを知らせるのと同じタイミングで話しているので知っているのだ。

 自分の手札を他人に教えるのはよくないことかもしれないが、彼らなら問題ないだろう。あと一緒になって考えてくれる人がいないと、それらを磨く機会もないままになってしまう。


 なお、2人のステータスは分からなかった。逆説的に言えば、分かったのはかなり差があるということだ。


「それは……」


「「それは?」」


「ステータスに差がありすぎて見れなかった」


「そこまで、か?」


「そこまでだ」


 別に俺が弱いわけではない。あのセミが規格外に強いだけだ。どう考えても蜘蛛とかカマキリとかの方が食物連鎖的に強そうだが、完全実力主義の魔物の世界でそういうのはあまり関係ないのかもしれない。


「……」


「強そう。久しぶりに腕がなる」


 そのことに対しての2人の反応はほぼ逆をいっていた。アイアスは考え込み、シルドは腕をブンブン振ってやる気のほどをアピールする。……俺の心配はしてくれないのか?


「勝てそうか?」


「分からない。レベルやステータスでは上回っていても、向こうにそれを覆す『なにか』があっては負けるかもしれない。こういった状況の際は情報量がものを言う。今、無策で飛び込むのは危険だろう」


 おいおい、マジか。それはつまり、2人はレベル80オーバーってことなのかよ。だがそれに驚くと同時に、シルドがノープランで突っ込もうとするのをアイアスが制して、堅実な作戦を立てるという構図が見えてきた。


「とりあえず、今日は一旦帰ろう。そのセミの調査は後日私たちが行う」


「俺はついていかなくていいのか?」


「それは危険。足手纏いになる」


「だよな……」


 シルドは俺の同行案をバッサリ切り捨てる。確かに彼女の言う通りだ。言い方はストレート過ぎるが、そう言うのは俺の身を案じているからこそだと考えたい。


「場所を教えてくれればそれで問題ない。それに私たちもユウリを完全に守り切れるわけではないからね」


「けど、あのセミ、いつの間にかいなくなってたからな。もうこの林からいなくなってる可能性もあると思うんだが?」


 この合流場所までの道のりでも、不審な影や音とかは無かったし、視線も感じなかった。その上《察知》にも引っかからなかったから、もうこの林にはいないのだと思った。

 実際無事だったからそういう結論に到達するわけだが、アイアスの考えは違った。


「もし魔物が外に出ているのなら、近くの村や町はもっと警備を強化しなければならなくなる。しかし道中にそういったものは見なかっただろう? 理由は分からないが、ここの昆虫の魔物は、基本的にこの林から外には出ない。十中八九まだこの林の中にいる」


「ってことは、ここで雑談してる間に襲われる可能性もあるってことか!?」


「ある。でもそんな気配はない。それにここは林の中でも浅いところ」


「出会す可能性は低いが、油断はできない。準備ができ次第この場を離れよう」


 とは言われても、俺は討伐したこのゴールデンバタフライの羽しか用意しなければならない荷物はない。他は既に身につけたり、収納したりしてある。……いや、この羽も収納した方がいいか。






 数分も経たずに準備は終わり、俺たちは馬車を待たせている地点に戻り、カントリ林をあとにする。

 だが、馬車に乗ってから数分も経たずに2人は臨戦態勢になり、しきりに馬車の外を警戒して見渡している。


「2人揃ってどうしたんだ?」


「気のせいかもしれないが、何者かに付けられているかもしれない。ユウリも用心してくれ」


「間違いない。けど、場所が分からない。ここは見晴らしがいいのに」


 確かに、この辺には身を隠せるような物陰のない平野だし、この馬車は割と速い。これに一定の距離を保ちつつ、隠れながら尾行なんてどうやったらできるのか……。


「……もしかして」


「どうした、ユウリ?」


「閃いた?」


 馬車から身を乗り出して、《邪眼》を使い、自分の視界内の空を徹底的に捜索する。しかし、いくら見てもそこにあるのは青く澄み渡った雲1つない大空があるだけだ。不審なものはなに1つない。


「上かもしれない、って思ったがなにも見当たらなかった」


「「……」」


 2人はそれに倣って、すぐさま馬車から顔を出して上空を見上げて目を凝らし、しばらく沈黙する。

 こいつら仲いいな。


「見つからないな。しかし、用心するに越したことはない」


「うん。仕掛けてくる日を命日にする」


「……ところで、2人はなんの依頼を受けてたんだ?」


 シルドの発言で話が不穏な方向へ進みかけていたので、その空気を和らげようと、別の話題を振る。それにこれは俺が気になっていたことでもある。


「ゴールデンバタフライの討伐。数は1匹」


「……なるほど、俺に討伐させて、2人は俺を見守ってたってわけか」


「ああ。そうすれば君を影から見守りつつ、同時に依頼も行える」


「合理的だが、俺からするとサボってたようにしか聞こえないぞ」


 なるほどな。危険なことだらけのミッションだったが、万が一の時は2人が助けに入ってくれてたのか。

 危険ではあったが、まあ、(アレ)に討伐依頼が出るのは納得だ。


「それにしても、ユウリ。あの手足のアレはなに?」


 アレとは、《硬化》と《?化》を施して鱗で覆った鎧みたいな状態のことか。陰ながら見守ってたらしいから、その時見たのだろう。


「あー……。そういえばシルドは見てないんだっけか?」


「そんなことできるなんて初耳。アイアスは知ってた?」


 うん、言ってないからな。訓練の最中に見せたら、シルドが手足に纏わりついて集中できなくなると思ったので、彼女がいない場所でしか使っていなかった。


「……? それがなにかあるのか?」


「おのれアイアス。そんなおもしろそうなものを独り占めなんて、許せない」


「別に独り占めなんてしてないよ。シルドはユウリの特性が気になるのかな?」


「とても気になる。多分これが匂いの原因」


 字面だけ聞くと、洗剤とかのCMに出てきそうなセリフだ。ってか、この鱗が? 全然臭わないが……。


「臭いってことか?」


「違う。むしろとてもいい匂い。落ち着く。自然の偉大さを感じる。澄んだ清流や土壌が作る生命力に満ち満ちた大木みたいな空気感。とてもいい」


 シルドは目を輝かせてこれでもかと力説する。正直言って俺にはサッパリだが、彼女はなにかを感じ取っているようだ。


「アイアス、そんな感じの匂いがするか?」


「いや、私は分からないが、シルドがそう言うならそうなのだろう」


 これが匂いフェチの実力か。


「ぜひ調べさせて欲しい。あと鱗を1つ欲しい」


「これ、俺から離れると消えるんだが」


「がーん!」


 その日のうちに、アイアスとシルドの2人は、俺が討伐したゴールデンバタフライを最寄りのギルドに持ち込んだ。その際に分かったことだが、ミッション云々の事情は最初から伝えられていたらしく、今回の討伐は俺の冒険者としての実績になった。これでBランクに少し近づいたらしい。



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