第34話 出し物論争勃発!?
学園祭までの期間、藤永学園ではちょくちょく授業がLHRに変わる。その時間に本格的な準備期間が始まるまでに、様々な話し合いや準備を進めていくためである。
「じゃあ、早速始めるわよ。実行委員、前に出て」
先生の合図で朔夜と咲緒理が前に出た。
前日に1回目の実行委員会があり、そこで当日の詳しい概要を聞いた。クラスで話し合いをするにあたり、朔夜と咲緒理の2人はその時に今後の大まかな役割を決めた。基本的な話し合いの司会を咲緒理がして、その記録とまとめを朔夜がやることになった。もちろん、全体に向けての説明などは朔夜も一緒にやることになっている。
早速2人は概要の説明を始めた。この日の話し合いは、まず当日の出し物を決めることになった。時間があれば、準備期間中の担当も決める予定だ。
「当日の出し物ですが、2つの部門があります。それぞれでコンテストがあって、主に売り上げとアンケートでその勝敗を決めます」
「部門は模擬店部門と展示・実演部門だ。模擬店には、ゲーム関係やお化け屋敷なんかも含まれている。展示・実演は劇や実験、展示発表が主に含まれる」
「出し物で何か意見はありますか?」
咲緒理がそう聞くと、次々と手が挙げられた。順に指名し、各意見を朔夜が黒板に書いていく。
「――今のところ意見はゲームセンター、焼きそば、フルーツパーラー、カレー屋、甘味処、お化け屋敷に占いの館か」
「この感じだと模擬店部門で、食べ物関係になりそうだね。でも……」
その都度、賛成か聞いているがあまりその声が上がっていない。
「この中から決めるのは至難だな」
黒板を見つめながら朔夜は眉をひそめた。咲緒理も肩を竦める。
「そうだね……。他に何か意見はありますか?」
「はい」
改めて聞くと、今度は佳穂が手を挙げた。
「カフェなんてどうですか? 雰囲気は喫茶店みたいな感じで」
「佳穂らしいね。では、この意見はどうですか?」
「「「「意義ないでーす」」」」
それまでとは打って変わって、クラス中から賛成の声が上がった。咲緒理は少し驚きつつも、念のために賛成者の数を数えた。クラスの過半数が賛成しており、2-Aの出し物は佳穂が提案したカフェに決定した。
「それじゃあ、次は……」
「サオリ!」
そのまま次の話し合いに入ろうとしたところで声が上がった。咲緒理を呼んだのはアンジュだった。
「どうしたの、アンジュ」
「当日の時は、制服でやるの?」
咲緒理は目を丸くし、朔夜を見た。朔夜は手元の資料のページを捲った。
「……基本的に服装は自由だが、飲食店の場合は必ずエプロンの着用が義務付けられているな」
「そうすると、制服に皆でお揃いのエプロンを着て、になるのかな?」
「それイヤ!」
「えっ?」
急な反対発言に咲緒理だけじゃなくクラス中が驚いた。一体アンジュは何の意見を出すのかと、皆が注目した。
「せっかく日本に来て初めての学園祭よ。もっと楽しみたいの。どうせならもっと工夫してやりたいの!」
「……それもそうだね」
せっかく準備期間もたくさんあるし、何か凝ったことをしても良さそうだと咲緒理は考えた。
「制服が嫌ってことは、他の服が良いってこと?」
「そう。喫茶店風のカフェでしょ? それなら女の子はウェイトレス、男の子はウェイターでどうかしら?」
「あら、良さそうね」
アンジュの意見に真っ先に賛同したのは桜先生だった。教室を見渡しても、反応は良さそうだ。咲緒理はアンジュの意見をそのまま当日の制服として決定することにした。
「じゃあ当日の制服はそれで決定します。それじゃあ、次は準備班を――」
「ちょっと待った!」
アンジュに続いて、今度はアレックスが声を上げて立ち上がった。
「どうしたの、アレックス君」
「俺からも1つ提案があります」
アレックスはそう言い、チラッと匡利の方を見た。そして、何やら意味ありげに笑った。それに気付いた匡利は、訝しそうに眉をひそめてアレックスを見返すが、アレックスはその視線を無視して前を向いた。
「この学園祭は、学園全体でやるんだよね?」
「うん、そうだけれど……」
「それなら、同じ様なことをやるクラスが絶対にないとは言い切れないわけだよね?」
「確かに全く被らない可能性は極めて低いが、それはこの場合は仕方ないとも言える」
「サクヤの言うことも尤もだね。だからこそ、俺はこのクラスでしかできないあることを提案するよ」
一体アレックスは何を言い出すのだろうかと、クラス中が彼に注目した。慶人や雅樹は何かを察しているのか、若干嫌そうに彼を見つめた。
「ほら、このクラスには俺以外にケイト・アキトシ・サクヤ・セイジ・レイ・マサキっていう、かなりの逸材がいるじゃないか」
名指しで言われた慶人たちはますます怪訝な目でアレックスを見た。かなり鋭い視線もあるはずだが、アレックスは気付いていないのか、それとも無視をしているのか話をそのまま続けた。
「彼らの人気は絶大だ。その彼らを思いっきり前面に出してはどうだろうか?」
「えーっと……アレックス君は何か方法を考えているの?」
「そうだな……」
咲緒理が聞くと、アレックスは少し考えるそぶりを見せた。しかし、彼の中ではどうするかはとっくに決まっていた。ニヤッと口元に笑みを浮かべて慶人たちに目を向けた。
「コスプレなんてどうかな。なんなら、女装をさせてみては?」
「えっ……」
予想外過ぎる提案に咲緒理は絶句した。クラスの皆も言葉を失っている。唯一慶人だけがアレックスに抗議するために立ち上がった。
「おい、アレックス! ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!?」
「失礼な。俺はいたって真面目だよ、ケイト」
「女装とか言っている時点でふざているって言っているんだ!」
「良いじゃないか。似合いそうなんだし」
「そういう問題じゃねぇ!」
慶人の抗議に同意するように匡利たちも頷いている。しかし、アレックスはしれっとした態度で全く応えていない。
「せ、先生、どうしましょう……」
「そうねぇ……」
確実に話がまとまらないと考えた咲緒理は先生に意見を求めた。慶人たちやアレックスも先生に注目した。
「……いいんじゃないかしら? 私は賛成よ」
桜先生はにっこりと笑みを浮かべた。先生のお墨付きをもらったアレックスは小さくガッツポーズをした。慶人たちは抗議しようとしたが、いかにも「楽しみ」と言いたげな桜先生の表情に言葉が詰まってしまった。
「えっと、じゃあ決定……と言うことで……」
咲緒理は慶人たちの反応を伺いながらそう言った。同じ実行委員の朔夜は若干顔色を悪くしながらも、たった今決まったそれを渋々と実行委員会で提出する紙に書いていた。
「……それじゃあ、今度は当日までの準備班を決めたいと思います!」
教室の雰囲気を変えるべく、咲緒理はできるだけ明るい声を上げた。それを合図に朔夜も気持ちを切り替えて、資料を捲った。
「飲食関係の出し物の場合、当日の販売・提供の仕方にいくつかパターンがある」
今度は朔夜が説明を始めた。
1つ目は、当日に最初からすべて作るパターンだ。ある程度の仕込みは必要となるが、材料を切ったり混ぜたりするくらいで事前準備はほとんど必要としない。大抵、野外での出店のような出し物の場合がこのパターンになる。
2つ目は、当日までにほとんどの調理工程を済ませるパターンだ。当日は仕上げの火入れや組み立てのみになる。たとえば、グラタンなら器に盛るところまで済ませて当日は焼くだけにする、パフェなら当日は器に盛りつけるだけになるように材料をすべて用意する、といった風になる。どの出し物でもこのやり方は可能だが、当日に家庭科室の使用許可が必要になる。
3つ目は、当日までにすべて作り上げるパターンだ。当日は盛りつけるだけか、ただ提供するだけになる。この場合、事前準備がかなり大変になるが、当日はドリンク以外給仕に集中できるし、家庭科室を利用しない分どの場所でやることになっても時間ロスなどが軽減される。また、事前に作るので可能な限りメニューの種類を豊富にできる。
「――以上が当日の販売・提供のパターンになるが、うちのクラスの場合はパターン2か3がいいだろうな」
朔夜がそう言うと、男子生徒の1人が手を挙げた。
「どっちのパターンも事前準備がかなり多くなると思うけど、作った物は当日までどうやって保管するんだ? パターン3なんて種類が多ければかなりの量になると思うけど……」
「いずれの場合も希望を出せば、容量が中から大のアイテムバッグを学校側から2つまで貸し出してもらえる。生徒の私物を用意する場合は、事前申請で許可を貰えば使用ができる」
朔夜の説明でその男子生徒だけでなく、クラス中が納得したようだった。その後に多数決を取り、結果パターン3でやることになった。
「じゃあ、当日までの準備班になりますが……」
「衣裳係は必要じゃないかな? 天宮君たちの衣裳もそうだけど、皆が着る物もできたらオリジナルでお揃いが良いと思うし」
「調理係も必要だよな。当日までに結構な数の用意がいるし」
「内装も考えなきゃいけないよね。看板とかインテリアも考えた方が良いと思うし……」
「そこまで拘るなら、BGMとかも拘った方がいいんじゃないか?」
クラス中から色々な意見が飛び交う中、桜先生が手を挙げた。すると、一瞬で静まり返った。
「先生から提案なんだけれど、係は衣裳係・調理係・内装係の3つにしましょう。内装係は更にインテリア班や音響班などに分けるの。基本は各係で決めるけれど、定期的に話し合いなどで報告をして皆からの意見を聞いたらどうかしら?」
桜先生がそう言うとクラス中から賛成の声が上がった。
「それでひとつ大事なことなんだけれど、皆の意見を聞く限り衣裳とメニューにそれなりの技術がいると思うのよ。だから衣裳係は《裁縫》のスキル、調理係は《料理》または《製菓》のスキルを持っている人を集中させましょうか。できれば、そうね……レベル15以上は欲しいわね」
そう言うと、クラスメイト達は顔を見合わせた。レベル15となれば一般的レベルとは言えそれなりの技術力となる。高校生でそれほどのレベルを持っているとなれば、かなりの経験者だ。
桜先生はそれぞれのスキルをレベル15以上の人に手を挙げてもらうことにした。具体的な数字は個人情報なので、それ以上は聞かなかった。優梨・葵・咲緒理・佳穂・紗奈の5人は3つすべてのスキルの時に手を挙げている。
《料理》と《製菓》はそれなりに人数がいたが、《裁縫》は優梨たち以外に4人しかいなかった。その4人は希望を聞いた上で、そのまま衣裳係に決まった。さらにレベル15までは行かないが、《裁縫》のスキルを持った人が2人衣裳係を希望して決まった。
調理係は内装係との兼ね合いから希望を聞き、13人が決まった。残りの人は内装係となった。
「さて……日向さんたちはどうする?」
優梨たち5人は他の皆が決まるまで待って、それぞれの人数を見た上で最後に係を決めることになった。
「できたら、衣裳係がちょっと少ないから3人くらいなってほしいんだけれど……」
桜先生がそう言うと、優梨・葵・咲緒理の3人は衣裳係に決めた。紗奈は調理係に決め、佳穂は内装係に決まった。
その後、各係で集まって次の話し合いの日までに用意する物や考えることを決めた。優梨たち衣裳係は、とりあえず全員共通のウエイター・ウエイトレスの衣裳デザインを次までに考えてくることになった。
そこまで話し合ったところで、この日のLHRは終わった。
その日の昼休み、優梨たちはいつも通り屋上でお弁当を食べていた。男女分かれているのもいつも通りだが、雰囲気がいつもと少し違っている。慶人たち男子の気持ちが完全に沈んでいた。原因はもちろん、話し合いで決まった女装だ。
「……ずっとあの調子だね」と優梨。
「そうだね……」と葵。
「気持ちは分からなくないけれど……」と紗奈。
「よっぽど嫌なのね」と佳穂。
極力小さい声で話しているが、それほど距離は離れていないから慶人たちにも聞こえている。咲緒理は実行委員として決めた立場上何も言えなかった。慶人たちの方から大きなため息が聞こえてきた。
どうやって宥めようかと、咲緒理たちは頭を悩ませた。すると、優梨は軽く息を吐いて手にしていたお弁当を置いた。そのまま慶人たちの方に行き、一番近かった慶人の横にしゃがんで肩を叩いた。
「なんだ、優」
「安心して、慶人」
「……何をだ」
「私が慶人にちゃんと似合う服をしっかり考えるからね!」
「…………」
「あっ、もちろん皆の服もだからね」
満面の笑みでそう言う優梨。冗談でもなんでもなく、親切心から本気で言っている。しかし、慶人たちの反応は優梨が思っていたのと違った。
「……フォローにも慰めにもなってねぇよ」
がっくりと項垂れて、絞り出すような声で慶人は言った。
「うーん……さすが優と言うか、なんて言うか……」
誠史は苦笑し、言葉を探すがそれ以上見つからなかった。
「……あれは冗談じゃないな、玲」
「あぁ。むしろ、本気で慰めになると思って言っていると思うぞ」
朔夜と玲がこそこそと話すが、すぐ側にいる慶人たちにはしっかりと聞こえている。
「……腹をくくった方が良さそうだな」
周りの様子を見た匡利は、完全に諦めモードでそう呟いた。
「……ハァ」
もはや何も言葉が出ない雅樹は大きくため息を吐いた。
慶人たちは学園祭当日のことを考え、再度大きくため息を吐いて肩を落とした。慰めたつもりの優梨は慶人たちの反応にどうしたのかと首を傾げていた。




