第32話 始動! 学園祭準備
10月に入って最初の月曜日。この日は女子バスケ部が朝練の一環で、部員同士で練習試合が行われた。もちろん佳穂は選手として試合に参加している。優梨たち女子4人は、一緒にその試合を見に来ていた。
「キャーッ! 久乃木先輩、頑張ってー!」
「久乃木先輩、かっこいいー!」
優梨たちの周りには佳穂のファンが多く集まっていた。その大半が女子で、佳穂の活躍に歓声が上がっている。
「ハァ~、かっこいいね。佳穂」
優梨も佳穂の姿を見ながらため息交じりにそう言った。
「それにしても、ファンが多いねぇ……女子も男子も」
葵の視線の先には一生懸命佳穂に声援を送るファンの姿がある。
「向こうのファンが持っている弾幕に『LOVE 佳穂』って書いてあるよ。ファンクラブかな?」
咲緒理が目にしているのは、弾幕を手に応援をするファンクラブの会員らしき生徒たちだ。
「あっ、試合が終わるみたいだよ」
紗奈の言葉と同時に笛が鳴り、選手たちが整列している。試合結果は佳穂がいるチームが圧勝していた。チームに貢献した佳穂は、挨拶が終わるとファンの女の子たちに囲まれている。
「サオ、1限までどれくらい?」
「えーっと……20分くらいかな。佳穂、間に合うかな」
他の部員たちのほとんどは着替えに向かっているが、佳穂は未だにファンの子たちと話している。
「今日の1限って、最初は集会だっけ?」と、紗奈が聞いた。
「うん。3学年全クラスが集まるから、大講堂でするって言ってたかな? その後は、各クラスでLHRだって」
優梨たちは雑談をしながら佳穂を待つが、なかなかファンの子たちが佳穂を離さない。そのうちファンクラブ会長が一喝し、やっと佳穂は着替えに向かえた。それでもギリギリの時間で、佳穂の着替えが終わると優梨たちは大慌てで大講堂へ向かった。
何とか集会が始まる直前に優梨たちは大講堂に着いた。席はクラスごとに分かれ、あとは自由に座っている。当然、優梨たちは1か所に集まって座っている。
「あっ、生徒会だ」
優梨の視線の先には壇上に用意された椅子に座る生徒会役員がいた。生徒会長の慶人、副会長の匡利、書記の玲はもちろんそこにいる。そして、司会として立つ女子生徒を目にすると、優梨は顔をしかめた。
彼女は生徒会会計の宮岸梨香子だ。特進の隣のクラスで龍一や治士、侑哉と一緒だ。長い黒髪と気の強そうな切れ長の瞳が印象的な美少女だ。
そして、匡利が好きで彼と接点を持つために生徒会会計になり、匡利が副部長を務めるサッカー部のマネージャーをやっている。散々優梨に嫌がらせを繰り返し、今や2人は犬猿の仲だ。葵たちもほとんど関わりはないのに、その様子を見ていて彼女の印象はハッキリ言って最悪だ。
梨香子が集会の始まりを告げ、生徒会長の慶人が前に出てきた。講堂中にいる誰もが慶人に注目した。
『――本日より、10月最後の土曜日および日曜日に行われる学園祭への準備が始まる』
慶人の言葉と同時に講堂中で歓声が上がった。そう、藤永学園はこれから学園祭の季節へ突入する。
藤永学園の学園祭は高等部だけでなく、中等部・大学部でも同時に行われる大規模なものだ。初等部は基本的に保護者がバザーを開いたり上の学年の子がイベントに出たりするくらいで、基本的には客として参加する。
1年間の中で一番の目玉の行事とも言え、学園中の力の入れ方がかなり違う。毎年のことだが、一番盛り上がるので生徒たちも一段と楽しみにしている。
生徒会からは学園祭当日までの簡単流れや注意事項が告げられた。一通り済むと、集会は終わった。生徒たちは大講堂を出てそれぞれの教室へと向かっている。
「これから教室に戻って色々話し合いをするんだよね。何かな?」
「まずは実行委員を決めると思うけど……あっ」
葵と話していた優梨は、見知った後姿を目にして声を上げた。優梨たちの前方にはB組の生徒たちがいる。その一番後ろに侑哉がいて、優梨の声が聞こえたのか侑哉がこちらを振り返った。
「やっほー、沖田くん」
「なんや、お嬢さんらか」
声の主が分かると、侑哉は微笑んだ。立ち止まって優梨たちが側に来るのを待った。葵はチラッと後ろを見ると、咲緒理が戸惑っているような気がした。それに気付かないのか、優梨と侑哉は話をし始めた。
「あんな、A組ってもう学園祭実行委員は決めたんか?」
「実行委員? ううん、まだだよ。多分、これから決めるんじゃないかな。B組はもう決まっているの?」
「あぁ。それが俺なんやけどな、A組は誰か気になったんや」
「へぇ……」
優梨はチラッと後ろの咲緒理を見た。葵と紗奈もチラチラとお互いを見た後に咲緒理に目を向けた。咲緒理は俯いていてその視線に気付いていない。佳穂は咲緒理の方に目を向けないようにしている。その様子をざっと見た優梨は、侑哉に視線を戻した。
「決まっていないけれど、確か朔夜が結構前になりたいって言っていたような気がするかな」
「へぇ、石井か。なんや意外やな」
侑哉は朔夜とももちろん親しい。相手が親しい人だと知って、侑哉は少し安心したような表情を浮かべていた。
それから教室に戻るまでの間、優梨たちと侑哉は取り留めのない会話を続けた。その間、咲緒理は葵の隣で何も言わずに話を聞いていて、時々話しかけられた時に返事をするくらいだ。
「(もっと積極的に話せばいいのになぁ……)」
隣に立つ葵は咲緒理の様子を見てそう思った。
そのうち、あっという間に教室に着いた。
「ほな、またなぁ」
「うん、じゃあねー」
侑哉は軽く手を振ってB組の教室に入っていった。優梨たちも手を振り返し、同じ様に教室に入った。
教室はしばらくがやがやと賑やかだったが、桜先生が来ると静かになった。
「じゃあ、もう一度改めて説明します」
桜先生は早速学園祭の話を始め、生徒会からもされた説明をした。
学園祭は10月最後の土日の2日間で開催される。1日目は校内発表で、基本的に学園の関係者とその家族や招待者が来ることになっている。2日目は一般公開で、さらに大勢の来客があって一番盛り上がる。
各クラスの発表に加え、各部活や個人での発表、野外ステージでのイベントなど様々に行われる。さらに、2日目の夕方から夜にかけて、学園の生徒と教師のみの参加で後夜祭もある。
やることは盛りだくさんで、その分準備にもかなり力が入る。10月の後半になると、授業が午前のみの半日準備の期間が3日間あり、その後土日を除いた学園祭までの7日間は終日準備期間となる。それに向け、授業なども少々ハードになる予定だ。
「――じゃあ、早速今から実行委員を決めたいと思います」
桜先生がそう言うと、一瞬教室がざわついた。
「今後の話し合いや活動は実行委員を中心に行うのよ。その実行委員が代表して生徒会と一緒に学園祭を盛り上げるの」
学園祭実行委員は男女ペアで決められる。クラスをまとめ、学園祭までのスケジュール調整を行い、生徒会とクラスの伝達もする。他にも発注などやることはたくさんあって忙しく、かなり大変だ。その分、やりがいも十分ある。ただ、毎年大変な思いをしている実行委員を目にしているせいか、なかなか決めるのも大変だったりする。
「自薦他薦は問わないから、誰かやってくれないかしら?」
桜先生はそう言って教室を見渡すが、皆はそっぽを向いて視線を合わせないようにしている。唯一朔夜だけが手を挙げ、他に男子の立候補がいないということで即決した。残りは女子だけだ。さすがに朔夜のファンも朔夜に近づけるチャンスとは言え、二の足を踏んでいる。このまま決まらなければ、くじ引きで決めることになるなと、誰もが思った時だ。
「はい」
紗奈が手を挙げた。先生に指されると紗奈はその場に立ち上がった。
「実行委員に推薦したい人がいます」
一体誰だろうかと、教室が少しざわついた。すると紗奈は、隣の席に座る咲緒理を見た。
「日向さんです」
名前を呼ばれた咲緒理はもちろん、優梨たちも驚いたように紗奈を見ている。その視線に気付いていないのか、それとも気にしていないのか紗奈はそのまま推薦理由を説明しだした。
「彼女なら責任感もありますし、全体の指揮をしっかり執ってくれると思います」
「えっ、ちょ……っ!」
「それに石井くんとも親しいですし、良いペアになると思います」
咲緒理は途中で紗奈を止めようと手を伸ばすが、紗奈は気にせずどんどん話した。桜先生は紗奈の話を聞きしばらく考えた。何か物事をクラスで決める際、意見がまとまりそうになかったり滞ったりした場合、最終決定権は担任の桜先生にある。
「そうねぇ。他に立候補する人は……いなさそうねぇ。このまま多数決取っても結局変わらないわよね……」
ぽつぽつと呟きながら考える桜先生を咲緒理はハラハラとした表情で見つめた。しばらくたって桜先生がにこりと笑った。
「じゃあ、お願いするわね。日向さん」
「えっ……!?」
「はい、決定ね! じゃあ、日向さんと石井くん。実行委員、よろしくお願いね」
桜先生の言葉と同時にクラス中から拍手が起こった。咲緒理はショックを受けたように口をあんぐりと開けて固まっている。
「(う、嘘でしょー!?)」
咲緒理の心の叫びは教室にいる誰にも届かなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この章はしばらく続きますので、お付き合いよろしくお願いします。
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蒼月憂




