第27話 紗奈の引っ越し ④
これで紗奈の引っ越し編は終わりです。
買い物って楽しいですよね。
翌日の昼過ぎ、紗奈は優梨・葵・咲緒理と一緒に買い物に出ている。向かっている先は、家庭用の魔道具を扱っている大型の店だ。
「魔道具で揃えるんだね」
移動の電車の中で紗奈は優梨たちにそう言った。
「うん。何しろ電気とか水道の配管とかまでは難しいからね。魔道具ならそういうの関係ないし」
優梨にそう言われ、確かにその通りだと紗奈は思った。
「でも、魔道具って結構高いよね……?」
「うん。でも、前に俊哉さんが慶人にお金預けていたじゃない? あれ、持ってきているよ」
ニコッと笑いながら葵が言う。紗奈は以前に俊哉に会った時に見た分厚い封筒のことを思い出した。
「私たちがあの家に来た時も同じだったから、気にしなくて大丈夫だからね」
紗奈の申し訳なさそうにしている雰囲気を感じた咲緒理がそう言うと、紗奈は少し安心したように笑みを浮かべた。
電車から降りて優梨たちが向かった場所は、一見普通の電器屋と言われても違和感ないような所だ。何ならすぐ側には普通の電器屋があるくらいだ。
「まずは何から見る?」
エレベーター横の各階の案内図を見ながら優梨が聞いた。葵たちも案内図を見て考える。
「ん……やっぱり大型の物かな? キッチン、冷蔵庫、お風呂、トイレ、洗面台、洗濯機、いるなら乾燥機かな?」
「それ以外だと、レンジとかテレビ、エアコンとかかな? 紗奈ちゃん、どう?」
葵と咲緒理で粗方いるものを挙げていくと、紗奈も考えた。
「照明は最初に用意してくれていたもんね……とりあえず、そんな感じでいいかも」
「じゃあ、さっそく見に行こう」
エレベーターに乗り、キッチン用品のフロアへ向かった。
キッチン用品売り場にはキッチンカウンターからレンジ、ホットプレートなどが取り揃えられている。
「紗奈ちゃん、料理は結構しっかりやりたい方?」
「そう、だね……作るのは結構好きだから」
「それなら3口くらいは欲しいよね……」
紗奈の意見を聞きながら、優梨たちで目ぼしい物を探していく。最終的に3口コンロで下に大型のオーブンが付いた物になり、同じデザインで下に食器洗浄機付きの作業台とシンクも買うことになった。冷蔵庫はさんざん悩んだ結果、容量が大きめの物にすることにした。他には炊飯器にトースター機能付きのレンジも買った。どれも最新式の物ばかり選んで買うので、店員が目を丸くしつつもホクホク顔になり、少し割引してもらえた上にジューサーまでつけてくれた。
買ったものは、いつも通り持ってきたアイテムバックに見せかけた鞄に入れつつ《無限収納》にしまっていた。
その次に向かったのはお風呂やトイレなど水回り関係のフロアだ。
お風呂場は黒っぽいタイルの壁と床になっているので、それに合わせたお風呂を選ぶ。シンプルなのと多少機能が付いたので悩んだが、優梨たちのすすめでジェットバス機能付きの物を買うことにした。シャワーもヘッドが大きめで水圧などの調整ができるものにした。
トイレは標準的な機能の付いたシンプルなものにした。洗面台はトイレに設置するのはシンプルなものに、脱衣所に設置するのはライトや収納棚などが充実しているタイプの物にした。さらには、コンセントを繋げばドライヤーなども使える機能付きだ。
次は洗濯機と乾燥機、エアコンのフロアに来た。洗濯機と乾燥機は少し大型サイズの物で色々とコースが選べられる最新式にした。
エアコンは空気清浄と自動掃除の機能がついていて、広い空間に対応した少し大型のものと普通サイズの物を部屋ごとに設置することにした。それなりの数にはなったが、それも問題なく支払いが完了した。
テレビなど小型家電フロアでは、少し奮発して大画面タイプのテレビを買った。ついでにDVDプレイヤーも一緒に購入することにした。紗奈の希望で吸引力の強い最新式の掃除機を買った。その他に小型の照明など、必要になりそうなものを次々と購入していった。
夕方になる頃、優梨たちは家庭用魔道具店を出た。
「ふぅ、いっぱい買ったねぇ」
お店から出て葵が伸びをしながら言った。
「その分いっぱい割引とかおまけをもらったね」
咲緒理は店員さんがキラキラとした目で会計をしつつ、割引とおまけをしてくれた時のことを思い出していた。
「帰ったら早速設置しようか」
「うん」
優梨が隣にいる紗奈に声をかけると、紗奈は笑いながら頷いた。
時間が少し遅くなったので、優梨たちは人気のない場所に移動して《瞬間移動》で家に帰った。玄関前に移動し、4人はすぐに紗奈の部屋へと移動した。
紗奈に設置場所を見てもらいながら、キッチンなど大型の物は《浮遊》で調整しながら設置をしていく。1時間後には大半の設置が完了した。テレビなど置き場所がないものは、とりあえず床に置いておいた。その後は、翌日に買う家具の相談をした。
「――こうして挙げると、結構いるもの多いね」
「予算的に余裕はあるから、全部買っても大丈夫だとは思うけど……」
一通りの物が買えそうな場所をスマホで検索し、お金の残りと必要そうな物のリストを見て4人は考えた。
「ひとまず、すぐに必要な物だけ買って、残りは追々買っていく?」
「んー、とりあえずはそうしようかな」
優梨の問いに紗奈は少し考えて答え、リストの紙を見た。
「とりあえず今必要そうなのは大型なのがダイニングテーブル、テレビ台、食器棚、ソファ、脱衣所に置く棚かな……」
紗奈はリストに印をつけながら考えていく。
「ついでにタオルとかも新調する?」
「ん……そうしようかな。今までの結構古くなったし……」
「そうしたら、お店は……このお店かな」
葵が検索して見つけたのは、大手の家具の店でさらに日用品や雑貨も扱っている所だった。満場一致でその場所に決まり、出発時間なども話し合って翌日の予定も決まった。
「ところで、衣裳部屋の棚とか本当に必要ないの?」
「うん、大丈夫だよ。とりあえず、明日くらいになれば分かるかな?」
咲緒理はそう言うが、紗奈は未だに半信半疑だった。ただ優梨たちが言うなら悪いことではないということは分かっていた。
時計を見るとすでに夕飯時で、ちょうど佳穂が呼びに来たので優梨たちはそのままダイニングルームへと移動していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の昼過ぎ、遅めの昼食を目的のお店からすぐ側のカフェで済ませた後、優梨たちは前日に検索していた店に向かった。
ダイニングテーブルは優梨たちが部屋に遊びに来ることも考慮して6人掛けのテーブルを購入した。それと一緒に同じ柄の色違いで椅子につけるクッション買った。
テレビ台はガラス戸の付いたシックなデザインの物を選んだ。そのテレビ台と一緒に並べられる収納用の棚もセットで購入を決めた。そのテレビ台の色合いに合わせてソファも選ぶことにし、サイズは少し大きめでL字型に設置できるタイプの物にした。ひじ掛けにはリモコンなどを収納できるようになっている。
キッチンの食器棚は、ガラス戸の棚と引き出しの両方がある背の高いタイプの物と、高さが低くて上に炊飯器などの家電が置けるタイプの物をセットで買うことにした。色は紗奈の希望で白を選んだ。
日用品の売り場に移動し、タオルのセットを色違いで3種類ほど買うことにした。
そのままフロアを見て行き、必要そうな物をどんどん買い物かごに入れていく。特に調理器具のコーナーで紗奈がフライパンや鍋を新調したくなり、それと一緒に他の器具も一通り揃えることにした。紗奈と一緒に優梨も色々と欲しくなり、個人的に買うことにした。
「色々な切り方ができるスライサーのセットが欲しかったんだよね。良いのがあって良かった」
「便利そうだね、それ」
優梨がホクホクとした顔で持つスライサーセットを見て紗奈が呟いた。
「便利だよ。少量なら自分で切ってもいいけど、大量になるとさすがに大変だからね。電動のでもいいけど、こっちの方が手軽なんだよね」
ニコニコと説明していると、紗奈も同じものを買い物かごの中に入れた。その後ろを見れば、葵と咲緒理も手に取っているのが見えた。
お風呂用品の売り場に行ってみると、シンプルながら可愛らしいシャンプーなどのボトルが売っていた。お風呂場のデザインに合わせて、紗奈は白い半透明のボトルを買うことにした。同じ色合いの洗面器やバスチェアも選んだ。洗面所で使う小物も色々と取りそろえた。
その後は、収納ボックスのコーナーに移動して洗面台の下や食器棚の中で使う分を選んだ。
なんだかんだと選んでいたら、途中でかごから変えた大型のカート一杯になった。レジに行くと、店員の人はギョッとしたように目を見開いたあと、応援を呼んで3人がかりでの会計になった。中々な値段にはなったが予算に問題なかった。お釣りとやたらと長いレシートを受け取り、優梨たちはお店を出た。
外はいつの間にかオレンジ色に染まり始めていた。
「ふぅ。これで一通りの買い物は終わりかな?」
優梨が紗奈の方を振り向くと。紗奈は頷いた。
「本当に皆ありがとうね。こんなに色々と付き合ってもらっちゃって」
「大丈夫だよ」
「私たちも楽しかったよ。一緒に色々と買えたしね」
葵と咲緒理が笑顔で答えると、紗奈は嬉しそうにした。
「じゃあ、帰ったら残りの荷解きもしちゃおうか」
優梨の言葉に残りの3人は声を揃えて返事をした。前日と同じように人気のない場所に移動して《瞬間移動》で帰った。
家の玄関前に現れると、慶人がそこにいた。
「慶人、ただいま!」
「おかえり。例のあれ、届いているぞ」
「早速かぁ。ちょっと急ごうか」
優梨は苦笑し、紗奈たちに先を促した。4人は足早に家に入り、その後に慶人が続いた。
「……なにこれ」
玄関ホールに紗奈の声が静かに響いた。
紗奈の目の前には、山のように積まれた様々な箱や紙袋があった。大小も様々なら、袋や箱に書いてある名前もバラバラだ。よく見れば高級ブランドの名前もあれば、一般的なブランドの名前もある。その横には洋服や靴などを収納するための白い棚がずらりと並び、同じデザイナーが考えたであろう豪華なドレッサーまである。
「いやぁ、やっぱり圧巻だね。この光景」
苦笑交じりの優梨の声に紗奈は勢いよく振り返った。
「優、何なの? これ……」
「これ? ぜーんぶ、俊哉さんから紗奈ちゃんへの贈り物だよ」
「……えぇぇえええええ!?」
玄関ホールいっぱいに紗奈の絶叫が響いた。初めて聞く大声に驚きつつ、優梨たちはいたずらが成功した子供のように笑った。紗奈は口を開いたり閉じたり何かを喋ろうとするが全く言葉が出ず、目の前の山と優梨たちを交互に見た。
「とりあえず、運ぼうか?」
滲んできた涙を拭いながら優梨は笑って言った。手分けしてそれぞれの《無限収納》にしまい、紗奈の部屋へと移動した。紗奈の部屋に着いたらそのまま衣裳部屋へと移動した。早速、俊哉から送られてきた収納棚とドレッサーを壁際に置いていく。
「まずは元々の紗奈ちゃんの服とかをしまおうか?」
優梨の言葉に紗奈は無言で服類を出していく。どこに何を入れるか決めながら収納していった。その後は大量の俊哉からの贈り物だ。それぞれ《ステータス》で《無限収納》を開き、中の物を操作して包装と中身を分離した。紗奈はこのやり方を初めて知ったようで目を丸くしていた。
その後、端の棚から順番に移動しながらしまっていった。俊哉の贈り物は優梨が思った通り、様々な種類の洋服類、靴、鞄、帽子やベルトなどの小物類、アクセサリー類、メイク道具類だった。そのどれもが紗奈の好みに合っている物ばかりで、紗奈は見れば見るほど驚いていた。
「……俊哉さんって何者?」
少し余裕を持たせてすっかり棚に収まった光景を見て紗奈は言った。優梨たちがこれほど広い衣裳部屋を必要としている理由が、これでしっかり理解できた。
「私たちも分からないんだよね」
「普段よく買うタイプの物から、自分では選ばないだろうなっていうのまであるんだけどね」
「どれもちゃんと好みに合っているし、きちんと自分たちに似合っているから本当に不思議」
優梨たち3人も苦笑しながら、自分たちの時のことを思い出していた。あの時、自分たちも今の紗奈と同じ反応をしていたなと懐かしい気持ちになった。
少し休憩を取った後、優梨たちは買った家具の設置をして紗奈の《無限収納》に入ったままだった物と買ってきた物をしまっていった。夕飯には間に合わず、翌日に残りを済ませることになった。
そして、翌日の夕方に紗奈の一連の引っ越し作業がすべて完了した。この日は佳穂も作業に加わっていた。
「はぁー、終わったねぇ」
ダイニングテーブルに座り、葵が伸びをしながらそう言った。
「皆、手伝ってくれてありがとう。お茶淹れるから待ってて」
紗奈はキッチンに行って、早速使い方を確認しつつ人数分の紅茶を淹れた。せっかくなのでアイスティーにして優梨たちのもとに持って行った。それを飲み、優梨たちは一息ついた。
「ところで、引っ越して最初の日に食事当番のことと、大浴場のルールを教えてくれたじゃない?」
「うん、そうね。何か気になった?」
佳穂が聞くと、紗奈は首を横に振った。
「それは大丈夫なの。それ以外で何かルールってあるのかなって、思って……」
その言葉で納得した優梨たちは考え始めた。
「んー、基本的に私物は自室に置くこと。共有スペースには皆も使って良い物以外は、誰のか分かるようにするか自分の場所に置くようにする、とかかな? 例えば、冷凍庫のアイスとか」と、葵。
「あと、朔夜と玲がこの家の経理担当みたいな感じだから、個人的じゃない物の買い物……例えば、食事の材料費とかは2人にレシートを渡すことかな? あとね、毎月1日に2人が前の月に共有でかかった費用の徴収をするよ」と、優梨。
「それ以外に何かあったかな……」と咲緒理。
明確に決まっているルールはそれくらいで、優梨たちはそれ以外なかなか思いつかなかった。
「……しいて言えば」
優梨たちは、声を上げた佳穂の方を振り向いた。
「暗黙のルールかしら」
「暗黙のルール?」
紗奈は首を傾げたが、優梨たちは納得したように頷いた。
「つまり、慶人たちと一緒に『こうしよう』って話し合って決めたわけじゃないけれど、なんとなく私たちの間で決まっていることよ」
「どんなことなの?」
「一番のルールは『特別な用がない限り、異性同士で個人の部屋で2人きりにならない』かしら」
「……恋愛禁止っていうわけじゃない、よね?」
「……そうね。そういうわけじゃないわ」
恐る恐る聞く紗奈に佳穂は何とも言えない表情で返事をする。それを聞いて紗奈は少し安心したような表情を浮かべた。
「あとは……何か悩んだり困ったりした時は独りで抱え込まない、ってことかな?」
「全部話さなきゃいけないっていうわけじゃないけど、そういう時こそ相談してほしいの」
「私たちは“家族”だから、遠慮しないでね」
優梨・葵・咲緒理が順にそう言い、紗奈は咲緒理の“家族”という言葉に胸が熱くなった。
「……うん、ありがとう」
紗奈はこれまで感じたことない気持ちでいっぱいになり、思わず微笑みが浮かんだ。自然と言葉が出て、優梨たちは嬉しそうにしていた。
その日、夕食が終わってそれぞれの時間になった時、紗奈は新しい自分の部屋を1つずつ回った。今までにない広さと豪華さと充実ぶりに紗奈は笑みが止まらなかった。衣裳部屋に関しては、改めて見ても圧倒されるばかりで苦笑が浮かんだ。俊哉には、夕飯前に慶人に頼んで連絡をした。紗奈のお礼に俊哉はとても嬉しそうにしていた。
数日間はバタバタとしていて中々実感が沸かなかったが、紗奈は改めて自分の新しい日常の始まりを感じていた。
「――ずっと、続くといいな」
少しの不安と期待交じりの嬉しそうな声が、紗奈の広いリビングに静かに響いていた。
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