表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/109

第1話 日常 前編

最初なので説明が多いです

 

 時は現代。

 人間が魔力とスキルを得てから世界は魔法と科学の両方が発展していた。国ごとにその特色は現れており、例えるならばアメリカでは科学が、ヨーロッパでは魔法がより発展していた。ヨーロッパ・アフリカ・アメリカ大陸の間にある4つの大陸や島々では、科学はほとんど発展せずに魔法や魔道具が大いに発展していた。

 そして、科学と魔法の両方が同じように発展している数少ない国の1つが、日本だ。


 その日本の東京都の某所に一般の家庭に比べて広大な敷地を誇る屋敷がある。その屋敷は四方がぐるりとレンガの塀で囲われており、高さも相当あった。唯一正面にある門も塀と同じ高さで、かなり重厚そうに見える。表札は見当たらず、門の横には小さなポストがあるだけ。

 おそらくどこかの名家の別宅か何かなのだろう、近くに住む人や仕事で近くを訪れる人はそう考えていた。人の出入りをほぼ見かけることはなく、どんな人が生活しているのかは、誰も知らなかった。


 そして、その屋敷にはある“噂”があった。住んでいるのは成人していない子供だけで、彼らの許可がなければ敷地には決して入れないのだと……。さらに塀と門の内側は、外から想像する以上のモノがあるのだと……


 ただの噂に過ぎないと言われているこれらが、実は真実なのだということを周囲の人々は知る由もなかった……




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 4月初旬のある日、優梨はいつもより少し早く目を覚ました。

 天蓋付きのクィーンサイズのベッドから降り、一緒に寝ていた大きな鳥のぬいぐるみを手にした。寝室にしては広すぎるくらいの部屋の中でもひときわ大きな棚の扉を開けた。そこには今手にしているのと同じくらいの大きさのぬいぐるみが何種類も並んでいる。その中で一カ所だけ空いている所に優梨は持っていたぬいぐるみをしまい、扉を閉めた。

 次にベッド脇のポールハンガーにかかっていた制服に着替え始めた。あらかた終えると、勉強机の上のカバンを手にした。寝室の扉は2つあり、手前の扉から優梨は部屋を出た。

 寝室の外は長い廊下が続き、所々に扉がある。しばらく進むと右側に広い空間が広がる。廊下部分より1段低くなっており、手前がリビングエリアで奥がダイニングエリアだ。優梨はそのまま廊下を進んで扉から出た。

 扉の向こうは外ではなく、まだ室内だった。それなりに広い空間で、中央に絨毯が敷かれている。右側の壁には窓が並び、正面には優梨が出てきたのと同じような扉が1つある。どちらもドアの側には呼び鈴のような小さなボタンがある。左側の壁にはさらに大きい観音開きの扉があった。


「……まだ大丈夫か」


 腕時計を見て優梨はそう呟くと、歩を進めて観音開きの扉を開けた。扉の向こうは階段だった。赤いカーペットが敷かれた上下に続く階段を優梨は駆け下りた。何度か同じような踊り場を通り過ぎ、一番下の階の観音扉を開けた。

 扉の向こうはやっぱり広い空間で、上の階と違って中央は吹き抜けになっている。すぐ目の前に大きな階段があり、下りた先は広々とした玄関ホールだ。天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられ、床は綺麗に磨かれた大理石だ。

 優梨は階段を下りると正面の玄関には向かわずに左に折れ、2つある扉のうちの1つをくぐった。

 その先には長く広い廊下が続き、数メートルごとに扉がある。高い天井と同じように背の高い窓からはレースカーテン越しに日の光が入り、廊下を明るく照らしている。

 その廊下を優梨はどんどん奥へと進んでいく。しばらくして1つの扉の前で立ち止まり、開けて中を覗いた。

 そこはダイニングルームで、白いテーブルクロスのかかった長テーブルがある。優梨が扉を開ける音でその場にいた何人かがこちらを振り返った。


「おはよう、皆」

「おはよう、優梨」


 中にいたのは6人の少年と1人の少女だ。全員優梨と同じくらいの年齢で、同じような制服を着ている。


「今いるのはこれだけ?」

「厨房に咲緒理と葵がいるぞ」


 優梨は空いていた椅子の1つに持っていた鞄と上着を置き、部屋の奥の扉から厨房に入った。広々とした厨房では2人の少女が作業をしている。彼女たちも優梨と同じくらいの年齢で、同じ制服を着ている。


「アオ、サオ、おはよう」

「あっ、おはよう。優」


 2人は優梨の方を振り返り、表情をパッと明るくさせていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 優梨が並行世界(パラレルワールド)の地球に転生してから16年と数か月がたった。今、優梨には9人の家族がいる。


 まず、外国語の新聞を読んでいるのは、天宮慶人あまみやけいと。亜麻色の髪と青い瞳の男で、大変見目麗しい顔立ちをしている。

 コーヒーを飲んでいるのは、佐塚匡利さづかあきとし。鳶色の髪に眼鏡を通して見える瞳の色は深緑だ。

 トーストに塗るジャムを選んでいるのは、加村誠史かむらせいじ。少し長い癖のある紺青色の髪に青い瞳で、優しげな顔立ちをしている。

 野菜ジュースを飲んでいるのは、石井朔夜いしいさくや。漆黒の髪は短めで、こげ茶色の瞳が眼鏡の向こうに見える。

 日本語の朝刊を読んでいるのは、大和玲やまとれい。濡れ羽色の髪とこげ茶の瞳の男で、目元の涼しげなハンサムな男だ。

 未だに眠そうにしているのは、須藤雅樹すどうまさき。肩くらいまである銀色の髪は後ろでまとめられ、三白眼気味の切れ長の瞳は緑色をしている。

 紅茶を飲んでいるのは、久乃木佳穂くのぎかほ。雀茶色の髪は肩下で整えられ、綺麗な樺色の瞳の少女だ。

 厨房で朝食を用意しているのが、日向咲緒理ひゅうがさおり。胸下まである髪は紺色をしていて、瞳は綺麗な瑠璃色だ。

 同じく厨房で昼食の弁当を用意しているのが、大野葵おおのあおい。真紅の髪は腰下まであり、桔梗色の瞳はくりくりとして愛らしい。体つきは他の皆に比べて一番小柄だ。

 そして優梨は、まるで蜂蜜をそのまま髪にしたような金髪で、腰上までの長さがある。瞳は琥珀を思わせる色をしている。

 全員がどこか日本人離れした容姿の持ち主で、大変麗しかった。


 優梨は、生まれ変わった直後は記憶が蘇らず、5歳になる頃にすべてを思い出した。その後仲間を探し続け、数年前に慶人たちに声をかけられた。慶人たちも仲間を探していたのだ。そして数年かけて人数を増やし、今では同じ屋根の下で暮らしている。

 全員が生まれつき高ランクのスキルを高レベルでいくつも所有し、魔力も国に仕える国家魔術師以上に保有している。ここまでは通常の異能者でも稀に存在するが、優梨たちが特異な存在にさせているのが「種族」だった。

 通常、混血や取り替え子を除いて、異能者の種族はあくまでも「人間」であり、それは一生変わらない。しかし、優梨たちは状態によってステータスに「()()人間」と表示されるか、全く別の種族が表示されるかの2パターンに分かれる。

 種族の種類はそれぞれ違い、優梨は吸血鬼、葵は九尾の狐、咲緒理は獣人の黒猫、佳穂は人魚、匡利はエルフ、慶人は天使、誠史は悪魔、朔夜は獣人の黒犬、玲は獣人の白犬、雅樹は狼男だ。

 種族の特性によっては人型や獣型、獣人型と姿かたちを変えることも可能だ。

 人間の状態の時も何かともう1つの種族の影響があった。その1つが、黒髪・黒目が特徴である日本人でありながら、かけ離れた色をした髪と瞳だ。他にも各々の種族の身体能力やスキルを保有している。通常の人間なら影響されない月の満ち欠けや感情の起伏で魔力量が上昇することもある。


 元々異能者(ミュータント)はその特殊性から今も差別や偏見の的となり、敬遠されがちだ。だから優梨たちはその特殊性を隠し、普通の能力者として振舞っている。それでも、幼い頃はスキルや種族の姿を上手くコントロールできなかった。何より見た目の特異性は隠し切れない。

 そのためか、初めから親が存在しない優梨以外の皆にも家族がいない。厳密に言えばこの世のどこかには存在しているが、誰も本当の家族とは暮らせないのだ。暮らせなくなった理由は様々で、赤ん坊の頃から施設育ちで顔すら知らない、家を追い出された、耐え切れずに自ら出て行った……などである。

 唯一遠い親戚に1人だけ理解者がおり、その人に後見人になってもらっていた慶人が少しずつ優梨たちを見つけ出し、その人に優梨たちも後見人にもなってもらった。


 そして、今に至る。


 ただ一緒に暮らしている赤の他人同士だが、いつしか優梨たちは互いを「家族」と呼ぶようになっていた。前世でも今までも中々家族に恵まれなかった優梨は、今とても幸福を感じ、充実した日々を過ごしている。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「優、ホットケーキとトーストのどっちを食べる?」


 ホットケーキのタネが入ったボウルを持った咲緒理が優梨に聞く。


「んー、今日はホットケーキにする。2枚お願いしてもいいかな」

「OK。メープルシロップはダイニングの方にあるよ」


 咲緒理の言葉に優梨は頷き、厨房を後にした。ダイニングテーブルには何種類かの飲み物がピッチャーに入っており、優梨はその中からオレンジジュースを選んだ。

 しばらくしてから、咲緒理が優梨と自分の分のホットケーキの皿を手にしてダイニングルームに入ってきた。その後ろからは昼食の弁当を作り終えた葵が自分の朝食を持って入ってきた。2人が席に座ると全員が「いただきます」と声を揃えた。


「朝のうちに連絡事項がある人はいる?」


 優梨たちは毎朝その日についての連絡などをこの場で伝えあっている。大抵のことは厨房に続く扉の横にあるホワイトボードに書いているが、この時間にも直接報告をするようにしていた。


「俺は放課後に生徒会の仕事があるが、帰りは遅くならねぇはずだ」と慶人。

「俺はサッカー部のミーティングがあるから帰りが遅くなる」と匡利。

「バレー部は練習だけだから帰りは遅くならないよ」と誠史。

「俺は特にないが、何かあったときは後で連絡する」と朔夜。

「俺も朔夜と同じだ」と玲。

「……俺もない」と雅樹。

「私も今はないわね」と佳穂。

「んー、明日の夕飯当番だからリクエストがあれば今日中にお願いしますってことぐらいかな」と葵。

「私は放課後に買い物に行くから、帰りが遅いかも」と咲緒理。

「私もサオと一緒で今日の夕飯の買い物とか行ってからだから、少し帰りが遅いです」と優梨。


 一通り順に伝えると、そのあとは雑談をする。大体の内容はその日の授業のこと、皆から見える位置にあるテレビのこと、具体的なその日の予定についてだ。

 朝食を終えると順に食器を片付けて残りの登校の支度をする。大半は自室の洗面所へと向かうが、優梨は1階にある共用の洗面所を使うことにした。ダイニングルームからは少し離れているので、優梨は時空属性魔法の《瞬間移動(テレポート)》を使った。葵と咲緒理も同じことを考えたのか、優梨の後に続いてやってきた。軽い雑談を交えながらも素早く身支度を整えた。


 10分後には全員が支度を終えて玄関ホールに集まり、一緒に家を出て学校へと向かっていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=901426221&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ