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4.腰を痛める5秒前

 お洒落は我慢だ。

 真結理にとって、その言葉は座右の銘とも言っていい。厚底ブーツ、ピンヒール、ミニスカート、へそ出しスタイル…新しい流行りがくる度、雨ニモマケズの精神で頑張ってきた。

 当然、そのスタイルが似合うように体型管理も欠かさない。あらゆるダイエット方法、美容グッズも試してきた。どれも劇的な効果はないかもしれないけれど衰えているところは一つもない。それもこれも、日頃の努力の賜物だと自負している。

 …一度もモテたことはないけれど。

 周りが彼氏がどうの、旦那がどうのと話す中で彼氏いない歴イコール年齢だなんて、口が裂けても言えやしない。モテそうだよねとか言われると、特に。

 がっつくつもりはないけれど、やっぱり恋愛はしたい。いつか出会うであろう運命の人のため、今日も努力は続けている。



「あ、真結理ーこっちこっち!」

 今日は久しぶりに姉とお出かけだ。

 結婚から出産、育児と慌ただしく過ごしている彼女とこうしてゆっくり会えるのは、実に丸一年ぶりとなる。姉が結婚するまではよく二人で出かけていただけに、これだけ間が開くのは初めてのこと。まるで好きな人とデートする時のように心が弾む。

 少し先に到着していたらしい姉が、大きく右手を振っている。

 彼女の腕には、今年1歳になる甥っ子・賢章の姿。モコモコの熊みたいな着ぐるみを着ているその背中がなんとも愛らしい。

「おねえちゃん!お待たせ!!」

 そう言って駈け寄れば、賢章がニコニコと腕を伸ばしてくれた。

「元気そうで良かったよ、おねえちゃん。けんちゃんもご機嫌ねー」

「まぁね。ダンナも結構手伝ってくれるからなんとかできてるよ。写真送ったでしょ?もうデレデレ」

「見た見た。すごいよねー、あんなに変わるんだパパになると!」

「そういうあんたは、相変わらずみたいねー」

 そう言って姉は少し苦笑いを浮かべる。

 今日の恰好は淡いイエローのフレアワンピースにキャメルのレースアップサンダル。今年の流行と聞いて、紐が細いタイプを選んだ。高めのピンヒールはスタイルアップに効果的。ちょっとバランスを取りにくいのが難点だが、お洒落は我慢だ。

「そう?そんなに突飛な恰好でもないと思うけど?」

「ま、へそ出しとかに比べればねー。母からすれば、そのヒールが無理だわ、不安定すぎて」



「結構まわったね、次はどうしようか?」

 回り始めて1時間弱。足腰にもそろそろ疲れがたまり始めた頃だ。カフェにでも入ろうか…と言おうとしたところで、姉の携帯が鳴り始めた。

「あ、職場からだわ!ごめん真結理、ちょっと賢章見てて!」

「え!?あ、ちょっと…!!」

 言うや否や、姉は抱いていた子を押し付けその場を離れていく。

 残されたのは、慣れないピンヒールで慣れない子供を抱いて待つ羽目になった真結理一人。

「え…ちょっと…待ってよ…これ、結構キツイ…」

 そろそろ腰が悲鳴をあげはじめている。

「あーうーっ」

 真結理の髪に興味を示した賢章が、その手を伸ばしてくるまで、あと5秒。


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