1.望まぬシナモン
まったく、世の中は間違っている。
やれタピオカだのバスクチーズケーキだのと散々騒ぎ立てておきながら、近頃はもう次に流行るスイーツの話題で盛り上がっているのだから。今現在営業しているタピオカ専門店で、5年後…いや3年後にも続いている店がどれだけあるのだろうかと思うと、日本人の移り気の早さに呆れるばかりだ。
流行り廃りを気にするなんて、自分に自信がない愚か者のすることだ。本当に美味いものはずっと残り続ける。大昔から店頭に並んでいるものにはそれなりの理由があるものなのだ。
そんなわけで、私は今日もアップルパイを注文する。
「アップルパイと…ミルクティーお願いします」
どこの店やカフェに行っても、そこにアップルパイの文字があると無視できないのだ。とは言っても特にこだわりがあるわけではなく、美味ければ…アップルパイが食べられればそれでいい。
今日たまたま見つけて入ったこの小さな喫茶店のアップルパイは、どんな味なのだろう。
優しい笑顔が印象的な老夫婦が2人だけで切り盛りしている、本当にこぢんまりとした喫茶店。きっと若い頃は、お子さんのために焼いていたのだろう。そんな家庭的な味に違いない。
「お待たせしました」
待ち焦がれた品がやってきた。
ツヤツヤと輝くパイ生地の間から、柔らかく煮込まれたリンゴがのぞいている。皿にそっと添えられた生クリームとミントの葉がにくい。
さぁ食べるぞ!とフォークで刺した瞬間、フワリとあの香りが鼻をくすぐった。あの、スパイシーなシナモンの香りが。
正直に言うと、私はシナモンが少々苦手だ。
とは言え、リンゴとシナモンの相性は良いと言われているし、アップルパイに使われていることはよくあること。食べられないほどではない。
「…いただきます」
美味い。リンゴの酸味とカスタードの甘味、そして
シナモンのスパイシーな味の絶妙な配合。家庭的なものが来るかと思いきや、予想以上に本格的だ。これは良い穴場を見つけたかもしれない。
パイを口いっぱいに頬張り幸せを噛みしめながら、私はカップを手に取った。そして、気づいてしまった。
「これ…ロイヤルミルクティーか…」