表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
代用プリンセス  作者: はしもとおかげ
2/3

2.シンデレラ

 新井 愛美、九才。

 掃除の時間。当番だった愛美は全部の生徒の机を後ろに寄せていた。教卓近くではクラスの中でも中心的なグループの京香(きょうか)たちが、黒板も消さずにずっとおしゃべりをして笑っている。


「ねえ、それも動かすから」


 愛美の忠告に舌打ちで返事をした京香は、黒板消しを掴み愛美に投げつけた。

 黒板もやっといてよね、お掃除大好きなんだもん。やってくれるわよね、シンデレラさん。

 チョークの粉にまみれた愛美に向かって京香はそう吐き捨てて教室を出て行った。

 愛美は彼女のことが羨ましかった。

 自分自身のことを「私」や「ウチ」ではなく名前で呼んでいることに、羨ましくて、つい嫉妬してしまったのだ。

 愛美は小さな頃から、自分のことを「私」と呼んでいた。

 女の子らしく自分を「キョウカはね」と呼んでいる彼女に対して愛美は、子どもっぽいのよね。と強がって笑った。

 京香からの仕返しはそれから学年が上がっても続いていた。

 登校すればまず消えた上履きを探すことになり、帰りの支度をする頃には、愛美のその黒くて長い髪はチョークの粉まみれになっていた。そのみすぼらしい姿から愛美はクラスのうちでは、シンデレラと呼ばれた。もちろんそれは皮肉でだ。



 道徳の授業で宿題が出された。「自分の名前の由来を調べてくること」というもの。

 愛美はすぐにその宿題を済ませたかったのだが、帰宅しても、自分の名前の由来を裕実に聞くことはできなかった。

 裕実とは、最近はまともに会話すらしていない。

 裕実は日中はきちんと主婦をこなす。洗濯も食事も家族分全てをこなしている。

 しかし、愛美が学校から帰る時間になる頃には、既に家を空けるのだった。

 愛美は先に社会科の宿題を済ませながら、夕食の時間を待った。

 悠が帰ってくると、裕実が作り置きしておいた夕食を二人でとった。

 その時間を愛美は宿題に利用した。


「ねえ、パパ。私の名前って、どんな意味で付けられたの?」

 その質問にパパは数秒間、黙ったままに愛美をじっと見つめてから箸を置いた。

 どうしてそんなことを聞くんだ?

 その穏やかな口調には、僅かな緊張感が見えた。


「あのね、学校の宿題で。道徳の授業で発表するの」


 なんだそうか。

 悠は食事を続けながら愛美に教えた。

 漢字のそのままの意味だと。

 週末になると、愛美の様子を窺うため遊びに来る悠の妹、愛美の叔母にも同じ質問を愛美はしてみた。

 しかし、いつも温厚な叔母がその質問には冷たく、知らないわ。とだけ返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ