にんまりふらふら死んじゃった!
今日は久しぶりに外に出た。
2ヶ月前から待ち望んでいた『ディザスターナイト Ⅳ』の発売日なのだ。
夏休みという事もあり、夏期講習を終えてからしばらく家にこもっていたので、電車に乗ったのは1ヶ月ぶりである。昼夜逆転の生活はしてないので日光は毎日浴びているし、窓を開けているので外の空気も吸っていた。決して自堕落な夏は過ごしていない!…はずだ!
「はぁ~、これをずっと待ってたんだ。」
帰りの電車、嬉しさでつい独り言が漏れる。
乗ってから1時間、
「ご乗車、ありがとうございました。」
終点に着いた。ここから乗り換えである。他の連中は認めないが俺はとうの昔から認めている。俺の地元は田舎だ。例え地方一番の大都市でも、はじっこは田舎だ。
「まもなく、三番線に列車が到着します。ご注意下さい。」
コツコツと心地良い音がする。ハイヒールだろうか。
───バキッ
「あ!」
───ドサッ
俺はホームから投げ出された。
「錦辺隼人さん、残念ながらあなたは死んでしまいました。」
「…は?」
何もない真っ白な世界、目の前に宣教師のような服を着た女性が数珠とお札を持って立っている。
突っ込み所が満載だが、まず先に言わせて欲しい事がある。
「俺が死んだ…?」
女性は顔色も目の色も変えずに、
「はい。電車に轢かれて即死でした。」
「えっ…ぁあ!あのハイヒールの女か…!!」
バキッという音、「あ!」という声、これらの情報から考えるに、犯人は…
「ハイヒールの女?…あぁ、彼女は関係ない所で擦り傷を負っていましたね。」
「へっ?じゃあ俺は?」
「ゲームを買った嬉しさで足元の注意を怠ったのでしょう。踏み外して線路に落ちて行きましたよ。」
「…。」
恥ずかしさと女性への申し訳なさで顔が赤くなる。
「まぁよくある死に方ですよ、嬉しさで注意不足になるなんて。」
全くフォローにならないことを呟く多宗教の女。
「ところで、あなたは?」
「すみません、自己紹介がまだでしたね。私は死神のルニアと申します。」
死神…この見た目で?
「黒いローブを羽織って鎌を持っているイメージ?いつの時代の死神ですか。あなた、デ○○ートって漫画知ってますか?あの死神だって黒いローブなんか着てないし鎌も持ってないでしょう。」
マジレスされた上に、なぜ知っているのか、有名な漫画のタイトルが飛び出してきて混乱してしまう。
しかし、それでもやっぱりその見た目で死神だなんて無理がある。そもそもその格好ではもはや不審者だ。
「さて、本題に入りましょう。あなたには地球ではない世界でゲームライフを送っていただきます。ゲームのような世界で第二の人生を歩んで頂く、という事です。」
「…は?え?はぁあ!?」
なんとも言えない感情が沸いている。ゲーム好きでラノベを読む俺にとっては嬉しい話ではあるが、異世界転生なんて、そんなことあるわけない。
しかし、目の前の死神を名乗る女がいる。そして、この真っ白で女の机と思われるもの以外何もない世界が死後の世界と言われれば納得も行く。
まさか本当に異世界転生できるのか…?
そんな期待と不安と不信感と幸福感が入り交じっている。
「そこでの過ごし方は自由ですが、魔物には気を付けて下さいね。」
魔物いるのか。じゃあ、
「私の管轄には魔王のいる世界はありませんね…。申し訳ございません。」
なんだよ、いないのかよ。「勇者として魔王を倒してやるぞ~!」とか「世界救ってチヤホヤされるぞ~!」とか思ったのに。
「…あ、魔族が勢力を伸ばしてる世界がありますね。ここならもしかしたら魔王が顕れるのも近いかも…。」
カタログのように自分の管轄を確認する女。
「じゃあそこで。」
「かしこまりました。魔方陣を展開するので動かないで下さいね。」
そう言って魔方陣を…
「あれ?異世界特典って無いんですか?」
「そんなの用意する余裕があるなら最低賃金で働いてませんよ。」
現実的な事を言って無理ゲー宣告するの止めてくれないか。反論しづらいじゃんか。
しかし、死神という仕事なのか。人の命で金を稼いでいるのか?
なんだか胸騒ぎがしてきた。
「転送先はどこら辺になりますか?できれば、冒険初心者が集まるような小さい町なんかが良いです。」
「それは教えられません。色々とありますので。」
教えてはいけない掟でもあるのだろう。それならば仕方ない。
「準備ができました。眩しく光るので、目を瞑っていて下さい。」
言われた通り目を瞑った。
瞼越しでも魔方陣が青く光っているのが分かる。
「それでは、良い人生を。」
その言葉を聞き届けて、意識を失った。
───ん?着いたのか?
足元が何かについたとたん、全身で風を感じた。
「ここが、異世界か…!!」
心を踊らせて目を開ける。
───どこだここ。
綺麗なワンピースやドレスが入った開きっぱなしのクローゼットにパーカーやTシャツがはみ出しているタンス、化粧品の並んだドレッサーなどなど。長方体の機械のような物が風を送っている。恐らくは女子の部屋なんだろうが…。
「全部、暗い色だなぁ…。」
黒や紫、紺、藍色などとにかく暗い色が集まっている。
いやしかし、せっかく女子の部屋にいるという奇跡が起きているのだ。これをラッキースケベに昇華させようと部屋の持ち主が帰ってくる前に下着の入っている所を探してみる。
「おいお前、私の部屋で何をしている!どこから入った!?」
…5秒でバレた。