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長い夜 6


ストックしてあった分を、少し修正して投下します。



どれくらいの時間気を失っていたのか…達彦は朦朧とする頭を振り、車内の様子を確認した。堤は達彦にもたれかかるように、男は操縦機器に覆いかぶさるようにそれぞれ意識を失っている。


「おい!起きてくれ!おい!」


感染者達にハッチを開く知能が残っているとは思えないが、早く動き始めた方が良い。絶え間なく車内に響く咆哮と、外装を叩く音で気が狂いそうになる。


「勘弁してくれよ!起きろよ!起きてくれ!!」


額から血が流れ、それが鼻の横を通り、唇に届く。ざらつく鉄の味を舌に感じながら、達彦は男の肩を揺さぶり続けた。

ようやく男に反応が見られたのは、10分ほど経ってからだ。男はゆっくりと上体を背もたれに預け、目を開けた。


「大丈夫なのか…?なぁ…」


「見ろ…やったぜ。穴は埋まった…」


達彦の言葉を遮り、小さく咳込みながら男は笑った。



『ゲート』コンテナがいびつな凹みをつけ壁に収まっているのが見える。感染者達の侵入を許していた隙間は、何体かの死体を挟み込み無事に閉じられていた。コンテナの壁から生えているかのように突き出した血まみれの手や脚、ソーセージのように垂れる臓物…それらがヌメヌメとした光沢を放ち前照灯の照り返しの中浮かび上がっている。とびきり悪趣味なオブジェだった。


「とにかくこれで、連中が入って来るのは防げたな」


操縦手窓から外を覗いていた達彦へ、男が声をかけた。首が痛むのかしきりにうなじを揉んでいる。

車輌が停止しアイドリング状態になったことで、エンジンの唸りは若干おとなしい。先ほどまでのように声を張り上げる必要はなさそうだ。


「上にもいるのか…まぁ、乗っかって騒ぐぶんには構わねぇけど…」


「香川君…どうなったの…?」


達彦の隣で堤が目を覚ました。額を押さえているが、怪我はないようだ。


「まさか失敗したなんて言わないわよね?こんな酷い目に遭っといて」


「穴はちゃんと塞げましたよ。連中の身体も借りてね」


言ってしまってから気分が悪くなった。


「見てみます?」


「やめとくわ、この中を汚したくないし」


眉根に皺を寄せ、堤は座席の上で姿勢を正した。囲まれていることに気付いたのか不安そうに顔をめぐらせる。


「こいつをまた走らせる前に、ちょっとばかり話をしよう。怒鳴るのは疲れた」


何を意味する装置なのか達彦には分からないが、男は熱心に車内の機器類をいじっている。


「俺は緒方だ。所属や階級なんてもう意味がないから省くぞ。組織としてはすでに正常な機能や指揮系統を維持出来てないんだ…ただの寄せ集め、壊滅も同然だよ」


「他のキャンプから救援を寄越してもらうことは?」


達彦は緒方へ自分と堤の名を告げてから質問した。品川埠頭にあるというキャンプのことを考えないではなかったが、ここでは場所を特定しなかった。


「本部内はいまごろ連中で溢れてるだろうから無線は使えないな。CCV…指揮通信車からなら可能だが、こいつから出るのは賢くない。夜明けまでは無理だ」


緒方は達彦と堤を見て溜息を吐いた。


「それに、こんなこと言いたくないが…救援を頼んでも来てくれる可能性は低い。キャンプはそれぞれ独立していて協力体制なんて存在してなかったからな。どこも自分達のことで手一杯だ」


「どのみち夜が明けるまで待つしかな…ねぇ!香川君!あなた香織ちゃんは!?あのこは何処にいるのよ!?」


達彦が1人で行動していたことにいまさら気が付いたのか、堤は達彦の着ているジップアップパーカの襟を掴み恐れの混じる目で見つめてくる。

達彦は弱々しく掴んでくるその手を握り、感染者達によるキャンプ襲撃発生からの行動を説明した。話している内に柚木の顔が思い浮かび、何故かとても逢いたくなった。


「戻りましょう!早く!緒方さんお願い!!」


堤が緒方へと懇願する。守れなかった娘の影に苦しむ堤にとって、柚木は特別な存在になりつつあった。看病を通じて、2人は急速に仲良くなっていたのだ。姉妹のように。

失いたくない…切実な願いが滲み出ている。見ているのが辛くなる表情。


「無理だ…危険過ぎる」


緒方が、ゆっくりと噛み締めるように言い、かぶりを振る。感染者達はこの車輌が停止した途端車体を埋め尽くすくらい集まってきた。プラットフォームの屋根までは移動出来るかもしれないが、そこからハッチを開け避難梯子を登るのは不可能に近い。夜明けまで待ち、連中が建物内に潜り込んでから動くしか方法がないのだ。ただ…。


「一つだけ…手はあるかも…」


達彦が声を上げた。暗い声だ、自分でも分かる。何故こんなことを思いついたのか…唇が震えている。


「入口は塞いだ。連中はもう入って来ない。コンテナで囲まれたこのキャンプ内にはまだ大勢いるけど、それだけだ…もう増えることはない。でしょ?」


緒方と堤が頷く。


「連中がいる限り柚木さん達のところには戻れない…なら、減らせばいい…殺せば。そうすれば動きやすくなるし、夜が明けてから建物に入る感染者の数を大幅に減らせる…柚木さん達も少しは安全にならないか?」


夜明けまであと1時間ほどだ。どちらかといえば後者が狙いになるだろう。


「賛成したいけど、それが出来るほどの弾がないでしょ?」


その通り。だが堤はずっと車内にいて見ていないのだ。この装甲車が押し寄せる感染者達を物ともせず、重いキャタピラでミンチのように轢き潰していたさまを…。


「弾は必要ないな。こいつで…73式でやるんだろ?奴等を徹底的に轢き殺す、そうだな?」


緒方が堤、次いで達彦を見る。その顔には憐憫の欠片もない。達彦は頷いて返した。


「夜は感染者のものだけど、これからの1時間は違う。死ぬのはあいつ等だ…俺達の『殺しの時間』だよ」


達彦は、自分がどうしようもなく駄目になってしまった気がした。先ほど感じた高揚感といい…狂い始めているとしか思えない。加奈子は、こんな自分をどう思うだろう…。


「こうすると良い」とか、「ここが駄目」などの感想がありましたら教えて下さい。


ぜひ、よろしくです。


m(__)m

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