魔法講師ハルとその生徒ミユキの初対面
学園長と話をした結果、いくつか条件をつけられたが、なんとか大会の入場する約束を取り付けられた。
その条件の一つ目は口調や仕草などを女らしくする事、二つ目は下級ランクの生徒を育てて上級ランクの生徒に勝つ事。
一つ目に関しては、言葉遣いとか変えるだけでいいわけだし、これに関しては今までの俺の生活を変えられるわけじゃないし問題ない。
二つ目に関しては、今までの生活と変わるわけだが、学園長と話す前に考えていた事と似た事なのでこれもいいだろう。
とり合えずこれからすることは、寮に帰って寝る。
約束が取り付けられた以上、急ぐことはもう無い。
この怠い身体でいつまでも動くのは、ものすごく辛い。
だから、俺はさっさと寮の自室に戻って、自室についているバスルームのシャワーを浴びた。
あー、胸が身体を拭くのに邪魔だし、髪の毛が長くて洗うのが長くなるし、全身怠いし、もう嫌だ・・・
シャワーを浴び終わったら魔法を使う。
【リぺル】
この魔法は、自身についている物を弾く効果がある。
だから髪や体についた水を全て弾いて、床に落とした。
ここで注意しないと行けないのが、この魔法を普通に使うと、化粧やキズ薬なども弾いてしまうということ。
服など着用しているものも弾いてしまう。
だから、服など着ている時は、何処にある何を弾くかを指定しなければならない。
例えば服についている泥といったふうにだ。
何もこの魔法だけが、それが必要なのでは無い。
ほぼ全ての魔法がその指定が必要だ。
攻撃魔法や、防御魔法、生活魔法、回復魔法、全てが必要になる。
今回は、服を着用していなく、この後は寝るだけだから何も考えずにそのまま使った。
何も考えないでいい分、素早く発動出来る。
消費魔力に関しては、全身から放つから、少しだけ多くなるが、元々が消費魔力の少ない魔法だから、俺にとっては微々たるものなので関係ない、早く魔法を使って寝る方が大切だ。
そうして、俺はそのままバスルームを出て裸のままベットに入る。
あー、もう、動けない・・・
そんなことを思いつつも眠りについたのだった。
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私こと真白 美雪は学園長先生から話があると言われて、教師棟にいる。
私は高校2学年の下級ランクで、得意魔法は回復魔法の普通の魔法少女だ。
身長も平均的で、髪の色は黒。ショートでおかっぱ。特徴的なのは左目の下あたりに泣き黒子がある事だろうか。周りからは真面目そうと言われているそんな普通の魔法少女だ。
そんな私を魔法少女にしてくれた人は、もう魔法を使えない。
その人は、歳をとるにつれて自身に魔力がなくなっていき、そのうち魔法を使えなくなるのがわかったその時に私に魔力を受け渡してくれた。
その人も回復魔法の使い手だったみたいで、私に回復魔法の素質があると喜んでくれた。
私に魔力を受け渡したと同時に、その人は魔法を使うだけのの魔力は二度と戻ることはなかった。
私に魔力を受け渡した人の事を尊敬する。そして受け継いだこの回復魔法で、より多くの命を救いたいと思う。
だから、特に呼び出されるような事はしていないと思うわけなのだが、学園長先生に呼び出された。
私は学園長室と書いてある扉にノックする。
「どうぞ」
ノックをすると、ドアの奥から学園長先生の声が聞こえた。
私はドアを開けて、
「失礼します」
と言って部屋に入る。
学園長先生は沢山の書類を手につけていた。
それから手を離して私を見つめる。
「真白 美雪 (ましろ みゆき)さん、貴女は魔力的に強くなりたいですか?」
そして、学園長との会話が挨拶なしに本題から始まった。
何かを試されてるのかもしれない。
私は一つ深呼吸をして、考えをまとめて言葉を出す。
「はい。私は、より多くの人を救う為に魔力的に強くなりたいです。あくまでも、魔力的にです。魔力が強くなったからと言って威張るとかそんなふうには、なりたくはありません」
よく魔力が強い人は魔力のない人や弱い人に向かって威張る。自分こそがこの世界を救ってるんだと・・
特に最近だと、黒色聖母様に魔法少女にされた人達が集まって、いろいろとゴタゴタを起こしている。
黒色聖母様に魔法少女にされた人達は全体の魔法少女の10%程にも及ぶし、最近また1人追加されたし、これからも増え続けるだろう。
そんなにいっぱいいるから、威張っていく。
それを叱る人もいない。
黒色聖母様は魔法少女にするだけして、その後は放置するのだ。
他の魔法少女を産み出したり、魔物を探しているからとは言われてるけど、それでも私は気に入らない。
私の場合は、魔法を受け渡してくれた人に、魔法の使い方や心得を習った。自身はもう使えないのに、言葉や仕草、絵や文字で教えてもらった。
残念ながら、私自身に魔力が少なく下級ランクだが、それでも黒色聖母様から魔法少女になった上級ランクの人達よりも魔法少女としてのプライドを持っているつもりだ。
魔法を使えるからこそ魔法を使えない人達を守り、優しく、守られた側からも、将来は魔法少女になりたい!とか魔法少女の手伝いをしたい!とか思われるような存在になりたいと思う。
かくいう私も、色々な事があって無理している時に怪我した私を、魔法少女が癒してくれて、その後の優しい接し方に対して、「私も魔法少女になってみんなを癒したり、守りたいです!」って言った口だ。
そしたら、じゃあ私が魔法少女にしてあげるっていうところから始まって、私は魔法少女になった。
だからこそ、魔法少女にしただけで、あとは放置の黒色聖母様が嫌いだ。
「そうですか。では、貴女に臨時の講師をつけてあげます」
私が黒色聖母様の事を考えていると、学園長先生がそんな事を言ってきた。
「臨時の講師?」
なんで今更そんな事を言ってくるんだろう。
基本的に学園側も、一度魔法少女になった人を学園にいれたら、あとは下級ランクだろうが、上級ランクだろうが決められたレールにだけ載せて、それ以外は放置だったはずだ。
臨時の講師がついたって話も、一度も聞いた事ないし、しかもなぜ私になのだろう。
「はい、その方のお名前は、蓮野 春さんと言います」
「え!」
学園長先生が指名した人は、嫌いと思っていた人物、黒色聖母様だった。
「何か不満そうですが、不満ですか?」
「はい・・・、少し不満があります」
どうやら私の顔に不満が出ていたらしく、それを指摘された。
普通は黒色聖母様というと、みんなの憧れな為、講師につくとなると嬉しいものだが、私は嫌いだからそうではない。
私は素直にいうことにした。
「私は黒色聖母様の事が好きじゃありません」
「知っています。だから貴女の事をここに呼んでいるのです」
「え!?」
どうやら私が黒色聖母様の事を嫌いだと、学園長先生は前々から知っていたみたいだ。
ここの会話のやり取り以外では、黒色聖母様については不満とか分からないようにしてたつもりだったけど、どこかでバレるような事があったのかな。
そうなると、黒色聖母様に魔法少女にされた人達に目をつけられてしまう。
「大丈夫ですよ。周りには貴女がハルさんの事を嫌いだとバレていません」
どうやら、私の顔が青くなっていたらしく、そんな安心する言葉が返ってきた。
「ただ、私には人の心が少しだけ分かるのです。言葉まではいきませんがこの人がいまどんな思いを抱いているかとかが分かるのです。そんな訳でふとした時に、貴女がハルさんの事を嫌いだとわかったのですよ」
人の心が少しだけ分かる・・・
それは、何というかすごい事だと思う。そんなものがあったらすぐにバレてしまう。
だからバレてしまったのですね。
先ほどからこちらが話していないのに会話が繋がるのは、それのおかげなのですね。
でも、なんで嫌いだからこそ講師にさせるんですか?
「ハルさんに更生してもらおうと思っていまして、どうやって更生させたらいいかを考えた結果、ハルさんに講師にしてもらって、それを受けている側が監視をしていればいいと思ったのです。その監視役がハルさんの事を好きならば、流されてしまうかも知れませんが、嫌いな人なら流されることなく、しっかり指摘してくれるでしょう?」
やはりわたしの思いがわかったのか、学園長先生は話を続けてきた。
いくら考えている言葉はわからなくても、もしそれを長年使っているのならば、そこから相手の考えている事がわかるのでしょう。
だから私が声にしなくても話は続いたのだ。
「でも、それだと私に良いことがないじゃないですか」
それだけだと黒色聖母様のことが嫌いな人に負担がかかるだけの気もする。
いくら黒色聖母様が更生するかも知れないからって、そんなの嫌だ。
「強くなりたいのでしょう?」
「っ!、でも、黒色聖母様に講師について貰ったとしても、絶対に強くなれるとは限らないじゃないですか!」
今まで魔法少女にした人達を放っておいた人が、今更何を教えるって言うのですか。
そんな人に教えて貰っても強くなれるはずが無い!
「いえ、ハルさんなら必ず、貴女の事を強くしてみます。それも上級ランクに勝てるほどの力をね」
私の言葉に学園長先生は自信を持って、落ち着いて言ってきた。
「上級ランクに・・・」
思わず言われた事を復唱してしまう。
「はい。上級ランクにです。ハルさんが信じられないなら、私を信じてください。それとも私でさえ信じられないですか?」
その言葉を聞いた瞬間に断る選択肢が無くなったと思った。
この学園にいて、この学園長先生の事が信じられないなんてことはない。信じられなかったらこの学園にいられない。
「いえ、信じます」
だから私は、そう言わざる終えなかった。
「良かったです。では監視についての話をしましょうか」
そして学園長先生は微笑みを見せた。
私はそれを見て、なんだか黒いものを見た気がした。
きっと気のせいだ・・・
監視として、黒色聖母様が女性に変身している時に男の口調や仕草をしない事。
特に学園長先生の事を、魔法ババアと2回以上呼ばない事。
そして、わたしを強くする事。
逆に監視する側として、黒色聖母様の事を、黒色聖母様と呼ばずに、名前で呼ぶ事。
黒色聖母様の指導をしっかりと受ける事を約束させられた。
そして最後に、
「もし、惚れてしまったらアタックしても良いんですよ」
と微笑みながら言われた。だからもちろん、
「絶対にあり得ませんから!」
と叫んで返した。
そうして、学園長先生との話が終わった。
学園長室を出て行き、そのまま寮に帰る。
ただし、私の部屋でなくて、黒色聖母様・・・、いえ蓮野さんの部屋にだ。
学園長先生からは、今日から始めなさいと言われた。
私は、蓮野さんの部屋のドアにノックする。
1秒後。
2秒後。
・・・
10秒後。
私は聞こえなかったと思ってもう一度ノックする。
しかし、何度ノックしても帰ってくる言葉は無かった。
いないのかな?
でも、学園長先生は絶対にいるといってたし。
仕方ない、学園長先生に貸して貰ったこの部屋の合鍵を使ってみよう。
もしいなかったら直ぐに戻って鍵をかければ良いんだ。
そう思いながら鍵を使ってドアをあける。
そして部屋の中に入っていくと、蓮野さんはいた。
それはとても美しく、例えるならば毒林檎を食べて眠っているお姫様のような。
つい見とれてしまうその表情。
この人が黒色聖母様・・・
たしかにみんなが憧れるだけはある。
私も遠くからは見たことはあったけど、近くに来るとこんなに・・・
って、寝てるの?
私はどうすればいいの?
学園長先生には、今日から指導を受けるように言われたけど、寝てる時はどうすればいいの?
起こせばいいの?
でも、なんだかこの姿をみると起こすのも悪い気がする。
そう・・・、この表情を見ると・・・
私は無意識的に、寝ている黒色聖母様の顔に近づいていく。
なんて・・・、美しいんだろう・・・
嫌いとかそんなの関係なく、今はただただ美しいとしか考えられなかった。
そして、私の顔が黒色聖母様の顔の前に来た。
バチッ!
その瞬間に、私は電気に触れたように痺れて、それに驚いて後ろに尻餅をつく。
「痛っ!」
私は思わず声を上げてしまう。
「・・・」
顔を上げるとそこには黒色聖母様がベットから立ち上がってこちらを見て、ただ何も言わない。
そして指先をこちらに向けている。
あれ?もしかして、魔法を使われて攻撃されそう?
「っ!えっと!ごめんなさい!」
私はすかさず土下座をして頭を下げたまま謝る。
私は何をしているんだろう。
起こすにしても、普通に起こせばいいのに、なんでよりによってキスをしようとしたんだろう。
嫌いと思っていたのに、初対面なのに、なんで・・・
「俺に何の用だ。どうやって入って来た・・」
黒色聖母様はやっと声を出した。その声は女性の中では低く、透き通るような、それでいて綺麗な声だった。
それだけでも聞き惚れてしまいそうなそんな声。
でも、ここで聞き惚れて無言になってしまったらダメだ。
もっと状況が悪化してしまう。
「えっと!学園長先生に言われて、黒色聖母様に会いに来ました。この部屋に入ったのはその時に渡された合鍵でです!」
「・・・、あの魔法ババアか・・・、まさか今日からだとは思ってなかったし、こちらから人を選ぶと思ったんだが・・・」
私の焦る叫びのような声に、愚痴をこぼす様な小さな声で黒色聖母様は呟いた。
あ、魔法ババアって・・
それに、この言葉ってあきらかに男の口調だよね?
「あの~」
私は申し訳なさげに頭を上げて黒色聖母様を見ながら話しても良いですか?という意味を込めて言葉を出す。
「・・・」
黒色聖母様は、無言でこちらを見ながら話すなら話せと言わんばかりに見ている。
「えっと、学園長先生に言われて私は黒色聖母様に指導をして頂くことになりました」
「ああ・・、あの魔法バ」
「待ってください!」
黒色聖母様が魔法ババアと二回目を言おうとしていたから咄嗟に止めてしまう。
「・・・」
当然のごとく睨みつけて来る黒色聖母様。ただその睨みも悪くない様な・・・
って悪いよ。私はさっきから何を考えようとしてるの?
黒色聖母様を近くで見てから、会ってから、会話してから、何かおかしいよ。
っと、またそんな事を考えて無言になっちゃう。
「それと同時に黒色聖母様の監視役になりました。黒色聖母様が、女性の時は女の子の口調や仕草でいること、そして私の前で学園長先生の事を魔法ババアと二回以上言わない事って」
「ほう・・、お前はそんな事を言って俺にいう事を聞かせるつもりか?そんなんで言う事を聞くと思ってるのか?」
ですよねー。こんなんじゃ聞いてくれないですよね。
でも、そんな時のために学園長先生は秘密兵器を持たせてくれたのです。
それを、いざ!発動です!
「そんなことがあったら学園長先生が、わかってますよね?って微笑んで黒色聖母様に言っておいてくれって言ってました」
ああ、この時の微笑みはあきらかに黒かった。いったいこれになんの意味があるのか私には分からないけど、学園長先生が最終兵器っていうんだから、何かあるに違いない。
「っ!、はあ・・・、わかった。分かりました。えっと、これからよろしくお願いします」
そして、最終兵器は見事に決まった。黒色聖母様の口調や仕草ががらっと変わって、女の子っぽくなった。
「えっ、えっと、よろしくお願いします!」
私も慌てて返す。
「それで、話はそれだけですか?」
黒色聖母様は、話を切りたい様にそう聞いて来る。
「あー、申し訳ないんですけど、今日から指導を受けろって学園長先生が・・・」
「・・・、えっと、ごめんなさい。俺・・じゃない、私、今日は身体全身が怠いから、勘弁してくれないかな?・・・」
え?身体が怠い?
確かにその様に見える。今にでもベットに入って休みたそうにしている。
黒色聖母様を見ると、あそこから血が出てる様な・・
「って、なんで裸なんですか!」
黒色聖母様は裸だった。
なんか美しすぎて気づくのに遅れた。なんていうか裸姿が一つの絵画の様に美しすぎて、それが標準のように感じてしまった。
「・・・、シャワーを浴びて、そのまま寝たから・・・」
いいから寝かせろよとか思ってるんだろうな。そんな無言の間があった。
ごめんなさい。でも気になってしまってつい声に出てしまったんだもの。
シャワーを浴びてそのまま寝るって相当怠そうだな。
そして、私は黒色聖母様が何であるのか分かった。
相当重たいだなとか思いつつ、これはさすがに指導をしてもらうわけには行かないよねと思って、
「そんなんですか・・・、えっと御免なさい。本当に身体が辛そうなので、私はここで失礼しますね。えっとゆっくりお休み下さい」
そう言葉をかけて、直ぐに部屋を出る。
ああ、明日からどうなるのかな?
なんか嫌いって思いが一瞬にして、吹っ飛んでいってしまった気分だ。
でも、まだ嫌いですから。
それだけは絶対です。
そうして私は強くなるキッカケを得たのだった。