転移したその先は
俺たちが瞬間転移してたどり着いた先は、今では使われていなさそうな建物、廃墟だった。
そこに操られていると思わしき魔法少女が三人いた。いや、一人は少女じゃなくてババアか。
っ!なにやら一瞬殺気を感じたが、きっと気のせいだろう。操られているならば、殺気といった感情も持てないはずなのだから。
周りに操っていると思わしき男の姿は無い。
だが、魔力の痕跡でどこにいったか直ぐに分かった。まだそこまで遠くに行ったわけではなさそうだ。俺の魔法を使えば直ぐに倒せる範囲にいる。
ならば、やる事は一つ。
【トランジション】
時間としては、学園からこの廃墟に『トランジション』してから、数秒もたたずに俺は二度目の『トランジション』を発動した。
しかし、それは発動しなかった。
何故ならば、またも学園長が邪魔したからだ。
男のいる壁には、細い糸が綺麗に並んでいた。それは学園長が魔力を込めた糸で、魔法を無力化する能力を持っているのだろう。
やはり、そう簡単には話が進まないか。
けれども、この時のために作戦を練っていたんだ。
俺は味方の魔法少女たちに「行くぞ」と声をかけて、魔法少女たちは頷く。
黒い剣を構えて俺は魔法を唱える。
【ショート・トランジション】
そして、学園長の直ぐ背後に転移して剣を振るう。
だが、学園長は動きもせずにそれを止めた。
ああ、分かっていたさ。ここにも糸がある事は・・
魔法だけでなく、物理に対してもある程度無効化すると。
しかし、その魔力や物理の無効化しているのも、また魔法なのだろう?
【マイ・スペース・ソード】
ならば、これでいい。剣に『マイ・スペース』を発動した。
そして、俺の攻撃を防いでいた糸は、お互いに魔力を打ち消し合う力がぶつかり、ただの糸となった。
そして、俺の剣は学園長に目掛けて振るわれるが・・
ガギッ!
流石にそれを読んでいたのだろう。学園長は懐から出した扇子で俺の剣を防いだ。
俺はその反動のせいで、少し後ろに下がってしまうが、学園長は全く何事もなかったように、扇子の先をこちらに向けてくる。
こちらは反動で隙が出来ていたため、それは非常にピンチといえただろう。
しかし、これは俺の狙い通りだった。
【アイギス!】
【パイク・フレア!】
【ライト・レイ!】
俺の目の前に魔法の風の壁が現われ、それの後直ぐに、灼熱の炎が美雪こと藍癒人魚姫に、輝く光線が虹輝天女に目掛けて飛んで行った。
学園長の扇子は瞬く間に伸びて俺の目の前まで来たが、魔法の壁にぶつかるとそこで止まった。
藍癒人魚姫と虹輝天女は、無感情の声で魔法を唱える。
【ニード】
【ウォーター・ウォール】
【ストーン・ウォール】
そして、それぞれが壁魔法により防いだ。
だが、その隙に茜こと日長直猪は左に、光天翼麗は右にと、学園長の糸が張り巡られていない壁に簡単な魔法を放ち破壊して、この部屋から移動した。
藍癒人魚姫はそれを見て、日長直猪を追いかけ、虹輝天女は光天翼麗を追いかけた。
先ほどの魔法攻撃で敵対心管理していたわけだ。これが知性があるのなら罠だと気づくかも知れない。
けれども、今のこいつらは操られていて、細かい事は考えられないみたいだから、こうやって思い通りの展開になってくれたわけだ。
学園長はというと、ただそれを見ていた。
やはりか。
少し何も無い時間が過ぎて、この部屋には俺と緑宝守護と学園長だけになった。
そんな中で俺は学園長に話しかけた。
「それで、これは何の茶番だ」
そう、これは仕組まれた事。俺は途中でそれに気がついた。
「ふふふ、ばれちゃってましたか」
学園長は無表情を装っていた仮面を剥がしてイタズラが成功したかのような笑みを浮かべながらそう言った。
「あんたの行動を見ていれば、直ぐにわかるさ」
操られているにしては、動きが早すぎる。そして、先ほどの別々の部屋に行くときに何も行動を起こさなかったこと。ほかにも色々と細かいところで怪しいところがあった。
「そうですか。それは残念です」
学園長は全然残念そうにせずにそんな事を言う。
「っえ!?いや、でも・・」
緑宝守護はそのやり取りに驚きながらも自己解決したみたいだ。
さて、それなら話は早い。
これが、茶番だとバレたのなら、
「なら、そこを通してくれ」
俺は遊びは終わりだとばかりにそう言った。
「それは、駄目ですね」
しかし、学園長は微笑みながらそう答えて来た。
「何故だ!」
遊んでいる暇など無いはずだ。あの魔法使いの催眠術は危険すぎる。魔法少女を操ることができるなんて、この世界を征服できるかも知れない。そんな奴に時間を与えるなど・・・
「ここを簡単に通して、彼が簡単に倒されたとしましょう。それだと貴方達は成長しないでしょう?」
あくまでも微笑みながらそう答えて来た。
「ふざけるな!成長とかそんなこと言ってる場合か!」
俺はその仕草と意味にイラつき叫んだ。
「言葉遣いを気をつけると言ったこと忘れました?さて、その話は置いておいて、取り敢えず、ここを通りたければ私を倒してから通りなさい」
学園長は満面の笑みでそう答えた。
ふざけるな!そこまでして、成長にこだわるのか!
ああ、いいだろう!そこまで言うのなら無理矢理にでも通ってやる。
「その笑みを変えてやる・・」
俺の言葉とともに学園長との対戦が始まったのであった。




