ミユキの勝利宣言
俺が次に目が覚めてはじめに見たのは見慣れない天井だった。
たしか、茜との対戦で『ファイアー・ウォール』を無理矢理突破して・・
ああ、やはり無謀だったか。
回復魔法や防御魔法が使えるならともかく、移動速度を上げるだけで突破するのは無理があったみたいだ。
どうやらここは回復室のベッドらしく、横を見ると美雪が俺を見ているのが分かった。
その表情は嬉しさというものはなく、険しい顔つきだ。
「なんとか生き残ってるんだな・・・」
取り敢えずは死ななくて、そして、勝てたことに安心した。
そんな事を思って口にしたのだったが・・
「貴方はバカなんですか!!」
美雪は大きな声で俺を罵ってきた。
バカとはなんだと美雪を睨み返そうとしたが、出来なかった。
美雪には、誰をも黙らせるほどの思いのこもった雰囲気を出していた。
こいつってこんな威圧感をだせるやつだったけ?
「回復魔法や防御魔法なしに、壁魔法を突破するなんてバカです!死ににいくようなものじゃ無いですか!」
その雰囲気を出したまま俺に言葉を繋げる美雪。
「だが、あの時では勝つ為にはあの方法しか・・」
例えば女の時だったら魔力操作がもっと早く出来てあの一瞬でも色々出来たかもしれない。
『パイク・フレア』自体を消すことも可能だろうし、『ファイアー・ウォール』をリペルで弾く事だって、『ショート・トランジション』で避ける事だって可能だった。
しかし男のままではそうもいかない。
『プロテクションカット』は元々かかっている魔法を解くだけなため、時間は必要ないから例外として、あの時の魔力と短時間に発動できたのは『スピードアップ』だけだった。
痛い、熱いくらいなら我慢できると思ったし、実際に勝つまでは我慢できた。
俺が謝らないのを感じ取ったのか美雪はさらに力強く睨みつけてきた。
「分かりました!男の貴方がそこまで無茶してまで勝ちたいというのなら、そこまでさせない方法で貴方に勝ちます!」
そして、そう宣言してきた。
「ほお・・」
俺は、そんな事が出来るのかと美雪の事を見つめる。
茜に勝った俺の次の対戦相手は美雪であり、美雪にはあまり警戒していなかった。
むしろ何をするかわからない茜の方が警戒していた。
実際に、黒い剣の魔器で魔力の吸収や、『マイ・スペース』で無効化できない『パイク・フレア』を切り札にいろいろと追い詰められたし、茜は最後の油断がなければ負けていたのは俺だったわけだ。
「私は大切な人を守れなかった事があります。その時はどうして私に力が無いのだろうと思いました。そして魔法少女になってからも、あまり魔力は高くなく守れるものは少なかった。そんな中に貴方は現れた。私に力を与えてくれたのは貴方です。そして今、力はあるのにまた守れなくなるところでした。こんな想いは二度としたくなかったのに・・」
美雪は、しっかりとした口調で俺に過去を語り、そして想いを語った。そして、
「だからこそ!これ以上、こんな想いはしたくない!その為に、貴方に勝ちます!」
改めて美雪は俺に勝つ事を宣言をして、回復室を出て行った。
俺はベッドから起き上がり、美雪に声をかけようとするが、掛けられる言葉が思いつかず、そのまま美雪が出ていくのを見ているしかなかった。
そういえば、あれだけ無茶したのに今はもうどこも痛く無い。
俺は自身の腕などを見て見ると、火傷などあってもおかしくなかったのに、傷1つなかった。
「それは、彼女、『藍色癒姫』さんが貴方に回復をしてくれたからですよ」
そう言ってきたのは、いつからそこにいたのかわからない学園長だった。
「大会の方はいいのか」
たしか開始の合図をしていたのは、学園長だったはずな訳で、そんな学園長がここにいたら不味いだろうと思って問いかけて見る。
「今、何時だと思ってるのですか?数時間も前に本日の大会は終わってますよ」
それを微笑んで返してきた学園長だが、その微笑みはどこか黒いものを感じる。
回復室にある窓を覗くと、外は暗く、夜みたいだった。
俺は何時間眠っていたんだ・・
「彼女は凄いですね。あそこまでの傷を、傷1つ無いまでに回復出来るのですから」
学園長の言葉に、それは同感だと思った。
動く分には違和感など全くなく、怪我なんて無かったみたいだ。
さすがは回復魔法が得意なだけはある?
そんなわけない。いくら得意でもここまで出来る人は限られているだろう。
「これは、貴方のお陰ですからお礼を言っておきますね。彼女をここまで成長させてくれてありがとうございます。流石は黒色聖母と名乗られるだけはありますね」
黒い微笑みを見せながら、感謝してきてるが、俺が教えたのは魔力の圧縮などなわけで、回復についてはあまり教えていなかったわけだ。
「魔力の圧縮がどれだけ難しいのかわかっていないみたいですね。とても難しい事だからこそ、普通の課程では習わないのですよ。それを貴方はたった数十日で教えたわけです」
俺が声にしてもいないのにそう返してきて、心が読まれているみたいで、なんかムカついた。
「それは、さておき、明日の対戦を期待していますね。出来るだけ頑張って下さい。それでは、失礼しますね」
学園長は最後まで微笑みを絶やさずにそう言って、回復室を出て言った。
いったい、何の用があってここにいたのだか・・
よくわからないこともあったが、俺も美雪の宣言に期待しつつ、今ではどこも痛くない身体で歩き、回復室を出るのであった。




