魔法大会残り10人 『黒曜剣士』 対 『日長直猪』
大会の3日目となり、残った人数はシード枠含めて10人となった。
シード枠は大会の6日目の準決勝以降に出場する特別枠で、それだけの力を持っている。
美雪は3日目も戦略的に勝ち残り、俺の出番が回ってきた。
会場まで行き、開始位置について、お互いに詠唱を始める。
【俺は願う。未来永劫、自由に生きる事を】
俺は黒い魔法服に、そして
【私は願う、過去、未来、そして今を築く。数多の敵を倒す!この力で!】
茜は、燃え盛るような赤色の魔法少女となった。
そう、対戦相手は俺が魔法を教えた茜なのである。
学園長を見ると黒い微笑みを浮かべているように見える。
貴方が教えた魔法少女を倒してまで自由を得るのかとでも考えているのだろうか。
確かに、ここまで頑張ってきた茜に勝ち進んでほしい気持ちもあるが、俺が自由になる件とは話が別だ。
何よりも全力でくるであろう茜に対して、手加減などしたら、茜に失礼だ。
そんな事を思っていると、学園長の放送と共に上空に数字が表れた。
さあ、成長したお前の力を見せてみろ。
そうして、数字がゼロになって茜と俺の戦闘が始まった。
【私に眠る魔の力よ。今、この時だけ、集の知をお与え下さいですわ】
【ディナイアル・ウィング】
開始と共に茜は、赤と黒の魔法服、『コンバージ・モード』になった。
俺は黒く見える翼を発動させて、空を飛んで茜に近づいていく。
初っ端から『コンバージ・モード』になるってことは、それだけ男の俺でも警戒してくれているってことだよな。
教えた身としては嬉しいが、戦う身としては面倒なことだな。
【ファイアー・ボール!】
近づいてくる俺に得意の『ファイアー・ボール』を放ってくる茜。
俺はそれを黒い剣の魔器で斬り裂いて消滅させる。
これだけで終わりじゃないだろ?
お前の本気を見せてみろ。
「数多の力よ。今この時、この場所で敵を飲み込みなさい!【アバンダント・ファイアー!】」
茜は目を閉じて自身に言いつけるように言葉を発した後に魔法を発動した。
それはいつか見た『ファイアー・ボール』が13個を一度の発動で発生させたものが、今回はそれを大きく上回り、30個程の『ファイアー・ボール』が宙を舞っている。
なるほど、一個でダメなら複数個で俺を撃ち落としにくるか。
まあ、妥当だな。
【マイ・スペース・ソード】
【スピードアップ・ウィング】
俺に近づいてくる複数の『ファイアー・ボール』に対して、剣に『マイ・スペース』をかけ、翼にスピードアップをかけて向かい打つ。
流石に茜に近づきながらとは行かず、後退したり、上空に逃げなが全ての『ファイアー・ボール』斬り裂いた。
そして茜を見ると茜は次の魔法を放とうとしていた。
「さあ!全てを焼き尽くしなさい!【エブリシング・バーン!】」
それは、いつか見たような周囲の全てを焼き尽くす魔法。
なるほど、『エブリシング・バーン』を発動するには時間を必要とする。
それを稼ぐ為に『アバンダント・ファイアー』を使った訳か。
複数個にも対応してくるのなら全体攻撃でか。
全く困ったやつだ。せっかく溜めた魔力を消費するしかないじゃないか。
俺は『エブリシング・バーン』に当たる直前に魔法を発動する。
【マイ・スペース・フル】
今度は『マイ・スペース』を全身にかける。この魔法は一部の範囲なら魔力をあまり使わないが、全身となるとかなりの魔力を消費し続ける。
『エブリシング・バーン』は俺に触れるところだけ消え去り、俺はそのまま空を飛びながら茜がいた場所に近づいていく。
『エブリシング・バーン』が消え去ると同時に『マイ・スペース』を消す。
『マイ・スペース・フル』を発動したのが少しの時間であったとしても、これ以上使えば女に性転換してしまうほどに魔力を消費してしまったのだ。
そうして周囲が見渡せるようになって、茜の方向を見ると、
「準備完了ですわ。飛んで火にいる夏の虫とはこの事ですわ。【ファイアー・ウォール】展開!さあ、全ての物を貫くのですわ!【パイク・フレア!】」
あらかじめ『ファイアー・ウォール』の場所を決めていたのだろう、一瞬にして『ファイアー・ウォール』は茜から俺を直前に囲むように現れた。
斬って『ファイアー・ウォール』を消滅させればいいのだが、その時間を与えないように『パイク・フレア』を放ってきた。
これは、不味いな。
今の残っている魔力じゃ『ショート・トランジション』もできないし、『ファイアー・ウォール』を斬る時間もない。
そして、何よりも『パイク・フレア』を斬ることはできない。
『パイク・フレア』には魔力無力化の効果があり、いくら俺の剣の魔器が魔力を吸収するものであったとしても剣の方が先に壊れてしまう。
『マイ・スペース』は、その空間のみ敵の魔力を無力化するものだが、同じ魔力無力化の効果がある物同士がぶつかると、より魔力が高いほうがのこる。
そして今の俺には先程の『マイ・スペース・フル』によって魔力はぼぼ残っておらず、こちらが『マイ・スペース』を発動したところで茜の『パイク・フレア』の方が魔力が高い為に『マイ・スペース』が撃ち負けて攻撃を受けてしまう。
この状況は・・・
ここまで茜がやるとは、何とも言い難い。
魔法を教えた身として嬉しい事もあるし、戦う身として悔しい気持ちもある。
それに、今まで茜は『ファイアー・ウォール』といった防御系の魔法を使わなかったのにも拘らず、そして俺も教えていないにも拘らず、今、この状況にするために発動した。
恐らく今までの対戦を見たり、実際に戦ってみたりして学んだ事を実施したのだと思う。
そうか、もう茜は茜自身で強くなれる。
そう思った。
・・・
・・・
【プロテクションカット】
【スピードアップ・ウィング】
俺は肉体ダメージを精神ダメージに変換する保護を切り、今できる限りの魔力を翼に込めて移動速度を上げる。
そして、間近にある『ファイアー・ウォール』に飛び込んでいく。
『ファイアー・ウォール』に体が触れた瞬間に、俺の身体が燃え上がる。
「っ!」
物凄く痛い、熱い!けれども、美雪にだって出来たんだ。
俺に出来ないはずなんてない!
『スピードアップ』したお陰か、あっという間に『ファイアー・ウォール』を抜けた。
その一瞬が物凄く長く感じたのは、きっと気のせいだ。
そして、元々俺のいた場所に『パイク・フレア』が飛んで行った。
茜は俺が『パイク・フレア』を受けたと思っているんだろうな。
俺は燃える体のまま飛び茜の後ろから剣を振り抜いた。
茜は何故って顔をしながら気絶していった。
そして俺の勝利宣言があると同時に、俺も気絶したのであった。




