学園長が言う性転換できる魔法使いとしての義務とは
赤色の魔法少女こと紅天寺 茜と暗い青色の魔法少女の対戦は茜の勝利に終わった。
先ほどの美雪の試合のように、勝ったと思った後に反撃されそうになったが、俺の想像を、そしておそらく学園長の想像を越えた動きをした茜が見事に勝利した。
本当に茜には、驚かされるな。
今回、茜がしたことは、水に含まれる水素のみを取り出して、それを利用して多少の火で爆発的に威力を出したのだ。
しかし、それをするには魔力を感じ取ることが必須で、茜は魔力を感じ取ることはできなかった筈だ。
にもかかわらずに、茜はそれをすることができたというのは、戦ってる最中に魔力を感じ取れるようになって、さらに応用も出来たという事になる。
そんなことは到底出来るものでないのに、茜にはそれが出来た事に本当に驚いた。
さて、そんな訳で茜の奇跡的な奮闘のお陰で勝てたわけだ。
だから、俺は大会に出れるわけか。
「茜が勝ったから大会に出られるんですよね?」
念のため聞いておく。この人は、何を考えているか分からないから聞いておくに越したことがないのだ。
「何を言ってるんですか?出られませんよ?」
「はぁ?」
学園長の言葉に俺は思わず疑問の声を上げてしまった。
下級ランクの茜が、上級ランクに勝ったのに何で出場が認められないんだ?
「私は真白 美雪さんを貴方に預けました。その美雪さんが負けたのだから、大会の出場権はありませんよ?」
「美雪は負けたが、茜は勝ったじゃないか!」
「茜さんの勝利はおめでとうございます。下級ランクの人が上級ランクに勝つのは相当な努力が必要だと思います。その努力を称えます。しかし、それと貴方が大会に出場するのは、別の話ですよ」
「っな!」
ふざけるな。俺が大会の参加権を得るには、下級ランクの生徒を育てて上級ランクの生徒に勝つ事だった筈だ。
そして下級ランクの茜を育てて、今、上級ランクに勝たせた。
なのに別の話だと!
「私は下級ランクの魔法少女1人を育て下さいと言いました。その1人は、私が指名した真白 美雪さんになりました。2人目を育てて勝たせたところで意味があると思いましたか?」
俺の表情を読み取ったのか、微笑みを浮かべながらそう言ってきた。その微笑みは俺から見ると邪悪な感じがして、嫌な気分になった。
「ですが、それだけですと可哀想ですから特例処置をつけてあげましょうか?」
尚も嫌な微笑みを浮かべながらそう続けてきた。
出場参加出来ないと言ってきたというのに、特例処置とは、どういう事なのだろうか・・
しかし、出場するのにそれしか方法が無くなってしまったので、それに頼るしかない。
「ああ・・、お願いする」
「女の子でいる時は、女の子の話し方でお願いします」
「っ!、学園長先生、特例処置をお願いします・・」
俺の男口調にも、あくまで微笑みを浮かべながら指摘してきて、悔しくなった。
本来は俺が学園長に微笑みを浮かべながら、学園長の悔しそうな顔を見る筈だったのに・・
「よろしいでしょう。特例処置の内容は、男として魔法大会に出場する事です。女の子に変身した瞬間に失格となります。よろしいですね?」
「え?」
男として魔法大会に出場する?それは俺にとって願ったり叶ったりなことではないのか?
俺は基本的に女でい続けたくない訳で、それを推奨してくるとはどういうことなのだろうか。
「ただし、その条件で優勝できたら、これから好きなだけ男のままでいて下さい。しかし優勝出来なかったら、私は魔法学園の学園長として、魔力の高さの重視と、世界を救う為に貴方に女で居続けてもらいます。もし、男でいる間に殺されたりしても嫌ですからね。魔法少女にする候補が出た時だけ、魔力を引き渡した後に男になる事にして下さい。その時には護衛をつけるので死亡のリスクも減ります。」
「っな!」
馬鹿げた話に、俺は声を上げてしまった。
魔力の高さの重視?
世界を救う為?
男でいるときに殺される?
そんなの知ったことか!俺は俺の好きなまま生きていくんだ。
俺はそのために魔法使い、挙げ句の果てには、魔法少女になったのだ筈なのだ。
それを俺の意思を無視で、ずっと女で居続けろだと!
「当然でしょう?貴方はそれだけの価値があるのです。この世界に、一ヶ月の間に何人もの魔法少女を産み出す事が出来る人がどれだけいるというのですか。今のところ、そんなことができるのは貴方だけなのです。そんな世界でたった一人の人が殺されたりしたら、どれだけ世界にとって損があるかわかりますか?」
「っ!例えそうだったとしても、そこに俺の意思が無いだろ!俺は・・」
「ならばその力を見せなさい!貴方はなるべく男のままでいたいのでしょう?男のままでも優勝出来るだけの力があるなら貴方の思うままの生活を認めてあげましょう」
俺が反論しようと話すが途中で、学園長の言葉に遮られた。
「っ、なら!特例処置の条件がそれなら、大会に出場しなければ今まで通りなのか!」
特例処置で、男としての俺の力だけで大会に出場することで、力を見せるということなら、特例処置を受けなければいい。
そう思って口にしたが、学園長の言葉にその期待は裏切られた。
「忘れたのですか?大会の優勝者には命令権が与えられます。その優勝者に、今の話をしたらどうなるでしょうか?おそらく、私の言葉を聞き入れて、貴方に命令してくれるでしょう。そして、貴方は命令を受け入れるしかありません。受け入れなければ、私が自ら貴方を罰しにいくのですから」
「・・・」
「まだ納得がいっていないみたいですね。性転換できるという、そのメリットは、とてつもないもので世界を救うものなのです。性転換できるたった一人の魔法使いとしての義務として、意味もなく死ぬことは許されません」
そこで学園長は一区切りつけて、深呼吸した。そして、いままでの微笑みが消えて真顔でこちらをみてきた。
「私は世界を守る為にこの学園を立ち上げました。だから、お願いします。私に、この世界を守らせて下さい」
そうして頭を下げ、俺にお願いをしてきた。あの学園長が頭を下げている。その事に俺は驚きを隠せなかった。
性転換できる魔法使いとしての義務か・・。
望んで性転換したという訳でもないのに、義務が発生するなんて、迷惑な話だ。
それを押し付けてくるやつも、嫌いだ。
けど、あの学園長が、頭を下げてるということに、俺の考えは少しだけ改まった。
「わかった・・、けど男として大会に出場するからな、それだけは絶対に譲れない」
世界を救うための義務があったとしても、俺は、やはり自由に暮していたい。
それが俺の魔法使いとしての原初だから、許される道があるのなら、そこを通りたい。
「わかりました。特例処置として男の貴方を大会に出場させましょう」
そうして、男の俺としての大会への参加権を得たのであった。