淡い水色の魔法少女 対 暗い赤色の魔法少女 ②
私は『ファイアー・ウォール』の手前から、暗い赤色の魔法少女に今できる最大限の攻撃をして勝ったと思っていた。
【ファイアー・ウォール】
【ファイアー・ウォール】
【ファイアー・ウォール】
【ファイアー・ウォール】
しかし、そのすぐ後に暗い赤色の魔法少女は、『ファイアー・ウォール』を連続で発動して来た。
勝ったと油断していたこともあり、暗い赤色の魔法少女が『ファイアー・ウォール』を発動し終わるまでに私は動くことが出来なかった。
そして私の後ろと左右と、最後に上と展開して行き、もともとあった前の『ファイアー・ウォール』を含めて私は『ファイアー・ウォール』に囲まれてしまったのであった。
何であれが当たったのに倒れてないの?
そんな事を思ったが、今はそれどころではない。
この状況をどうにかしなければならない。
こちらを閉じ込めたという事は、相手はこちらを倒すための手段の準備をしているだろう。
おそらく発動に時間がかかり火力が高い魔法。
私はそれを防げなければ勝ちが無くなったわけだ。
先ほど、魔器に魔力を沢山使ってしまった為に、私が使える魔力は後少しだけだ。
それで防ぐことが出来るのか?
出来るわけがない。
でも、それでもいろいろ教えてもらった蓮野さんに申し訳ないし、やれるだけの事はしないと。
いえ、やはり蓮野さんの事はどうでもいいか。
大事なのは私が勝ちたいという事。
別に嫌いな蓮野さんの為に勝つわけじゃ無いんだから。
でも、少しだけ、少しだけは蓮野さんの為に・・・、いえ、なんでもありません。
とりあえず暗い赤色の魔法少女の魔法を防げないとなると避けるしかなくなる。
ただ避けるにはこの囲まれている『ファイアー・ウォール』をどうしかしなければいけない。
一応、私の作戦によって周囲の湿度が高くなっている為、『ファイアー・ウォール』の火力は少し弱くなっている。
ただ、『ウォーター・レイン』でも『ウォーター・スプラッシュ』でも打ち破れそうにない。
基本的に壁系の魔法は、攻撃魔法に対して強く、同魔力程度では破れないのだ。
また、魔法が発動しているところに新たな魔法の発動や、物体に直接魔法を発動するのは難しい。
だから壁系の魔法は直接人に当てる事は出来ないし、壁系に壁系の魔法を放つのはできない。
発動している魔力の方向性とかは変える事は出来るかもしれないけど、私には火を操作した事がないから無理そうだ。
そして、残念なことに周囲がいくら火力が弱い火とはいえ、周囲が全て火に囲まれているという事があって、その中では湿度は低くなり水の魔法が発動し辛くなっている。
でも、諦めない。
私は諦めたくないんだ!
【ヴォルケージ】
『ファイアー・ウォール』の外から、暗い赤色の魔法少女の声が聞こえた。
『ヴォルケージ』となると、私の水魔法で対抗しても岩が残るだけだ。この囲まれてる中で岩が突撃して来たらもう逃げられないだろう。
それに時間をかけたって事は、かなり大きいと考えられる。そんな大きな物に今のこの状況で受けられるわけもない。
やはり、この『ファイアー・ウォール』をどうにかして避けるしかない。
考えられる時間はもうほとんどない。
この間にでも『ヴォルケージ』は近づいて来てるのだから。
やっぱりあれをやるしかないのかな?
うん。私は回復魔法使いなんだから・・・
私は決心して、とある言葉を唱える。
【プロテクションカット!】
『プロテクションカット』は、魔法大会や模擬戦時に使われている物理ダメージを精神ダメージに変換する保護が切れる効果がある。
保護には死なないようにするためとか、怪我による障害が残らないようにする為のものだが、それを私は解除した。
精神ダメージも沢山受けると危険ではないかと思うだろうが、魔法使いは精神ダメージでは基本的に気絶するまでにしか傷を負わない。
おそらく魔力の有無が関係してると思うのだけど詳しい事は知らない。
だから保護となり得るのだが、いまはそれはもう無い。
でも、これで私の本領が発揮出来るのだ。
【ウォーター・スプラッシュ】
魔法を自分に掛かるように発動して、水を浴びる。
そして、
私は声が聞こえた逆の方向の『ファイアー・ウォール』に向かって飛び込んだ。
火に触れた瞬間に、身体は燃え、とてつもない痛みが走る。
「っ!ぅあっーーー!」
悲鳴を無理やり気合いの大声に変える。
熱い!熱いけど、私は、まだ、頑張れる!
【リカバリー】
そして、私はもう一つの、そして1番得意な魔法である『リカバリー』を発動する。
『リカバリー』は生物にもともとある自己回復力を高める魔法だ。
魔力の量によって力が変化し、私の場合は少しの魔力だけでも骨折をもあっという間に直す程度の回復力はある。
じゃあ無敵じゃないのかというと、そういう訳ではない。
『リカバリー』とは、身体に魔力を流すということで、1回や2回ならその魔力はあまり残らない。
けれども何度も使うと身体に沢山の魔力が残りやがてはその魔力の量に耐えられなくなり、逆に身体を傷付けてしまう。
それは主にリバウンドと呼ばれていたりする。
身体に残った魔力を放出すればいいのかというと、それもうまくはいかない。
いえ、うまくいくことはあるかもしれない。
ただ大きなリスクがあるのだ。
元々、その魔力は自己回復力を高める為に使われていたものであり、その魔力を除くとなると、その魔力につられて最悪の場合は自己回復力を除く可能性があるのだ。
つまりは、傷を負っても傷が癒えない身体になってしまう可能性もある。
『リカバリー』によって身体に残った魔力は、時間とともに身体に馴染んでいき、やがては何処からか放出される。
以上の事により『リカバリー』は時間帯による回数制限があるのだ。
そんな『リカバリー』の効果により身体は燃える先から回復していって、やがて『ファイアー・ウォール』を抜けることが出来た。
私が抜け出したと思ったと同時に、元々いた場所に『ヴォルケージ』がぶつかっていった。
どうやら本当に間一髪だったみたいだ。
「はぁ・・・、はぁ・・・」
精神的にも肉体的にも相当のダメージを受けた気がする。
けどその甲斐もあって、あの『ファイアー・ウォール』の包囲網から逃げる事が出来た。
今度は包囲されないように逃げないと・・
とそんな事を思っていると、
「へー、少しは認めてあげてもいいかなー、けどこの状況をどうするのかなー?」
暗いの赤色の魔法少女は私の事を褒めてくれた。
けど、この状況って何だろう?
暗い赤色の魔法少女が上を見るような仕草をしている。
何だろうと思って上を見て見ると・・・
沢山の『ヴォルケージ』、その様子は火山が噴火して沢山の火山弾が噴出したような光景があった。
「貴女は『プロテクションカット』したんでしょー。これを一つでも受けたら死んじゃうと思うんだけどー、降参してくれないかなー」
暗い赤色の魔法少女はそう言ってきて、私は・・
「・・・、はい、私の負けです」
負けを認めたのだった。
流石に『リカバリー』ができると言っても、これだけの量を受けたら、リバウンドするのは間違いないだろう。
そっか・・、これが上級ランクの力・・・
一度は勝ったと思ったのに・・
私はそんな事を思って、涙が出て来た。
蓮野さんに強くしてもらったのに、勝つ為の作戦もいろいろ考えてもらったのに・・
そしてなによりも、私が勝ちたかったのに・・
「まあー、私も、学園長先生のアドバイスがなかったら危なかったと思うからー、泣かなくてもいいよー」
私が泣いているのを見てフォローしてくれる暗い赤色の魔法少女。
え?
「アドバイスですか?」
学園長先生が自らアドバイスするなんて一体何なのだろう?
「うんー、貴女がー、電属性の攻撃してくるからってー、電属性に対してめっぽう強い魔器の防具をつけるようにって、アドバイスもらったんだよー」
「え?」
「でもー、その魔器がー、貴女の1回の魔法で壊れちゃったときはー、とってもとっても!焦ったよー、ついー、慌ててこんなに魔法を発動しまうくらいにー」
私が電属性の攻撃することを学園長先生からアドバイスをもらったってところから、私は暗い赤色の魔法少女の話が耳に入っていなかった。
なんで?
なんで、私が使う魔法をこの人に教えたの?
なんで、私が電属性の魔器を使うって学園長先生は知ってるの?
なんで、強い方の人にアドバイスしてるの?
そんな事を考えてると、ふと、学園長先生と話した時のあの黒い笑みを思い出した。
学園長先生は裏で一体何を考えてるの?
そんなに、蓮野さんに大会に出て欲しくないの?
そんなに、蓮野さんを誰かの物にさせたいの?
「っ!」
私は思わず学園長先生がいる方を睨みつけた。
そこには蓮野さんが怒鳴っていて、それを和かに微笑みを受けて返す学園長先生がいた。
蓮野さんは私の為に、学園長先生に怒鳴っているのかな?
・・・
そして、私の気持ちが変わった。
始めは学園長先生の事を信じて、蓮野さんに講師をしてもらったけど、もう違います。
実際に私の事を強くしてくれた蓮野さん。
それでも、まだ蓮野さんが魔法使いにした人達にとっての責任は取ってないから、完全に認めた訳じゃないけれど、でも、何を考えているかわからない学園長先生よりは信用できます。
だからこそ、私は学園長先生よりも蓮野さんを少しだけ信じて、学園長先生の何を考えているかわからない企みを崩します。
その為には・・・
「対戦ありがとうございました。失礼します」
「んー、こちらもありがとねー。思ったよりたのしかったよー」
私は暗い赤色の魔法少女に挨拶をして、もう一人の下級ランクのいるところに向かったのであった。