不思議な力に『目覚めない』お話
「なぁ、一週間後に理科の授業で課題発表あるよな?」
「あるぞ。それが?」
「俺はさ、まぁ~適当にやり過ごすよ。でさ、テーマについては各々で決めて良いって訳だが…お前は何について書くんだ!?」
「…何を興奮しているのか知らんが、適当な事かな」
「え~、何時ものように、ほら…あの異世界転生の小説を勧めた時に初めて発覚したあの語りを使ってさ。あの頭固い理科教師を唸らせるとか…」
「化学に関係した事で無いと課題として意味も無い、創作上の話の個人的な否定したい事を言っていたりするだけだ。化学的な話としては…『時間停止を個人の能力で発動した時の疑問点』くらいしかないな」
「それだけか~、そうか~…」
「…」
「…あの、すいません。俺にはそうした話題が気になるんで、よろしければ内容を教えてください」
「えっ、ここは普通お互い無言になって帰る流れじゃないのか?」
「そんな流れは普通ではないし、今までも無かったよな!?
それに時間停止って多くの作品でかなり強い能力とされていたり、俺自身も好きな超能力が手に入るとしたら時間停止を希望するくらい興味津々なんだよ!」
「…ちなみに、何に使うんだ?」
「そりゃ、決まっているだろ!
遅刻しそうな時や授業中眠くなった時、テストでわからないところがあった時に…それさえあれば安全に赤点を越えていただろうな!」
「移動は全裸でな」
「…ちょっとまて。悪いが漫画や小説のようなスムーズなノリツッコミって難しいから普通にツッコんだが、何で俺は服を脱いで闊歩している前提になっている?
お前の中で俺は露出趣味のある変態なのか?」
「いや、真面目な話だ。
時間停止した、その瞬間に宙に浮いていたボールはどうなるか。動いていた人はどうなるか、それを分かった上でお前は時間停止を望むんだよな?」
「そりゃそうだろ!
ボールは宙に浮いたまま、人も止まったまま!自分だけ動ける世界って面白そうじゃないか!」
「じゃあ何で自分の着ている衣服は自分の動きに合わせて動くのか。それを説明してくれ」
「…ん?どう言う意味?」
「お前が今着ている制服。それは生まれた時から身に纏っていて、成長と共にサイズが大きくなって来たのか?」
「いや、当然脱ぎ着が可能だし皮膚や細胞じゃないから違うだろ…」
「なら、何故制服も停止した時間内で動くのか。普通なら空間に固定され、一切の身動きが不可能になるはずだが」
「えっ、えっと。自分の周囲だけ普通通りに時間が動くとか」
「なら、停止した際に密着した人も動けるようになるはずだ。つまり、直接殴ると瞬間的に反応を起こす。
しかし、中には殴った後に能力解除で一気にその衝撃を受けると言う設定がある。こうなると時間停止と言う能力が今まで築いてきた設定がお前の意見とは食い違う。」
「なら、それだけの能力を使える地点で相当な怪力とか?」
「時間停止しているものを動かすのは時間自体を塞き止めるだけの力が必要になる。それは未来に行くことや過去にいくよりも難しい。
例えばお前が川にいる状態で、通常の時間の流れ通り流される事、流れにそって泳ぐこと、流れに逆らって泳ぐことは可能だよな?」
「まぁ、泳ぐのは苦手だけど一応可能だな」
「なら、自分の力だけ、腕力や脚力。それだけで川の水を塞き止めてみろ。尚、防波堤等を作らず、自分より下流に毎秒一滴のみ下流に垂らせ。
更に具体的な条件として、川の横幅は15メートル、地形を変えず、塞き止められた水は川の外へ流れる事が無く川幅に収まり、水位も変わらない事が絶対条件である。必要な情報はある?」
「…あの、俺には意味がさっぱり分からないけど…答えはあるのか?」
「あるとすれば既にタイムマシーンかそれを出来る人、最低でもそれの理論がこの世に生まれているだろうね。用は、有り得ない。
時間停止解除した瞬間にそこから再スタートするとかも、水を塞き止めたのに壁を無くしたら通常通り流れるってのはかなり御粗末な考えだ。停止していた時間は一気に流れて、その圧縮した時間の中で色々な事故が起こる。
時間停止能力すげぇ、ならうちでもその設定を使ったキャラを使おう…理由は神が能力として授けた、その世界の法則に乗っ取った才能、偶然、機械が開発されたとか…そんな安易な理由では人には扱えない」
「じゃあ、レベルを下げて早く動くことで相手から認識されない瞬間移動は?本人じゃなければ時間停止の移動と変わんないだろ」
「…距離と見たときの角度によって大幅に難易度が変わるな。もしお前の目の前を時速100キロのボールが通りすぎた時は黙視できないだろうけど、距離が離れれば通った事はよく分かる。
F1カーの直線の最高時速は350キロ、しかしこれも観客席から見ることが可能。
音が秒速340メートル。距離としては理想的だ。これで距離を縮めれば更に出来る可能性に近付く」
「…それって可能なのか?」
「普通、燃え尽きる。」
「となると、分身の術も今の人間には…無理だな。」
「出来る世界がおかしいんだ。
…まぁ、こんなことを考えているようになると、その創作の設定が良い・エピソードが良い、でも一般常識で考えるとこうだ。
貴方の作品は別世界ではなく現代でこのような事があって、この様な性格の人ならどうするか。そうした設定で書いているが、そこら辺の事も考えた上でその話を書いているのか聞いてみたくなってしまう。
だが多分それくらい直ぐに答えられるからその設定を使って物語を考えているだろうし、そうしたことを気にしてしまうと物語を純粋に楽しめなくなるのがな…」
「…確かに考えすぎかもな。でも、俺はその様な疑問が生じるようになってもお前の考えが面白いから聞きたいし、真っ向から意見して何時かは勝ってみたいとも思っている。
それにお前のその思考は前の推理小説の時でも『もし本気で解くと決めたら、とことん作者を食い潰して見たくなる。アリバイや罠、トリックとかを考えるのは勿論、作者自身の素のコメントや感想への返事から本人の性格を推測したり、矛盾があればそれまでの推理を捨てる事すら躊躇しない』って言い切ったくらいだし、下手に考えないようにするよりも次々言った方が良いと思うぞ?」
「…そうかい。だが、このネタは発表には使うには事実としての情報が無いから却下するけどな」
「え~、勿体無い…」
「…ちなみに時間停止についてもうひとつ質問だが、お前は授業中に教室で寝たいから欲しいと言った。
その時に、どれだけの範囲が時間停止すれば良いと考える?」
「えっ、とりあえず教室…あとは、突然静かになったと他の教室から人が来られても困るから、廊下と他の教室…その階層まるごとかな」
「つまり、それ以外の所は動いていても問題無いと」
「まぁ、寝るだけだから全世界止めるのなんて無駄な力だからな!」
「…こうやって情報を共有出来るアホがいればこの雑談をする価値がある、だがそれ以外のところは価値無いからな」
「…ふっ、俺に惚れるなよ?あと、お前が思うよりアホではないからな?」
「どっちも絶対ねぇよ」