異世界転生『しない』話
「なぁなぁ、最近読み始めた小説でかなり面白いやつがあるんだけど」
「へぇ…どんな本?」
「『異世界転生したら人生チートになった!』ってタイトルなんだけど、事故に巻き込まれて死んだ主人公が異世界で生き返るんだよ。その際に凄い高い身体能力とか魔法能力を手に入れて、様々な敵を倒したり、数人のヒロインに囲まれてハーレム生活したりする小説なんだ。それ読んでて思ったんだけど、俺も異世界に行って勇者とかになってみたいって…」
「お前は、宇宙人ってどう思う?」
「…ん?宇宙人はこの小説に出てこないんだけど」
「いいから。宇宙人と聞いて、見た目とかどう思うか言ってみろ。」
「…えっと、何と言うか。全身銀色で、UFOに乗っていて、目が異様にデカイって感じかな」
「…やっぱりか。お前もそういったタイプの人間か」
「えっ?」
「お前は宇宙人と言われた時に、二足歩行・目が二つある・手足がある。その姿を最初に思い描いた上でイメージする姿を浮かべただろ」
「まっ、まぁ…そうだけど。でも、異世界転生とは関係無くないか?」
「お前は宇宙人を見たことがあるか?」
「いや、無いけどさ…」
「では、宇宙『人』に対して理解が足りないな。まずこの地球上に置いて二足歩行する種は四足歩行をする種に比べて圧倒的に少ない。しかしそれは進化の過程であり、普段から常に二足歩行にしてでも手を使うことに意味があると判断したからこその形であり、その進化をした種が『人間』だ。分かるか?」
「確かに人間以外で四つん這いになれるのに二足歩行する動物ってあまりいないけど…」
「そうした様に地球でも人間の進化は異端と言えよう。しかし宇宙『人』、つまり地球外の何処かの星で生まれた生命体も人間と同じく二足歩行で、目が二つ正面についていて、腕があり、手がある人に最も近い進化をした生き物がたまたま地球内では稀少な進化なのに宇宙にいて小まめに交流してきていると言うのか?」
「でも、実際に宇宙人が捕獲された写真とか。今でもUFOが撮影されたとか、実際に連れ去られたなんて話もあるだろ。やっぱいるんじゃ」
「UFOは未確認飛行物体。ただ化学で説明出来ないからUFOと呼ばれる訳で、実際に解析したら化学で再現できる可能性もある。もしかしたら地球上の生物かもしれない、誰かが作った物かもしれない。ただ、UFOと言う現物が未だに見つかってないのが宇宙からの襲来とされているだけだ。宇宙での飛行状態を撮影されたなんて聞いたことがない。
そして捕まった宇宙人も、実は地球上の生命体なのかも知れない。それでも宇宙人は宇宙から来たと言う確証はあるのか?」
「いや、無い…ちょっと待て、お前は異様に宇宙人を否定したがるけど、もしかしたら人型の生命体が宇宙にいて、それがUFOに乗って地球に来た可能性もあるだろ。それこそ違うと言う証拠は?」
「無い。が、数多ある星の中で非常に小さな地球にピンポイントで大量の襲来があることについても不審だと思わないか?」
「それは、宇宙人って地球の生き物よりも数が多くて発展していて、あっちこっちの星の近くを飛ぶんだよ。その流れで地球にもたまたま通り掛かった奴が地球上で目撃されただけかもしれないだろ…」
「その確率は?」
「限り無く0に近い1だよ!」
「…では、お前にも理解できるようになったはずだ。異世界転生小説の異様性を」
「…?」
「異世界、そこには当然地球は存在しない。星自体も宇宙も存在しない。全て真っ白から始まり、そこから設定が構築されていく。」
「…あぁ。異世界ってことはそこまでの規模なのかもな。」
「そしてお前が言う小説の作者は多分だが、まず宇宙を作った。そして円形の星を、その中の一つが物語の舞台になる土地になる。」
「いや、そこまで書いてないから分かんないけど…多分、そうなのかな。」
「その星の近くには小さな星が一つ、舞台となる星の近くを回っている。この世界で言うところの月だ。
更に別の目立った大きな星がある。その星は常に明るく燃えている、この世界で言うところの太陽。
その結果、舞台の星はその星の火を元に生活している。そして舞台の土地は常に同じ方向に回転を続けている。その結果昼夜と言う概念がこの世界に存在する。」
「まぁ、そうだな。この小説には昼夜があるし、先に言うが四季もあるよ。それで?」
「その世界には陸地と海が出来た。陸地にも高低差が出てきて山が出来た。自然が生まれて森が出来た。自然が枯れて砂漠が出来た。
そしてその世界には生き物が生まれた。それはこの世界の人間と見た目に大差なく、性別が男と女に分かれ、この世界と同じ家を作り、言葉を喋り、食事を取り、衣服を身に付けたり、商売をして、武器を作り、防具を作り、政治があり、法律があり、町があり…
もしお前が異世界に行くことになったとして、これに加えて魔法やモンスターと言う現代の想像上の物が実在する、本当に僅かばかしの誤差が存在する世界に辿り着けるその可能性はどれだけあると思う?」
「…何と言うか、あれだな。異世界転生って、チート能力とか抜きにして現代の基本的な部分がほぼ同じ。そんな世界に辿り着いた事自体が0に近い0レベルの、余程の幸運なんだな…
それなら、宇宙人がいるとか、現代が魔法やモンスターが溢れる方が小説の異世界転生するより可能性が高そうだ…」
「もしお前が小説を書くとして理想の異世界転生させたいなら、ゲームとか、主人公に世界を作らせるか。もしくは地球が存在している世界の別の遠い星、『異星界転生』って設定にしろよ。
あっ、読み終わったら俺にも読ませてくれ。」
「絶対貸さねぇ!」