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ある魔法使いの軌跡  作者: 近江上総
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自業自得

こんにちは、ベルネです。

レンツさんと共に旅に出て、半月ほどが過ぎました。

どうやらレンツさんは何処に行くのかという明確な目的地が無いままに旅をしていたらしく、私が「皆の遺品を届けに、それぞれの出身地に行く」のに付き合ってくれるとのことです。

ありがたいことです。

……ありがたいことなのですが。

「あれ? バーケの町って、こっちじゃなかった? ほら、地図にも……。」

「ですから! 地図が逆さまです、レンツさん! どうしていつもそう器用に間違えるんです!?」

「えー? 逆ぅ? 」

レンツさんは絶望的なまでに地図を読むのが苦手なようです。

今まで、一人でどうしていたのかを聞いたら、宛てのない旅をしていたことが判った次第です。

「魔力の流れで、人が沢山居るトコは分かるから大丈夫!」

とは、レンツさんの言。

一体何が大丈夫なのか、意味が分かりません。

決して頭が悪いわけではないのに、どうして地図は読めないのか……謎です。


あ、そうそう。

レンツさんは普段、魔獣や野盗に襲われた時には、魔法を使わず、腰の剣を使っています。

「魔法は、僕一人の時には頼りに出来ないからね。相棒はこの剣だよ。」

言われてみれば納得の理由です。

最初は私も半信半疑だったのですが、レンツさんが魔力を持っていないのは本当みたいです。

魔力の消費がほとんどない、魔獣の識別や魔力による付与効果のついた品の鑑定も、周りの人の魔力を借りなければ出来ません。

尤も、魔力供給源さえあれば、レンツさんの魔法は、今まで出会った人達とは比べ物にならないくらい高い効果をもたらします。

魔獣の種族名や弱点ならともかく、部位毎の攻撃力の違いまで判る人なんて、見たこともありません。


さて、今私達が向かっているバーケの町ですが、実はここは目的地ではありません。

私とレンツさんが出会ったフロムの村から、一番近い私の目的地に繋がる町がバーケです。

今までに立ち寄った村々で判ったことですが、レンツさんは各地のお酒や料理が好きらしく、私が持っていた地図にバーケという文字を見つけて、ずっと前にバーケで飲んだ酒をもう一度飲みたいと言い出しました。

無理矢理ついてきている私が何か意見を言うのもおかしな話なので、ひとまずそこを目指すことにしたのですが……。

「んー……魔力的には、右の方が沢山感じられるけど……。」

レンツさんがチラリと私を見てきます。

どうやら私の誘導を信じてもらえるみたいです。

「そうですね、地図でもそこは右の道に行くようになっていますよ。」

「よっし! ここ曲がったらすぐ着くね~。」

うきうきしながら道を右折するレンツさん。

なんだか子供みたいですね。

「……そういえばレンツさん、おいくつなんですか?」

「ん? 急にどしたの? 22だよ。」

「私と、8歳差なんですね。」

「え!? ベルネちゃんって14歳なの!?」

「はい。」

「……結構旅慣れてる風だから、もっと上かと思ってた。」

「10歳になってすぐにリーダー達について旅に出たので、まだ四年くらいしか旅はしてませんよ?」

「そーなんだ……。それで地図が読めるのは凄いな。」

「最初に教えてもらったのが、地図の読み方でしたから。」

冒険者をやっていくなら、地図を読む力と鑑定眼だけでも磨いておけ、というのが、リーダーの持論でした。

今現在こうして役に立っていますから、リーダーの持論は正しかったのでしょう。


そうこうしているうちに、バーケの町に着きました。

町に着いてすぐに、レンツさんは道中で倒した魔獣から手に入れた毛皮やらの素材を、武器や防具を扱う店に持ち込んで換金をします。

私も一緒に行くつもりだったのですが、子連れと見ると足元を見られるらしく、素材を買い叩かれてしまうので、この作業の間は別行動ということになりました。

さて、暇な時間です。

ここから、そう遠くない場所に次の村がありますし、保存食も数が足りているので、市場で目ぼしいものを探す必要もありません。

何軒か宿屋がありますが、泊まる場所はレンツさんが食堂を見て決めるので、私が探っても仕方ありませんからね。

特に何をするわけでもなくブラブラと通りを歩いていると、裏通りから喧嘩をしているかのような声が聞こえてきました。

……気づいてしまった以上、無視するのも気が引けます。

なるべく喧嘩をしている人達に気づかれないように、そうっと裏通りを覗き込むと、私より少し年下と思われる3人の子供が反対側の大通りに向かって駆けていくところでした。

裏通りの道の端に誰かが蹲っています。

慌てて駆け寄ると、そこに居たのはゴブリンの子供でした。

……いえ、居たという言い方は正しくありませんね。

「あった」のはと言うべきでしょう。

そこにあったのは、ゴブリンの子供の……死骸でした。

ゴブリンは種族自体が弱いですし、その子供となると複数人で痛めつけていれば、加減次第で殺してしまうことも有り得るかもしれません。

まだ体温が残っていますし、先程逃げていった子供達が殺したのでしょうか……?

さて、この死骸なのですが、実は魔物や獣の死骸をどう処理するのかは、村ごと町ごとに異なります。

私はこの町の作法を知りませんので、町の人にあの死骸のことを伝えて処理してもらうのがいいですね。


 「あぁ……。伝えてくれてありがとうね。後はこっちで処分しておくよ。」

丁度通りかかった衛兵さんらしき人に死骸のことを伝えると、面倒くさそうにそう言われました。

余計な仕事を増やしてしまったような気分になりますが、路地裏とはいえ、街中に死骸を放っておいていいわけがないので、気にしないことにします。

というところで、レンツさんが換金を終えて戻ってきました。

「今日は“紅の小鹿”亭に泊まるよ~。」

どうやら素材が良い値で売れたらしく、機嫌の良さそうなレンツさんです。

件の宿屋は、以前この町に来たときにも止まったらしく、美味しいお酒が置いてあるのだとか。

「よし、じゃあ“紅の小鹿”亭に行こうか!」

そう言って歩き出すレンツさん。

ですが……。

「そっちじゃありませんてば、レンツさん!」

町の中でも方向音痴を発揮するレンツさんなのでした。

 ◆    ◆    ◆

「……ん?」

“紅の小鹿”亭に向かう道すがら、町の外へと目を向けて、レンツさんが呟きました。

「あれ、なんだ?」

見ると、町と外を仕切る柵から少し離れたところに、何かが積んであります。

「なんでしょうね? 土……ではなさそうですし。」

「ちょっと、見に行くね。」

そう言うと、レンツさんは大股で積まれたものの方に近づいて行きました。

「う……っ!」

積まれた「何か」に近づくと、異臭がしました。

「死骸……か」

レンツさんは柵をひょいと跳びこえて、「何か」を見分しています。

「…………。」

「あ、あの、レンツさん……。」

「ベルネちゃん、すぐにここを出よう。」

「え? “紅の小鹿”亭に行くのでは?」

「その予定だったけどね。事情が変わった。」

そう言うとレンツさんは、私を抱き上げて柵の外に出しました。

 ◆    ◆    ◆

「あの、良かったんですか? 飲みたいお酒があると言っていたのに……。」

「ああ、うん。それは惜しいことをしたけどね。時間的にギリギリだったから、仕方ないよ。」

表情を変えずに、早足で町を離れながらレンツさんは言います。

「ギリギリ……ですか? もうすぐ日も暮れますし、次の村が近くにあるとはいえ、このままいくと、今日も野宿になっちゃいますよ?」

「そうだね。でも、襲撃される町の中よりは、安全だと思うよ。」

穏やかでない単語が聞こえました。

「し、襲撃……? 誰にですか?」

「ゴブリン。多分、もうすぐ一族で来るよ。」

端的に言うレンツさん。

ゴブリンは、個体としては弱いですが、徒党を組んでいることが多い魔物です。

集団になると、連携を取って攻撃してくることもあり、そうなると厄介です。

「でも、何でもうすぐ襲撃があるって分かるんです?」

「あの柵の外にさ、死骸が積んであったじゃない? 屠殺した家畜やら、野生動物やらの。」

「はい。」

「で、問題なのは、一番上にあった、真新しい死体。あれ、ゴブリンのだったんだよ。」

レンツさんの言葉に、日中見掛けた光景を思い出しました。

「ゴブリンって仲間を大事にする奴らだからさ、仲間が殺られたら、すぐにでも報復に来るもんなんだよ。」

「そうだったんですか。」

知らなかったです。

「ゴブリンは鼻が利く。今夜にでもあの町を襲いに来るはずさ。」

「っ!? それ、大変じゃないですか! 町の人達に知らせないと!!」

「何故?」

短く問うレンツさんの冷たい表情に、背筋がぞくりとしました。

「何故って……」

「あの子ゴブリンの死骸には、多くの傷がついていた。きっと、嬲り殺されたんだろう。……自分達の子供がそんな風にされたらどう思うか、想像がつかないものかな?」

レンツさんの言うことは尤もです。

身内を手酷く扱われて、いい気分のする者など居ないでしょう。けれど……。

「人間と魔物は違う、って言う奴も居るけどさ。そういうところって、変わらないだろうって俺は思う。」

だからーーーー、と、レンツさんは暗い表情で呟きました。

「自業自得、ってやつなんだよ。」

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