出会いの季節 6.5 (幕間)
「良い子達でしたね」
昴のクラスメート達――『ノワール』の新入部員となった二人の少女達が帰っていった後、まず口を開いたのは由貴だった。
空になった皿や食器を片づけながら呟いた彼女に、圭一が同意する。
「そうだね。昴も良い友人を持ったじゃないか」
「友人というわけではありません。……ただのクラスメートです」
圭一達が穏やかな口調なのに対し、答えた昴の声は固かった。
昴とは旧知の仲である由貴達は当然それを察したが、彼らは敢えて何も触れなかった。
ただそれぞれに苦笑気味の微笑みを浮かべ、話題を変える。
「でも、初日に遊びに来てくれるとは本当に意外だったよ」
「……一人では来なかったでしょうね」
昴はそれにため息混じりに返答した。彼女にしてみれば、その話題転換はさしたる意味を成してはいなかった。
間宮昴と姫宮由貴、香坂圭一は以前からの知人だ。圭一がはるか達に告げたように、友人と呼んでも差し支えはないだろう。だから仲が悪いわけではないのだが、かといって彼らはただ仲良しなだけの間柄でもない。
それは基本的に昴の一方的な感情が原因ではあるのだが。何にせよ、故に三人の会話はどこか薄氷を踏むような危険を孕んでいた。
「これで顔は見せましたから、しばらくは来ないと思います」
「まあそう言わず、また来てください。小鳥遊さん達も入部してくれたことですし」
「………」
由貴からの後輩達への呼称が『様』から『さん』に変わっていることに気づき、昴はぴくりと眉を動かした。部員になった彼女達はもう『お客様』では無いという意思表示だろうと判断し、その上で無視を貫く。
「彼女達と私は無関係です」
強いてぶっきらぼうに答えると、そこで初めてにこやかだった由貴の表情が曇る。
「あまり、意地を張りすぎると疲れてしまいますよ」
「お気づかいなく。私は貴女達のように器用ではないので」
「……その『演技』も、いつまでもつことでしょうね」
そっと囁いた由貴の声は、普段の彼女とは打って変わって冷たく、昴はぞくりと身を震わせた。
由貴のこの表情を見たら、小鳥遊はるか達はどう思うだろうか。
そんなことを思いながら、席を立つ。
「もう帰るのかい?」
入り口へと向かう間、背中にかけられた圭一の声はあくまで穏やかだったが、それが昴には逆に辛く感じた。
「ええ。……それでは、また」
昴は後ろを振り返ることなく『ノワール』を後にした。