憧れの場所と、やってきた少女 エピローグ
一緒に港まで迎えに行こう、と言うと昴は二つ返事で了承してくれた。
大事を取って早めに赴くと当然まだ船は着いておらず、それどころか海の向こうにすら影も形も見えなかった。なので近くのベンチで待つことにしたが、なかなかやってこない。なんだかだんだんやきもきしてしまった。
「あとどれくらいかな」
「飛鳥さん、五分ほど前と同じことを言ってますよ」
そう言う昴も、先程から頻繁に髪を整えたり、服の乱れを直したりと落ち着きがない。要するに二人ともはるかが帰ってくるのが待ち遠しいのだ。
そして。ようやく船が海の向こうに現れたのは、飛鳥が更にもう一度時計を気にした頃だった。
「これで乗り遅れてたら怒るけど」
「そうですね。それは沢山文句を言いましょう」
勝手なことを言いつつ、着いた船から降りてきたはるかを出迎える。
(良かった、元気そう)
二人の姿を見つけると、はるかは微笑んで駆け寄ってくる。疲れていたり、風邪を引いてる様子はなかった。
「お帰り、はるか」
「お帰りなさい、はるかさん」
「ただいま、昴。飛鳥ちゃん」
まずはお互いに笑顔で挨拶を交わした。それから見つめ合って立ち止まったまま、何となく三人とも押し黙ってしまう。気まずいというか、話の切り出し方に困ってしまったのだ。
数秒ほどが経った後、口を開いたのははるかだった。
「えっと」
「う、うん」
「……はい」
昴と二人で即座に反応すると、はるかがくすりと笑った。ちょっとだけむっとするが、それで多少緊張がほぐれてくれる。
「返事は、今、ここでいい?」
問われて、飛鳥は昴と顔を見合わせ、同時に頷いた。
ようやく、とうとう、遂にこの時が来た。
頷いたはるかが深呼吸をする。飛鳥もそれに倣い、はるかの言葉を待った。
と、横に立つ昴の手が飛鳥の手を握ってきた。
(昴も心細いんだよね)
思って、昴の手をそっと握り返す。
緊張から周囲の喧騒も風の音も聞こえなくなり、とても長い数秒が流れて。
はるかは二人の一方へゆっくり向き直ると、深く頭を下げた。
「間宮昴さん。私はあなたのことが好きです。どうか、私と付き合ってください」
ヒロインを選べない主人公が多い理由が書いててなんとなくわかった気がしますが……こうなりました。
でも、これで飛鳥がお話からフェードアウトするわけではありません。
次章、お祭りとお別れ編のプロローグは数日中に投稿予定です。




