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出会いの季節 4

 野球部、吹奏楽部、サッカー部、バスケットボール部、陸上部、囲碁将棋部、軽音楽同好会、カバディ部、二次元美少女愛好会etc……。

 途中、なんか妙に変な部があったような気もするが、それはともかく。

 昇降口前のメインストリートは様々な部活の生徒がひしめき合い、一種の戦争状態と化していた。二、三年生ら在校生が看板やらビラを手に声を張り上げ、道行く新入生を引き留めては自分たちの部に勧誘している。自分から向かって行かずとも歩いているだけで何度も呼び止められ、はるかはその対応にてんてこ舞いになった。

 まだ春だというのに熱気が凄い。騒々しさもあって、そこにいるだけで疲れてしまいそうだ。


「どう、なんか良さそうな部活ある?」

「ううん……どうだろう」

 人混みの中、耳元で飛鳥に問われたはるかは首を傾げ、困惑の笑みを浮かべた。島に娯楽スポットが少ないせいもあってか多くの部活があるようだが、今のところ特別面白そうな部は見当たらなかった。

「今のところ見つからないかも」

「んー。じゃあ、いったんこっち行こ?」

 正直に答えると飛鳥に手を引かれたので、それに従う。

 導かれた先は通りを外れた木陰だった。そのあたりは人気が少なく、その分涼しい。

 通りを離れたことで騒音も気にならなくなり、だいぶ落ち着けた。

「ありがとう、飛鳥ちゃん」

「ううん。でも困ったね。すぐには決まりそうにない感じ?」

「うん……ごめんね」

 優柔不断なことこの上ないが、言われた通り、すぐどこかへ決められる気はしなかった。

 それにあの場にいても翻弄されるばかりで、効率は良くなさそうな気がする。

「ビラだけでもいっぱいもらったから、後でゆっくり見て考えてみるよ」

 少し考えて、はるかはそう飛鳥に告げた。


 部活勧誘のピークは今日だろうが、入部期間自体はしばらく続くはずだ。何もこの場で入る部を決める必要はないし、いったん保留にしておくことにする。ビラのチェックだけなら寮の部屋でもできることだし。

 そんなはるかの決定に飛鳥も異論はないようで、あっさりと頷いてくれた。

「おっけ。じゃあさ、学食にでも行かない?」

「そうだね。行ってみよっか」

 ホームルームが終わったのが昼前なので、今はちょうどお昼時だ。お腹もだいぶ空いていたし、学食がどんな感じか興味もある。

「じゃ、決まりね」

 学食は校門から見て校舎の右端に位置している。中からも外からも入れる作りになっていたはずなので、外側から回り込むことにする。そうして辿り着くと、確かに外側にも入り口があった。

 しかし入り口から中を窺うと、学食内はかなり混雑していた。


 学食は四人席がいくつも並ぶ定番のスタイル。テーブルや椅子が違う以外に内外の差異はなく、席数もそこそこ多かったが、今は内外ほぼ全てのテーブルが埋まっている。カウンターには注文待ちの列もできており、今から列に並ぶとその間に満席になる可能性もありそうだ。

「そっか。来賓の人とかが使ってるから混んでるんだ」

 ざっと見た限り、利用者の中に大人の姿が多く混じっていた。入学式に参加した保護者や来賓が利用しているのだろう。人数は比較的少なかったとはいえ、大人たちがこぞって学食を利用すれば混雑して当然だ。

「……どうする、やめとく?」

「そうだね。購買の方も見てみようか」

 飛鳥と顔を見合わせ、学食の利用は断念した。こんなに学食が混みあうのは今日だけだろうし、無理に学食で食べる必要もない。食堂に併設された購買部で軽食を買って、敷地内のベンチで食べるというのもアリだろう。

 そう思い首を巡らせたはるかは、そこで別のものを発見した。

「間宮さん」

 それは近くに立つ間宮昴の姿だった。はるか達の方へ視線を向けているわけではなく、学食の方を見ている。おそらくは彼女も食事のためにここへやってきたのだろう。

「……?」

 はるかの呟きが耳に入ったのか、彼女が振り返った。


「ああ、同じクラスの……小鳥遊さんと一ノ瀬さん、ですよね」

 そう言って、ゆっくりと近づいてくる。それからそっと微笑む彼女に、はるかはぺこりとお辞儀をした。

「はい。すみません、呼び止めてしまって」

「いえ、お気になさらず」

「名前、もう憶えてくれたんだ?」

 はるかの隣で同じように会釈しつつ、飛鳥が尋ねた。すると昴はそれに頷く。

「ええ。皆さんの名前はひととおり憶えました」

「うわ。あたし半分も憶えてないと思う」

「私は自己紹介の時間の記憶が殆ど……」

 彼女の答えに二人は感嘆した。昴は事もなげに言ったが、実際はそう簡単なことではない。よほどの記憶力か集中力でもなければクラス全員の名前を一度で覚えるのは困難だろう。

 しかし、はるか達の呟きを昴は笑顔で受け流した。

 特に謙遜も自慢もせず、別のことを尋ねてくる。

「お二人も昼食に来られたんですか?」

「はい。でも学食が混んでいるので、どうしようかなって」

「そうでしたか。でしたら私と同じですね」

 そう言うと昴は困ったような表情を浮かべて首を傾げた。


「生憎、学食はこの様子ですし、私は寮に戻ろうかと思います」

「ご飯、食べないの?」

「ええ、一食くらいなら抜いても問題ありませんし」

 寮の食堂は土日祝日を除き朝晩のみ営業している。今日はカレンダー上では休日だが、入学式の兼ね合いで今日に関しては平日扱いとなっていた。だから昼食時の営業はなく、昼食は学食や購買等で済ませることを推奨されていた。

 とはいえ、確かに一食くらいなら抜いても問題はないが。

「でも、あまり体に良くないんじゃ」

「もともと小食なものですから、お気づかいなく」

 頭に浮かんだ懸念を口にしてみるも、昴の返事は素っ気なかった。

 そう言われてしまえば、それ以上追及するのも悪い気がしてくる。今日会ったばかりの相手にあまり馴れ馴れしくするのも、あまり印象は良くないだろう。

 飛鳥もそう思ったのか、微妙な表情ではるかに目線を向けてきた。

「そっか……じゃあ、はるか。私達だけでどっか行く?」


 けれど、はるかは飛鳥の提案に同意せず、もう一度昴に声をかけた。

「あの、間宮さん。やっぱり、良かったら私達とお食事しませんか? 学食は無理そうですけど、外にもお店はあると思いますし」

 特に何か深い理由があったわけではない。ただ、このまま昴と別れるのが勿体ないと感じたのだ。

 はるかの発言に、飛鳥は一瞬驚いた顔をした。

 しかしその後すぐに同意し、頷いてくれた。

「そだね。それもいいかも。どう、間宮さん?」

 しかし昴はどこか浮かない顔を浮かべたまま、すぐには返事をくれなかった。

 やはり迷惑だったか。そう思い、はるかは慌てて言葉を付け加える。

「あの。もちろん、ご迷惑だったら大丈夫です」

 すると昴は顔を上げ、はるかを見つめて首を振った。


「いえ……そう、ですね。むしろ、私の方こそご迷惑ではありませんか?」

 何かを考えるようにしつつ、そう聞いてくる。少し不思議な反応ではあったが、少なくとも拒絶されなかったことにはるかはほっとした。

「いいえ、そんなことないです」

「うん、あたしも全然構わないよ」

 飛鳥と二人で揃って答える、昴の表情が少しだけ和らいだ。


 そうして頷いた彼女は、はるか達に思いがけない提案をしてきたのだった。

「……でしたら、一つ思い当たる場所があるんです。おそらく食事もできると思いますので、よろしければ行ってみませんか?」

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