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ロールプレイング・ハイスクール  作者: 緑茶わいん
純情少年と恋の手紙
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純情少年と恋の手紙 6

「こんにちはー」

 敷島との話を終えたはるかは、その足で『ノワール』に向かった。ドアを開けて店内に入ると、いつもの面々が一斉に振り返る。彼らからそれぞれ、何やら強い視線を浴びせられ、思わずたじろいだ。

「え?」

(な、何かあったの?)

 そんなはるかの疑問に答えるように、由貴が笑顔で声をかけてきた。

「いらっしゃい、はるかちゃん。お相手はどんな方でした?」

「あ、その話ですね……」

 早速、今朝のメモの件が話題になっていたらしい。なら、先程の視線はそれが原因か。皆して、はるかが事を済ませて来るのを待っていたのだ。

 そこまでしなくても、と思ったが、まあ確かに、逆の立場ならはるかだって気になる。


「いいからほら。座って、どんな人だったか教えてよ。何年生?」

 特に楽しそうなのは、やっぱり飛鳥だった。

「えっと……」

 目を輝かせながら尋ねてくる彼女に、はるかは曖昧な笑顔を返した。そこまで期待されてしまうと、ちょっと真実を伝えるのが心苦しい気もする。

 とりあえず、勧められた通りいつもの椅子に腰掛けた。

「一年生だったよ。割と格好良かった、かな」

「へぇ……そうなんだ。いいじゃん」

 それから質問に答えると、飛鳥はほうっと息を吐いてうんうん頷く。ノリの良い彼女とはいえ、結構な食いつきようだった。

 そこで、カップがソーサーに触れる音がする。圭一だ。彼はいつもの調子で変な事を言ってくる。


「ちなみに小鳥遊さん。相手は男子だったんだよね?」

「え? 女の子だったの?」

「大丈夫、男の子だったよ」

 そう答えると、飛鳥はほっとしていた。何だか、このままだと話が脱線していきそうだ。

 もう、今のうちに白状してしまおうと、はるかは口を開く。

「でもね、そもそも告白されなかったんだ」

「え、そうなの?」

「うん、男の子に呼び出されたのは確かだったんだけど……」

 そこで言葉を切って、昴の方へ視線を向けた。

 視線に気づいた昴が首を傾げるので、そこへ敷島から預かった手紙を差し出す。


「C組の敷島君っていう子がね、昴にこれを渡して欲しいって言ってきたんだ」

「え……?」

 すぐには意味が理解できなかったのか。昴は何度か瞬きを繰り返した後、手を伸ばして手紙を受け取った。小さく俯くようにして封筒の表面に目を落とす。

 黙ったままの昴を見て、飛鳥が遠慮がちに囁いた。

「それって、もしかしてラブレター?」

「……うん。他の人には内緒だよ」

 本当は、誰にも言わない方がいいのかもしれないが、隠したとしてもこの面々にはすぐ伝わってしまうだろう。ただ、他の生徒には知られたくない。


「成程ね。そういうことだったのか」

「はるかちゃん、残念でしたね」

「あ、いえ、私は別に」

 もともと断るつもりだった告白だ。特に残念に思うこともない。

 むしろ、敷島からのラブレターを昴がどう思うのか。そちらの方が気になった。

「昴」

 そっと名前を呼ぶと、彼女がこちらを振り返る。何て言おうか、今になって迷った。

「敷島君は、たぶん昴のことが本当に好きなんだと思う。だから、ちゃんと手紙を読んであげて欲しいな」

 結局、はるかは敷島から話を聞いて思ったことをそのまま伝えた。

(告白を断るつもりであそこに行った私が、言うことじゃないかもしれないけど)

 昴への思いを語る敷島の表情は真剣だった。だから、せめてきちんと向き合ってあげて欲しいと思った。

 数秒間、はるかと見つめあったまま、昴は黙っていた。

 彼女の瞳は複雑そうに揺らいでいたが、

「わかりました」

 やがて、しっかりと頷いてくれた。

 再度下を向き、封筒の表面を軽く指で撫でて。

 昴は手紙を鞄にしまうと、ゆっくり立ち上がった。


「すみません。今日はこれで失礼します」

 そう言って、一同に向けて頭を下げる。それにいち早く答えたのは由貴だった。

「わかりました。片付けは私達でやっておきますね」

「ありがとうございます。――はるかさん。飛鳥さん。それでは、また明日」

「――あ、うん。またね、昴」

 素早い昴の行動に驚いていたはるかは、何とかそれだけを答える。

 昴は、そんなはるかに微笑んで、『ノワール』を出て行った。

 ぱたん、と入り口のドアが閉じ、店内に静寂が訪れる。

「ふふ。ラブレターなんて、昴も隅に置けませんね」

「楽しそうだね」

「それはそうですよ。人の恋話ほど楽しいものはありません」

「わかるけど。程ほどにしておくように」

 短い沈黙を破って会話を始めたのは二年生の二人だった。笑顔で――彼女はいつもそうだが――話す由貴を、圭一が苦笑いで窘める。彼らは全然、動じていない。そんな二人をぽかんと見守る。

 と、視線に気づいた由貴が、はるかの方を見た。

「大丈夫ですよ。あの子はただ戸惑って、それでも真剣に考えようとしているだけだと思います。はるかちゃんも、それはわかっているでしょう?」


「……はい、そうですね」

 はるかは頷いて答えた。きっとそうだろうとは思っていた。少しでも早く、敷島からの手紙を読むために寮へ帰ったのだろうと。ただ、少しだけ状況についていけていなかった。

「だから、はるかちゃん達はしっかり見守ってあげてください。きっと、それで大丈夫ですから」

「はい、そうします」

 そんな不安をほぐすような由貴の声に、はるかは微笑んだ。

「よろしい」

 二人の返事に由貴は満足そうに頷いて。

「と、いうことで。はるかちゃんがお手紙を預かるまでのお話、聞かせて下さいね?」

「あ、それはしっかり話すんですね……」


―――


 翌朝、はるか達は昴と顔を合わせることなく登校した。

普段から待ち合わせはしていないので、それ自体は普通だ。ただ、教室に着くとまだ昴は登校していなかった。登校時間が合わない時は大抵昴が先に来ているので、このパターンは珍しい。

 結局、その日、昴が登校してきたのは始業時間ぎりぎりだった。


「昴、今日は遅かったんだね」

「はい。少し寝坊してしまいまして」

 ホームルーム後に話しかけると、昴からはそんな返事があった。体調が悪い様子もないので、本当に寝坊しただけらしい。

「それで、どうだった?」

 と、横に立った飛鳥が声をひそめて昴に尋ねる。主語も何もなかったが意図は伝わったらしく、昴は特に気にした様子もなく答えてくれる。

「はい、一通り読ませていただきました」

「そっか。……どうするの?」

 続いての質問には、昴はしばらく考えるような素振りを見せた。


「……一度、返事の前に彼とお話をしてみようかと」

「話?」

「ええ。手紙を読んだだけでお返事をするのも失礼かと思いまして」

 敷島と直接会って話をした後、返事を決めようということらしい。

 それは、昴の性格からすると意外な流れだった。

 未だにはるか達以外の生徒とあまり仲良くせず、他人と距離を置いている昴。そんな彼女が、男子からの告白へ積極的に向き合おうとしている。

(敷島君のこと、本当に真剣に考えてくれているんだ)

 はるか自身が昨日お願いした事ではあったが、

(良かったね、敷島君)

 すぐに断られる、なんていう彼の予想は外れたようだ。昴は、はるかの想像以上にしっかりと敷島のラブレターを受け止めたらしい。昴にそこまでさせるなんて、少し彼が羨ましいくらいだった。

 そんな風に思っていると、昴がそっとはるかを見上げてきた。

「それで……実は、はるかさんにお願いがあるんですが」

「うん。いいよ、私にできることなら」

 敷島の思いと昴の決意を考えると、出来る限りの協力はしたい。

 はるかはにっこり笑って、昴に頷いた。

15/6/7 誤字を修正しました。 ちゃんとと手紙を→ちゃんと手紙を

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