純情少年と恋の手紙 0
人気のない部屋に、男の子と二人きり。
放課後、空き教室に呼び出されたかと思えば、相手の少年は先程から黙り込んだまま。
言葉を探しているのか。顔を赤らめ視線を彷徨わせる彼を、はるかは落ち着かない気持で見守っていた。
ただ、相手の言葉を待つ。それだけの行為がとても辛く、苦しい。
早く、何かを言ってほしい。
停滞した時間の中で気ばかりが焦り、生殺しのような気分だった。
これから彼は、何と言って来るのだろう。
手持無に思考を巡らせれば、何パターンもの台詞が浮かんだ。恋愛事には疎いはるかだが、これだけいかにもなシチュエーションを用意されれば、流石にあれこれと意識せざるを得ない。
空想が深まるにつれ、胸の鼓動も早くなる。
理性できない反応に困惑しつつ、はるかは待ち続ける。
この、ごく短く、とてつもなく長い沈黙の終わりを。
そして。
「あのっ、これっ……」
ついに口を開いた少年は、可哀そうになるくらい切羽詰まった表情で。
ズボンのポケットから取り出した四角い何かを、はるかに向けて差し出した。
「受け取ってください!」
どくん、と、ひときわ大きい胸の音を聞きながら、はるかはそっと手を伸ばす。
手紙の入っていると思しき封筒――白地に二本のラインで縁取られたそれを受け取り、表面に書かれた文字を視線でなぞって。
(ああ)
深々とした感慨を、ため息に変えて吐き出した。
期待と不安の入り混じった視線で自分を見つめる少年に微笑みを返しながら。
頭の中で、はるかは静かに考えていた。
――これ、どうしたらいいんだろう。と。




