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ロールプレイング・ハイスクール  作者: 緑茶わいん
五月病と初夏の日々
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五月病と初夏の日々 5

「それじゃあ、本当に特訓することにしたんですか?」

「はい。どっちにしても、早く慣れた方がいいことですし」

 練習の件を真穂に相談したところ、幸い色よい返事をもらうことができた。

 部室棟の鍵を借りられるのは明日とのことなので、はるかはいつも通り『ノワール』に顔を出した。

 着替えを終えた後、雑談がてら圭一、由貴に経緯を報告すると、先輩達は驚きに目を丸くした。


「なので、しばらく顔を出せない日が増えるかもしれないんですが……」

「それはお気になさらず。安心して練習して来てください」

「まあ、どうせ暇だしね」

「ふふっ、ありがとうございます」

 暇、という圭一の台詞は少し悲しくもあったが、現状その通りなので仕方がない。

「貴方が何もしていないだけで、はるかさん達は働いていますけどね」

「昴だって紅茶を飲んで座っているだけじゃないか」

「私は客として来ていますので。文句を言われる筋合いはありません」

 相変わらず『ノワール』に来客はなし。なので店内の面々はいつも通りだ。


「そういえば、テスト前とか部活はどうするんですか?」

 そこで会話の流れで思い出し、はるかは気になっていたことを尋ねてみた。

 すると、由貴が不思議そうな顔をする。

「どうする、といいますと?」

「え」

 逆に聞き返されて、一瞬言葉に詰まった。

「お休みにしたりとか、しないんですか?」

「ああ、そういうことですね」

 再度尋ねると得心したように頷かれる。どうやら素だったらしい。圭一が小さく笑いをもらしつつ、代わりに答えてくれる。

「テスト前や、テスト期間中もここは毎日開けるつもりだよ」

「それって、大丈夫なんですか?」

 更にそう尋ねたのは飛鳥だった。はるかも同意見だ。


「問題ないよ。大抵の部活動は自粛するだろうけど、規定があるわけじゃないからね。活動するのは部員たちの自由に任されている」

「いえ、それもそうですけど。テスト勉強とか」

「学校の試験勉強なんて、普段の授業をちゃんと聞いていれば大して必要ないだろう?」

 それは勉強ができる人の理屈ではないだろうか。と、真面目に授業を聞いていても不安でいっぱいのはるかは思う。

「もちろん、小鳥遊さん達は無理に顔を出さなくても構わないよ。何ならここで勉強してくれてもいいし」

 いつもながら懐の広い活動内容だった。お客さんが来ない現状だからこそ、出来ることではあるだろうけど。

「まあ、そういうことなら問題ないですね。……ああ、一応言っておきますと、私も顔を出せない日が多少、増えるかもしれません」

「あら。何かあるんですか?」

「体育祭でリレーの選手に選ばれましたので、何日か練習が入る予定なんです」

 その話は昼休みにも出たので、はるか達は既に知っていた。一応、主な練習は中間試験終了後になる見込みだが、参加者の予定を見てスケジュールを決定するので、具体的にはまだ決定していない。


「なるほど。唯一のお客さんまで来ないのは寂しいけど、仕方ないね」

「これからもっと、お客さんを増やしましょうよ。香坂先輩」

 やや寂しげに息を吐いた圭一を慰めるように、飛鳥が言った。

「ふふ。じゃあ、お客様を呼び込むためにも、今日もレッスンを始めましょうか」

「あ、そうですね」

 微笑む由貴の言葉に頷いて、はるかは席を立った。飛鳥も同じように立ち上がる。

 レッスンとは、具体的には紅茶の淹れる練習のことだ。料理の練習なども並行して行っているが、やはり料理は手間もかかるので、ここ最近はこちらがメインだった

 飛鳥、由貴と一緒に隣の部屋へ移動して、由貴の監督のもと実技形式で練習する。

 もう何度も行っているが、紅茶の淹れ方も料理と同じく、やはり学ぶべき事は多かった。


 まず、やかんに水を入れ、加熱して沸騰させる。ティーポットに茶葉を入れでお湯を注ぎ、しばらく蒸らす。丁度いい頃合いになったらティーカップに紅茶を注ぐ。簡単に言うと、紅茶の淹れ方はそんな感じだ。

 この時、水は水道から汲みたてのものを使う。ミネラルウォーターの類を使わないのは硬水よりは軟水の方が良く、水の中に空気が多く含まれている方が紅茶に適しているためだ。また、ティーポットやカップは一度お湯を注いで温めてから使った方がいい。蒸らし時間はポットや茶葉によっても微妙に変化するので注意。蒸らしが終わったら茶葉は濾しておき、カップに注ぐ際は濃さにムラが出ないよう回し入れる。

 その他、ポットやカップの材質や色にも向き不向きがあるとか、水や茶葉の分量はしっかりと量った方がより美味しくなるとか、ミルクティーやアイスティーだとまた話が変わってくる等々、ポイントは尽きない。


「やっぱりこれも一番大事なのは慣れ、ですね」

 実際に経験して慣れるのが一番、と由貴はいつも口を酸っぱくして言っている。

 そのため、由貴から貰えるアドバイスはやはり最小限。後はひたすら試行錯誤を繰り返す作業だった。付け焼刃の知識は応用が利かないが、自分で苦労して覚えたことはそうではない、というのもあるらしい。

 それから、直接由貴からアドバイスを貰えなくとも、講評はしっかりと貰えている。由貴だけでなく圭一や昴も紅茶を普段から飲み慣れているらしく、その味覚は確かだ。

 そういうわけで、はるか達は紅茶を淹れては、三人から評価を貰う。

「ふむ……ちょっと薄いね。蒸らしが足りないかな」

 圭一は端的な感想と問題点を率直に口にしてくる。参考になるという意味では彼の評価が一番かもしれない。

「………」

 昴は、はるか達に配慮しているのか、あまり感想を口に出さない。ただ、気になる点があると眉が動いたり、カップに口を付けた瞬間の表情でわかる。

「……うん。では、そういうことでもう一回やりましょうか」

 由貴は多くを語らず、リテイクを要求してくる。笑顔を崩さないし口調も柔らかいが、その言葉には有無を言わせない雰囲気がある。三者三様にそれぞれのスタンスではるか達に付き合ってくれていた。

 そんなこんなで飛鳥と、一人ずつ湯を沸かすところから最後まで順番に練習した。都度試飲と講評を挟んで各二回ほど繰り返すと、だいたい良い時間になった。

 飛鳥、由貴と手分けして後片付けしたら、その日は解散になった。

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