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はるかの選択 10

 本校と分校の生活スケジュールはほぼ同じだが、女子校と共学の違いや立地の関係などで一部日程は異なる。冬休みに入る時期もその一つだ。

 分校では交通の便もあり、早い時期に二学期が終わる。一方、本校が終業式を迎えるのは例年、クリスマス前後だ。今年の終業式は明日、二十五日の月曜日で、そのため寮の生徒達もまだ学校に残っていた。


 終業式が終れば昴はすぐ実家に帰り、始業式直前まで戻ってこない。これが休み中に彼女に会える最後のチャンスだということも、この会が催された大きな理由だった。


「でも、宇佐美さんが昴と仲良くなってるのは驚いちゃった」

「お互い、小鳥遊さんのこと知ってたから話しやすかったんだよ」

 そうすると真琴と仲が良い(というか、真琴が一方的に構っている)奈々子とも交流が生まれ、必然的にこの三人でいることが多くなったのだという。

 はるかがそれを知ったのは数日前、会のセッティングのため昴達に連絡した時だった。

「宇佐美さん達には良くして頂いているんです」

 楕円形をしたテーブルの端に腰かけた昴がそう言って微笑む。

 どうやら、二人のおかげで本校での生活は順調らしい。


「ありがとう、宇佐美さん。佐伯さんも」

「そんな。私こそ間宮さんにはお世話になってるから」

 笑顔と共にお礼を言うと、真琴は同じように微笑みを返してくる。

「……別に、特別なことしているつもりはないですから」

 奈々子はやはり相変わらずな様子だったが、真琴も昴も既に慣れたのか平然とスルーしていた。

「……ツンデレ?」

 飛鳥が小さく呟いた感想も、まあ。当たらずとも遠からずかも?


 場の席順は昴から時計回りに飛鳥、弥生、はるか、奈々子、真琴となった。昴の対面にはるかが座る形だ。

 本校の面々と全く面識がない弥生を連れてくるのは少し心配もあったが、幸い、彼女は最初の自己紹介の後、すぐに打ち解けた笑顔を見せていた。

 昴のことは間接的に知っているし、真琴は引っ込み思案ながら優しい性格だ。奈々子もあまり強烈な毒は吐かないので、この様子なら問題ないだろう。

(うまくいって良かった)

 お菓子やジュースを挟みつつ、和やかに進行する会話を安心して見守っていると。


「そういえば、小鳥遊さんは部活でメイド喫茶をやってるんだね。私、知らなかった」

「あれ、はるか言ってなかったんだ」

「ええ。私や佐伯さんが話したら驚かれました」

「正確にはメイド喫茶じゃないですけどね。例の挨拶はしませんし」

「あ、それは確かに大事ですよね」

 気づけば、皆の話題の中心がはるかのことになっていた。

「まあ、小鳥遊さんは変な人なので」

「それは否定しませんが」

(昴まで!?)

 何故かと思えば、要は全員に共通する話題がそれくらいしかないのだ。学校も学年も一致しておらず、今日が初対面のメンバーもいる。全員と面識があるのははるか一人だ。

 そう思うと仕方ないような気もする。どうやら話は弾んでいるみたいだし。

「小鳥遊先輩のメイド姿、私も一回見てみたいなあ」

「見せたことなかったっけ。写真ならあるよ、ほら」

「そういえば、私も見たことないです」

 ……いや、やっぱりどうにかした方がいいだろうか。


 他にも始業式の自己紹介ではるかがやらかしたネタだとか(by飛鳥)、奈良公園で鹿に襲われた話だとか(by弥生)、文化祭の練習でベタな噛み方をした話だとか(by昴)、ひとしきり話した一同は、ようやく別の話題へ移っていく。

 次いで話に上ったのは弥生の進学先についてだった。

「私、本校と分校、両方受かったとして、どっちに行こうかはまだ悩んでるんですよね」

 弥生がそう言うと、少女達はそれぞれに自分の意見を述べ始める。


「あたしは分校が好きだな。お店が少ないのは不便だけど」

「そうですね。学業に専念するにはこれ以上ない場所かと」

 飛鳥と昴が分校を褒めれば、

「うちは女子校だから、のんびりできて私は好きだな」

「まあ、交通の便が良いのは得ですよね」

 真琴と奈々子が本校の良いところをアピールする。両方を経験している昴や奈々子は他校の話にも時折頷いているようだった。

 人それぞれ好みは違うし、自分の学校には愛着がある。当然、どちらかがいいか結論が出ることはなかった。


「なるほど……やっぱり難しいなあ」

 弥生は皆の意見を興味深そうに聞いた後、そう言って小さく息を吐いた。

 なんとなく一同の注目が集まる中、彼女はしばらく黙考し、遠慮がちに口を開く。

「でも、実は、さっきは言わなかったんですけど。もう一つ考えてることがあって」

「?」

「私、もしなれるなら特待生になりたいと思ってて。そうしたら、自動的に分校へ通うことになるんですよね」

 その言葉は場の空気を一変させた。

 表情の変化は各々によって違ったが、一番大きかったのは戸惑いだろうか。

「弥生ちゃん?」

 反射的に声を上げると、申し訳なさそうな笑みが返ってくる。

(わかってて、それでも言ったってこと?)

 それは、でも。

(やっぱり、ここでは言わない方が良かったかも)


「そうなんだ。知らなかった」

「姉さんには言うタイミングがなかったしね。でも父さん達からは許可もらったよ」

 飛鳥は比較的、衝撃が薄いようだったが。


 視線を別の方向へ向けると、昴や奈々子はやはり複雑な表情を浮かべていた。

「二人とも、どうしたの?」

 特待生関係で奈々子が騒ぎを起こしたこと。

 昴が特待生に関して複雑な立場にあること。

 どちらの事情も知らない真琴は二人の反応に首を傾げる。しかし二人はそれに答えず、代わりに弥生に向けて苦言を呈した。

「もし、金銭的な理由でしたらあまりお勧めはしません。清華の特待生制度はかなり特殊ですから」

「私も。選ばれても、受けるかどうかは良く考えた方がいいと思います」

「……あ」

 その発言で何かを察したのだろう。真琴がはっとした表情で口を噤んだ。それを見た飛鳥が苦笑を浮かべて頬を掻く。フォローしたいが方法が思いつかないといったところか。


 しかし、当の弥生は皆の反応を見ても落ち着いていた。

「皆さん、特待生にあまり良い印象は無いんでしょうか」

 それどころか、火に油を注ぐような発言を重ねる。と、それに答えたのは奈々子だった。

「……というか、正直よくわかりません。会って話したこともありませんし。でも、だからこそ、特待生が学校から援助されているのはあまり気分が良くないです」

 一般生徒は特待生が「いる」ことを知らされているが、「誰が」特待生なのかはわからない。だから特待生が本当に存在するのか確かめることもできない。

 そう考えると、奈々子の言葉はある面での真理を突いている。特待生ではない生徒の視点として、貴重な意見だろう。


「まあ、選ばれるだけならタダみたいですし。詳しい条件を聞いてから判断してもいいとは思いますけど」

 続いた台詞に弥生が一瞬、はるかや飛鳥に視線を向けた。二人の設定を思い返しているのか。

「はるかはどう思いますか?」

 不意に聞こえた声は昴だった。見ると、彼女が真剣な顔ではるかを見ていた。

(……昴)

 どう答えていいか、咄嗟に迷う。

 きっと、この間の話を気にしているのだろう。あの日の言葉通り、こうして友達としての関係は続いているが、きっと心中には複雑な気持ちがあるはずだ。

 それを思えば、当たり障りのない回答を選ぶこともできるが。

「……私は、弥生ちゃんが後悔しないのが一番だと思う」

 僅かに胸が痛むのを感じつつ、はるかは結局、素直な気持ちを口にした。

「どんなことでもきっと何かの経験になるから。自分が一番いいと思ったようにすればいいと思う」

「そう、ですね。ありがとうございます、小鳥遊先輩」

 すると弥生はふっと微笑んで頷いてくれる。どうやら満足してくれたらしい。

(昴は……)

 テーブルの方向から、はるかから視線を離したまま黙り込んでいた。

 彼女が何を思っているのかはわからない。

 はるかの答えが昴にとって納得のいくものだったのかも。


―――


 はるか達が寮を出たのは午後一時を回った頃だった。

「はるかも今、アイドル目指して特訓中だもんね」

 あの後は、しんみりしかけた雰囲気場を飛鳥が一言でぶち壊した。

 場の空気は一転して波乱に満ち、はるかは事情を知らなかった面々から質問責めに遭った。挙げ句、流れで歌まで披露する羽目になり、数曲歌った。そのうち騒ぎを聞きつけた周囲の部屋からも人がやってきて、最終的にギャラリーは十人近くに膨れ上がっていた。

(えっと、これ罰ゲームか何か?)

 ようやく解放された頃にはお昼になっていたので、パーティのささやかなお礼としてキッチンを借り、飛鳥と二人で簡単な料理を振る舞った。

 そのせいか、もっとゆっくりしていけばいいと皆から引き止められたが。

(それでライブに遅刻したら悲惨だもんね)


「ある意味、さっきのもライブだったけど」

「小鳥遊先輩が歌ってた曲も後で聞けるんでしょうか」

「二人とも、あんまりいじめないで……」

 使っているのが姉達の曲なのだからライブとも当然被っているだろう。しかしオリジナルと比べるのは酷くないだろうか。

 そんな会話をしながら校門に向けて歩いていると、

「はるか、飛鳥さん!」

 背中から、昴の大きな声が三人に届いた。

 振り返り、立ち止まる。

 追いかけてきた昴はしばらく息を整えた後で顔を上げ、はるか達を見た。

「昴、どうしたの?」

「……飛鳥さんに話したいことがあったので、追いかけてきたんです」

 その言葉は、はるかにはとても重く聞こえた。

 弥生が息を飲んで一歩、後ろに下がる。殆ど同時に飛鳥が前に進み出た。

 はるかはその場から進むことも退くこともできなかった。


「どんなこと?」

 飛鳥の顔はこの位置からだと良く見えない。

 昴は弥生を見て、ほんの少し逡巡してから再度口を開いた。

「はるかを、よろしくお願いします」

「――それは、しばらくの間、ってこと?」

「――はい、もちろんです。私では、はるかの傍にいられませんから」

「……わかった。任されるよ」

 あるいは、もっと近くで見ておくべきだったのか。

 交わされた言葉の意味をどう解釈すべきか。はるかが戸惑い、迷ううちに二人が動く。

 飛鳥が差し出した手を昴が握りしめたのだ。

「それでは、皆さん。二度目になってしまいますが、よいお年を」

「うん。昴も、良いお年を。また遊ぼうね」

 ええ、と頷いた昴が踵を返す。代わりに飛鳥が振り返ってはるか達に笑いかけてくる。

「じゃ、行こっか」

「姉さん、今の……ううん、そうだね。行きましょう、小鳥遊先輩」

「……うん」

 弥生の気遣わしげに促され、はるかは昴の背中から視線を外した。

 会話の意味については、結局尋ねられなかった。


 校門を出て電車に乗り、ライブ会場の最寄り駅へ。

 駅からは十数分ほどで会場に辿り着いた。とある市民ホールが深空達のクリスマスライブの舞台だ。サイズ的には、おそらくこの手のホールとしては割と大きいのではないだろうか。

『この時期はただでさえライバル多いのに、イブだからねー。有名な会場なんかそうそう取れないし、取っても埋まりきらないよ』

 と深空は言っていたが、開始まではまだ結構あるのにも関わらず、会場周辺には多くの人が集まっていた。人混みや喧騒へまともに意識を向けると眩暈がしそうだ。

 もしかしたらあの台詞は謙遜だったのではないか、などと思ってしまう。


「さすが人気歌手。知ってたけど、やっぱすごい人なんだね」

「うん。……本当に、小鳥遊先輩のお姉さんなんですよね?」

 飛鳥が目を丸くし、弥生が今更な疑問を口にするのも無理はない。

「一応、ね。出来の悪い妹だけど」

 列に並んで入場して受付を済ませる。姉が手配してくれたチケットは舞台の正面、普通に買えば結構な値段がするであろう席のものだった。

 身内の特権とはいえ贅沢すぎないか、と思っていると、

「小鳥遊はるか様と、ご友人様ですね。……お姉様から控え室に案内するよう言われております。こちらへどうぞ」

 なんと、深空はサプライズまで用意していたらしい。チケット番号を確認した係員に案内され、はるか達はホールの入り口とは別の方向へ移動することになった。

(ち、近くにいた人達の視線が突き刺さってるような……)


 案内された場所は言われた通り控え室だった。ちょうど着替えを終えたところだったらしく、紅白の衣装を身に纏った深空と詩香が出迎えてくれる。

「はーちゃん、いらっしゃい! お友達と妹さんも」

「みーちゃん、皺になるから強く抱き着かないようにね」

 はるかはすかさず詩香に抱きしめられたが、姉は投げやりな注意を投げかけるだけで止めてはくれなかった。一応、注意が効いたらしく、詩香は軽い抱擁に留めてくれたが。

(あ、藤枝先輩、いい匂い……)

 ボディソープやシャンプーの匂いか、あるいは香水をつけているのか。間近にいる詩香からはなんだか落ち着く感じの香りがした。

 香りのことは詳しくないが、いつもの詩香の匂いとはどこか違う。

 いや、違うと言うなら香りだけではないのだが。

「わあ、すごく綺麗……!」

「ほんとに。美人な上に格好いいって反則なんじゃ」

 メイクのおかげで二人の美貌はいつも以上に目を惹いていたし、佇む姿や瞳の奥の色からはステージに臨む意気込みが感じられる。

 こうしてライブに来るのは初めてではないが。

後輩・・へのエールを兼ねて呼んでみたんだけど。どう、はるか? 惚れ直した?」

「……うん。やっぱり、お姉ちゃんはすごい」

 これからはただ憧れていられる立場ではない、という思いのせいだろうか。

 あらためて見ると受ける印象はまるで違う。いつもの軽口を振るう余裕もなかった。

「お姉ちゃん、藤枝先輩。客席で応援してるね」

「ありがと、はーちゃん。……えへへ、今日はいつもより頑張れるかも」

「妹が見てるんじゃ、格好悪いところ見せられないもんね」

 大丈夫。この二人のステージを格好悪いなんて思うはずがない。

 二人に向けて精一杯の笑顔を送りながら、はるかは心からそう思った。

「皆、今日は楽しんでいってね」

 そうして僅か数分の会話を終え、はるか達は客席へ移動した。


 開演十分前には座席は人で埋まりきり、誰も彼もが興奮しているのが見なくてもわかる。もちろん、はるか達も同じ心境だった。

 そして。

『皆さん、本日は来てくださってありがとうございます』

『素敵なイブの思い出ができるよう、精一杯歌いますので、どうか最後までお楽しみください』

 ライブが始まると、それからはあっという間だった。

 客席側の照明が落とされ薄暗いホールをステージからの輝きが照らす。広い空間に歌声が満ち、聞く者の心を残さず魅了する。かつてアイドルと呼ばれ、今は歌姫と呼ばれる二人はステージ上だけでは、このホールの広さでは足りないとばかりに舞う。

 その姿はまさしく偶像、そして姫と呼ぶに相応しいカリスマを秘めていた。

(これが)

 ずっと憧れてきた自慢の姉と、その相方が辿り着いた境地。

 圧倒され、見惚れるしかない。普段とは全く違う二人の顔。

 ――人は、ここまで『演じる』ことができるのか。

(なりたい)

 こんな風に。

 いや、こんな風に立派な人に。

 同じでなくてもいい。自分なりのやり方で、あの人達に追いつきたい。

 幼い日の想いと、現在の決意と、未来への希望が。

 はるかの中で重なりあい、小さな輝きとなって胸に灯った。


―――


「凄かったね」

「……うん」

 約二時間のライブを最後まで見届けた後、はるか達はそのまま会場を出て電車に乗った。深空達は着替えや後始末で忙しいので一緒に帰ることはできない。

『私、今日はしーちゃんちに泊まるから』

 電車に揺られている間にそんなメールまで送られてきた。ひょっとして、深空なりに照れくさかったりするのか。

 今夜なら素直に姉に甘えられそうな気がするのだが。

 気を利かせてくれた、と思った方がいいか。


 三人で自宅の最寄り駅まで着いた後、ファミレスでちょっと奮発した夕食を摂って、三人で家に帰った。飛鳥達は日帰りだと強行軍過ぎるので、もともと今日は泊まってもらう予定だったのだ。

 明日は午前中に雑貨屋めぐりをして、お昼を食べてから解散の予定だ。飛鳥と再び会うのはおそらく新学期になるだろう。

 だから、今日が飛鳥と過ごす今年最後の夜になる。

(といっても、うちは飛鳥ちゃんの家みたいに広くないんだよね)

 はるかと深空の部屋を三人で使うしかない。深空が帰ってこないらしいので多少楽だが、それでもうち二人は同じ部屋で詰め込まれることになる。

 これではあまりのんびりもできないかと思えば。

「じゃあ、姉さんと小鳥遊先輩はご一緒にどうぞ。私は深空さんの部屋をお借りしますので」

 ……年下の中学生に気を遣われてしまった。

 というか、年頃の男女が同衾するのはまずい気がするのだが。何故か両親からも特に反対意見は出なかった。


 仕方なく交代でお風呂に入り、パジャマに着替えて。

 並んでベッドに腰掛けてると、自然に穏やかな雰囲気になった。

 部屋に入った当初は物珍しそうに室内を見回したり、変なところを物色しようとしていた飛鳥も、ライブの余韻を思い出したのか今は静かだ。

「ね、はるか。あたし思ったんだけどさ」

「なあに、飛鳥ちゃん」

 今夜は二人で同じベッドに眠ることになる。床に布団を敷いても良かったのだが、それこそ今更だろうと止めにした。

 自宅のベッドで女の子と二人なんて、さすがに恥ずかしくて仕方ないけれど。

「今度からさ、あたしもはるかの特訓に参加してもいいかな」

「いいよ、もちろん」

 急にどうしたの、とは聞かないことにした。

 今日あった出来事がきっかけなことくらい聞かなくてもわかる。なら、それ以上聞く必要なんてないだろうと思った。

「飛鳥ちゃんもアイドル目指してみる?」

「……そこまでは、まだ言えないけどさ」

 ほんのりと頬を染めた飛鳥が右手を伸ばす。それから彼女はベッドへ仰向けに倒れ込んだ。

 おそらく、天井の照明は飛鳥の手のひらでちょうど遮られていることだろう、

(そうだね)

 何かせずにはいられない。

 飛鳥が飲みこんだ後半を心中で呟いて、はるかは照明を消した。

 彼女もはるかと同じ気持ちなのだ。これから自分なりに前へ進んでいきたいと、そう思っている。

 だとしたら、それを尊重してあげたい。一緒に前へ進んでいきたい。


「飛鳥ちゃん、メリークリスマス」

「メリークリスマス、はるか」

 ――これからも、よろしくね。

 仲良く布団にもぐりこみ、微笑みあったはるか達は、やがて安らかな眠りへと落ちていった。

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