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「しーちゃん、何見てるの?」

 簡単な打ち合わせを終えて事務所に戻ると、一足先に戻っていた相方が何やらPCを弄っていた。

 大抵の用事はスマホで済むだろうに、わざわざどうしたのだろう。疑問に思いつつ画面を覗き込むと、起動しているのはブラウザだった。どうやら何かの個人サイトのようで、中央には大きく少女の写真が掲載されている。

 華やかな衣装を纏い、可愛らしいポーズを取っているところを見ると、これは。


「ネットアイドルのページだよ。こういうのは画面が大きい方が見やすいでしょ?」

 マウスを操作する手を止めた詩香が顔を上げて答える。

「へー。まだそんなの居たんだ」

「それ、私達が言うと若干ブーメランだよね」

 詩香の言うことももっともだが、しかし実際、ネットアイドルという概念自体がもう殆ど過去の遺物だ。撮影から配信までスマホで簡単にできる現代では目新しさはなく、他の娯楽コンテンツを押し除けるほどの競争力もない。

 まあ、動画配信サイトやSNS等に投稿しライトにアイドル気分を楽しむような、新しい形のネットアイドルであれば無数に溢れているだろうが。


「どうして急にネットアイドルなの?」

「ほら、ネット使うならどこに居てもアイドルできるでしょ?」

「ああ、そういうこと」

 海を隔てた場所で女子高生をしている弟の顔が思い浮かべ、深空は頷いた。

 ネットを利用する最大のメリットは距離に捉われないことだ。例えば、離島にいながらにして世界中へ歌声を届けることもできる。

 都心からの距離がネックになっている誰かさんにはちょうどいいのかもしれない。


「でも、しーちゃんてばやけに熱心だね」

「みーちゃんこそ。アイドルの旬は短いんだよ。やるなら早くやらないと」

 あの業界は低年齢化が進んでいるし競争も激しい。なら、できるかぎり早めの準備が必要なのは間違いない。

(詩香も、ただ個人的な好みだけで推してるわけじゃないだろうし)

 この前、文化祭で会った際、はるかの女子っぷりは更に上がっていた。素質だけでどうにかなる世界ではないにせよ、それなりの見込みはあると思う。


「っても、まずは本人のやる気が大事だしね……」

乗り気でないわけではないと思う。前に電話で話した時もこの間会った時も、どこかに未練を残しているように深空は感じた。

 ただ、現状「何が何でもやりたい」とまで考えているようにも見えなかったが。

「そうだねー。だからこれは私が好きでやってるだけ。はーちゃんに無理矢理押し付けたりはしないよ。今のところは」

「ん、ならいいんじゃない?」

 そんな風に二人が雑談、といっていいか微妙な会話をしていると。

 事務所の入り口の方から何か話し声が聞こえてきた。そちらを見るとどうやら来客があったようで、見慣れない人物が事務員に案内され社長室に入っていくのが見えた。

 一方はスーツ、もう一方はカジュアルな二人の男性。

 雰囲気的にあまり業界人っぽくはなかったが。


「今の人、どちら様ですか?」

 戻ってきた事務員に尋ねてみる。

「ああ、学校関係者の方らしいですよ。何でも社長に相談があるとか」

「そうですか、ありがとうございます」

 なるほど、学校関係者か。

 高校や大学のイベントでのミニライブは大事な仕事の一つだ。だから深空達の所属する芸能事務所も案外、学校関係との付き合いはある。

 ただ、わざわざ事務所に来て相談というのは少し珍しいかもしれないが。


(そのくらい、気にする程のことでもないか)

 なんとなく気になるのは、はるかの話をしていたからか。

 そのため学校と言われて自分達の母校、そしてはるかの通う学校が思い浮かんだ。

「まあ、さすがに考え過ぎかなあ」

「?」

 小さく呟くと、それを聞いた詩香が不思議そうに首を傾げる。

 二人が揃って社長室に呼ばれたのは、それから十数分後のことだった。

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