お祭りとお別れ エピローグ
翌日の月曜は振替休日だった。といっても文化祭の片づけがあるので、多くの生徒にとってはまるまる休みとはいかないが。
飛鳥の所属する1-Aの場合、ゴミも多くないので午前中には清掃込みで完了する予定だ。
そんな中、昴は午前の定期便で島を去る。
彼女を港まで見送ったのは飛鳥とはるか、それから圭一と由貴だった。
司を含めたクラスメート達とは昨日、閉会式の後にささやかなお別れ会を実施した。なので当日の見送りには来ていないが、ミスコンで一位を取った直後の転校とあって随分別れを惜しまれていた。
しかし、ミスコンでの出来事は飛鳥にとって複雑だった。
(昴は、ずるいよ)
昨日の閉会式の後わりに、昴ははるかにキスをした。一般生徒は退場中だったため目撃者は少なかっただろうが、飛鳥はその瞬間をはっきりと見た。
唇を合わせた後の、二人の幸せそうな顔は、きっと当分忘れられない。
「天気はなんとか持ちそうですね」
由貴の声で我に返り、飛鳥は空を見上げた。大分雲は多いものの荒れ模様という程でもない。
「船が止まらなくて良かったです。島にいても、明日からは授業に出られませんから」
冗談めかした昴の言葉に一同がくすりと笑みをこぼす。しかし飛鳥はなんとなく笑う気分になれず、そのまま空を見つめていた。
と、それに気づいた昴が声をかけてくる。
「飛鳥さん?」
心配そうな声を聞いて、やっぱりずるい、と思う。この状況が一番不服なのは昴だろうに、そんな風に人の心配ができるなんて。
申し訳なくて、羨ましい。
「なんでもない。元気でね、昴。どうせそのうち会いにいくけど」
笑顔を作ってそう言うと、昴も微笑んで頷いた。
「はい。飛鳥さんも――皆さんもお元気で」
それから彼女はおもむろに飛鳥に近づいてくる。
意図がわからず飛鳥が立ちつくしていると、耳元で小さく囁かれた。
――ここで言うつもりはありませんでしたが。
「やっぱり、飛鳥さんが羨ましいです。はるかの傍にいられるのですから」
目を見開いた。
飛鳥の眼前で、昴は一瞬だけ切なそうに目を細めると、軽く身を翻した。
「では、そろそろ行きますね」
「……うん。また会おうね、昴」
「はい。また会いましょう、はるか」
はるかと昴の、別れの言葉はあっさりしたものだった。
ただ友達と一時的に離れ離れになるだけのように。
あるいは、再会を確信しているから寂しくはない、とでも言うように。
二人は視線を交わしあって、別れた。
昴が一同に背を向け、ゆっくりと遠ざかっていく。はるかはその姿を見えなくなるまでじっと見つめ続けていた。
「はるか」
「うん。帰ろうか、飛鳥ちゃん」
振り返って微笑んだはるかを見てきゅっと胸が締め付けられた。
(昴はあたしを羨ましいって言った)
つまり、飛鳥にもあるということか。飛鳥が昴をずるいと思ったように、昴が羨み妬むような何かが。
結局、お互い様ということか。
「……ん。片づけも手伝わないといけないもんね」
頷いて、そっとはるかに手を差し出してみると、それを見たはるかは驚いたような顔をした。けれど何も言わず笑顔で飛鳥の手を取ってくれる。
そうして、二人で歩き出した。分校へ戻るために。
圭一と由貴はふっと笑ったあと、飛鳥達の後ろをついてきた。
次回、最終章のプロローグは近日中に投稿します。