出会いの季節 0
桟橋から港へ降り立つと、懐かしい地面の感触に安堵の息がこぼれた。
午前中に本土を旅立って数時間。波に揺られ続けた身体は、疲労のせいかひどく重い。
人の流れに沿って歩きつつふと空を見上げると、出発時にはまだ明るかったそこは既に闇に染まっていた。蒼天に浮かぶ星の形は、昨晩自宅から見上げた景色とほぼ同じだ。それも当然。ここは東京湾の沖合に浮かぶ離島の一つで、南半球どころか外国ですらない。
けれど、はるかは何故だかとても遠くに来てしまったような気がした。
郷愁にかられて背後振り返ってみても、水平線の先には何も見えない。生まれ育った街へ戻るのは、きっと何か月か先になるだろう。そう思うと自然に足取りも重くなった。
後ろから来た人達が何人も、はるかのことを追い抜かしていく。訝しげに振り返る彼らの視線で、自分が涙を浮かべていることに初めて気づいた。
立ち止まり、指で涙をそっと拭う。
「ホームシックにかかるにしても早すぎるよね……」
自嘲気味に呟いて、口もとに無理矢理笑みを浮かべた。
新しい生活を、できるだけ楽しもう。
出発前に決めた目標をもう一度思い出して、ふたたび足を前に出す。
向かう先は、島の中心部に敷地を構える高校だ。
私立清華学園高等部分校。五年前に新設されたばかりの共学校で、都内にある名門女子校を本校に持つ。経営母体は大学も運営する学校法人で、分校の設立にあたって大規模の土地を買い取ったことで一時期話題にもなった。
分校では明日、設立から五回目の入学式が行われる。
はるか――小鳥遊はるかはそこへ、今年入学する新入生の一人としてやってきた。
見知らぬ土地での新しい生活。
そこに大きな不安と期待を抱きながら、はるかはゆっくりと地面を踏みしめた。
15/6/8 一部行頭にスペースが入っていなかったのを修正しました。