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雨を呼ぶ少女

作者: 遠縄勝

 私、大原夏は自他共に認める雨女です。思い出せば保育園の頃の遠足も、小学校の運動会も、中学校の修学旅行も、大事な日に限って雨だったような。これまでの人生で何個てるてる坊主を作ってきたことか。でも神様はそんな私の頑張りも見てくれなくていつも雨ばかり。


 そんな事を考えながら教室の窓から雨模様の空を見る。


「夏、やっぱり今日の球技大会中止だってさ。さっき職員室で先生から聞いてきた。」


 同じクラスのりっちゃんが残念そうな口ぶりで報告してくる。


「そっか。高校に入って初めての球技大会楽しみだったけど仕方ないね。」


 また仕事をさぼりやがったな。私は、昨日部屋につるしたてるてる坊主を恨んだ。

 

 教室内は球技大会中止のことでうるさくなっていた。男の子たちが「誰だよ、雨男は。」と騒いでいる。ごめん、男じゃないけど雨女なら私です。心の中で自白しながら溜息ひとつ。


 結局その日は自習になった。これはこれで嬉しいけど、絶対に球技大会のほうが楽しかったよなあ。


 私は解く気のない問題集を前にして考え事。


 晴れていたら今頃はクラス対抗で盛り上がっていたはずだ。そしたら、佐伯君のかっこいい姿も見れただろうな。


 同じクラスでサッカー部の佐伯君。彼のほうを見る。佐伯君は真剣な顔をして問題集を解いていた。


 運動が得意だけど、勉強も真面目に頑張る。そんな彼の事をいいなと思い始めてからはや半年。少しでも仲良くなりたいと願いつつも、そう上手くいかないのが現実で。私の恋模様も雨模様だなあ、なんて考えていたらあっという間に放課後になった。


「夏、帰ろうよ。」


「うん。あ、晴れてる。」


 窓の外を見るとぬかるんだグラウンドに西日がさしこんでいた。


「本当だ。なんかタイミング悪いね。晴れるのが遅いよ。」


 りっちゃんは太陽に文句を言いながら拗ねた表情をする。何か可愛い。


「まあまあ。雨に濡れながら帰るよりはマシだよ。」


「そうだけどね。」


 あー、明日は晴れだといいな。


 そんな私の願いをあざ笑うかのように次の日も雨が降った。しかも、朝は晴れていたのに午後から急に雨が降り始めた。


 あまのじゃくな天気め。


 今日はりっちゃん委員会で遅いし、1人で帰ろう。私はトボトボと玄関に向かう。


 あれ、佐伯君だ。


 私は辺りを見渡す。誰もいない。これって話かけるチャンスじゃ。ゆ、勇気を出せ私。


「さ、佐伯君。何しているの。」


 佐伯君は少し驚いた顔をしながら私の方を見た。


「ああ、大原さんか。今日は雨でサッカー部が休みになったのはいいんだけど傘忘れちゃって。どうしようかな、と。」


「そうなんだ。」


「うん。」


 会話が止まっちゃった。


 雨の音だけがこの空間を包んでいる。


「よ、よかったら私の傘入っていく。」


「え。」


 佐伯君は最初よりもっと驚いた顔をした。


「い、いや。私の傘大きいし、それに濡れちゃって風邪ひいたりでもしたら困るし、それに、その…。」


 色々と何を言っているんだ私は。すごく恥ずかしい。多分、今の私の顔は誇張表現抜きにして真っ赤だと思う。


「大原さん面白いね。」


 え。


 佐伯君の顔を見ると優しそうな笑顔を浮かべていた。


「ならお言葉に甘えて入れさせてもらおうかな。」


「う、うん。」


 思わぬ佐伯君の言葉についつい大きな声を出してしまった。そんな私を見て、佐伯君はまた笑う。


「大原さんって確か駅のほうだよね。」


 なんだ、たまには雨も良い仕事するじゃん。こんな良いイベントが起こるなら毎日でも雨を呼びたいな。


 でもそんなこと言ってたら本当に毎日雨になりそうで怖いかも。


 揺れる傘を優しい雨が濡らす放課後。初めて雨が好きになりそうです。


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