最終目標(3)
登坂はある一室に置かれた。
誰もいないことを確認して体を起き上がらせる。
登坂はため息を1つつきながら、
「今日はなんでこんなに縛られてるんだよ!俺はそこまでMじゃねえんだよ!」
登坂の手足には紐が縛られており、動かしてもまったくびくともしなかった。
この一室に着く前に男たちからいろいろと話を盗み聞きすることができた。
どうやら『独自秘密保有法』の撤廃でこういった反乱を起こしたようだった。
目的だけ聞いても登坂にしてはどうでもよかった。
結果的にここから生きて脱出することが登坂の最終目標である。
しかし、ここから脱出するのに登坂には圧倒的に情報が少なすぎた。
結局聞いたことはあの男たちの目的だけであって、今どこにいるのか、あと何人がいるのかがまったくわからなかった。
携帯は壊されてしまい、今頃はゴミになっているだろうし、登坂には『テレパシー機能』がついていないので友達や知り合いにも連絡することができない。
そもそも登坂の知り合いはさっき会った中学生と先生しか知らない。
そうこうしている内にも時間は刻々と過ぎていく。
反乱と言っても登坂という人質を使っているということは交渉していることが絶対である。
おそらく登坂は殺される。
時間の問題である。
今はまだ交渉の準備をしているのか知れないが一切こちらに近付いてくる足音や気配が感じられない。
それが逆に登坂へのプレッシャーとなり、徐々に考えを狭めていく。
この状況を早く何とかしたい。
しかしそれを打開する策はまったく思いつかない。
登坂にはもはや強行突破の手段しか残されていなかった。
しかし、事態は変化する。
女がドアを開けて部屋に入ってきたのである。
一目で見て自分より年上であることは明らかであると登坂は思った。
しかし、格好には登坂は違和感を覚えた。
着ている服は日本人は着るものではなく、どこかのアニメのようなコスプレをしているような感じだった。
それでも普段歩いていてもまずあり得ないであろうという美しさにしばし目を奪われていた。
女は視線に気が付いたのか登坂を見つける。
女はしばらく登坂を見つめた後、暖かな笑みを浮かべて登坂に話しかける。
「突然で悪いんだけど、あなた人質ってことで間違いないわね?縛られて如何にもって感じだし」
日本語に変なイントネーションがついていることから外人であることはすぐにわかった。
登坂は急に話しかけられ動揺するがなるべく平常心で答える。
「まあ、そんなところだ、あんたは見たところあいつらの仲間ってことは無さそうだな、俺と同じって訳でも無さそうだし」
「ええ、そうよ、ちょっと用事でここまで来たのだけれどもなにやら物騒な人達が多くてここまで避けて通って来たのよ、なんでこんなことになっているのかあなた分かる?」
登坂は男たちの目的と自分のここまでの経緯を話した。
女はそのお礼として、ここが地下5階ぐらいの位置に存在することと男たちの大体の人数を教えてくれた。
「と、いうわけなんだけど…どうやらお互いにメリットがあったようでよかったようね」
「ああ、俺もまだ諦めることはないようでよかったよ、さて、そろそろあいつらも動き出してくる頃かも知れないからそろそろここから脱出しなくちゃな」
それなら、と、女は登坂の巻かれている紐をほどき、ポケットから携帯を取り出す。
「この中にこの建物の地図が載っているわ、少しでも抜け出せる手助けになると思うから」
「ありがとな、初対面の奴にここまでしてくれて、それにお前はこの後どうするつもりなんだ?」
女はもう一度笑顔を浮かべながら、
「私はまだやらないといけないことがあるから、それにここまでこれたんだしこれからも大丈夫よ」
「そうか…最後にあんたの名前を聞かせてくれないか?」
少し女は躊躇ったが答える。
「メイドリア・ベルセルクよ」
登坂は少し不思議そうな顔をした。
「ベルセルク?」
「そう、ベルセルク」
登坂は外国はいろんな名前があるもんだな、と心の中で納得した。
「そうか、俺は登坂落下だ、また会おうぜ」
そう言うと、登坂は勢いよく部屋を飛び出した。
◇
登坂は現在地下3階を走っていた。
ここまでまだ男たちには遭遇していない。
しかし、3階に上がってから足音が頻繁に聞こえたりしてろくに動くことができなくなっていた。
「そろそろ厳しくなってきたな」
登坂はさっきメイドリアからもらった携帯を取り出した。
さすが外人と言ったところか表記が全て英語になっていた。
登坂はそれをさらっと和訳して、地図のデータを探す。
もちろん機能のおかげではあるが、
「えっと…これで地図が出るはず…っと」
登坂はファイルを選んで決定ボタンを押す。
しかし、地図は出てこなかった。
代わりに出てきたのは連続して鳴る爆音と爆発だった。
登坂の視界は一瞬で真っ白になった。
◇
登坂は1つの音で目を覚ました。
地面に何か叩いている音、登坂はなにが起こったかさっぱりわからず、とりあえず体に何もないことを確認してから上体だけを起こす。
目の前に広がったのは想像外だった。
辺りは瓦礫だらけになっていて、至るところに黒焦げたなにかが転がっていた。
登坂はしばらくしてから漂う生臭さで気付く。
焼けて焦げた人だった。
形すらわからなくなっているものすらあったが、登坂は確信していた。
おそらく反乱組の誰かであろうか、登坂考えるだけでも吐き気がしてきた。
「あぁ……熱い、熱い」
声に気付いた登坂が火傷している人を見つける。
「大丈夫ですか!」
声をかけてみるが、熱いとしか返事が返ってこない。
登坂はひとまず割れた水道管から水を汲み火傷した人に水を飲ませる。
「ここら辺の水はクソ不味いがちょいと我慢してくれよ」
水を飲んだ人は少し落ち着いた様子になった。
「あらぁ?なんか声が聞こえると思ったらあんたじゃない」
突然背後から聞こえてきた声に登坂は驚きすぐに後ろを振り向くと、メイドリア・ベルセルクが立っていた。
しかし明らかに雰囲気が違っていた。
例えるなら、この世全てのものを無価値と考えゴミのように扱っている荒んだ目をしていた。
メイドリアは辺りなどまったく気にすることなく話を続けて、
「そいつらはあんたを拉致った奴らの一人だ、そんなことをする必要は計り知れなく無いんだが?」
メイドリアからくる圧倒的な圧力が登坂を覆うが、気にしない振りをして答える。
「生憎俺は同情的でね、こういうのにはついつい構ってしまう性格なんだよ」
「それがお前が原因でなったとしてもか?」
登坂は少し怪訝な顔をして、
「何を言ってやがる?」
「こいつらはお前が押したスイッチで爆破に巻き込まれた奴らなんだよ、ほれ、お前の握っている携帯、あれがスイッチだ」
「なっ……!」
確認すると画面に爆破と表示されていた。
慌てて登坂は掴んでいた携帯を遠くへ投げる。
登坂は緊張からか暑さからかわからない額の汗を拭う。
「お前は本当にさっき会ったメイドリアでいいのか?」
メイドリアはつまらなそうにその問いに答える。
「何をファンタジーなことを言ってんのかな、この島の人間は夢と現実の区別もできないのかい、……ただ、お前は少しばかりファンタジーみたいだけどな」
「あぁ?どういうことだよ?」
登坂は再び怪訝な顔をする。
「『どういうこと』はこっちが聞きたいってところだ、なんでお前はあれだけの爆発に巻き込まれておいて無傷でいられるんだ?これがお前らが持っている『機能』ってやつか?」
言われて気付いた登坂は体を見回すが確かに何一つケガや火傷をしていなかった。
(確かに言われた通り何一つ傷がねえ、けど自分を守る為の『機能』なんて見覚えがねえしそもそも存在なんかしてねえ…)
メイドリアはため息をついて、
「まあいい、どうせここは殺しておくのが定石ってもんだろ、そろそろ時間も無いみたいだしサクッとヤっちゃっていいよね」
瞬間。
瞬きさえも許さないぐらいのスピードで登坂の頭に衝撃が走り、体ごと数メートル飛ばされて瓦礫の中に突っ込む。
メイドリアは天井についていた監視カメラを見つけて、
「さて、こんなに派手にやっちゃった訳だし、こそこそしてるのはもうやめようかね」
メイドリアはカメラに向かって薄く笑う。
「わたしの名前はメイドリア・ベルセルク、わたしの目的はこの島の消滅と島に関わっている人達の抹殺、そろそろ実験ごっこも終わらせましょうか」