21to25
胸がもやもやする。胸焼けか? 理由は何だろうか。
飲めないのにブラックのままコーヒーを一気に煽ったからか。
一昨昨日の放課後から週末を利用してゾンビ映画のレイトショーを三劇場ほどハシゴしたからか。
それとも久しぶりにアイツの作った飯を摂取したからか。
あの麻婆豆腐。白いなはずなのに、豆腐ですら真っ赤。
臭いが目に沁みる。陶器製の蓮華なのに、一度よそっただけで真っ赤に染まった。
これおかしいだろ。まだ辛い。三日前に食べたのに。
それとも、オレンジ色に染まった視野の中視界の先。
体育館裏の影の中で、先輩が見知らぬ男子生徒と合っているからか。
理由がわからない。でも。
もう。本当にキツイ。でも恐らく体調が悪いからじゃない。辛いからじゃない。寝不足でも胸焼けでもない。
おそらくは心因性。
ああ……そういえば、一つ気になることがあった。
オレンジ色の生徒会室。僕は彼女が来るまでずっと、太陽を見ていた。その色で瞳が染まるまで、たぶん見ていたんだと思う。
気がつくと、僕は机に向かって座っていて、彼女が何時の間にか目の前に座っていた。
21.Confessions.
「先輩」
「ん? なに?」
普段と変わらない、何時もの彼女。その様子は、魔女ではなく彼女。
なんなのだろうか。自分がこんなにも悩んでいるというのに。
そう思うと、無性に、さらにムカムカとしてきた。
「さっきの、告白ですか?」
「こ、こここ、告白!? も、もしかしてしてくれるの?」
噛まないでください。誰がするか。
「いえ、俺からではなく。ほら、さっき呼び出されていたじゃないですか」
まったく、中身はこんななのに、結構リア充しているじゃないか。中身はこんななのに。
そう、彼女は見た目は凄くいい。そして、外面も良い。
いや、素はこっちという保証はないのだが、こっちが素であったなら、それは、その、嬉しいと思う。
「う、うん。クラスメイトの、男子に。で、でも断ったんだよ!? だから大丈夫!」
何が大丈夫だというのかはわからない。いや、断ったというのがか。
何故か胸のつっかえが降りたような気がするけれど。
無論、まだ辛くは感じているが。
「そうですか」
「う、うん。だから、安心していい、よ。肴菜君の側に私はいる、から」
会話の途中から、僕は彼女の手を握っていた。
彼女はそう言いながら、それを握り返してくれた。
22.Misunderstanding.
「え、えと、今日は記念日だね。握手記念日」
えへへ、というのが本当によく似合う、そんな笑顔。
「手を、単純に握っただけじゃないですか」
「お、乙女にはそれでも凄い事なんだよ!?」
大人モードじゃない先輩が語気を強めるほどの事なのか。
それは大事だ。まったくの大事だ。
首から上がテレビのウエディングドレスの女がチェインソウを振り回すぐらいの、すごいことだ。
「俺から手を握ったのが、そんなに嬉しかったんですか?」
少し、からかってみる。すこーし、ね。
だって、もし勘ちが
「うん、それもそうだけど。それ以上に、えっと、嬉しかったのはね」
それ以上に?
「嫌だと思ってくれたんじゃないかなって。 私が、肴菜君以外と仲良くなるのが」
「っ」
そういうわけじゃないんだ。そうじゃないんだ。そう思っても。
息がつまる。喉がヒクついて声が出ない。
「えっとね、ど、独占欲とか、持っていいんだよ?」
違う。それは違う。まったく、全然に。何時もと違って、異常に饒舌な彼女。
おい。やめろ。やめろ。やめろ。
「私は、肴菜君のこと、その」
やめろっ!
「な…にを、何を言っているん、ですか、小梅先輩」
つっかえつっかえになりながら、そう、言うしかなかった。
23.Changes.
変わることってのは、怖いことなのだと「僕」は思う。
気温が変われば人は風邪をひく。
食べ物が変われば人は食欲をなくす。
環境が変わってしまえば、関係が変わってしまえば。
最悪、人は死んでしまう。
二年前。僕の前からアイツはいなくなった。
アイツが決めたことだから、僕には何も言えなかったけれど。
それでも、僕が、俺が変わるには十分すぎた。
進歩なんて、変化なんて、不可避じゃないなら避けるべきなんだ。
変わってしまうことは、とても寒く、痛く、悲しい事なんだ。
とても辛いことなんだ。
だから。だから。
24.Are you all right?
「な…かく……ん、肴菜君!」
「え、ああ、はい、なんですか、小梅先輩?」
気がつくと、目の前に先輩がいて、ぼ……俺は壁際にヘタレ込んでいた。
しゃがみ込んで、ハンカチで額の汗を拭いてくれているのはありがたい。でも、擦り過ぎです。額が赤くなっていそうだ。
「だ、大丈夫?」
そんな訳がない。腰も尻も痛いし、床も冷たい。
「とりあえずは。ただ」
「ど、どこか痛むの!?」
「額がこすれて痛いです」
「ご、ごめん!」
「あと、下着が見えています」
それはまあ、スカートでしゃがみこめばそうだろう。
冬服が長めであると言っても、やはりそんな体制でそこは隠すことができないのか。
「す、スパッツだから! それに、パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」
そのセリフをココで言いますか。って、その体制で隠すとバランスが。
「きゃ!」
「あ」
倒れこんできますよね、それは。
25.And after all,I love you.
すごく顔が近い。彼女の瞳に僕の顔が写っている。その中の僕の瞳に、彼女の顔が写っている。
吐息が互いの赤い頬と髪を擽る。彼女の匂いがする。
何故か彼女の息が荒い。
曖昧に動く口元が、言葉を発せないままになっている。
そして、意を決したように真一文字に結ばれた唇が言葉を紡ぐ。
「さ、肴菜君」
震える声。
「なんですか」
「菊盃、肴菜、君」
フルネーム。
「私は、わ、私は」
嫌な予感がした。悪寒がした。先ほどまでの「発作」なんて比べものにならない、そんな。
「芒月小梅は」
後ずさる。にじり寄る。何時の間にか、手が重ねられている。
その手が、握りしめられる。
その手が、引き寄せられる。
「君のことが、好きです」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
神も仏もない。それでも懺悔に近い、そんな言い訳をしながら、僕は駆け出していた。先輩を押し倒して振り払って。
一度も振り向かずに、先輩を振りきって、何度も躓いて。
全身を引っ掻いて、砂埃と泥とゴミと自分のはいた胃液と涙と鼻血に塗れて。
気がつくと、僕は家の玄関で倒れていた、らしい。
アイツ曰く。「ひどい顔をしていたよ。正確に言うまでもなく」
更新遅れましてすみません……
あ、もしよかったら、感想を頂きたいです。もし、よかったら。




