表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

C 6to9

地響きか、地鳴りか。まったく、よくもまあ廊下が踏み抜かれないものだ。もしかしたら、高速道路の高架下の方が静かなんじゃないかってくらい。

そんなレベルの騒音を掻き立てて走れる人物は、俺の少ない友好関係の中では、知りうる限り一人しかいない。


獅々髪の魔弾(ライオンズ・シックル)黄昏時の導火線(サイケデリックスパークプラグ)音速の魔女(ソニッカ・マズルカ)桜色旋風(さくらふぶき)桜幕千愛里(チェリーブロッサム)


これが「自称」なのだから、恐らくは真性のものなのだろう。

それなら、俺もそれに習って。



黄昏色に染まった回廊。遥光の揺れる中を、魔女が走る。

それまるで……まるで……ああ、無理! 俺には無理!


先輩もこないので、もう帰ろうと廊下を歩く中。


オレンジ色に染まった長い渡り廊下で背筋に冷たいものを感じて、脇腹の痛みに打ちひしがれていると。

背中にすごい衝撃を感じた。








6.Her style.


「肴菜センパァァああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーィッッッ!」


両側から回される、カーディガンの袖と細い指。ほんのりと、冷たくていい匂いがする。

右耳に当たる吐息と、黄色い声。「比較的薄め」だが、間違いなく感じられる感触。

抱きつかれていると気がついたのは、


「重いんだよこの野郎!」


「アタシ重くねーですし! 野郎じゃねーですし! ピッチピチの女の子っす!」


その腕を支点にプランプランと揺れる揺れる。背中でこすれて、「比較的薄め」の「もの」が形を変える。


「実際、背中でわかるっしょ!?」


「薄い」


「うわあ、マジショックっす! 薄いほうがステータスなんすよ!? 希少価値なんすよ!?」


言う割には、落胆という感じでも、ましてやショックという感じでもなく。


「まあ、大きい方が気持ちいいみたいっすけどね、殿方は」


彼女はかんらかんらと笑っていた。








7.I dont care.


「そういうのは俺が普通考えるもんだろう」


お前が考えることじゃあ、ないだろう。オッサンじゃあるまいに。

殿方じゃないしな、お前は。


「肴菜先輩はどっちが好きなんすか!?」


「大好きだね、大きいの」


『大きいの』を強調してみる。本当のことを言うと、こだわりはない。

それに、正直千愛里のスタイルが悪いわけじゃない。

見た感じは、普通よりずっといい。


だが、「比較的薄め」。間違いなく、「比べてみると薄い」。

膝枕の位置から見ていたのと、背中の感触から比べるのもどうかと思うけど。

だが、こればっかりは間違いないはず。


「ふむ、大きいの……っすか!」


しかし、アイツはニヤリと笑う。回された腕に、もっと力がこもる。


「小さいのもいいと思うんすけどね、感度とか!」


そりゃあ、負け惜しみってやつだ。ってか、女の子が感度とか言うな。








8.Small but,…….


「小さい方が、感触はとても気持ちいいらしいっすよ?」


どこ情報だよそれは。笑って言うが、それどころじゃない。

コイツの事だから、何が情報源かわかったもんじゃない。

下手をすると「センパイの机の引き出しの二重底の、ガソリン敷かれた上にビニールに包まれてた本に書いてあったんすけど!?」ほあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!これは罠だ!!!!!!!!!


「うわ!? なんすか、いきなり大声で!?」


「どうやって開けた!?」


「素手でガバーっ、とっす! ホンの少し熱かったっす!」


「まさか健全な高校生(クライム)エロ本(カタリスト)ゴム手袋(オラトリオ)なしで!?」


「というわけで、触ってみます!?」


「触るかよ」


どういうわけだ胸を張るなこの不法侵入者。いくら近所かつ母親に知られてるからって、だからってそれはないだろう。


「逆にセンパイの気に障ってみました!」


その発言が気に障るっちゅーに。


「ふーーッふッふ!」


「あのなぁ……そろそろ本当に」


「触るんすか!? 熟す前の青い果実を貪るように揉みしだくんすね!? 新雪のように未だ前人未到の頂を、絨毯爆撃のように蹂躙し尽くすんすね!? ああ、千愛里ちゃんの純潔は如何に!? 次回、黄昏チェリーブロッサム第七話『暁は鮮血に染まる』Goご期待!?」


何その新番組。ああ、しかも厨二病が悪化かつ活性化している……というか、それ以上に


「誰が貴様の純潔などいるか! 加えて、『乞うご期待』であって『Goご期待』じゃない!」



そんなこんなしていると再認識させられる。桜幕千愛里は、やっぱり馬鹿だ。








9.Sigh.


「はぁ……」


「お突かれさまっす!」


「字が違う」


漢字は大事だ。それぞれに意味がある。


「じゃあお憑かれさまっす!」


何にだよ。ああ、魔女か。しかもどっちも厄介な。


「そういえば肩が重いな……」


「まじっすか!?」


「お前が乗ってるからだけどな」


肩に手を置くだけならまだしも。背中に抱きついて、体重をかけやがって。この後輩め。背中の、重なった部分が暖かい。




「センパイ!?」


「ん? 」


「重いだけっすか?」


そんな事はない。健全な男子高校生が感じるぐらいには、色々と感じている。

でも、コイツは後輩だから。俺が早生まれでコイツが4月生まれだから、誕生日も一ヶ月違いってだけだけれど。

それでもコイツは後輩だから。


「重いだけ、なんすか?」


「……」


「ん」


そう言って、俺の首筋に千愛里の前髪がかかる。

鎖骨に、顔が押し付けられる。

肩に置いていた手にもっと力がこもる。


なんか、吸い取られている気がした。


「じゃあ、今日は帰るっす!」


そうして、潔く帰る宣言をした。





「それじゃあ、また明日」


「また明日っす!」


そう言って。


軽く、俺の、頬に。


キスを、した。




いきなり。


何ってことを。


振り返ってみると、そこにはもう姿も影すらもなく。


背中に体温が少しだけ残っていただけだった。









寝よう。暖かくして、久々にシャワーでなく風呂に入って。なんか、疲れた。突かれた。憑かれてしまった。ああ、間違いなく疲れてるな、寝よう。

顔が赤いし、胸が熱いし、そして頬が火照っているのもそのせいに違いない。

だから、帰ったら即効で床についた。



翌朝。



俺は目覚ましに起こされるのではなく。久々に帰省したアイツに起こされることになった。


「やあ、もう朝だよ。正確に言えば午前七時二十六分だ。起きなくてはヤバイんじゃないかな?」


そう言って布団と枕を取り上げられて。


「おわ、さっむ!」


「下には暖房が、正確にいうとコタツあるから暖かいよ?」


「お前の言い方が冷たいんだ。絶対零度か?」


大人モードの魔女さま(こうめせんぱい)ほどではないが。


「言葉に温度はないよ。正確に言わずとも」


相変わらず、辛辣な(さっみぃ)ことで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ